クモマが魔物を懲らしめている中。


「教会ってどこだ?」

「わからないよ〜。だいたい暗くてあまり見えないし」

『えっと…次を右に曲がってください』


木の後ろに隠れていた腰抜け3人組は"ハナ"があるという教会へと向かっていた。
魔物は彼らを追いかけてこないようだ。
安堵を浮かべてサコツが先頭を切った。


「次を右っと」


そして、思い切り左に曲がった。


『「違う違う違う違う!!」』

「思い切り左に曲がってどうするの!!」

『お箸を持つ方に曲がるんですよ』


注意を受け、サコツは引き返してきた。


「それならそうと早く言ってくれよ」

「まさか右と左を間違えるなんて誰も思っていないって!!」

『右はこっちです』


次はお梅が先頭になり、後ろの腰抜け2人を誘導する。


「すみませんのぉお梅さん」

「うわ。サコツ、ジジくさ!」

『うふふ。愉快ですよね。皆さんって』

「バカなのが取り柄だぜ☆」

「テンション高いのだけが取り柄だよ☆」


何とも情けない2人組みだ。
笑いながらお梅は誘導を続ける。


『ここを真っ直ぐ行けば教会が見えてきます』

「へ〜なるほどな〜」

「って、なに左に曲がってるのサコツ!!真っ直ぐ行けって言ってたじゃん!」

「方向音痴も俺の取り柄だぜ☆」

『えっと…皆さん。教会が見えてきましたよ』


そしてお梅は暗闇を指差した。
追う形で首を動かすサコツとチョコ。

暗闇の中に不気味に浮き上がる赤褐色の教会。
異常に大きく、もしかしたら街の中で一番大きい建物かもしれない。

あまりにも大きい教会に感嘆の声を上げた。


「でっけ〜」

「すご〜い。はじめて見た〜教会って〜」

『この中にその"ハナ"があるんですよね?』

「うん。誘導してくれてありがと〜」

「じゃ、皆が俺たちのために戦っているその内に、さっさと"ハナ"を消そうぜ」

「だね〜。トーフちゃんから"ひょうたん"も借りてきたしね」

「これでバッチリだぜ☆」

「"ハナ"を消したら私たちの手柄ね☆」


不適に笑いあう二人。
その間にお梅が入ってきた。


『あの…中に入りましょうか』


そして、話を中断させた。
対し、ゴメンゴメンと軽く謝るサコツとチョコ。
意外に二人は気が合うみたいだ。

大きな教会のドアノブをお梅が握る。
ちなみに、幽霊でも物とかは持てるらしい。


『あの…教会の中は広いですので、皆さん気をつけてくださいね』

「おう!分かったぜ!」

「迷子にならないように気をつけてよサコツ」


まったくだ。


『では、入りましょうか』


二人がうなづくのを見て、お梅は大きなドアノブを頑張って引いた。
見るからに重そうなドアノブは、轟音を立てて、何とか開いた。

隙間から見える色は黒。
中は真っ暗らしい。

それを知って、サコツが眉を寄せた。


「光、ねえかな…」


サコツの喚きにお梅も眉を寄せた。


『この村には光はないんです。幽霊は光が苦手ですから…』

「そ、そうなのか…」

「分かった。そしたら、お梅さんはちょっと離れたとこ行っててくれる?」


チョコに言われ、一度聞き返すお梅だったが、言われたとおり離れる事にした。
場を少し置くお梅を見て、サコツがチョコに訊ねた。


「一体どうする気だよ?チョコ」

「ちょっと待っててねー」


するとチョコは近くに落ちていた木の棒を右手に持つと、地面に何かを書き始めた。
丸を描いて、その中に模様を描いて。


「何だこれ?」

「ま〜見ててって〜」


見てろっと言われても、見るからに"ラクガキ"にしか見えない。
首をかしげるサコツにチョコが、言った。


「んじゃ、今から火を灯すよ」


そして、その"ラクガキ"の上に木の棒を、トンと叩いた。
するとその"ラクガキ"は光を放ち…


「すっげ、火だ…」


なんと、そこからは小さかったが火が上がってきたのだ。
お梅も何とか目を開け火を見つめる。


「へへ〜ん。私ってこう見えても魔法使えるんだよ」


チョコは魔法の使い手だった。
感動するサコツ。


「すっげすっげ!チョコすげー!」

「照れるって〜もう〜」


照れ隠ししながらチョコは持っていた木の棒に火を移す。
火を手に入れたことを確認するとサコツは教会の入り口の前に立った。


「よっしゃ。じゃ、"ハナ"を探しに行くぜ!」

「オッケーイ!」

『頑張ってくださいね。皆さん』


この様子からお梅は一緒に中に入らないようだ。
誘おうと思ったが、自分らが幽霊の苦手な光を手に持っていることを思い出したため、誘うのは諦めた。

真っ暗な教会の中に入る二人。
チョコの持っている火が何とかその場を照らしてくれる。

教会の中からは何とも不気味な"気"を感じた。
べったりとサコツにくっつきながらチョコが震える。


「待て待て、チョコ。そんなに近づくなよ!?燃える燃える!!」

「あぁ〜ゴメンゴメン〜」

「それにしても、真っ暗だな〜」

「ホントだね。どうやって"ハナ"を探そうか」


会話しながら前へと進む。
地面が凸凹しているのが気になるのだが。


「お化け屋敷みたいだよね〜」

「んだんだ〜」


のん気に会話をしているとき、今まで何も映らなかったこの場にポツリと何かが浮かび上がった。
何かと思って火を近づけてみる。
火によって照らされたそれは、壁ではないのだが、大きなものであった。


「何だ?これ」

「え〜わからない〜」


もっと、火を近づけてみる。


「もっと近づけてみようぜ」

「そうだね」


サコツに言われ、目の前の大きなものに火をより近づけるチョコ。

そして、事件が起こった。




ボオオオオオオオ



なんと、火が大きなものに燃え移ってしまったのだ。
すごい勢いでもの全体に燃え移っていく火を見て、二人が悲鳴をあげた。


「「わあああああ?!!!!」」


暴れる二人。
火はどんどんと燃え移っていって。

やがて大きなもの全体を火達磨にしてしまった。

そして、それを見て、また二人で声を合わせて叫んだ。


「「"ハナ"だああああ!!!!」」


豪快に燃えていくもの。それは自分たちが今から消そうとしていた"ハナ"であった。
暗闇色をした巨大な花。奇抜な形をしているそれは、不気味な雰囲気を醸し出しており
見るからに"ハナ"って感じであった。

さらに慌てる二人。


「ど、どうしよう!"ハナ"燃やしちゃったよ!!」

「何だっけ。ほら、この"ハナ"をあの変な玉に変えねえといけないんだよな?やべ〜ぜ、燃えていっちまう!」

「雫をかけなくちゃ!雫!!」


そして、チョコはトーフから借りてきた"ひょうたん"を取り出した。
"ひょうたん"を受け取ってサコツが急いで燃えていく"ハナ"に突っ込んだ。


「喰らえ〜!!」


ひょうたんを勢い良く振り、その衝動によって中から一滴の雫が…。


「少なっ!!」


思わずツッコミを入れるサコツ。
その間にひょうたんから出た雫は火の中に入っていって。

次の瞬間。


その場はパアと光に包まれた。


「「ええええええ?!!」」


ナイスリアクションをする二人。
たった一滴の雫で"ハナ"が光に包まれてしまったから。

"ハナ"は見る見るうちに光によって形を変えていった。


「まさか、一滴の雫であんな大きな"ハナ"が…」

「すげーなー!!」

「うん!!」


やがて"ハナ"は小さな小さな玉の姿へ変わり、コロっとその場に転がった。
場はまた暗くなった。
チョコが持っている木の棒の火の光を頼りに
それをサコツが手に取る。

あんな大きかった"ハナ"が
今では、こんな小さな存在に。


恐る恐る口を開いた。


「これで…終わったのか?」


チョコが応える。


「…だって、"ハナ"がこの玉になったのよ。これはどう見たって…」

「「"ハナ"を退治した…っ」」



思わず二人で声を合わせる。
そして、同時に騒ぎ出した。


「やったじゃん!俺らで"ハナ"消したぜ!」

「すごいすごい〜!私らもしかして天才?」

「天才だ〜!すげ〜!」

『…あの、どうなりましたか?』


盛り上がっていたため気づかなかったのだが、お梅は二人の騒ぎ声を聞き、わざわざ教会の中に入ってきたらしい。
お梅の心配の眼差しを受け、笑顔で返した。


「バッチリこの通り!」

「跡形も無くやっつけたぜ!」

「さっすが私たち!」

「天才だ!天才」

『それはよかったです』


二人の騒ぎように笑みを浮かべるお梅。
そして、言った。


『では、皆さんのところへ戻りましょう。私たちのために戦ってくださってるんですから』


言うお梅に頷く二人。
早速教会から出ようとした時、彼らの目の前に、会いたくないものが現れた。


『"ハナ"がやられてしまったピー?なかなかやるなお前たピー』


ロバートだ。


「くそ!俺たちを追ってきてたのか」

「でも、残念でした〜。もう私たちが"ハナ"を消しちゃいました〜」

『ならば』


ロバートは言った。


『お前らを倒すピー』

「「!!??」」

「そうはさせないよ」


誰かの声が聞こえた。
と、思ったら轟音が激しく鳴った。
魔物はピーと悲鳴をあげ、教会の中を豪快にぶっ飛ばされていた。
そしてグッタリと気を失う魔物。
一体何が起こったのか、わからず、魔物の元いた場所を見る。
そこに立っていたのは…


「全く、笑えないね」


血唾を吐くクモマだった。
まだ左胸には穴が開いているようだが。


「く、クモマ?!」

「お前、もう一体の魔物は?!」

「もう大丈夫だよ。僕が懲らしめておいたから」

「マジで?!」


何とクモマは、サコツとソングが二人合わせて戦っていた魔物を一人で、しかもあの短時間で倒したらしい。
怪我をしているはずなのに。

クモマの存在全てに驚きつつも、会話を続けた。


「すごいね!クモマ!」

「そんなことないよ。ところで"ハナ"はどうなった?」

「あぁ、見ての通り、俺らが処分したぜ」


そして自慢げに、"ハナ"を封じ込めた玉を見せる。
ドタバタした拍子に"ハナ"を退治してしまってたわけだが。
しかしそのことを知らないクモマには、"ハナ"を退治してしまった二人が凄く見えた。


「よく"ハナ"を退治できたね。すごいや」

「いや〜そんなに褒めるなよ(デレデレ」

「すっごいデレデレしてるわよサコツ?!」


「皆大丈夫か〜?」


そこへ、トーフが手を振ってやってきた。
後に続いてブチョウが気絶したソングの足を引っ張って運んで来る。
トーフの問いにチョコが笑顔で応えた。


「無事だよ〜」

「そらえかったわ。…クモマは…?」


そして、胸に大きな傷を負ったクモマに目を向ける。
クモマも笑顔で応えた。


「大丈夫だよ」

「ホンマかいな?あんたそんな怪我しとるんやで?」

「言ったじゃない」


異常な笑みで。


「僕には心臓が無いって。だからどんなことをされても僕は死なないんだよ」

「「………っ!!」」

「クモマ。あんたは一体何者やねん?」

「それはいいとして、早く"ハナ"の玉をひょうたんを封じよう」


話を逸らされたと苦い表情を作るトーフ。
ひょうたんを持っているサコツが反応した。


「あ、そうか。この玉をひょうたんの水晶に入れないといけなかったんだっけ」

「そうやで。ってかあんたらで"ハナ"を封じ込めたんやな。今回の"ハナ"は消すのが大変だったろう?ご苦労様や」

「……おう」


まさかあんな簡単に封じ込めたなんて、言えない。


「ほなサコツ。ひょうたんをひっくり返して玉を入れてくれや」


トーフに頼まれ、言うとおりにひょうたんをひっくり返すサコツ。
玉をひょうたんの水晶に向ける。


「待ってタマ。もしかして、その玉を水晶に封じ込めたら」


チラっと自分らの後ろに立っているお梅を見てブチョウが言い切った。


「この村も、あの子もいなくなっちゃうんじゃない?」


言われて全員も、はっと気づいた。
お梅たちは"ハナ"によって呼び出されてしまったのだ。
その"ハナ"を完全に封じ込めてしまったら、お梅たちは無事元の世界へ戻ることが出来る。

と、すると


「そっか。今はちょっとダメだね。家に帰らせてあげなくちゃ」


クモマが思い出したように声を上げた。
反応したのはチョコ。


「え?誰を家に帰らせるの?」

「お梅さんだよ」

『え?私ですか?』


全員がお梅に目を向ける。


「そや。お母さんが待ってたで。あんたの帰りを」

『…あ、そうでした。もうこんな時間…帰らなくちゃ…』

「お母さん心配してたよ」


なぜクモマとトーフがお梅のお母さんのことを知っているのだろうかと疑問の目を向ける他メンバー。
対しクモマはお梅に言っていた。


「早く戻ってあげなよ」

『…はい』

「よくわからねーけど。ユーレーの家に帰ろうぜ!」

「この子が家に戻ったときに、"ハナ"を封じ込めるわよ」

「そうだね。"ハナ"を完全に封じ込ませればお梅さんたちは無事元の世界へ戻ることができるはずよ」

『……!本当に有難うございます』


みんなの優しさにお梅は感激の泪を流した。
温かく見守るメンバーはお梅を連れて、家に帰ることにした。


そして…
お梅は無事家に帰ることが出来た。
お母さんも娘を探してくれて有難うと感謝の言葉を連呼し、
メンバーは笑顔で"ハナ"の玉をひょうたんの水晶に封じ込めた。

玉を呑み込んだ水晶は優しい光を放ち、光は村全体に広がった。

突然の光に目を覆う。

目を瞑っていて分からなかったが、お梅たちの姿は徐々に消えつつあった。
しかし、耳で分かった。
お梅たちは最期にずっとずっと感謝の言葉を連呼していたから。

ありがとうございます。本当にありがとうございます。と

何度も聞いた言葉なのに、最期に残されたその言葉は深くメンバーの心に刻み込まれた。


そして、お梅たちの感謝の言葉は、消えた。


やがて水晶から光がなくなったことに気づくとメンバーは恐る恐る目を開けた。

いたはずのお梅と母の姿。
そして、その他の村の住民たち、町の姿、全てがなくなっていた。

少し残念に思いながらも辺りを見渡す。


そして、気づいた。


自分らが今、立っている場所、そこは

墓場だった。


「「ぎゃああああ!!!」」


異常な多さの墓の存在に、メンバーは悲鳴でいっぱいだった。








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彼らは墓場から去る前にいくつかの墓にお花を供えてあげました。
あの世に逝った皆さんへの最後の気持ちを捧げたんですね。

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