闇の核に光を落としたら、どうなるのだろうか。
光が繁殖していくだろうか。
それとも闇に吸われてしまうだろうか。
もしくは、化学反応が起こり違う物質が生まれるだろうか。

道はいろいろある。
それが運命なる人生だ。
生き物全てが様々な行き道を持っている。
しかし大きく分けて、道は二つ。
闇か、光か。


生き物に必要なもの、それは言うまでもなく、光だ。
光があれば生き物は生きていくことが出来る。
対して闇だけであれば生き物は衰え、終いには、その人生に終止符を打つ結末になる。

生き物は願う、生きることを。
必ず全部の命が生きるために活動している。
その活動を維持し続けることは難のことだ。
だけれど、これさえあれば生きることが出来る。
光、そう光。
光は生き物に必要な源。
比べる闇は、本当に不必要なものだ。
だから消そう、闇は隅々まで消えてしまっても、人々に何も悪影響を及ぼさないから。

さあ、闇よ。
光を飲み、隅々まで光になれ。
そして生き物を包み、神聖なる世界を取り戻すのだ。


しかし、その希望もお預けになる。


「うふふ、卑劣な手段ね」


『Z』が「や、やめるゾナー!!」と叫んだ刹那、この空間に重圧が掛かった。
ズンと重たい気配がエキセン城の司令塔を包み込む。
『R』と『Z』がその気配の存在に気づいて驚愕している間、今まさに光を落とそうとしていたトーフも動きを固めていた。
重圧によって動けない上、今までに感じたことのない危険な匂いに脳が動きを止めてしまったのである。

ひょうたんを角度10度ほど傾けているトーフの背後、狂った笑みを零す『P』が立っている。


「うふふ、うふふふ。愚か者。こんなところで光を落として何になる?」


『R』と『Z』にしてみれば、何故この場にあの『P』がいるのか、という混乱が頭から離れない。
そしてトーフは、こいつ誰やねんという複雑な心境が頭に駆け上った。

何故初対面の奴に「愚か者」と言われなければならないのか、とトーフは思わず憤る。


「あんた何やねん!光を落とすんは世界を救うために決まっとるやろ!」


強烈な気配を背後に感じて動くことが出来ないトーフは、相手の顔を見ないまま目を三角にした。
対して『P』はトーフを見下ろして、さらに楽しく笑みを零す。


「世界を救う?うふふふ、そんなことできるはずがないじゃないの。ここは闇、光なんか小さなものだわ」

「ちっこい?現にこの城を白く包んだのは光やで。強くものを言うのはいいことやと思うけどな、ちゃんと周りを見て言うたほうがええで」

「……」


口の悪いトーフはまさに怖いもの知らず。いや、相手が誰なのか分からないからそんなことがいえるのだ。
だけれど光の者であれば誰であっても、相手が闇であれば口を尖らすだろう。
光は闇に対して怒りをもっているのだから。

相手を理解していない上でぼろくそ言うトーフの言動が恐ろしくて『R』と『Z』は一歩身を引いていた。
あのままではトーフが『P』の餌食になること間違いないと察したのだ。
あの『P』を怒らせると、本当に厄介。
だから自分たちまで巻き添えを食らわないように、また後ろへ足を伸ばす。

しかし背中に何かが当たった。
逃げる『R』を『L』が止めたのだ。


「ここで逃げてどうする気だよチャーリー」


突然『L』が背後に現れたので『R』はギョッと目を見開いた。
そして場につられて辺りを見渡すと、この場には闇の者が増えていた。

闇の製造者『P』と戦っていた闇たちがこの司令塔に現れたのである。
というか、勝手に『L』が全員をここに送ったのだが。
そのため残りの闇たちはわけが分からず挙動不審に辺りを見渡している。


「何だジェイ!?ここはどこだジェイ!?」

「あらぁ、ここってチョビヒゲのアジトじゃないのぉ」

「きゃー!あの猫、すっごい可愛いですー!」

「あ、ぷにぷにトラだ」


『K』と『O』が指差す先にはトーフがいる。
トーフは「可愛い」とか「ぷにぷに」とか言われたために不機嫌に眉を寄せた。
しかし『K』が『P』の存在を見つけて低い悲鳴を上げることで、機嫌も一緒に抜けることになる。

『K』がしかめっ面で『P』を睨んだ。


「げっ、まだいるのかクソババア?!」


その言葉に『O』は思わず笑った。


「ふむ、Kちゃんは変化が激しいなあ」

「てめえに『Kちゃん』って呼ばれる筋合いはねえんだよ!」

「まあまあKちゃん落ち着いて。今はそんな些細なことでもめてる場合じゃないだろ」

「はい、そうですねL様ー」


トーフに続いて暴言を吐く『K』だったが『L』の宥めによって落ち着いた。
このときに『O』や『J』は、愛の力ってすごいなあっと実感した。

このように登場して早々騒いでいる闇たち。無論トーフが黙っているはずがなかった。
背後の存在を忘れて、叫んだ。それは『L』に向けて。


「Lやんか!あんた無事だったんやな!」


トーフに声をかけられて『L』もそちらに目を向けた。


「おおトーフか。何、これしき乗り越えないと闇に勝てないさ」


『P』が危険な笑みをトーフの頭に降りかけている。
しかしそのことにトーフは気づかない。じっと『L』を見つめていた。
反対に『L』は『P』の行動が気になってならなかったが、トーフの晴れ晴れしい姿を見て思わず口を動かしていた。


「お前、呪い解けたんだな」


二つの金色の目が輝かしい。
そんなトーフを見て『L』は場を忘れて微笑んでいた。
そしてトーフも笑う。さぞ嬉しそうに。


「そやで!ワイ、呪いが解けたんや!」

「よかったな」


互いの笑みが飛び交った直後、全員が体勢を崩して膝を落とした。
『P』の威圧が急に重みを増したのだ。
急な場の変化に全員が闇の者だというのに、油断も隙も見せてしまう。
だからトーフは悲鳴を上げることになった。

背後に立っていた『P』の体温が、このときに体全体に伝わる。


「うふふ。場の状況を判断して行動しなさい。今あなたたちは私の手のひらの上なのよ」


冷たい。
何だこの冷たさは。
これが闇の体温なのか。
あまりにも冷たくて、悲しい。

トーフは『P』の腕に捕らわれ、そのときに感じ取った体温に言葉を失った。
身を固めるトーフを見て、全員が『P』を睨む。


「しまった。油断した…!」

「またPのペースじゃないのよっ!さっさとあのトラ猫を取り返しなさいっ」

「無理ですー。今のPには誰だろうと近づけません」


心臓が鉛に変わったかのようにあまりにも重い胸。
全員がその苦しみを味わいながらも捕まったトーフを助けようと手を伸ばすが、『K』がここで断言して、それらの動きを阻止した。


「Pの周り、重圧がありえませんー。Pの近くに寄るだけでペシャンコです」

「「…!」」


『P』に捕まっているトーフも、絶句する。
ここで『P』の腕を噛んで脱走できたとしても、重圧に押しつぶされて結局は死の道を歩くことになる。
今は『P』が支えになっているので重圧を感じることはない。
しかし離れたら最後だ。
つまり、嫌でもトーフは『P』に捕まり続けないといけないのだ。

そのことに気づき全員が歯を食いしばった。


「重圧、か…。重圧も自然の力だから逆らうのは厳しいな」

「何よっ、あんたでも無理なわけぇ?」

「ごめんな。自然の力を逆らう魔術っていうのはそう簡単に出来るものじゃないんだ。しかもオレの中にはダンちゃんがいる。下手に動けない」

「そ、それじゃどうするジェイ?」

「……」


この中で最も頼りになる『L』が無言の回答を返した。
よって全員が肩を落とす。
この司令塔の主である『R』も困ったそぶりを見せた。


「ワガハイも今では弱い魔術しか出せないでアール。影を作ったとしてもすぐに潰れてしまうでアール」

「あれぇ?あんたは確か闇の仲間じゃなかったのかしらぁ?」


闇の中心核である『R』がトーフを助けるようなことをいうものだから『B』が煽りをかけた。
よって『R』は口を紡ぎ、気まずそうに目を泳がした。


「これは場に応じた判断でアール。Pが危険な者だというのは承知の上、あの黒猫を助けることは道理に反していないでアール」

「ふむ。アールでもお母さんのことが怖いのか」

「というか、Oもいたでアールか!」

「自分は神出鬼没だ」

「その通りだな」


潰れかけた闇の者たちが作戦会議を開いている。
それを楽しそうに眺めている『P』の手元、トーフはじっとあるものを睨んでいた。
手をプルプル震わせて、それを必死に傾けようとする。
ひょうたんをひっくり返して一刻も早くこの場を光に変えようと思ったのである。

しかし、その行動を見て『P』はまた笑っていた。
そして意外にも『L』が苦い表情を作っている。


「待て!早まるな!」


『L』の警告に、トーフは目を丸めた。
ひょうたんをひっくり返せば雫が落ち、闇を包むことができるというのに、何故『L』は光を否定しようとしているのだろうか。
トーフの行動は正しいはずだ。
ラフメーカーが作る笑いの雫は闇を沈める武器だ。
この武器を今使ったっていいはずなのに。

どうして、それを止める?

『L』は目と言葉でトーフの動きを束縛した。


「ここに光を落として何になる?こんなことしていいと思ってるのか?」


まさか、あの『L』がそんな命令をするなんて。
普通ならば『L』だって一刻も早くこの場に光を落とすはずだ。
現に彼はこの城に光を落とした張本人なのだから。

それなのに、自分だと光を落としては駄目なのか。
今ここで光を落としては駄目なのか。

まさに、矛盾している。


「意味わからん!ワイはあんたに言われて闇を沈めようとしとるんやで!何故ワイを止めるん?」

「とにかく今は駄目なんだ!」

「ほなちゃんと説明してえな!一体何が駄目なんや?」

「とにかく、駄目なんだ」

「何が駄目っちゅうんや?」


ここでトーフは気づいた。


「ここに光を落としたらあんたら全員が消滅するっちゅうことか?」


光は闇を溶かすことが出来る。
よって闇の者も光によって溶ける…?

しかし『L』はそれも覆した。


「違う。それに関しては別にいいんだ」


そしたら、一体何がいけないというのだ。
トーフは疑問に不安を乗せた。
『L』の真剣な顔を見たから。


「何で、そんな顔しとるん?」

「…」

「ワイ、何か間違ったことしとる?」

「してる」


断じて、『L』は言う。


「お前がここにいたら駄目だったんだ」

「…どういう意味や?」


全員が静かに聴いている。
『L』は一息吐いて、この堅苦しい空気に一瞬だけ風を送った。
しかしそれもすぐに重圧で潰れる。

トーフの眼差しを『L』の眼差しが突き通す。


「言っておく。お前は闇だ」


そのことは知っている。
前に『O』に言われたからだ。
『L』の魔術で生まれた闇のもの。だから自分自身が魔術で生きているようなものだから……。

………!
大変なことに気づいた。


「…まさか」

「やっと気づいたか。お前はオレの魔術で生きている者で悲しいけど闇の存在に値する」


『L』は大変なことを言った。


「だからここに光を落とすことでお前は光に飲まれて、消えることになるんだ」


「………っ!」





今まで笑いある光に憧れて、背を伸ばしていた。
光を浴びたいから頭を上げ続けた。
ヒマワリの花のように、光を追い求めて生きてきた。

ヒマワリの花、それは日溜りのようなものだ。
光を誰よりも受けている。だから美しい容姿をしている。

トーフもそんなヒマワリになりたかった。
笑いという光を浴び続けることによって、自分も光を放つものになりたかった。
けれど自分の力では光を放つことも、作ることも出来なかった。

そうだ、自分は魔術の塊なのだから。
光を浴びたとしても自分が光になることは、無理だった。
あの『L』が自分を創ったとしても、彼だって完全な光ではない。闇から生まれた闇なのだ。
だから、悔しいけれど自分だって闇と等しいのだ。


ねえ、どうやったらあの光のような存在になれるの?
憧れだった。光。笑いの光を放てるあの団体が本当に素晴らしくて、憧れの塊だった。
ねえ、自分はずっとあなたたちの側にいていいの?

今まで、厳しいことをたくさん言ってきたかもしれない。
けれどそれは光を塞ごうとした行動を妨げるため、仕方なくおこなったことだった。
本当は、本当は
誰よりも光を浴びて生きたかったから、
闇の自分を光に変えたかったから

闇自体を光に変えたかったから…。



「…ワイも、消える…か。それほどまでに強烈な光なんやな、これ」



それを覚悟した上で、ここに光を落とすのだ。


「うふふ。何?自縛の上に自爆?たった今Lがあなたを守るために叫んだというのに、あなたをそれを聞かないの?」


ここに光を落とせば
闇が光になるのだ。


言い換えれば
闇が溶けて光が残る。


「お前はそれで本当にいいのか?ここは仲間に光を落としてもらってお前は遠くに離れてろ!」


本当に『L』には世話になった。
もう永遠と光を見ることが出来ないと思っていた自分が、『L』と会うことでまた人生を歩むことが出来るようになったから。
どうしてこの人が、闇なのだろうか。
運命は意地悪だ。
光こそ、彼に与えるべきものではないのだろうか。


「愚かね。ここで光を落とせば闇を沈めることができると思ってるの?」

「ああ当然だ。あの光には"ハナ"を消す力が入っている。オレは知ってるぞ。"ハナ"の原料ってマスターなんだろ?」

「……エピローグ…」

「そのエピローグを消すほどの光だぞ。マスターが敵わなかった光、誰が勝てるというんだ」

「エピローグ…うふふ、あなたこそ最強なのよ」

「言ってるだろ!そのエピローグが今までずっと消えていってたんだ!あの雫の光でな!」

「そんなはずないわ。エピローグが世の全てなの。消すことなんて不可能よ」

「お前は人の話を聞いてるのか!あの光こそが最強なんだ!」



今までこの雫を使って、"ハナ"を消していった。
さあ、ここでも"ハナ"を消そうか。
世界を滅ぼしつつあった"ハナ"を消して、ここを光に変えよう。

それが自分の役目だ。




「おいトーフ!やめろって言ってるだろ!どうしてオレの言うことを聞かない?!」


 いつまでもあんたに頼ってばっかじゃ、失礼やん。


「そんなことない!これはお前のためを思って言ってることなんだ。お前はこれからもずっと光を見続けるんだろ!笑顔を見たいんだろ!なら生きろよ!」


 しゃあないやろ。これが世界を救う手段なんやから。


「お前がその手段をつかわなくたっていいだろ!仲間を呼べばいいだけのことだ!ここはひとまず下がってろ!オレが時間稼ぎするから、お前は逃げて仲間を呼んで来い!」


 そんな時間、もったいないやんけ。
 今すぐ、消さんとあかん。

 "ハナ"は厄介やから。


「お前って奴は…!」


 あんたにラフメーカーのことを頼まれて、"ハナ"を消す旅に出ることにした。
 あんたのおかげでワイは素敵な笑顔を見続けることが出来たわ。ホンマ、おおきに。


「…!オレはお前に頼りすぎた。たくさんの任務を頼みすぎた…ごめん。お前はそんなに小さな体をしてるのに、よく頑張ったよ」


 何で、事が終わったように言うん?
 まだ終わってへんやろ。

 今起こっとる事が。


「何でお前はそんなに仕事熱心なんだ?今は休んでろよ!」



雫が、雫が、雫が、
たった一滴の雫が、ゆっくりとゆっくりと、
ひょうたんの口から、零れていく。


「やめろおおおお!!」


やがてトーフがひょうたんをひっくり返した。
雫が本当にゆっくりと落ちていっている。
この場の重力は重いというのに、雫だけ無重力なのか、あまりにもゆっくりな様。

闇の者が全員大口開けて、雫を眺めている。
その口、全員が同じ形をしている。
きっと同じ事を叫んでいるのだろう。

もうトーフには聞こえない。いや、聞いていない。
全てを聞き入れず、自分の判断で。




確かにここに雫を落としてしまえば、闇全てを沈めることが出来るだろう。
『L』たちだって沈めてしまうかもしれない。
自分だって、沈んでしまう。

けれども、これが一番いい方法なのだ。
世界に笑いを取り戻すために、この手段を使うしかなかった。
闇を消すことが世界にとって見れば最も喜ばしいもの。



自分は、人の笑顔っていうものを自分で作ってみたかった。
人は必ず幸せをもらったときに笑顔になる。
その笑顔をこの手で作ってみたかった。



たったそれだけのこと。


























ホンマ、すまん。



























雫が、『P』の足元に当たる。

よってそこから白くなっていった。





光が、光が、光が

闇を溶かし、闇を溶かし、全てを、全てを





幸せ色に、変えていく。
















なあ、みんな。
笑ってえな。

ワイ、ワイな



自分の手で、笑顔、作ること出来そうやで。



せやけど、これも、みんなの力。笑いの雫のおかげやねん。

ワイの力じゃないんや。ホンマこれが心残り。








ああ、目の前が真っ白になっていく。


闇が、消えとる証拠やろうなぁ。







…………。



最後に、皆の笑顔、見とけば、えかったなぁ…。
































やがて、

光が闇を、呑みこんだ。







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笑いの雫は闇を溶かす力を持っている。
そのためトーフが自分の身を犠牲にして雫を落としました。

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