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光が落ちる前。
エキセン城の大きな踊場にはたくさんの銀が倒れていた。
今は目をつぶって大人しくしている『C』だけれど、奴が決闘の初めにクルーエル一族をシャンデリアで潰したのだ。
そんな哀れなクルーエル一族を救おうと善なる3属長たちが立ち上がる。
しかし、呪いが解けて本当の力を発揮できる属長たちでも、途方に暮れる光景がそこには広がっていた。
予想以上に怪我人が多いのだ。
それはそうだろう。人間がシャンデリアに潰れたのだ。
幸運にも全員が生きているようだが、傷はだいぶ深い。
ほぼ全部のクルーエル一族がこの様。
たった3人の属長の力では、到底敵わない光景だ。
そのため嘆き悲しむのであった。


「傷が深いぞ…。どうするか…」

「えー…ある程度の…応急処置はできる…けど、あまりにも皆の傷が…深いよ」


さすが、『武』の族、このような場面のために応急処置の知識を持っているようだ。
しかしその知識も止血ぐらいのことで、実際には全員を立たせることは出来ていない。
恩属長がいうように怪我人の数が甚だであるのも原因の一つだ。
手元にある包帯などの布だけでは全員の救急に励むことが出来なかった。

赤い血が滲む背景では、幸属長が自分の属の者たちを励ましている。


「ほら、みんな頑張りなさい。もう呪いに苦しむことはないのよ」


幸は、属の情報収集屋であるノリオを揺さぶり声をかけ続けている。


「せっかく呪いが解けたというのに、幸せは戻ってこないというの?私たちだけ無事だったら何の意味もないじゃないの」

「幸…」

「ずっと待ち焦がれていたこのときを皆で祝福したかったのに…。はあ、運命って辛辣ね…」


やっとの思いで全員の体内から束縛の呪いが解けた。
それなのに、全員が喜べない状態に陥られている。
せっかくの祝福時間が応急時間として使われていく。
一方に塞がらない傷穴、頭が垂れる光景だ。

目の辺りを赤くして嘆いている幸を見て、見ている側も涙腺がゆるくなってしまう。
智は強く息を吐いて、辺りを見渡した。


「酷いありさまだな…」


この血の団体の中の大半が『C』の呪いで思考を操れなくなっていた悪なる4属である。
智はその中の一人と向き合った。
それは、戦いに全てをかけている属…戦属の長だ。
奴は頭からの流血に苦しんでいる様。


「戦、今の気分はどうだ?」


智の声を聞いて、戦属長が額にまで漏れた血を腕でぬぐって、得意気に言ってみせた。


「血が美味いな。戦いって言うのは素晴らしい」

「へえ、お前ら対して戦ってないくせに?」

「ふん。血が出たっていうことは素晴らしい戦をしたと言う証拠だ」


なぜか勝ち誇ったように言う戦が面白くて、智は場違いに笑っていた。


「思い切り相手にぼこぼこにされたってのに、強気だな、さすが」


その言葉が戦の表情を引き上げた。
ひくひくと口角を吊り上げて怒りを溜めた戦が、笑う智を睨み殺す。


「お前は本当にムカつく奴だな。喧嘩売ってるのか?」

「喧嘩?俺は喧嘩を売るほど馬鹿じゃないぞ」


智に拳を振り上げる戦だったが、傷の痛みが全身に走ったために、ひっくり返ることになった。
血がまた新しく滲み出る。

智がすぐに戦を抑えた。


「無理すんなって。俺は喧嘩なんかしないから、落ち着け」

「ざけんな…!お前の言ってること全てが俺の考えに反してるんだよ!殴らせろ…!」

「殴ったことで何になるんだ。どうしてお前らは」


智は言う。


「同じ一族同士、仲良くしようと思わないんだ?」


その後、戦は無言になった。
口を紡いで、何度も何度も額の血をぬぐっている。
無視しているように見えるが、何となく、説得が効いたのだと感じた。

智が戦から目を離してまた深く息をついている背景では、小さな声で会話する者たちがいた。


「生きてるか?」

「生きてる」


双子の兄妹、ソングとオンプだ。
オンプもシャンデリアの下敷きになっていたので、怪我が酷い。
細い足に痛々しく深い傷が帯びてある。
それを見て、ソングが眉を寄せた。


「生きていたのも、奇跡的だな」

「失礼だな。こんなことでクルーエルは死なない」

「長年呪いに苦しんでいた一族が言う台詞か?」


呪いと共存していた一族、下手すれば呪いに潰れて死ぬこともあっただろう。
死と常に背中合わせだったけれど、今はそんなこと気にしなくてもいいのだ。
呪いが解けたのだから。

厄介な呪いが解けたということで、オンプはソングに向けて優しく目を細めた。


「兄上が呪いを解いてくれたんだな」


ソングは、クルーエル一族唯一『C』の呪いを受けていない者。俗に言う要だ。
その要がついに役目を果たしたのだということにオンプが正直に喜ぶ。
オンプの傷を見て眉を寄せていたソングも、笑顔を見てから表情が和む。


「狂ったクルーエルを救うことが、戦争から逃れた俺の任務だからな」

「ご苦労だったな」

「お前、感謝の言葉ぐらい可愛く言えよ」


怪我人に厳しい言葉をかけるソングにオンプは一瞬腹を立たせたが、ここは素直に頷いた。


「…どうも、ありがとう」

「……」


オンプが本当に素直な言葉で謝ったのでソングは思わず呆けた顔を作った。
そんなソングにオンプは不満を抱く。


「何だ。兄上の方は何も言わないのか?」


オンプは足が痛いというのに、それでもソングに迫り寄った。
この行動からしても分かる。返しの言葉をもらいたいと言うことが。
血の流れる足を引きずって見上げてくるオンプを見て、さすがのソングも口を開いた。


「ど、どういたしまして」

「…イマイチだが、まあいいとしよう」

「………」


せっかく返しの言葉をあげたというのに、不満げに言われたことが癇に障る。
しかし次の瞬間にはソングはまた言葉を失っていた。
あのオンプが頬を赤めて笑っているところを見たから。

突然、笑いを漏らすオンプを見てソングは呆気にとられたけれど自然と気持ちを和らいでいた。


「何だ。何がおかしい」

「だって」


微妙に戸惑いを見せているソングがおかしかったのか、オンプは目をぎゅっと細めて笑う。


「本当に私たち、似ているなと思って」


細めている目は少しだけ潤んでいるように見えた。
それでもオンプはこの気持ちを兄に告げる。


「私、今までずっと一人だったから隣に人がいてくれることってあんまりなかったんだ。だから今すごく嬉しいんだ」

「………」

「これが兄妹ってやつなんだなーって…。一緒にいて気が安らぐ…。すごい…」


目まで赤くして笑いに耽るオンプを見て、ソングは今までとは違う感じを覚えた。

オンプは今までずっと一人だったのだ。
両親はあの戦争で亡くなり、兄は違う大陸を渡ったために、身寄りの者もいなかった。
一人でここまで大きくなったのだ。

ソングの場合はメロディという彼女がいたから、寂しいことなんてなかった。
しかしオンプは毎日悲しかったのだ。
きっと笑う場面も少なかっただろう。呪いに束縛された人生だったのだから。

そう思うと同じ血を分け合った同士なのに自分と全く違う人生を歩んでいたオンプのことが切なく感じる。
ソングは無意識にオンプの肩を叩いていた。

何も言葉もない無言の行動だが、それでもオンプには伝わった。
同情しているのだなあ、と。
だから目に涙の膜を張って光を燈した。


踊場全体にしんみりとした雰囲気が漂った。
しかし、その直後に背後が騒々しくなる。
場違いな声が鳴り響いたのだ。
それは常に元気な奴の声。


「やっほーい!みんな元気かー?俺は元気だぜー!」


このうるさい声、顔を見なくても分かる相手だ。
感づいてソングは目の辺りをぐっと顰めた。
そして振り向いて相手を見る。

やはりだ。相手は赤髪のサコツであった。
いや、でも…、いつもと何か、違う…?


「おい、うるせえぞチョンマ……ってチョンマゲがねえ?!!」

「な〜っはっはっは!いやーいろいろあってチョンマゲがなくなっちまったんだぜ」


この場に現れたサコツは、何だかすっきりしていた。
そう、彼のチャームポイントであるチョンマゲヘアーがないのである。
これにはソングも黙ってはいられなかった。


「いろいろって何だよ?!何で髪が短くなってるんだ?!」

「そんなに驚くことかー?まー気にするんじゃねーぜ」

「誰だって気になるぞ?!クソ!これからお前のこと、何て呼べばいいんだよ?!」

「普通に名前で呼んでくれたらいいぜ」

「よ、呼べるか!今までチョンマゲで通してきたのに何故今更名前で呼ばないといけないんだ!」

「ソングは照れ屋だなー」


今まで「チョンマゲ」と呼んでいたのに、相手がチョンマゲじゃなくなってしまった。
ただでさえ全員の名前を正しく呼べない性格であるソングにとってみればこのことはショックに等しい。
なので表情を濁してチョンマゲではないサコツを睨んだ。
対してサコツは場違いに笑い続けている。


「な〜っはっはっは!まー気にすることじゃねーからよー落ち込むんじゃねーぜ!」

「別に落ち込んでないだろ!」

「名前で呼べないなら、サコっちゃんって呼んでもいいんだぜ?」

「誰が呼ぶか!何で愛着つけて呼ばないとならないんだ!」

「いいじゃねーかよー愛着つけたってよー。全く可愛げないぜソンちゃんは」

「勝手に愛着つけるな?!」

「ソンちゃんは恥かしがり屋さんだぜ!」

「てめえが恥知らずなだけだろが!張り倒すぞ!!」


そしてソングも場違いに叫び続けた。
このように浮いた存在になった二人。騒々しいので無論クルーエル一族全員の視線を浴びることになる。
しかし、よく見てみると全員が笑っているように見える…?

たくさんの笑顔を向けられてソングが戸惑った。


「な、何だ。何故笑う?」

「いや、さすがだなー」


代表で智が笑顔で答えた。


「見てる側まで笑わせる力を持ってるから、すっげーなーって」

「は?」

「みーんなー!ここにいたのねー!!」


智の言葉が理解できなくてしかめっ面を作るソングの背景、素晴らしい走りを見せて登場する彼女の姿があった。
桜色の髪を上下に揺らしてやってくるチョコだ。

元気のよいチョコの姿を見て、サコツがまた元気よく笑う。


「おー!チョコー!無事だったかー?」

「きゃーサコツー!どうしたのー!チョンマゲがなくなってるじゃないのー!」


サコツは戦場にいたチョコの体のことを心配していたが、チョコは真っ先にサコツの髪型に突っ込んでいた。
頭部は一番目に付く場所であるから、変化が生じると気になるところなのである。

チョコにまで訊ねられたので、サコツは仕方なくチョンマゲがなくなった出来事を語った。


「ちっちゃな魔王に髪の毛を溶かれちまったんだぜ。それでチョンマゲがなくなっちまったんだ」

「ええー!そうなの?でもチョンマゲだけでよかったねー!もし頭が溶けてたらサコツ死んじゃうとこだったね!」

「な〜っはっはっは!俺はそう簡単に死なないぜ!」


明るい二人の登場に、場の雰囲気が自然と和む。
さすがラフメーカー。笑いの力は光を生む。素晴らしいことだ。

光の素晴らしさにクルーエル一族が笑みを零しているとき、またもやうるさいものが登場した。


『やあ、みんな無事だったかいベイビー?』


クマさんの登場だ。
これこそ場違いである。


「いらん奴来たぞ?!」

「げー?何でクマさんが来るの?」


ご尤もだ。

メンバーとクルーエル一族全員が、クマさんの登場に気持ちの分だけ身を引く。
するとクマさんは「やれやれ」と気障っぽく言って、全員に背中を見せた。
違う、背後からやって来る彼女たちを見届けるために後ろを振り向いたのである。

大小が激しい影二つ。
そのうちの大きい影が声を流した。
それは歌のように聞こえる、美しい声。


「あら、ここにいたのね」


やがてその影はブチョウのものだと気づく。
なので全員が目を見開いた。
今まで低音掛かっていた声が麗しき声に変わっているのだから。


「姐御ー!めっちゃ綺麗な声ー!」

「すげーぜ!本当に取り返したんだな!」

「驚いた…。あまりにも顔に合わない声だな…」


次々と現れる仲間の姿を見るたび、どっと安心感が沸きあがる。
この様子から全員が戦いに勝てたようだ。その証拠に、笑みを零しているのだから。

ブチョウが歌声のような華麗な声を流している隣では、小さな男の姿があった。
やがて目の前までやってくると、男はペコリと丁寧に腰を曲げる。


「どうもはじめまして。ブチョウさんがお世話になりました」


何故か上半身が裸の小さな男。
一体誰なのかわからなくて全員が呆けた顔で見やっていると、ブチョウが得意気に胸を張って相手を紹介してくれた。


「紹介が遅れたわね。こいつはトリックオンリーンキャノン・グレートパイナポーよ」

「そんなグレートな名前じゃありませんよ?!」


ソングが突っ込む前にその男の方が突っ込んでいた。
見事な早業。ソングよりツッコミが上手かもしれない。

この調子だとまともに紹介してくれないだろうと察し、男自ら名乗りでた。


「俺は鳥族の里の長を務めています。フェニックスのポメです」


一瞬、メンバー全員が呆気に取られた。
けれど、事を理解すると全員一斉に叫ぶのであった。


「「これがフェニックス?!」」

「『これ』って失礼ですね?!」


予想外の姿に驚きを隠しきれない。
何せ、あのブチョウを夢中にさせるほどの色気がある男だろうと思っていたフェニックス。
それがこんな女男だったなんて。
本当に予想外である。


「いや、意外に背が低くてびびっちまったぜ」

「だけど姐御とお似合いよね!姐御が男っぽいから」

「何ですか?!俺に嫌味ですか?!」


何だか馬鹿にされているようで居た堪れない気分のポメ王であったが、ブチョウが仲裁に入ることで大人しくなる。


「ポメはこう見えてもフェニックスなのよ」

「さっき紹介しましたよ!それで皆さんが驚いてるんじゃないですか!」


わんわん喚くポメ王を見てブチョウが笑い声を上げて鎮まった。
そんなブチョウにつられてポメ王も笑いに耽る。

一緒に声を立てて笑う二人が場の雰囲気をより和ました。
とくにメンバーは、ブチョウがフェニックスを追っている姿をずっと見てきただけあって、今の光景のありがたさに満足している。

よかった。全員が本当に幸せを取り戻したのだ。
よかった。

喜びは休むことなく訪れる。
豪快な破壊音と共に残りの仲間が現れた。
そいつは短足であった。


「やあ。随分探したよ」


壁を突き破って登場したのはクモマだった。
顔には笑顔が輝いている。
聞かなくても分かる。あの様子からクモマはキモイ物体との戦いに勝てたようである。

無論、全員が笑顔で出迎えた。


「よークモマ!」

「元気そうねクモマ!」

「今日も素敵に短足ね、たぬ〜」

「それは言わない約束だよブチョウ」


禁句を放つブチョウに向けてでも、笑顔が耐えないクモマ。
『U』をぶっ飛ばせたことが相当嬉しいのだろう。

そして、変わり果てたメンバーの姿に正直に驚いてみせる。


「ええ!サコツ、チョンマゲは?!」

「な〜っはっはっは!いろいろあってなくなったんだぜ!」

「ブチョウ!声が綺麗になってるね!」

「何言ってるのよ。私自身が美しいのよ」

「そして、隣にいる人って…!」

「はじめまして。フェニックスのポメです」

「あなたがポメ王?!ちっちゃいね!」


小さいと言われたポメ王もこの雰囲気に笑っている。
クルーエル一族も、大怪我をしていると言うのに笑顔を作っている。
そんなクルーエルの存在を思い出してソングが「あ」と声を上げた。


「おいタヌキ!お願いがある」

「え、な、何だい?」


まさかのソングの頼み込み。思わずクモマは身を引いてしまっていた。
しかしソングは背中を押して無理矢理ある場所まで連れて行く。
そこは足を怪我しているオンプのところだった。

ソングの真剣な眼にクモマが映る。


「クルーエルが大怪我してるんだ。治してやってくれ」


クモマの眼には、赤い血を流しているオンプの姿が映っていた。
怪我人をほうっておくことなど、出来るはずが無いので


「だいぶひどい怪我だね。わかった」


手を広げて手に光を燈した。そしてオンプの治癒に取り掛かる。
オンプは、回復魔法の光を見て唖然と驚いていた。
この様子から癒しある魔法を見たことが無かったのであろう。

クルーエル一族全員が、物珍しそうな顔をして光を眺めている。
この場のクルーエル一族全員が怪我人だ。
そのことに気づいてポメ王が遅けれども自分の能力を思い出した。


「あ、俺、フェニックスなので治癒能力ありますよ」

「「もっと早くそれを言えー!」」


そういえばそうだった。
フェニックスと言えば治癒能力が豊富な生き物なのだ。
涙を流せばそれが癒しの雫になる。
そういうことでポメ王はこの場で泣かなくてはならなくなった。
大勢の怪我人を救うために無理矢理でも涙を流そうと、頑張る。

この踊場に光が次々と燈っていく。
癒えて怪我が治っていく者たちが無事に増えていった。
そのことにソングとクルーエル3属長も深く安堵する。


「よかった。これでクルーエル一族も復興できそうだな」

「そうね。助かるわ」

「癒し…の光ってすごいねぇ…」


しかしそれでもまだ大勢の怪我人がいる。
たった二人では治癒するのに苦労であろう。
なので残されたメンバーも何か自分たちにできることは無いかと、頭を捻って考えてみた。
しかしチョコは断念するのであった。

そんな中で、ブチョウが召喚獣を呼び出している。


「召喚獣、橙」


一つの召喚魔方陣で一匹の獣しか呼び出せないため、ブチョウは自分の親指を噛んで血を滲ませることで、空に魔方陣を描いた。
そして、橙と呼ばれた獣が煙と共に現れる。
それはクモマにそっくりなタヌキであった。


「クモマじゃん!」

「違うよ!それはタヌキだよ!」


クモマにそっくりなタヌキの召喚獣は治癒専門の獣なのである。
そういうことでブチョウは橙に向けて命令をする。しかし誤ってクモマにその命令を下していた。


「また間違えてるのかい?!僕は橙じゃないよ!」


また一つ、癒しの光が燈る。
よって回復の力が早まる。次々と怪我が治っていくクルーエル一族の者たち。

しかし怪我人の数はまだ多いに等しい。
そういうことで立ち上がる一つの勇姿があった。サコツだ。


「よっしゃ!俺の本領、見せてやるぜ!」


突然、何を言い出すのやら。チョコとソングが不思議に目を丸めた。
だけれど次の瞬間には目が飛び出るぐらいの見開きようになった。

立ち上がったサコツの背中、白い羽が咲いている。
あれは、紛れもなく天使の羽だ。

チョコとソングだけではなく、クモマとブチョウも驚いていた。


「「…………!!」」

「初めてだから使えるかどうか、わかんねーけど…」


手に光を燈しているクモマを観察してからやがてサコツが目をつぶった。
すると、ぽうっと燈る光があった。サコツの手のひらから光が湧き上がったのだ。
そしてサコツは燈った光を怪我人に向けて、不慣れな手つきで治癒に励んでいった。

サコツが冷静にしているのに対して、メンバーは絶叫マシーンの山場だ。


「ええええ!!ちょっと待ってよサコツ!どうしてキミが回復魔法を…っというか羽ー!!」

「きゃーサコツー!どうしたの?天使になれたの?」


騒ぐ仲間の姿が面白くて、サコツは笑っていた。
背中の白い翼が笑い都度、揺れ動く。


「な〜っはっはっは!何か知らんけど、天使になれたぜ!」

「もーやったじゃんサコツー!!」


自分が悪魔だと言うことに劣等感を持っていたサコツが、何と天使になって帰ってきた。
そのことが嬉しくて嬉しくて、チョコは無意識に天使の羽に飛びついていた。
チョコが抱きついてきてサコツは驚いたけれど、笑みは絶やさない。

このような場面があれば普段泣く行動を見せるチョコが、今は泣いていない。
なるほど、チョコも成長したんだな。
そう思ってサコツも安心してチョコの肩に光を燈した。


「チョコ、肩ぁ怪我してるぜ」

「え、ああそうだった!忘れてたよー私怪我してたんだった」


自分の怪我のことも忘れるほど周りに夢中になっていた。
そんなチョコの無邪気さにサコツは笑って、傷口に光を与えた。
そして視界に入ったソングの姿に向けても、その手を伸ばす。


「ソングも怪我してるぜ。治そうか?」

「いらん!余計なお世話だ!」

「何だよ。俺に治してもらうのが嫌なのか?」

「し、信用できねえだろ!」


そして、ソングは言った。


「俺よりもドラ猫の方を治してやれ!あいつも確か肩を怪我してい……」




あまりにも遅かった。
どうして、どうして気づかなかったのだろう。



「あれ?トーフは?」


ソングが喉を詰まらせたことで、全員が足りない存在にようやく気がついた。
クモマが問うけれど、誰も答えない。
一緒にいたソングさえ、答えることができていなかった。


「え、トーフちゃんは?どこ行ったの?」

「こんなときに便所かー?」

「…いや、そういえばだいぶ前からいなかったような…」


サコツの軽い言葉にソングの重い言葉が乗りかかる。
よって全員の顔色が一気に青く染まった。


全員が叫んだ。「トーフは?」


「ちょっと待ってよ!だいぶ前からっていつからいないのよー!トーフちゃんはどこ行ったの?」

「し、知らねえよ!俺だってクルーエルを助けることで頭がいっぱいだったんだ。あいつも呪いが解けて安心してるようだったから、それから見ていなかったんだ!」

「おお!トーフの呪い解けたのか!よかったじゃねーか!」

「だけどタマがいないわ。呪いが解けたっていう祝福もできないじゃないのよ」

「…まさか、トーフ…」


全員が混乱しているとき、クモマがこわばった表情を作った。


「一人で戦いに…?」



刹那に広がる白の色。
ただでさえ光を浴びていたエキセン城が、また一層光を纏った。

この光は、一体何?


誰が落とした光なのだろうか。




全員が魅入られて、光を見上げた。
温かみのある光。その裏腹に闇を溶かす威力。

幸せ色を込めた、白。

そして、崩壊していく、城。



だけれど、光がこの場にいる全員を包んで守ってくれたため、崩壊により怪我する者は出なかった。
崩れていく瓦礫を唖然と眺めていくだけ……。





光が、闇を、溶かして、この場に、光だけを、残す。


闇は、闇は、どこへ行く?







>>


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途中、普段のメンバーの会話だったのに、それを崩壊していく突然の光。
嬉しい光のはずなのに、この光だけは何だか、悲しさが篭っている。

この光の中に、トーフがいたのかなあ。

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