滅びの唄が慶びの唄に変わるまで、僕らの合唱は終わることはない。
それがどんなに苦だろうが、構わない。ここで唄をやめてしまえば世界が危うくなるのだから。

僕らは唄う。平和を願って、心から。
今後の笑みを思い浮かべて、今ここで闇と戦うのだ。

光と闇がぶつかるとき、僕らの笑みは強い武器となる。



69.Laugh Makers



「助けに行きたいのは山々だが…俺に今できるのは、店に戻ってあいつらがまた寛ぎに来たときのためにそれぞれの好物と新品のシルクハットを用意することぐらいだ。帽子ならいくらでも直してやるから、思う存分暴れて来い!」


孤島ブルンマインで別れた帽子屋の言葉を思い出し、『O』が唇を噛む。


「大丈夫!お前らなら絶対に世界を救うことが出来る!俺らの村を必死に守ってくれたのもお前ら、病気に苦しんでいた俺らを救ってくれたのもお前ら、そして衰えた村に笑いを持ってきてくれたのもお前ら、だ。世界の命を任すことが出来る。いつもの調子で頑張れよ!」


黒い船デスシップ号をブラッカイア大陸まで運んでくれた河人魚、代表の目タレ王の声援を思い出し、メンバーの心が引き締まる。

皆、応援してくれているのだ。
無論それに答えるのが礼儀である。
だから全員は走った。エキセントリック一族が住処としている城まで。黒い地帯まで。
『O』が全員の存在を消すことによって誰にも気づかれることも無く、邪魔されることも無く、己の道を走って。

拳を作る。
力強く走るために作っている意味もあるがこの拳には様々な思いが詰まっている。
それは今まで溜めてきた怒りや憎しみであったり、人々から与えられた勇気と希望であったりと本当に多種である。


「マジで?恩属も全員応援に駆けつけてくれるのか?よかった。全員で真のクルーエルを取り戻すとしよう」


クルーエル一族の智属長が電話機に向かって笑った。
一般にクルーエル一族とは人間に恐れられている一族、しかしここにいるクルーエルと電話側にいるクルーエルは善なる心を持った人々である。
善なる三属、智属と幸属と恩属、その属の人々がラフメーカーの力になるとの事で、いま智に連絡が行き渡ったのだ。

クルーエル一族といえば、武に関しては強烈な力を持っている一族だ。
そんな彼らが世界のために戦ってくれる。
悪なる四属はエキセンの護衛につきそうだが、それでも進路は変えない。
善は悪に打ち勝つために、拳を握るのだ。

やがて電話を終えた智が、電話機をオンプに返して全員に告げた。


「幸属と恩属も今、エキセン城に向かってるそうだ」


それを知り、全員がどっと安堵をついた。


「本当かい?助かるよ」

「クルーエルがいるなら怖いもんなしだぜ!」

「ホンマ助かるわ。これで仲間が増えたわな」


クルーエル一族が仲間になったということで心強い気持ちになる。
それと、サコツが言うにはクモマの実兄が仲間を連れて手伝いに来てくれるとのことだけれど、こちらは本当であるか分からない。
そもそも、サコツもクモマもその情報の存在をすっかり忘れている。
二人もクルーエルのことが嬉しくてそちら側に傾いているのである。

そうやって全員が胸を撫で下ろしているとき、チョコは『O』に声を掛けていた。
それは素朴な疑問だけれど自分らにとって見れば大切な質問。


「ねえ、エキセン城まであとどのぐらいなの?」


船から下りてからずっと走っている。それなのに息の乱れは起こらない。
全員が真剣なのである。真剣に走っていれば疲れなど乱れなど生じないのだ。
真剣さを目に燈して『O』を見る。
すると『O』が少し間を空けてから答えた。


「もうすぐ」


しかし、真剣な志も一気に崩れ落ちた。


「「もうすぐなのかよ?!」」

「そいならさっさと言えや!」


報告が遅い『O』に勢いよく突っ込んだメンバーであったが、すぐに気を引き締めた。
自分らの戦場がもう目の前なのだ。気を緩めてはならない。

やがて『O』がぽつりと言葉を零した。


「ここまで、本当に長かったなあ」


遠い過去から今現在までを振り返って、息を漏らす『O』を全員が横目で見ていた。
邪魔をしてはならないと思って、あえて横からの視線を送る。そして本人も視線を気にしていない。

昔々、本当に昔から、願っていた想い。
世界に光を。闇よ沈め。

『L』が『O』に言っていた。「オレは光に憧れているんだ」と。
だから『O』が言い返した。「君ならなれるよ。太陽以上の光に」。

今、連絡をしながらここまで走っている。
エキセン城の中からと外からで、誰にも聞こえない会話が繰り広げられている。


『O』が訴えた。


― 君が前に言っていた。ここにいる旅人たちはエキセンのせいで心に傷が出来ている、と。
  だからそれが心配だ


すぐに『L』が否定する。


――― 大丈夫さ。確かにエキセンに傷つけられて苦しい目に遭ってる旅人たちだけど
     心はきっと強いはずだ。傷をバネにして力強く立ち向かってくれるはずだ


聞いて『O』が微笑む。そして『L』も微笑む。


― そうだね。実際に彼らは笑っていたよ。世界を守るんだって言ってね

――― 何だよそれ。心配することないじゃんか。お前の言ってることは前提的に矛盾してるぞ

― ふふふ。念のために心配してみただけだ

――― 蛇足な言動だな


苦く笑う『L』の声が頭に伝わる。
『L』はエキセンたちに捕まっているというのに、何気に元気そうだ。
だけれど気になった。


― 今、君とBちゃんは無事なのかい?


問いかけてから暫く間があったが『L』は答えた。


――― Bちゃんが結構危うい。精気も生気も消えそうだ。長時間少ない精気で動いているせいだな。

― …そうか。

――― 何、大丈夫さ。オレに考えがあるから。

― 考え?


『B』が元気でないことを知り、悲しくなる『O』であったが、脳内に入ってくる『L』の声は輝いていた。
高くもなく低くもない凛とした声は光の形を帯び、『O』を明るくしてくれる。

しかし『L』の考えは凄まじいものであった。

脳に流れてきた『L』の考えを理解して、『O』は思わず口を動かした。


「そんなこと出来るんだろうか」


突然そのような言葉を出す『O』に全員が疑問を浮かべる。
だけれど頬に当たる強い風圧が疑問を打ち消した。
そして『O』もまた『L』との"精神による思考伝達"をするために、集中する。

『O』が『L』と情報交換している間に、メンバーは疑問やらをここでぶつけ合った。


「ってかよー、エキセン城についたらまず何すんだ?」


そういうことで疑問をぶつけたのはサコツだった。
目的地は目の前なのに相変わらず緊張感が無いなあ、と思わずクモマは笑う。


「それぞれ何をするか話し合ったほうがいいね」

「そうね。そしたら私は一人で北極と南極の違いを見つけてみるわ」

「一人で見つけようとすんなよ!せめて誰かに手伝ってもらえ!」

「そんなツッコミありなのかい?!新種のツッコミだね!」


いつもと違うツッコミを見せるソングに驚いたが、一先ずそれはおいといて、今後のことを話し合おうとする。
クルーエル一族の智がエキセン城について語る。


「エキセン城はハッキリ言って闇の地帯だ。洋風の黒い城に全部のエキセンが住んでいるってのはちょっと可愛らしい気もするけどな」

「そうか?」

「まあ、言えば全部のエキセンが城にいるってことだ。もう逃げ場はないぞ」


智の話には蛇足が含まれているがもう気にしないことにしよう。
全部の闇が城に集結しているとの情報を聞いて、メンバーは一瞬だけガクッと肩を落とした。
しかしすぐに持ち上げる。肩と一緒に気持ちを上げて。


「全部のエキセンがいるのは好都合やん。一気にぶっ潰すで!」

「私は戦いとかできないけど、皆の応援はするよー!皆頑張ってねー!」

「こんなときのために悪魔の力を使えるようにしたんだぜ。悪魔を虐めてる魔王を押さえ込んでやるぜ!」

「復讐っていう言葉は好きじゃないけど、自称神だけは許せない…!僕の決意は変わらないよ。あの顔を殴るんだ」

「これも全てメロディのためだ。世界を救ってメロディも救う。その前にはオレンジ髪も救わなければな」

「ポメがいると分かればこっちのもんだわ。私とポメを弄んだ奴全てを沈めるわよ」


強い心は矛盾しない。
"どんな盾でも貫き通すことが出来る矛"と、"どんな矛でも貫き通すことが出来ない盾"。
これを矛盾と言うが、世の中矛盾していることなどないのだ。
必ずや勝敗が決まる。

闇と光も同じ。
闇は全てを飲み込むことが出来るけれど、光は全てを包むことが出来る。
果たしてどちらが強いのか、それは主らの心によって決まる。

強い心があれば、勝利はそちらに傾くことになるだろう。
そう信じて、勇者たちは走るのだ。

勇敢な言葉を聞いて、一安心するのは『O』だった。


「よかった。君たちならやれそうだ」


そして『O』は言った。


「もう目的地に着くよ。この辺りから強い闇を感じるだろう?これは全てエキセンが出している強烈な闇のオーラだ」


辺りを見渡すと、闇が漂っているのが目に見える。
この辺りには緑など自然は無い。
いや、自然はあるけれど黒いのだ。

闇に染まった自然も言わば闇か。


「うわー…危険な感じがするぅー」


チョコが肩を細めていると『O』が優しく微笑んできた。


「案ずることは無い。この闇もあと数秒の命だから」

「「?」」

「今、イナゴと連絡を取り合ってた。これから自分らはどうすればいいのか不安に思っていたらいとも簡単に彼は解決してくれた」


ここで走る速さが緩まる。先頭を走っている『O』が緩めたのだ。
しかしメンバーは緩めなかった。

目の前に城があったから。
闇に紛れて高く聳え立つ不気味な城。天候も暗くて本当に闇一色だ。物を見分けるのも困難になるほどの。
それでもメンバーは走る。拳に想いを込めて。


光ある背中が引き離れていくが構わず『O』はここで立ち止まった。


「ここからだと綺麗に見えるだろう」


ここから見える光景は闇の中にある深い闇、城の先端がこっそりと見えるだけ。
しかしそれでも全然構わなかった。


「素敵なコンサートになりそうだ」


永かった、全てにおいて永かった。
生まれてから、この時をひたすら待っていた。待ち焦がれていた。
闇が光に変わる瞬間を、見たかった。だから自分は生きていた。今までずっと。

闇が光に変わるまで、ずっと闇が光を支配していた。


心臓をとられてからクモマは、光を失った。生きる楽しさを失った。
だけれど人を笑わせる喜びを知った。
癒しをあげると人が喜ぶ。自分の力が人を喜ばせる源になったことが嬉しかったから
クモマはこの人生に笑みを持つことが出来た。
それなのに人形になる運命だなんて、ふざけている。
充実した人生にピリオドを打ちたくない。だからこの拳に誓う。
"笑う喜び"を誰にも邪魔をさせない、と。


本当は天使だったのに、気まぐれで悪魔になってしまったサコツ。
天使から生まれた悪魔だということで天使に嫌われていた。
自分は噛み付くことしかできない悪魔。それに愛を注いでくれた天使。
血は繋がっているのに、人種が違う。だから他からは嫌われる。だけれど母は愛してくれた。
それが嬉しかった。それが救いだった。
今は亡き母の赤くなった翼と、闇魔術で黒くなった翼。
互いを白に、光に染めるために、この拳に誓う。
今はもう怯えない。天使の心、悪魔の力で全てに立ち向かおう、と。


クルーエル一族の銀の魂は、一部の乱れにより全てを失った。
闇に支配されていく銀。それから逃れる一つの要。
それは小さな要であったが、これに懸けるしかなかった。
どうか、誇りを失くしたクルーエル一族が再び光を浴びれるように。
要はタトゥに血を与えなくてもいい、人を殺さなくてもいい。
要は人に幸せを与えてくれればいいから。幸せは奪わなくていいから。
だけれど要は幸せを与える前に幸せを奪い奪われてしまった。
それが苦痛であり悲痛だった。だからソングはこの拳に誓う。
自分に与えられた任務をこなし、伴って奪われた幸せを再びこの手で掴もう、と。


今までずっと、気にしていた。
どうして自分は動物の言葉が分かるのだろうか、と。
それに恐れて人々はチョコを避けた。
動物と話すとは、なんて汚れた口をしているのだろうか、と言って避ける人々。
それはこっちも知りたいことなのに。チョコは深く哀しみ、自殺までに追い詰められる。
そのときに一瞬だけ人間のことも嫌いになってしまった。
それが誤りであった。その考えは不幸を招くことになった。
自分の過ちにより人々は悲しんだ。だからチョコは笑って償おうと思った。
そのまま月日が経ち、旅をしていって、ようやく自分の正体を掴むことが出来た。
それは合成獣。ペガサスと合成された普通の子どもだった。
それなのにペガサスの力を手に入れることが出来ずチョコは失敗作だと言う。
何てふざけたことであろうか。
相手の気まぐれで大好きな人間に避けられる日々を送ってきた、チョコは今この拳に誓う。
人間のことが大好きだから、人間を悲しませないように今ここで笑おう、と。


互いに愛して、互いに気遣って、互いに悲しんで。
知らぬ間に恋していたことがこのような結果を招くことになった。
身分の差で悲しむ運命に立たされたブチョウは、闇に声と自由を奪われた。
鳥族にとって声は命の次に大切とされるもの。それを失ってしまったブチョウ。
終いには友人の喉を圧し折って声を奪う側に立ってしまった。
そして、自由を手に入れたと勘違いして、彼の元に行った。なのでまた悲しんだ。
大切な声も奪われて、大切な人も失った。腹の"印"により自由も奪われた。
次々と失っていく大切なものたち。
ブチョウはこれ以上のことがないようにこの拳に誓う。
全てを取り返そう、と。


笑いが欲しい。
ただ、それだけ。
喉から手が出るほどに欲しいもの。笑い。笑い。笑い。
人の笑顔が欲しかった。
呪いなんていらない。確かに呪いを受けたときに人は自分に向けて笑ってくれた。
だけれどそれは違う笑いだ。
自分は世界を喜ばせる笑いが欲しいのだ。
だから今までずっと笑いを求めて旅をして、そのときにラフメーカーを見つけた。
これは『L』に任された任務であり希望であった。
ラフメーカー。自分は彼らをよい勇者に育てなければならない。そう思って今まで努力してきた。
そして今、最高級の笑いを右手に持って、トーフは小さな拳に誓う。
世界に平和を。人々に笑いを



そして、光を。





「光 あれ」


闇の地帯の中で『O』が声を出すと、雲間から強い光が降ってきた。
この光は自分が出したものではない。城の中にいる『L』が出したものだ。
強い光を浴びて、エキセン城は白くなる。
黒が白に染まる。
色の三原色では黒が全てを支配する色なのに、白はそれに負けなかった。勝ったのだ。
この場に漂っている闇はそのままだったが、城が白くなったことだけでも非常に良い条件である。


エキセンは光が苦手なのだから。


闇たちは光を支配するために活動していた。
しかしそれは今ここで逆転した。闇を全て光に変えてやる。
ラフメーカーの拳によって。



光を頭から強く浴びたエキセンは、きっといつものように動くことが出来ないはずだ。
エキセンが弱っているうちに、ラフメーカーが戦えばきっと勝つことが出来る。
これも全て『L』の計算の一つである。

しかし、思った。
『L』も闇だ。光を強く浴びて、彼も苦しんでいるのでは?


不吉を悟って『O』もようやく走り出した。
ラフメーカーが城に突撃して壁に大きな穴を開けている。それに目掛けて、足を大きく踏み出した。










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ラフメーカーズ、終章に突入です!

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