燃え盛る黒、これは悪魔特有の"気"である。
それを両手に燈してわんぱくな笑みを浮かべるのは個性あふれる悪魔たちだ。
メンバーが不意に地獄1丁目に訪れたときに観光地を案内してくれた悪魔4人。
彼らは危険な地獄から自分らを逃がすためと魔王を復活させないために戦っていた。
そして復活した魔王こと『V』が彼らに罰を下したとのことだが、よかった彼らは生きていたようだ。
あれから何の連絡も受けてなかったのでてっきり処刑されているのかと思った。

浅海に足をつけた悪魔4人組は背中を合わせ、どこから攻撃されても対処できるように身構えている。


「俺らが来たからには安心しろよ!何せ俺様が最強に強いからな!ハッハッハッハッハ!」

「黙れドラちゃん。相手を見てから言う言葉を判断しろ」

「つれないなーウルフは…ってお前もドラちゃんって言うなよ!」

「落ち着いてくださいドラゴンさん。久々に暴れることができてうれしいのはわかりますけど」


突然現れた悪魔たち。だけれど普段から気にかけていた相手だったため、驚くよりもどっと気持ちが和らぐ方だった。
そんなサコツに向けてトラがニマっと微笑む。サコツの背中に生えている翼が彼の笑みに浮かぶ。


「お前、ついに悪魔を克服したんだな!」


サコツが悪魔になることを克服したのはつい最近のこと。
彼らと会った当時は悪魔になることを怯えていた。そのためウルフに注意を受けていたのだ。

しかしいつまでも怯えていたら駄目だと思い知らされた。
自分らの敵である闇の者たち。奴らは強烈に強いから、悪魔の力に頼らないと倒せないと実感させられた。
だから今サコツは翼を立てているのである。

サコツの立派な悪魔の翼を見て、当時サコツに喧嘩を売っていたウルフも今では満足している様子だ。


「よし、それなら一緒に戦うぞ」

「お、おう」

「何びびってんだよー!お前も悪魔なんだから絶対に強いって!」


ウルフの満足気な表情を見て一瞬ひるんでしまった。
けれどもすぐにトラが元気よく笑みを飛ばしてサコツのはにかんだ姿を一緒に飛ばしてくれた。

悪魔4人組の強さは地獄に訪れたときにすでに目にしている。
てきぱきと動いて攻撃を繰り出す彼ら、非常に心強い味方になりそうだ。
そして、目の前に立っている背の高い彼も、心強い。


「やあ、無事そうでよかったよ」


この中で圧倒的に高い背を持っている悪魔。彼とは夢の中で会っている。いや、それは夢っぽくはなかったけれど。
クモマとそっくりの兄貴、ソラの姿を目の前にして、サコツはここで心底安堵した。


「ソラ師匠!来てくれたんだな!」

「師匠って呼ぶのはやめてくれないかい?」

「いいや、ソラ師匠のおかげで俺は悪魔を克服することができたんだぜ!感謝してるぜ」


夢のような世界で会ったため現実で会うのは今回で初めてだ。
今ここで感謝の言葉を述べてソラを歓迎する。
しかしそれを邪魔するのは、浅海と体が密着している『V』だ。
『V』は顔色を黒くして睨んでいる。


「お前…!どうしてここにいるんだヨ!」


歯軋りを鳴らす勢いの『V』は、ソラに向けて言っていた。
このときにサコツは思い出す。
そういえば、ソラは『V』のことを非常によく知っていたな、と。
『V』はソラにはいろいろと話をしていたようだ。
つまり二人はよく一緒にいて会話をしていた仲だということだ。

クモマの兄であるソラもサコツと同じように、『V』の気まぐれで悪魔になった人物だ。
ただ悪魔を増やしたいという『V』の気まぐれで二人が悪魔になった。しかし互いの育つ環境が違っていた。
サコツは胎児のころに悪魔になったけれどソラは今のクモマの年齢のころに悪魔になった。
サコツの場合は当時赤ん坊だ。さすがに『V』も育てたくなかったようだ。
対してソラは一人立ちできる年齢だ。そのため『V』も育てる気を持てたのである。

なるほど、そのときに『V』はソラにいろいろと話をしたのであろう。

ソラから見れば、育て親のような『V』だけれど、奴のせいで人間から悪魔へ格下げになった。
だからソラは『V』を許すことができなかった。
キッと『V』に睨み返した。


「僕はあなたを倒すよ」


ソラの告白を受けて、『V』は悲しむどころか不敵に笑っていた。


「ぼくちゃんを倒すって?ぐふふ、お前に倒せるかヨ」

「倒せるよ。こっちには仲間がいるんだ」

「仲間ってアレのことかヨ。あいつらはぼくちゃんの邪魔ばかりする馬鹿な連中だヨ、……ああ、なるほどね。今回も邪魔をしたいってこと?」

「邪魔をするっというか、ここで沈めるんだけどね」


刹那、睨みあっていたエキセンと悪魔が同時に光を放った。
『V』の邪気とソラの"気"がぶつかり、場に深い色の爆発が生まれる。

突然の爆発にサコツと悪魔4人組は一斉に退いた。


「うわびびった!どっちも容赦ねえな!」

「それが普通だと思うぞ。ここは戦場だ。音が無いほうがおかしいんだよ」

「そうですよね。僕らも戦わないといけないですよね…って皆さん伏せてください!」


ソラが『V』を抑えている情景に正直に驚いていたメンツだったが、トンビが叫ぶことで全員が身を引き締めることができた。
悪魔4人組は互いに背をあわせ、四方どこから攻撃が来ても対処できるように身構えている。
トンビが体を向けている方角から攻撃がやってきたようだ。
全員が言われたように身を伏せようとするが、そうだ、トンビには他の3人とは違って攻撃する力を持っていなかった。
なのですぐに仲間の手が助けに入る。
ウルフとドラゴンが一緒に片手を突き出して、『V』の手下の悪魔からの攻撃を砕く。


「ウルフさんとドラゴンさん…!」

「って、正直に身を伏せたのってオレだけ?!なんか逆に恥ずかしいよ!」


トンビの真後ろに身構えていたトラだけが正直に伏せていた。確かにこれは傍から見たら間抜けな光景であり恥ずかしい。
しかしその恥じが彼に火を燈すことになる。
この場にいる自分ら以外の悪魔に向けて勝負を仕掛けていた。
そしてウルフとドラゴンも同じように行動に移す。


「うへー…みんなやる気満々だぜ…」

「そりゃそうですよ。この場にいる悪魔たちはみな、僕たちに被害を加えた人たちなんですから」


殺気をムンムン放つ悪魔3人の姿を見て驚くサコツ。輪から外れてサコツと並んだトンビは、目を合わせなかったがサコツの声に応答していた。
そんなのんきな二人に向けて飛んでくる闇。
しかしすぐにソラが消した。


「ソラ師匠!」

「魔王のことは君に任せるよ」


ソラはたったそれだけ言って、そのままトンビを庇いながら悪魔との戦いに励んだ。
一瞬、事を理解できなかったけれど、悪魔以上に危険な闇が飛んでくる事態に気づき、今ここでソラの言葉の意味を知る。


「ちょ、待ってくれよ!俺が魔王と戦うのかぁ?!」

「うん」

「な、何でだよ!さっきまでソラ師匠が魔王と戦ってたんだろ?」

「そうだよ」

「ならそのまま倒してくれよ!」


何故か『V』との戦いを辞退したソラにサコツはただただ口論し続けた。
しかし、ソラはマイペースに言うのだ。


「だって僕じゃ倒せそうに無いもの」


それは断じてありえない言葉に聞こえた。
たった数秒だけだったけれど『V』と対立できたほどの実力者だ。それなのに彼には倒せないというのか。

ソラはそう言った理由を告げた。


「僕は光の者じゃない。悪魔だから闇なんだよ。対してキミは光を持った笑みを零せる。悪魔だろうがキミは光なんだよ」

「……!」

「だからキミは魔王を倒せる」


ソラの説明を聞いて、ああーなるほどなーって納得した。
けれどもすぐにサコツは否定の声を上げる。
ソラの考えに答えることができないような気がしたのだ。


「無理だぜ!光は闇に強いって信じてるけど、俺じゃ勝てないって」

「だけどキミだって魔王を倒したいんだろう?」


口をつぐみそうになったが、言った。


「そりゃそうだけどよー、俺は大して強くないぜ!俺以外のラフメーカーの皆は闇に勝てる光を持ってるだろうけど俺は持ってないと思うんだ」

「大丈夫だって。キミにも光があるから」

「………」

「何ごちゃごちゃ言ってんだヨ。戦う気あんのかヨ?」


『V』の声と同時に飛んでくるのは闇。
闇が空気を抉りながらサコツとソラの元までやってくる。
なので二人が一斉に避け、すぐにソラが"気"を手に溜めた。しかし撃ちはしない。
撃たなくてもよい状況だからだ。
ソラが撃つ前にサコツがすでに早撃ちして、『V』を狙っていたのだ。
サコツの"気"は無念にも『V』の前に立ち上がった闇の壁にぶつかって砕けてしまう。それでもサコツは口角を吊り上げていた。


「…そっか…俺にも光があるのか…!」


サコツは『V』のことを許せずにいられなかった。
奴には未練たらたらだから拳を奮うことができる。
だけれど、自分が闇に打ち勝つ力があるのか実のところ不安であったのだ。
けれどもソラがサコツを見て光があると言ってくれた。
それが今では心の支えとなる。

母が愛用していたしゃもじを構えて、その先に"気"を宿らす。
黒色をした"気"なので周りの色と混ざってしまいそうだ。
それでもサコツは"気"を大きくしていった。

サコツの行動を見て『V』が深く笑った。


「あれだけ光が強いとかほざいておいて実は怯えてたのかヨ。それで何だ?説得されて戦う気になったって?バッカじゃねーの?」

「……」

「こんな弱者と戦っても楽しくねえヨ。まだソラちゃんと戦った方が楽しいナー」


自分の力に自信を持たないサコツを相手にしてもつまらないと主張して、『V』はソラに体を向ける。
しかしサコツが許さなかった。
溜めていた"気"を放って『V』を襲う。
『V』はやはり闇を操って攻撃を避けたけれど、その光景に悲しむ者はいなかった。
ソラはサコツが『V』と戦う決心をしてくれたことに喜び、悪魔たちと戦うために背を向け、
悪魔4人組もサコツの悪魔の力が見れると何だか喜んでいるようだった。

よって今、闇の者とにらみ合っているのはサコツだけになった。


「俺は、確かに弱ぇよ、けどな」


サコツは言った。


「ラフメーカーだから強ぇんだぜ!」


話の道筋がよく分からない。
だけれど意味は通じる。
とにかくサコツは自分の内なる力に賭けているのだ。
光の力、それが内にあるのならば自分は強い。そう信じて再びしゃもじに"気"を溜めた。

『V』は笑うのみ。


「ぐふふふふ。お前が強い?ふっざけんじゃねーヨ。大体悪魔が魔王に逆らうこと事態おかしいんだヨ」

「お前なんか魔王じゃないぜ!お前は卑劣な闇だ!」

「誰が卑劣だヨ!失礼なこと言うな!」


どんっと闇が湧き上がる。『V』が張っている闇の浅海が深さを増したのだ。
光が落ちて白いはずの室内が黒に染まっていく。
高くなった闇の上に立って『V』が闇を操り、場の空気をゆがめた。


「光も悪魔もぼくちゃんには勝てないんだヨ!」


闇海の上から『V』が指先に溜めた闇を撃ってきた。
闇に足をとらわれているが悪魔全員が回避する。
無残にも撃った闇は海となって沈んでいくが、途端その場が爆発した。
海の中に爆弾を放り込んだ結果のような様。内から闇が垂直に立ち上がって場にその分の闇を散らばした。
そしてその闇に当たると、溶けるのであった。


「マジでかよー!」

「悪魔よりひどいじゃん!容赦ねー!」

「自分の手下も関係なし、か」


サコツが魔王と戦いやすいように邪魔な悪魔を抑えていた悪魔4人組も魔王の全体的攻撃には悲鳴を上げていた。
その中でウルフが自分と戦っていた悪魔が闇に当たって溶けていく様子を目にして恐怖と怒りを募らせる。
サコツも何とか闇から逃れるが、無残な悪魔たちの姿に息を呑んだ。


「最悪だぜ…!」

「ぐふふ。お前らみんな闇になればいいんだヨ。ぼくちゃんの邪魔をする奴はみんな闇になればいいヨ」


『V』の額には汗が溢れていた。やはり光の中で動くのは相当厳しいのであろう。
それでも邪悪に笑みを零す『V』は魔王以上の価値がある。
己の信念である"世界を闇に埋める"、それを貫き通すために絶対に勝つ。そう言って『V』は指先に溜めていた闇を撃たずに足元の海状の闇に突っ込んだ。
その刹那、全員が足を上げることになる。


「「熱っ!」」

「そうきちゃったか」


ドラゴンとトラとサコツは似たような感情を持っているため同音で悲鳴を上げる。
その中で沈着冷静にソラが顎をさすった。

『V』は全員が足を埋めている海状の闇を一気に"溶ける闇"へと変えたのである
急に足場が熱くなったのでメンツは翼を広げて空に浮かぶ。
一歩で遅れた悪魔は足を溶かして闇に沈んでいった。


「……これってよーマジで生と死の戦いじゃんかよー…!」

「ぐふふふふふ!ぼくちゃんが最強なんだヨ!」


地面に張り詰めるマグマ並の危険な闇、その上に立つ魔王『V』。
せっかくの赤ん坊の顔が台無しになるほど表情を邪悪にゆがめ、あわせた指先をサコツに向けた。
見る見るうちに邪悪な闇がたまっていくのを見て、サコツも気を緩めずしゃもじに"気"を溜める。


「最強なのはお前でもなく俺でもなく、"笑いある光"だぜ!」


笑い、いわゆる幸せ。
人は笑っているときが至福なのである。
それを自分のものにすればするほど、自分という生き物は濃く強くなる。

サコツもそんな人になりたいと思った。
自分を除くラフメーカーのみんなはまさにそんな人物ら。
彼らにあこがれて、彼らを好きになって
彼らを自分の帰る家だと信じて

彼らとまた笑いあう時間を取り戻すために

サコツは勇気を振り絞った。


「ベレッタ!」


場に銃声が響き渡る。








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