アルコールの匂いが充満しているこの村の一角で
"笑い"のある明るい存在が滞在していることに気づき、今回もエキセントリック一族が魔物を仕掛けてきた。
毎回魔物を送っている『R』は部屋の巨大な水晶玉を使うことによりラフメーカーの居場所を突き止めているのだが、
奴らが今どんな状況に陥られているか、何の会話をしているのか、などの詳しい情報は把握していない。
そのため、今回のメンバーから危険臭が漂っているということを知る由もなかった。


「な〜っはっはっはっはっはっはっは!」


店の扉が豪快に開けられたとき真っ先に出迎えたのは、笑い上戸のサコツであった。
相手が人間の容姿でないと気づき、より一層笑いを深める。


「な〜っはっはっはっはっはっはっは…げ、ふんげふん…な〜っはっはっはっは!」

「大丈夫かサコツ!あんた笑いすぎて途中突っかかってたで!」


抱きつき魔のエロソングから無事逃れることが出来たトーフは、ずっと笑いっぱなしのサコツの元へ行く。ここが最も安全だと察したからだ。
いつも優しく接してくれるクモマは今、こんな感じだし


「クックック、これもまた一つの運命に値するか、クックック」


いつも同情してくれるチョコも今、こんな感じだし


「まずブーツ脱ぎまーす。ちゃらららららーん」


靴を脱いでいるチョコをソングは酒を飲みながらマジマジと傍観しているし


「メロディ!どんと行け、どんと!」


ブチョウは巨大な鼻ちょうちんを咲かせているし


「セロファンテープ」


全員がまともでなかったためトーフは笑いっぱなしのサコツが最も安全だと思ったのだ。
しかし千鳥足でサコツは歩き回っている。見ていてこっちがヒヤヒヤする。


「サコツー!そっちに突っ込んだらあかんでー!外出ちゃうからな」

「な〜っはっはっはっはっは…はあはあ…な〜っはっはっはっは!」

「笑いすぎて疲れてるやんけ!そんなだったらもう笑うな!」


サコツはフラフラの足取りで扉に向かう。
すると転びそうになったのか、無意識に扉に向けて手を伸ばすサコツ。
しかし手に当たるものは木造の物ではなかった。
フワリと感触が走った。


「な〜っはっはっはっは」


全てが可笑しく感じてサコツは笑いに深けた。
笑うサコツを見下ろしているのは、先ほど扉を豪快に開けた毛むくじゃらのモノだ。サコツはそいつに見つめられてまた深く笑う。
そのときサコツは毛むくじゃらのモノにいとも簡単に捕まるのであった。


『ゲラゲラゲラ!ラフメーカーはてめえらだな!倒しにきたぞ!』


毛むくじゃらのモノを見てトーフが「魔物や!」と叫んだ。
魔物の腕の中にはサコツが笑いに溺れている。抵抗する様子は全く見せない。
むしろ抱きついている。何を思ったのかサコツは。
行動が読み取れないサコツの姿にトーフがまた叫んだ。


「サコツ!はよ逃げんか!そいつは悪い奴なんやで!」

「な〜っはっはっはっはっは!」

「笑っとる場合か!はよこっちに来い!」


普通の場合、魔物の登場には村全体が騒ぎ慌てるもの。
しかしこの村の場合は全員がマイペースに対応していた。
店の中にいる村人はいびきをかいて眠っている。
店員も千鳥足でこちらに来ようとするのだが転んでしまい立ち上がれなくなっている。きっと体がふらついて立てないところだろう。

そういうことでこの店の中で目を覚ましているのは不運なのか幸運なのか、メンバーだけであった。
トーフの叫び声に気づき、メンバー全員が魔物に目を向ける。
真っ先に叫んだのはこいつだった。


「メロディ!!」

「ちゃう!」


今のソングには目に映ったものが全てメロディに見せる。
そのため躊躇いなく魔物に飛びつきに行った。
そしてそのままサコツと一緒に捕まった。


「アホやん?!」


続いて、チョコも素足でそちらに駆ける。


「熊さんだー!めっちゃプリチー!」


魔物を熊に見間違え腹に飛びついたチョコも、そのまま捕まるのだった。


「アホやん?!」


チョコの黄色い声は見事ブチョウの心を掴む。


「クマさんですって?」


くま違いです。
というか、この魔物も熊に似ていないのだが。
しかしクマさん大好きブチョウもすかさず奴らに仲間入りした。

以上でメンバー4人が無念なことに魔物に捕まってしまったのだった。


「みんなアホやんー!何しとんのけー!」


自ら捕まるメンバーの間抜けな姿に目を覆いたくなる。
全員が魔物に抱きついているなんて今までにない光景だ。
不思議な光景に魔物も目を丸めている。


『何してるんだこいつらは』

「ホンマすまん魔物!今のワイらはあんたの相手しとる場合じゃないんやわ」


あの魔物が驚きを見せるほどの場の雰囲気。トーフはすかさず「今回は見逃して」と頼み込む。
しかし魔物は聞かなかった。大声で笑い返した。


『ゲラゲラゲラゲラ!お前らを倒すために生まれてきたんだ!見逃すはずないだろ!』

「な〜っはっはっはっは!」

『いいチャンスだ』

「な〜っはっはっはっはっは」

『この隙にお前ら』

「な〜っはっはっは」

『を』

「な〜っはっはっは」

『倒』

「な〜っはっはっはっはっは」

『す……』

「サコツあんた邪魔や!魔物の台詞を笑い声で埋めるんやないわ!魔物が可哀想やんか!」


笑う強度を高めるサコツを怒鳴りつけ、トーフは無事魔物を救いだした。
しかし魔物は可哀想なことにすねている。


「魔物がすねとるー?!」

「クックック…世の中を甘く見てたのか?哀れな下衆だな」


黒クモマの声を聞いて、気づいた。
今この場で身動きが取れる者は、トーフと黒クモマだけだということに。
他のメンバーは皆して魔物に抱きついている。

魔物に抱きついている者たちを救うため、仕方がないが戦わなくてはならない。
トーフは黒クモマと共に戦いに励もうと思い、振り向いた。
そこには酒を飲み続けている黒クモマがいた。


「黒クモマ!ワイと一緒に戦うで!」

「自分と一緒に戦うのか?クックック、一人で戦えないということか」

「そういう意味やないんやけどなー」

「生憎、自分は酒を飲んでいるところだ。一人でしたまえ」

「何やこいつー!」


普段ならばすぐに戦闘体勢に入れるのに、今回はこの様だ。全員が協力精神をなくしている。
仕方ないためトーフ一人で戦いに挑むことになった。
その間に魔物は元気を取り戻したらしくまた笑っていた。サコツと一緒に。


「何サコツも混ざっとるんや!どっちが敵か分からんやん!」

「クックック。仲間割れか?ちっぽけな人間だな」

「じゃかあしいわ黒クモマ!」

「メロディ、お前はいつの間に毛深くなったんだ…」

「抱いとる女がちゃうからに決まっとるからやろ!っちゅうか気づけや!」

「な〜っはっはっはっは!」

「もーワイはどうすればええんやー!」


騒々しいメンバーに対して頭を抱えたときだった。
パンッとブチョウの鼻ちょうちんが割れたのだ。
空気が乱れ、そこに沈黙が下りる。


「ブチョウ?」


やがてブチョウは虹色の鼻ちょうちんを膨らませることに成功した。


「意味分からんわ!ちゅうか気色悪いわー!」

「タマ、しっかりしなさい。あんたはやれば出来る子なのよ」

「なに母ちゃんのような発言しとんのけ!ブチョウ、あんた密かに無事なんやろ?ワイの手伝いしてくれや!」

「メロディ、見てみろよ。虹が俺たちを祝福してくれてるぞ」

「エロソング!何言うてるんや!鼻ちょうちん見て夢を膨らませるんやない!」


もうダメだ。
メンバーの心がこんなにも乱れている。これでは敵を倒せない。
トーフは呻いた。頭を抱え込んで現実から逃げようとする。

しかし、手を差し伸べられた。
神々しい手のひら。その主を見るために顔を上げるとそこには虹色の鼻ちょうちんを膨らませたアフロがいた。

アフロ神の降臨だ。


「嫌な神が降臨したわー!!」

「さあアフロボンバーで敵を撃沈させるのよ」

「そんなんで敵を倒せるはずないやろ!」

「己の心を信じなさい」

「己の心が全面否定しとるわー!」


虹色の鼻ちょうちんを膨らませたブチョウが部分部分の頭をアフロにした姿で手を差し伸べている。
思い切り彼女に突っ込むトーフであるが、ふと思った。
ブチョウ、いつの間に魔物の手から逃げてきたのだろうか、と。
しかし、よかった。ブチョウが魔物から逃げられた。これで一応味方は増えた。


「ほなブチョウ!ワイと一緒に戦うで!」

「ホイサ!」

「意味の分からん応答をするブチョウが素敵やで」


やはりブチョウは酔っ払ってはいないようだ。酒を飲むと寝るだけで心は乱れていない様子。
といってもブチョウは普段から可笑しい人なので酔っ払い同様なのだが。

メンバー3人に抱きつかれている魔物に向けてトーフは姿勢を整える。


「ワイは魔物の動きを封じるわ。ちゅうことであんたはそんあとをよろしく頼むで」

「待ちなさいタマ」


今すぐにでも飛び出しそうな体勢のトーフは突然の阻止によってその場に倒れこんだ。
それからすぐに「何や!」と訊ねると、ブチョウは鼻ちょうちんの色を虹色から希望溢れる色に変える。


「希望溢れる色って何色や?!」

「タマ、よく聞きなさい」


ツッコミを浴びながらもブチョウの目は真っ直ぐと魔物を睨んでいる。


「魔物にはチョンマゲ達がしがみ付いているわ。そこのところを計算に入れなくてはならない。あの魔物の身長が2メートルだとすると体内の水分が80%…つまり160…」

「ぶ、ブチョウ?!」


ブチョウは酒を飲むことによりありえないほどの頭脳を発揮した。


「酒飲んだ方が何気にまともやないか?!」

「なるほど分かったわ」


予期せぬ頭脳を発揮したブチョウが閃きを起こした。


「あの魔物は偉大なるアフロが苦手だわ」


しかしブチョウはブチョウであった。


「水分の計算と関係あらへんわー!!ちゅうか希望色の鼻ちょうちんが気色悪いわー!」

「クックック。愚かな人間どもめ、また争いか」

「じゃかあしいわ黒クモマ!」


どいつもこいつも使い物にならない。トーフは再び頭を抱え込んだ。
そのときに差し出される一枚のハンカチーフ。
受け取ると天なる声が舞い降りてきた。


『お前、大丈夫か』

「…魔物……」


そこで気づいた。


「何でハンカチやねーん!!」


何故ハンカチを渡されたのか本当に不明だった。
ツッコミと同時にハンカチーフを地面に叩きつける。勢いに乗ったツッコミだ。
その光景を見て、魔物はまたすねていた。


「あんたも魔物なんやからすねるんやないわ」

「クックックック。どいつもこいつも図体でかいだけで心は小さいやからか」


店の中には村人がいびきをかいて寝ている上、店員は転んだまま立ち上がらない。
そしてメンバーの大半が魔物に進んで抱きに行き、一人はアフロ神、一人はツッコミし放題。
その中で黒クモマが瓶片手で立ち上がった。

黒クモマはふらついた様子も見せず、むしろ冷静に歩いてくる。
ゆっくりと、コツコツ、静かに音をたてて。
やがてトーフの背後に立った。

また三日月に口が歪む。


「クックック。つまらぬ相手だな」

「黒クモマ!やっと戦う気になったか!」


黒クモマだけれど関係ない。仲間が助けに来てくれたことが嬉しかった。
振り向いて黒クモマと目をあわせようとする。その刹那、事件が起こる。


「酒を飲むことにより不安定の心も平衡する。クックック、さあお前も飲むがよい」


顎を掴まれたトーフは、口中が酒まみれになっていた。
黒クモマが持っていた瓶には酒が入っており、それを口の中に入れられたのだ。
瓶を口に含んだトーフは酒を飲まないように喉を閉じる。
しかし黒クモマが顎を掴んでいた。顔を上に向けられ、無理矢理飲まされる運命に。
酒が喉を抉じ開け、見る見るうちに胃の中に滑り込んでいく。

グビグビと酒を飲み、やがてトーフは一升瓶の酒を飲み干すこととなった。
トーフの口から空の瓶が離れ、ゆっくりと宙を回りながら地面に着地する。
その上でココココと円を描き転がり回る瓶を眺め、黒クモマはより一層濃く笑みを零した。

トーフは固まる。首を垂らし、顔を影に隠す。


「クックックックックック」

『おいおい!仲間に無理矢理酒を飲ますなんて、これじゃあどっちが敵だかわかんねえぜ!』


思わず魔物に指摘を受ける黒クモマだが、彼の顔には勝利が浮かんでいた。
カラン。瓶がまた音をたてる。
それはトーフが瓶を蹴ることによって生じられた音。
魔物も黒クモマもアフロ神も、トーフを見やった。

ふらっとトーフが傾いた。そう思えば次は反対方向に傾く。
激しくふらつきながらトーフは立つ。そして構える。
俯いていた顔も上がる。


「…ヒック……ヒック…」


顔を赤くしたトーフだけれど、構えは完璧であった。
指を揃えて美しい形に整った手を水平に魔物に向けてトーフは戦闘体勢を整えている。

しゃっくりを起こすトーフを見てから、黒クモマはまた三日月の口を動かした。


「なるほどな。こいつは面白い。クックック。こう来るとは、こやつもやりうるな」


トーフは動き出した。俊敏に手を動かし、魔物を突く。
急所を狙われ、魔物は悲鳴をあげ、抱きついているメンバーを突き放した。


「クックック、奴は『酔拳』の使い手か」


酔っ払うことにより引き立てられた能力を拳にため、トーフは魔物と戦った。
トーフは酔っ払っている。酔っ払いの行動なんて誰も予測することができない。
そのため魔物はトーフに一本も手を出すことなく、やられていくのだった。


『酔っ払いって怖ろしいー!』


魔物の悲鳴が村中に響き渡った。



+ + +


魔物を倒したメンバーは、その後、眠りにつくことにより酔いを醒ました。
頭がガンガンするーと言いながら、この店の裏庭にあった酒樽に笑いの雫を零し、無事村の"ハナ"を封印した。


「もう、酔っ払いと相手したくないわー」


メンバー全員が酔っているときのことを覚えていないという事実を知り、トーフがまた頭を抱えながら呻く。
しかし密かにブチョウは覚えていたようで、ポツリと


「タマとも相手したくないわね」


と、酔拳を使いこなしていたトーフの顔を見ながら呟いていた。


 皆さん、未成年のうちは酒を飲んだらいけませんよ。
 そして成人の方、飲みすぎはほどほどに。身近の人のことも考えて。

 今回のトーフを見れば分かるように、酔っ払いの相手をすることが最も大変なことですからね。




二日酔いと戦いながら、メンバーは次の村へと笑いの風を吹かす。









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