これは、今から10年ばかり前のお話だ


6.神と名乗る男


ある村の門付近に 一人の少年が 立っていた

両目尻に赤い丸模様がある少年は 空の雲が 大好き
いつもいつも 村の門付近に立っては 雲を眺めている
門付近は障害物がほとんどないため 景色が綺麗に見れるのだ

今日も少年は 雲を眺めるため 門付近に 立っていた

入道雲が 世界を大きく見せる
真夏の太陽が 世界を照らす
蒼い空が 世界を包み込む


今日も 非常に 良い天気だ


この村では 幼けれども 何か "職" に就かなければならない 掟がある
少年の家は 大工 だ。
だけれど 少年は非常に不器用だったので いつもいつも邪魔者扱い

役に立ちたいのに 役に立たない 自分が 哀しい



少年はいつも 仕事を中断されては 無理矢理 追い出される

役に立たない自分は いらない存在


気持ちを落ち着かせるために 少年は 必ずや 
この門付近にやってくる

そうしたら ほら
自分の大好きな 自然が いっぱい


気持ちが 癒されるのだ







少年が 今日もまた こうやって心を癒しているとき
ある来客が この村に 訪れてきた

その来客は 全身黒ずくめ
頭にはシルクハット
体には真っ黒いマントを羽織った 黒い青年

青と白と緑の世界に 黒が混ざる
それに気づいた少年は 黒い青年に 声をかけた


「おじさん。こんにちわ。この村に何の用?」


無邪気な子どもの質問に 黒い青年は 答えた


『観光だ』


一言であったが 少年は 笑顔で 接した


「そう。いいところでしょ?ここ」


反応しない 黒い青年
少年は 黒い青年の姿を見て 首をかしげた


「おじさん。そんなに黒くて 暑くない?」


黒い青年はやはり反応しない。
しかし少年は気にせず 問い掛ける


「おじさん何て名前?」


やがて 黒い青年は 口を開いた


『 神 と名乗っておこうか』


それにさすがに少年も 驚いた


「か、神様?!ほ、本当なの?」

『そうだ』


頷く 神
少年は質問の連続だ


「何で神様が?この村に何の用なの?」

『観光だ』

「わざわざ神様がうちの村を観光に…すごいなぁ」

『我は"欲しい物"があってな。それを手に入れに来たのだぞよ』


"欲しい物"に首をかしげる少年。
訊ねてみた。


「"欲しい物"って何?」


神は首を振った。


『それは教えられない。だが、時期分かるだろう』

「?」

『さあ、村を案内してくれ』


神に言われ 頷く少年
しかし 案内の前に 聞きたいことがあった


「その大きな"カマ"は何?」


神が先ほどから大切そうに抱えている 大きな黒い"カマ" を指差す。
問われ 神は 不敵な笑み で応えてくれた


『これは、我の"大切なもの"だ』

「大切なもの?」

『うむ』


大切なもの…
そう聞いて 少年は 自分の場合は何だろう と考えてみる

そのとき 神が自ら訊いてきた


『お主の"大切なもの"は何だぞよ?』


今 考えているところ


『"家族"か?"友人"か?それとも"自分"か?』


次々と予想していく神
少年はどれにも頷く。


「み〜んな"大切なもの"だよ」


ニッコリと微笑んで
少年は先ほど考えた"大切なもの"を応えた


「僕の大切なもの…それは…」

『それは』


相槌を打つ神
興味があるようだ

少年は 言い切った


「この"村"かな」


『……………"村"か』


意外な発言に 驚く様子の神
少年は 無邪気に返事する


「この村はね。みんな"笑顔"で満ち溢れているの」

『…』

「自然もいっぱいあってね。綺麗な村。僕ね、よくこの場所で自然を眺めているんだ」


天を仰ぐ


「今日だって、そう。ここでのんびりと雲の流れを見てたんだ」

『…そうか』

「うん!」


非常にいい笑みの少年 と シルクハットの作る影で表情が隠れる神

笑顔のまま 少年が 手を差し伸べた


「さあ、神様。僕と一緒に僕の"大切なもの"を観光しようよ」


手を差し伸べる少年を見て 
三日月に口元を歪めて
神 は ゆっくりと 邪悪な声で 言った


『心優しい少年だな』


突然、力強く 少年の差し伸べる手を 握った
神の声、行動に驚く少年


『"村"が"大切なもの"か。ふっふっふ』


ギリリと握り締めてくる神の手に 少年は恐怖を抱いた
痛い と言って神を突き放そうとする少年
しかし 神は少年から離れなかった

邪悪な笑い声が 少年を 怯えさせる


『我がここに来たのは、"欲しい物"があるからと言ったよな?』

「……っ」


少年は怯える
神は 少年の手を引いて 自分に近づけさせた


『"欲しい物"とは何か。教えてやろう』


そして 神は 顔を少年の顔に 近づけて


『我の"欲しい物"とは』


言い切った



『人の"大切なもの"だぞよ』


「……っ?!」


目を見開く少年
怯える少年の反応を見て 神は クスリっ と笑った


『お主、先ほど"村が大切なもの"と言ったな?』

「…!!」


次の言葉がだいたい予想できた



『我は"それ"が欲しい』



案の定


「それで…神様はどうする気なの…っ?」


目と鼻の先にいる神に向かって 少年が怯えながらも訊く
神は 不敵に笑ってみせる


『この"村"を手に入れる』

「…!!………そんなこと…させない…」


『何?』



反論され 機嫌を悪くする神
神を睨みつける少年
しかし 神の邪悪な笑みが 不気味で怖い

だけれど少年は 神の意見を否定した


「そんなこと…僕がさせない…っ」

『ほほう』


顎に手を置きバカにした目で 神


『お主にできるのか?』

「……できる…」


思ってもいなかった言葉に 神は目を丸くする
少年は 神を睨む



「僕の"大切なもの"…僕が守ってみせる…」


そして神の手から自分の手を抜こうとする少年
しかし 神は 少年を離さない

ジタバタ暴れる少年の姿に 神は面白そうに笑った


『お主、やはり優しい少年だ』


突然褒められ呆気に取られる少年
神は その笑みのまま 続けた


『我はお主の心を見てみたい』


少年の全身の毛が 一気に逆立った

目がより見開かれる
今、目の前に起こっている光景が信じられなかった
恐怖を抱いた
頭の中が 真っ白になった


『やはりな。お主は善い心の持ち主だ』


神の手は 真っ直ぐに少年の胸の中に入っていた

透き通る神の手

何が起こったのか分からない 少年


「わああああああ?!!!」


自分の胸の中に透き通って入る神の手に 少年は悲鳴を上げた
少年の"心"でも触れているのだろうか
神は少年の"心"を 褒めた


「や、やめてええええ?!!」

『優しい心だ。こんな純粋な心ははじめて見たぞよ』

「離してえ?!!」

『離さ……いや』

「…?」

『忘れていた。我はお主の"村"を手に入れるんだったぞよ』


事を思い出すと 神は少年の胸から手を抜いた
自分の胸から手が抜かれ 一安心する少年
それから素早く突っ込んだ


「待って!お願い待ってよ!神様!」

『ん?』


神の言った言葉に激しく反応した


「"村"には何もしないでよ」

『何?』

「お願いだよ…神様」


少年は じっと神の目を見て


「この村は僕の"大切なもの"。だから僕は守りたいんだ…」

『…』

「お願いだから…」


そして 少年は 大袈裟にお願いをした


「命を掛けてお願いするよ。"村"には何もしないで」



少年の大袈裟なお願いに 神は 無邪気な笑みを溢した


『命を…掛ける…?』


酷く嬉しそうな笑みで 言った


『お主、命を掛けるのか?』

「?!」


しまった、と苦い表情を作る少年
しかし もうそんなことをしても無駄だった

神は 少年の大袈裟なお願いを 間に受けてしまっていたから


『この"村"に手をつけなければ、お主の命をもらえるのだな?』

「…っ!」


自分が言ってしまった事だ
何も反論できない


『お主の命をもらえるのだな?』


再度聞き直す神
少年は首を振って否定しようとした

しかし そんなことしてしまったら
"村"の命が 危ない
少年は 何もいえなかった

反応の無い少年に 神は告げた



『お主の願いを聞くぞよ。我はこの"村"には何もしない』


しかし! と言い 神は大切そうな抱えていた大きなカマを構えた
そして


『お主の命を頂戴する』


大きなカマは 少年の胸に振り落とされた


思わず目を瞑る少年


そのまま気を失った






+ + +


目を覚ますと 少年はその場に寝転がっていた
付近には誰もいない

神も いない



先ほどのは…夢…?



まさかと思い、胸に手を当てる少年

いつもここから、少年の心臓の音が聞こえてくる
しかし 今は………

いや、ウソだろう もう一度感覚を疑う


少年の胸からは 何も 音も動きも 感じなかったのだ




もう一度確かめる
しかし何度やっても結果は同じ

心臓の音が消えた?
心臓の動きが消えた?

心臓が 消えた?



呆然とする少年
すると 突然声が聞こえてきた


"お主の心臓は頂いた"


あの 神 の声だ
しかし本人の姿は ない

神の言葉に冷汗を掻く

不気味な声は 言葉を続けた


"しかし、安心しろ。お主は死なない。お主の命は"


一つ間を置いて、神の声は聞こえてきた


"我が預かった"


冗談がきつい。
しかしこれは現実だ。
現に 今自分には 心臓がない


"我がお主の命の管理をしてやるぞよ。お前の肉体がやられようともお主は死なない。お主の心臓は我の元にあるからな"


くっくっくと笑い声を堪える声が漏れて聞こえる


"お主は死なない。お主は死ねない体になった"

「そんな…っ」


ついに反論しようとする少年。
しかし 神は反論を許してくれない


"お主はこれからずっと 生き続ける"



"永遠とな"



そして 神の声は 消えた 

頭の中が真っ白になった
先ほど入ってきた言葉が 少年の頭を白くさせる

心臓が奪われた?
死なない?
死ねない?
永遠に?


再度 胸を抱く

しかし そこからは やはり 反応は こなかった




少年は 自分の"大切なもの"を失わない代わりに
心臓を奪われ 死なない体に なってしまったのだ



対し、村の住民はというと 少年に命を守られたとも知らずに
今日も 楽しく笑い声をあげていた






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自称神の登場(笑
さて、この心臓を取られた少年、一体誰なんでしょうね?(バレバレ?

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