サコツが撃った"気"は無念なことに『V』の闇に呑まれてしまう。
苦く表情を顰めるサコツを見て、『V』は汗だくのまま笑っていた。


「ぐふふ、無駄だヨ。お前って弱ぇもん」

「………」

「お前の"気"だってすぐにぼくちゃんの闇に呑まれる。今のお前のような姿だヨ」


『V』が深く笑った刹那、地面に張っていた闇が波を打って大きく背を伸ばしてきた。
あの闇に触れると皮膚はおろか骨まで溶けてしまう。
魔王『V』、奴は光に当たって闇魔術が制限されているというのに、額に汗だけを残して他は普段どおりだ。
確かに持久力も薄れていたり、頭の回転が鈍くなっているようだが、攻撃力は変わらない。
なんて恐ろしい奴なのだろうか。

しかし腰を引いていたら駄目だ。
ここで戦わなくちゃ。
自分が戦わなくちゃならないんだ。


「って、無理だぜー!!」


人を溶かす威力を持った闇が自分を呑み込もう身を倒してくる。
あれに呑まれてしまったら、今まで自分の目の前で溶けていった悪魔たちと同じような結果になってしまう。
意地でも逃げなくてはならない。

今自分らは空を飛んでいる。地面を張った闇に触れないように飛んでいるのだ。
なので翼を動かして飛行し、闇から逃げる。
背を伸ばした闇はある程度相手との距離を縮めないと身を倒してこないらしい。
サコツとの距離が縮まらないため、今のところずっと追いかけている状態だ。
しかし逃げる側の立場だとこれが非常に恐怖なのである。
少しでも気を緩めてしまえば、自分の人生が大きく傾いてしまうから。
「死」へ傾いてしまい、哀れで儚い人生で幕を閉じる。
そんなの嫌だ。
サコツはとにかく必死に腕と足と翼を動かして逃げた。


「ついてくるなってー!」


この光景はまるで空中での運動会をしてるかのようだ。
長距離コースでありランナーは二つのみ。サコツと闇、今のところはサコツがリードしている。
しかし闇も負けていない。必死にトップのサコツを追いかけている。

ゴールはいつまでたっても見えてこない。
サコツの仲間である悪魔4人組とソラは他の悪魔たちを抑えるのに必死のようでサコツのとこまで手を伸ばすことができずにいる。
極度の方向音痴のサコツ、無事にゴールにたどり着くことができるのか。
結果は目前に迫っている。


「…ま、まじでかよー!」


サコツの進行先、大きな壁が立っている。
違う、あれは『V』が積み立てた闇だ。
サコツの背後を追っている闇と同じ種類の闇。地面に張ってある浅海と繋がっている。
つまりあれも危険な闇なのである。触れると溶けてしまう闇の壁だ。
あれに激突したら結果は同じ。
危険だ。早く避けないとこのまま壁にぶつかってしまう。
ということでサコツは進路を急遽変更し、脇道に入った。
直後、闇の波と闇の壁がぶつかり合い、互いが砕けて雨となる。

破片が降ってきてサコツはまた一歩退いた。


「危なかったぜぇ…!」

「その言葉、過去形にしちゃっていいのかヨ?」


『V』の笑い声が真後ろから聞こえ、サコツは急いで後ろを振り返った。
しかしそこには『V』ではなく闇が立っていた。
そのまま闇はサコツを呑もうと倒れていく。
しかしサコツは吼える。
「負けてられっかよー!」と勇気を振り出して。


「レミントン!」


普段のサコツなら絶対に足を震わせてへっぴり腰になっていた場面だっただろう。
しかし今回サコツは両手をかざすことで闇を壊した。
しゃもじを太股に抱えて両手を突き出す。その光景は間抜けなものであったが、サコツが手から直接撃つ"気"の威力により、その間抜けさは"気"と一緒に吹っ飛んでしまった。
ドンッと周りの空気も一緒に押し出す。よって近くにいた悪魔たちも体勢崩して"気"が飛んだ向きに体を倒した。


「あぁぁ!な、何ですかこの威圧は…?!」

「うわ!すっげーじゃん!お前って何気に強いんじゃん!」


サコツの"気"の威力で体勢を崩して圧倒されるトンビと、サコツを褒めるトラ。
たまたま二人は近くにいたようで被害を食らう。
そして敵である悪魔たちも彼らの上に乗っかってしまうほどにバランスを乱していた。

気づけばサコツの左右にはゴマ団子が出来上がっていた。
悪魔たちが威圧に飛ばされて身を重ねたのである。
その中でトンビとトラは一番下になっていた。その形で上空を飛んでいるものだから体力が持たない。
あと数秒たたないうちにトンビのほうが重さに耐えられなくて浅海に落ちてしまいそうだ。
そのことに気づいてウルフとドラゴンが上に乗っている悪魔たちを蹴散らしに"気"を放った。
それで無事に下の二人を救うことができたが、悪魔の一人か二人が反動で下へ落ちて闇に沈んでしまう。
悪魔を呑んでまた一回り高さを増す闇の浅海。
一瞬だけ4人が喉を詰まらせ、しかしすぐにウルフがそっぽを向いた。


「さっさとここから離れるぞ。魔王の近くにいたらお終いだ」

「で、でもあの方が…」

「やべー!避けろ避けろー!」


トンビは、最近まで悪魔を克服できずに怯えていたサコツのことが心配で仕方ない。
そのため場が危険ともかかわらずサコツの姿を近くで見ようと身をとどめた。
しかしそれは非常に危険な行為だったのでドラゴンが腕を引いてそこから離した。
刹那、サコツと戦っている『V』が大量に闇の柱を下から湧かす。
先ほど4人がいた場の空気も今では柱の串刺しだ。

そしてサコツは俊敏に避けて闇から逃れる。


「マジでこいつ、嫌な奴だぜ…!」

「嫌な奴?ぐふふ、それはこっちの台詞だヨ。数百年も前からぼくちゃんたちは計画を立てていたんだ。それの邪魔をするほうが最低だヨ」


『V』が顎をくいっとあげると、また地面の浅海から柱が湧き出てきた。
それはサコツを狙って背を伸ばしてくるが、サコツはやはり逃げた。
今回の闇は本当に危険なものだと分かっているから容易に手を出せないのである。

エキセントリック一族は数百年前から現在まで生き、そして未来も生きようとしている。
しかし奴らは皆が皆、闇の者。光の世界が気に食わないのである。
だから数百年前から練っていたのである。世界を闇にしよう、と。

しかしそれは光の者…いわば人間からみると非常に不愉快な行為である。
世界は光に包まれているのだ。闇なんかいらないもの。
だから排除したいのである。


「世界はエキセンだけのものじゃないんだぜ?世界はみんなのものなんだ!だからお前らの意見だけで世界を闇にしようとするんじゃねえよ!」

「黙れヨ馬鹿。人間なんかすぐに死ぬもんだろ?ぼくちゃんたちは死なない体質してんだからそのぐらい許せヨ」


『V』の言葉が妙に引っかかった。


「死なない体質?」


エキセントリック一族といえば闇だ。闇だから理解不能な行動をとる。 
それは魔術を使ったり姿を消したりと…。
前にメンバーと話をしていたときにエキセンの話題が挙がった。
そのときにエキセンって死なないのではないかという疑惑があがったのだが…
まさか本当に死なない連中なのか…!

『V』が口角を吊り上げる。


「どうせお前、次で死ぬしヨ、ぼくちゃんたちのことを教えてやるヨ」


そして言った。


「ぼくちゃんたち闇は、闇を成分として生きている。だから血も闇だし涙も闇。持っているもの全てが闇なんだヨ」

「…涙まで…?!」

「一応人間と同じ体の仕組みはしてるけどヨ、それは形だけで実際には闇で生きてる。闇は光と同じで形が定められてない。だから体を斬られたとしてもまた再生することができるんだヨ」

「……ま、まじでかよ…!」

「ぐふふ。まあ再生といってもかなりの月日を食うけどな、でも死なないには変わりないヨ。つまり、お前らがどんなに頑張ったって闇は滅びることは無いんだヨ!」


例外としては『B』は生きる成分として必要な精気を自分で作れないため、常に死と背中合わせである。
けれども他の闇たちは『V』が言うような姿である。

『V』はここで思わず己らの弱点を言いそうになった。 
それは、涙を随時流していると闇が目から放流し続けて己を維持できなくなる。よってその者は闇に還ってしまうということ。
しかしそれはこの戦いにはまったく関係の無いことだったので、言わずに笑い声を上げることで締めた。


闇、やはりそれは恐ろしいものだった。
闇、それは恐怖の塊だ。

この城に住んでいるものたちは全て闇の塊。
だから一生死なない者たちでもあるのだ。

世の中にエキセンの逆バージョンで「光の塊」がいたとすれば、また世界が変わっているのかもしれない。
ふとそのようなことを思いついたが、その考えは蛇足に等しいものだと気づく。

世界はもともと光なのだ。世界こそが光の塊。
光は世界規模、対して闇はエキセントリック一族の規模。

この差は非常に大きい。


サコツの考えは一つになった。
はなから闇を殺そうとは思っていなかったが、実際に闇は死なない体質をしている。
ならば闇をここで鎮めればいい。沈めるのではない、鎮めるのだ。
考えを改めてもらえばいい。

ここでサコツは拳を作った。


「ここで俺がお前に光の素晴らしさを教えてやるぜ」


自分にできるかわからないけれど


「光は人を癒すことができるんだ」


自分だって光。
元はといえば光を放つことができる天使だったんだ。


「きっと闇だって癒すことができるはずだぜ」


光に最も近い生き物、天使は
本当に本当に美しいものだった。

天使の上に立っている闇の者『P』が天使を法律で束縛しているけれど、天使は存在自体が光。だから天使が隣にいるだけで癒されるんだ。


サコツは生まれたときから悪魔だったけれど母親の天使はそれでも愛してくれた。
いや、サコツを生む前に『V』と出会って腹に闇魔術を食らったからサコツが悪魔の理由は知っている。
だけれどサコツを心配させたくないためにあえてウソを貫き通していた。
どうしてサコツが悪魔の姿で生まれたのか分からないとウソを言っていた。
本当は全てを知っていたのに。

母親の天使は悪魔を癒し続けた。
息子が怪我をして帰ってきたらすぐに治癒した。
息子が誤ったことをしていたら見逃さず指摘した。
息子が涙を流していたら一緒に泣いた。
息子が本当は天使になりたかったという事実を知ったときは本気で泣いた。
しかしその涙は息子の癒しへと変わった。

母親から癒しをもらってサコツは笑うことができるようになった。
全て癒しの篭った愛のおかげだった。

回復魔法を使うとき、母親は光を放っていた。
そして涙を流すときだって涙が十文字に光を帯びていた。
光こそが癒しの元なのだ。


サコツは両手を突き出した。


「レーザー!」


唱えた途端、体内の奥深くから何かが込みあがってきた。
だけれどそれが何なのか分からない。
ここに無音が流れる。
サコツはギュッと目をつぶった。

暫く何も起こらないので『V』はこの隙を狙い、邪悪に表情を歪めて闇を操る行動に出た。
自分の手で作る闇の方がものを溶かす威力が強いとのことで指先に闇を溜めていき、見る見るうちに邪気を集めていく。

危険な気を感じて悪魔4人組もソラも他の悪魔たちも戦いを中断してそちらに目を向けた。
サコツは目をつぶって両手を突き出したまま動かない。
だから仲間たちは心配な面影を見せた。
それなのにサコツは答えようとしない。じっと固まったまま。歯を食いしばってじっとしている。

『V』は先ほどから笑ってばかりだ。


「ぐふふ!さんざん言っておきながらやっぱり何もしないんだなこの馬鹿は。とっとと死ねヨ、バーカ」


『V』の方が早かった。
『V』は闇を撃ってサコツを消そうとした。
仲間たちは絶叫し、敵の悪魔たちは歓声を上げている。
駄目だ、このままではサコツは闇の犠牲になってしまう。溶けて闇になってしまう。
仲間たちが心配した刹那だった。

サコツからようやく異変が見られたのだ。
闇を目前にしているともかかわらず、手から溢れる強い光。そう光だ。

光が放たれた。

サコツの手を通じて光が広がった。
光を撃ち、呑み込んだ。『V』が放った危険な闇を呑み込んだのである。
しかし相殺して爆発に切り替わる。

強い爆発。この広場いっぱいに広がった。
爆発の色は白。この場にある黒を白にして爆発は全てを変えていく。
光を放ったサコツは光の強さに後方へ吹っ飛び、しかしソラが受け止めてくれて
闇を放った『V』は強烈な光を浴びたせいかバランスを崩して自分が作った浅海へひっくり返る。
悪魔たちは「うわああ」と一般的な悲鳴をあげていた。


あっという間に、闇に染まりつつあった広場が光に染まった。







何が起こったのはまるで分からない。
一体何がどうなったんだ?
あれ?俺は何してたんだっけ?
そもそも俺って誰だっけ?

そして、何でこんなに気持ちが晴れているんだろう?


「……、……ツ、…コツ、…サコツ、サコツ!」


最初のうちはとんとんと肩を叩かれるだけだったが、あまりにも相手が起きないために声をかけていた者は相手の頬をぶっていた。
それが意外にも威力があって、叩かれた者は体が吹っ飛びあげて壁に背中をぶつけるはめに。


「あ、大丈夫かい?」


ぶたれた者が頬を押さえながら前を向く。そこには心配そうに声をかけているソラの姿があった。
しかし場があまりにも眩しくてうまく顔を見ることができなかった。

ソラは怪力クモマの兄だ。やはり兄も大工の仕事をしていたようで力は最高であった。
だから頬をぶたれただけで吹っ飛びあがってしまったのだ。

ソラの姿を見てようやくサコツは自分が誰なのか、自分が今まで何をしていたのか思い出すことができた。


「ソラ師匠!ど、どうなったんだ?」


あまりにも眩しい白さだ。どれだけこの場が白いのだろうか。
先ほどまで黒しか見ていなくて白に見慣れていないせいであろうか、とにかく眩しい。
だから申し訳ないけれどサコツはしかめっ面のまま場面を過ごした。

暫く間を空けてからソラが答える。


「ここの戦いは終わったよ」


たったそれだけ言ってソラは顔を右へ向けた。
なのでサコツもつられてそちらを向く。
するとそこには赤ん坊の悲鳴が響き渡っていた。


「やめろ!お前らヨーぼくちゃんが誰なのか分かってるのか!まったく不道徳な奴らだヨ!」

「ざけんな!悪魔でもないくせに魔王になった気でいるなこの赤ん坊め!」

「これからじっくりお仕置きしてやる!」

「ざけんなヨ!お前らはぼくちゃんの言いなりなれば…ああああああっ!」


先ほどまでサコツと戦っていた相手は、今では悪魔全員を敵に回して泣き言を吐いていた。
地獄1丁目の悪魔全員が『V』を取り囲んでいる、今までには無い光景。
不思議に思って首をかしげているとソラが顔を戻して答えてくれた。


「魔王は光を強く浴びちゃったせいで闇を使えなくなってるんだよ」

「え?」

「たぶん、時期がたてばまた元に戻るだろうけどその間までに悪魔が彼を仕置きするだろうね」

「ええ?」

「悪魔たちも光を浴びたことで正しい道にレールを戻すことができたみたい。今ではあの4人と同じような心を持っている」


見てみると、『V』を取り囲んでいる輪の中に悪魔4人組がいることが伺えられた。
なるほど、『V』に遣えていた悪魔たちは光を浴びることで正と邪の違いを見つけることができたようである。
それで今ここで『V』を捕らえているのか。

と、ここでサコツは疑問をはいた。


「光?何であいつら光を浴びたんだ?」

「ん?」

「だってここには悪魔しかいねえんだぜ?光が出てくる意味がわからないぜ?」


サコツは修羅場を忘れてしまっているようだ。
だからソラが説明してあげた。
ソラが作る微笑みはまるで天使のよう…。


「キミがね、この場に光を出したんだよ。内の奥底に秘めてあった光をここで沸き起こしたんだよ。それが魔王と悪魔の運命を変えるきっかけになったんだ」

「…は?」

「キミが光を放ったんだ」


「俺が光を?」

「そう」


修羅場、サコツは必死だったため覚えていない。
光を出したあの行動は無意識だったようだ。しかしそれのおかげで勝つことができた。

勝つことができた…?


「ちょ、待ってくれよ!俺ってまさか魔王に勝ったのか?」


信じられなくて問いかけてみるとソラは微笑んだままうなづいていた。


「うん。キミが勝ったんだ。光を放つことによってね」

「し、信じられねえ…!」

「本当だよ。信じられないよ」


サコツは目をつぶった。
眩しいから、という理由もあったけれど、なんだかこのことが信じられなくて、目をつぶることで場面を思い出そうとした。
そんな風にサコツが一生懸命な姿を見せている間に、ソラは笑顔をより眩しくしてサコツの閉じられた目を覗き込んだ。


「ほら、目を開けてごらんよ」


ソラは、言った。


「これも全てキミのおかげなんだから」


サコツが目を開くと、そこには天使がいた。
鳥のように羽毛に包まれた白い翼。それはソラの背中から生えている。

真っ先に目を疑った。


「ええ!ソラ師匠!それって!」

「うん、キミの光を浴びたら僕は天使になっていたんだ」

「……」


場が眩しい理由はソラにあったのだ。
ソラの天使の笑みが普通に眩しかったのだ。
そんな天使のソラがぎこちない動きで天使の翼をはためかせた。


「それでね、キミも天使になったんだよ」


ソラがサコツを壁から引き剥がした。
すると壁から現れるのは翼。白い翼だった。
それはサコツの背中から生えている。


「……え?」

「キミは自分の力で天使になれたんだ。奥底に眠っていた光を放つことで天使になれたんだよ」

「お、俺が…?」

「そう、僕も天使でキミも天使なんだ!」


恐る恐る背中に手を回してみると、柔らかい感触が手に走った。
柔らかい上に暖かい、そして触るだけで癒される。何だろうこれは。
これが光をまとった天使の翼なのか。

それが自分の背中にあることに、サコツは感情を抑えることができなかった。
込み上がってくる感情は涙を誘って溢れ出る。


「俺…天使でいいのか…?」


今までずっとずっと憧れていて、だけれど程遠い存在で、しかし本当は自分は天使だったという事実。
ソラは頷いて笑うのみ。


「僕もこの姿なら弟に見せることができるよ。ありがとう」

「いや、俺は何もしてないって…むしろ何がなんだかさっぱりだぜ…」

「よかったね。天使になれて」

「ホント、よかった…」

「幸せだろう?」

「幸せだ……!」


闇の者『V』を鎮めることができたことが嬉しくて、
ソラが天使になれたことが嬉しくて、
自分が天使になれたことが嬉しくて

幼いころからずっと憧れていた翼を手に入れて
涙が溢れ出る。

大切だったチョンマゲヘアーは失ってしまって今は短くなってしまってるけれど、代わりに手に入れた翼。
母親から授かった魂なのに、悪魔になって生まれたことが心残りだった。
そして仲間から、「キミは天使だよ」と慰められることが逆に悲痛だった。
自分は悪魔だから絶対に天使になれないんだよ、そう思っていた。

昔々に母親と話していた。
自分は天使になって人々を幸せにしたいんだ、と。


「俺は、天使になれたんだ……」


これから人を幸せにすることができるんだ。
もうあのころのように人を傷つけないですむんだ。

なんて晴れ晴れしいんだろうか。

嬉しくて嬉しくて、とにかく嬉しくて
幸せで幸せいっぱいで。


俺、天使になれたんだよ。
みんな今まで心配かけてごめん。
俺はもう大丈夫。

本当に、ありがとう。



まだどこかで戦っている仲間に向けてサコツは涙を流した。
幸せが詰まった光を十文字に燈し、光をまとった白い翼を広げて。






 サコツ 対 『V』
        勝者…サコツ









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勝者、サコツ!

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