白くなった城。
元は黒だったのに今ではメルヘンに出てきそうな綺麗な城である。
しかし、壁の一部が破損し、そこから土煙が舞い踊っている。
「「出て来いエキセンー!!」」
壁破損の原因であるラフメーカー6人とクルーエルの2人は大声上げて我らの敵を呼んだ。
それぞれの手には熱く拳が握られている。
憎しみや怨みに上乗せし、今では希望が燃え盛っている拳。
それを目の前まで転がってきた巨体な黒い者にぶつけて飛ばす。
「うわ!Dが一発でやられちゃったよー?!」
「Dの『ミートボール』がぶっ飛んだぞこの野郎?!」
メンバー目掛けて転がってきたのはエキセントリック一族の『D』。
しかし奴の攻撃『ミートボール』はメンバーを潰してハムにする前にクモマの拳によってエキセン城の壁にまた穴を開けることとなった。
続いてこの場に現れた『N』と『Q』も驚いた表情をとる。
それはそのはず。エキセンが簡単に飛ばされてしまったのだから。
「驚いた…エキセンを飛ばせたよ」
そして殴った本人も驚いていた。
エキセンといえば触れようとした瞬間に消えるような奴らだ。
それなのに今ではこちらから触れることが出来る。
それは何故か。
答えは簡単。それはズバリ
「"光"の力か…」
この城の壁を破壊する直前、城に光が落ちた。
そのため、容易にエキセン城を突き破ることも出来て、今の通りエキセンに触れることも出来る。
何故光が落ちたのかメンバーは知らない。
だけれど、エキセンたちは知っているようだ。
「あんのキャラメル野郎…!どこにあんな光の力を秘めてたんだ?」
「L兄ちゃんもひどいことしてくれるよねー。どうするQ?」
「何故お前は俺には呼び捨てなんだよこの野郎!」
「へっへーんだ。おいらはQよりL兄ちゃんの方が好きだもんねー」
「ぶん殴るぞこの野郎。あいつは俺らに光を浴びさせた凶悪犯だぞ!お前も殴ってキャラメルも殴ってる」
まるで兄弟の様に微笑ましい姿を見せる『N』と『Q』であるが、この二人の会話から原因を掴めた。
なるほど、『L』が光を落としたのか。
驚愕するのはメンバーのほうであった。
まさか『L』にそのようなことが出来るとは…。
「さっすがLさん!光を落とすなんてね!」
「すげーぜ!あいつ捕まってたわけじゃなかったんだな!」
「捕まったのもあいつの計算の一つだったのか」
希望を『O』に託して、『L』は始めから捕まるつもりだった。
『L』はメンバーがエキセンの闇の力により深く心に傷が刺さっていることを知っている。メンバーの心を読んだときに全てを知った。
エキセンのせいで病んでしまった哀れな心。
しかしそれに打ち勝たないと世界を守ることは出来ない。
だから彼は捕まった。
捕まることにより、メンバーはきっと形相を変えて助けに来てくれるを知ってるから。
病んだ心というものは、勇気によって回復する。
今、メンバーの心は勇気に溢れている。だから今ならばエキセンに捕らわれることなく戦うことが出来るはずだ。
そして、エキセン言わば闇が最も苦手とする光。それをこの場に落とすことにより、
光の者であるメンバーは真の力を出すことが出来るのである。
「Lがここまでやってくれたんや。次はワイらがやる番やで」
「ってかエキセンって二人だけだったか?」
何故かこの場に居るエキセンは二人だけだ。残りの奴らはどこにいるのか。
そもそも自分らは、最も戦いたいと思うエキセンにこの拳をぶつけたいのだ。
餓鬼である『N』と不良である『Q』なんか、相手にしなくてもいいんだよ。
ってなことでメンバー全員で奴らを綺麗に無視してみることにした。
「「待て待て待て!!」」
しかしすぐに妨げられた。当たり前だ。
『N』がわんぱくな表情のままメンバーを止める。エキセンが得意とする金縛りを使ってるのだ。
「お前らラフメーカーだろー?なら逃がすわけにはいかないよー」
「ったく、他の連中はどこで何をしてんだこの野郎」
メンバーの動きを『N』が封じているところで『Q』が口先に二本の指を当てた。
初めて会うエキセンだけれどあの怪しいポーズからして分かる。今から魔術を繰り出すつもりだ。
なのでメンバーは逃げようとした。無理だ。金縛りが……
あれ?
力を入れることにより、金縛りが簡単に解けた…?
「ええええー?!何でお前ら動けてんのー?!」
今まで旅をしてきてエキセンの金縛りで何度動けなくなったことやら。
これだからメンバーはエキセンの前では無力だったのだ。動きを封じられたら逃げることも戦うことも出来ないのだから。
しかし今は動ける。エキセンの金縛りから逃げることが出来た。
それは何故だ?
「おいふざけんじゃねえよこの野郎!初級魔術を失敗するなんて、馬鹿野郎が!」
「え、ええ?おいら今まで一度も金縛りを失敗したこと無かったのに…?!い、意味わからなーい!」
「意味わからねえのはこっちもだこの野郎!」
二人の黒い者たちが言い争っている間にメンバーは背中を見せて逃げていた。
そのためすぐに『Q』が口先に当てていた指を使って魔術を繰り出す。
口から炎を出す『Q』だけれど、その炎はライターの火のような勢いだった。
「ふざけんなよQー!!」
「ふざけんなよ俺ー!!」
「「ふざけんなよエキセン!いくらなんでもそれは弱すぎだろ!」」
「「そんな文句ありかよこの野郎!!」」
文句を言われ二人はそろって激怒した。今では背中がむき出しのメンバーに向けて闇を飛ばす。
エキセンは光に包まれた城の中では思うように体が動かない。だけれど闇魔術は使えるようだった。
『Q』が二本の指を振り上げると、地面から闇が湧き出てくる。
「なんだよ!闇は使えるんじゃんか!」
「ふざけてるな。簡単に倒せると思った奴らだったのに…」
クルーエルの智とオンプもそれに対しては呻いていた。
普通の魔術はこの場では無に近い存在になるけれど、闇魔術であればこの場に出せる。
『Q』の闇の波は逃げるメンバーを呑みこもうと迫ってくる。
あれに呑まれたら危険だ。光の中でも動き回る闇。危険であることは確かである。
「仕方ない。ここは俺に任せろ」
しかし、その中で一つの銀が立ち止まった。
振り向いて闇の波と対面したソングは、ハサミを取り出して巨大化させるとすぐにそれを分解する。
ハサミの刃を両手に持って闇を向き合った。
「ふん、クルーエルか。てめえらは俺らの下になってればいいんだよこの野郎」
闇と向き合うソングを見て『Q』が鼻で笑う。
殺血を体内に流していないソングのことをすぐにクルーエルと察しる事ができるところからしてやはりエキセンは侮れない。
「そ、ソング…!?」
ソングの勇姿に気づいてメンバーは走るのをやめようとしたが、ここで止まったらいけないことを知っている。
自分らは自分の目的に向かわなくては。
なのでメンバーはソングのことを心配しつつも走り続けた。
ソングは特に誰を懲らしめるか考えてなかったのでこれはいい機会へと結びついた。
ソングの役目は今ここで、メンバーの邪魔をする奴らをぶちのめすこと、になり文字は十文字に輝く。
「帽子屋の野郎が『この野郎にぶっ飛ばされた』とか言ってたが、なるほど、てめえのことだったのか」
「は、何のことだ?今まで幾多の喧嘩をしてきたからそんな奴のこと覚えてねえなこの野郎」
にらみ合う銀と闇。
向かってメンバーが叫ぶ。「ありがとう」と。
だから声援に答えるためにソングは右手に持っているハサミの刃を空に刺した。
そのまま空をかき混ぜ、迫ってくる闇に刃の風を送る。
一部が斬れて崩れる闇、しかしそれでも波打ちは止まらない。
そして闇の中から闇の大砲が飛んでくる。
「?!」
突然闇が発砲してきたのでソングは急いで体勢を崩した。
闇の弾はソングの頭上を通り越して近くにあった柱を壊した。生憎それによって城が崩れることはなかった。
闇の大砲を放った小さな闇が笑っている。
「へへへ。相手が悪かったね!2対1じゃ勝敗決まったようなもんじゃん!」
『N』がつま先から足首にかけて闇の光を溜めて立っている。
ダンッと地面を蹴ればまた闇は大きくなる。
『N』の存在を思い出しソングは表情を濁した。
「しまった、ここには二人いたか」
1対1であれば勝てる自信はあるけれど、相手が二人いたら不都合だ。
闇魔術を使えるエキセンはやはり危険だ。光を浴びて内心つらそうであるが闇を出すと元気を取り戻している。
一人で戦うとすれば負ける可能性は高い。どうするか、悩んでいるときだった。
ソングに向けて闇を蹴ろうとした『N』の動きがピタリと止まったのだ。
「え…?」
「2対1なんて子どもがするようなことさかい、ここは1対1でやろうや」
蹴るために地面から離した足、それが糸に捕らわれ『N』はバランスを崩して身を倒した。その瞬間に足の闇が空気に溶け込む。
足を捕らわれたのに気づいてすぐに頭を上げる『N』であったが、相手は予想以上に小さい者だった。
「ね、猫たん?!」
「ちゃうわい!ワイはトラや!いや、人間か…?」
「知らないよ!」
いつの間に『N』の背後に回ったのだろうか。『N』の足を捕らえたのはトーフだった。
実のところ、トーフはソングのことを心配してここまで戻ってきたのである。
そのことに気づいてソングは少しだけ口角を吊り上げた。
闇を作り出す足を捕らえることにより、『N』はもう闇を出さないはず。
追い詰めるためにトーフはじりじりと『N』の元まで歩み寄った。
動けない奴が相手ならどんなに近づいても平気だろう、そう思っていたが、『N』には奥の手があったのだ。
「覚悟しぃ」と言うトーフを目の前に、『N』は悪戯っ子の笑みをして、ある行動に出た。
「猫騙しー!!」
パンっ!
何とトーフの目の前で手のひらを打って、驚かせようとしたのだ。
そして上手い具合にトーフは驚いてしまう。猫騙しに引っかかってしまったのである。
その隙に『N』は足に絡まっている糸から逃げ出した。
「しもうたー!くだらん技にやられてしもうたわー!」
「あほかドラ猫!」
間抜けなことに『N』を逃がしてしまった。
自由を取り戻した『N』は再び地面を蹴って闇を燈す。
その裏では、『Q』の闇がソングを今にも呑もうとしている。
「クソ、やはりエキセンには変わりないか」
光の中では動きづらいであろうに闇の者、それでも闇を作り出す。本当に怖ろしい奴らだ。
明るい城の中で戦う4人の影は遠くから見ていても凄まじかった。
闇と戦う光。
光の中で暴れる闇。
闇は暴れることにより光の膜を破り、再び城を黒に戻そうとするが、いまだ上手くいかず。
ソングとトーフが戦っている姿を暫く見ていたオンプはここでやっと正面を向いた。
目的を目に映して、瞬き輝かせる。
「智さん、兄上たちが時間を稼いでいる間に私たちはクルーエルを狂わせた元凶であるノロイを倒しましょう」
『C』を倒そうと言うオンプに首を振ったのは無論であるが智だった。
「いや、その前に戦わないといけない連中がいるようだぞ」
ここで走っていたメンバー全員が足を止めた。
目の前にずらっと並ぶ団体がいるからだ。
それらは皆、同じ色をしている。
風が吹いていないのに銀色だけが靡く。
「クルーエル!?」
道を塞ぐ銀色はクルーエル一族であり、しかも大勢だ。
全員が手に武器を持ってこちらを睨んでいる。狂った目をして睨んでいる。
すぐに智が察した。
「『惨』属と『戦』属か…」
「いや、『威』属と『猛』属もいます…!」
何と、クルーエル一族の悪なる4属が集結してしまっているようだ。
その数があまりにも多くてメンバーは後ずさりする。対して智とオンプは前に出る。
「ここは俺らが戦わなくちゃならないようだな」
智はここで小さなナイフを巨大化させた。
今では両手で支えないとならないぐらいの大きなナイフ。大剣を担いで智は歩む。
その後ろをフォークを持ったオンプがついていく。
続いてクモマも行こうとしたがブチョウに止められた。
「やめなさいたぬ〜。これはクルーエルの戦いなのよ。私たちには敵わないわ」
「でも…」
「邪魔したら駄目よ。この二人は狂ったクルーエルの正気を取り戻すために私たちと一緒に歩んでいたんだから」
「…」
立ち止まるクモマの腕を引いて、ブチョウは進路を前から左へ変える。
その間にクルーエルの二人は前に進む。
「私たちは己の道を進むだけでいいの」
ブチョウに注意を受け、クモマはクルーエルの戦いを見放すことにした。
進路を変えて進んでいく。その間にクルーエルたちがにらみ合っている。
同じ一族同士なのに、エキセンのせいで狂ってしまった仲間。智とオンプはその関係を崩すために今武器を構える。
「はっきり言っておく」
智は、目の前にいる悪なる4属長に向けて告げた。
「俺には勝つ自信がない」
それでも戦う。
悪なる4属は戦いが上手いというわけではないが凶悪な力を秘めている。
善なる3属は戦いが上手いが、強烈な力は秘めていない。ここが大きな違い。
そして数を見ても分かる。これでは善は悪に負けてしまう。
だけれど戦わないといけないのだ。
どこかで奴らを操っているエキセンの『C』を追い詰めるために。
まずは仲間を倒さなければならない。
智は前言を覆す。
「しかし俺には夢はある。だからお前らに勝つ」
「「…」」
「お前らの狂った呪いを排除してやる」
「「……」」
「だから、大人しく待っててくれよ」
自分らにも呪いがあるのだが、遠くにいる『C』には智とオンプを操ることは出来なかった。
きっと二人の心が光に満たされているからだろう。他のクルーエルは完全に操り人形になっているというのに。
メンバーが走る背後ではいつでも音が鳴り響いている。
それは滅びの唄なのか、喜びの唄なのか。
凄まじいベースに乗って音楽は奏でていく。
それぞれが希望という光を心に燈して、戦う。
そしてクモマとサコツとチョコとブチョウも拳に想いを込めたまま走り続ける。
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