団結という鎖が強いほど、勝利の女神が微笑んでくれる。


60.スポーツの村


二日酔いという間抜けな病に悩まされたメンバーであったが、ようやくそれも引いたようで、いつも通りに旅を続ける一行。


「結局、食べ物を手に入れることは出来なかったね」


前回、黒クモマを発動させたクモマ。しかし酒を飲まない限り"奴"は現れないようだ。
これから先、癒しクモマが継続すると知った上で胸を撫で下ろす。
そんなトーフであったが、ふと上がったクモマの発言を聞いて胸から腹へ手を移した。
腹から音は鳴らないものの、何だか満たされていない。


「そやなー。どっかで食料を蓄えへんとあかんわなー」

「うんうんー。あ、もう少しで次の村に着くみたいよー」

「本当かい?それじゃそこで食べ物をもらわなくちゃ」

「よっしゃーバリバリ盗もうぜー!」

「また盗むのか?しかし盗むとなれば数日分の食料の分も入れなくちゃならないからかなりの量を盗まなくてはならないが」

「そうね。そしてあなたの心も盗むのよ」

「何だそのくさい台詞は!」


皮肉として表れているソングの意見、しかし貴重な意見でもあった。
言われてみれば確かにその通りだ。
今まではお礼という形で食料を大量に得てきてたのだが、それも村を一つ二つ回った後ではすっかりなくなってしまう。
原因は全員が後のことを考えずに食べているからでもあるが、まあ、大食いの上早食いであるトーフが全ての元凶でもある。

大量の食料が数日でなくなるこの現実。
そんな中で、次の村は盗みで食料を得るとなるとかなりの量の食料を盗まなくてはならないであろう。
ソングはそのことについて心配しているのである。

うーんと頭を捻ってトーフが答えた。


「別の村に行くたび食料を盗むようにしていれば然程盗まんでもええやろうけど、毎回ワイらは事件に巻き込まれる側や。どうしてもそん計画を実行できひん」

「そうよねー!いっつも悪いタイミングで魔物が出てきたりするんだもん!」

「それとよーいっつも変なイベントに巻き込まれるよなー!」

「大会とかによく出場するよね」

「変な奴らを助けて、その礼として食料を得たりしてるか」

「何気に可笑しな旅をしてるわね私たちも」


前回、虹色の鼻ちょうちん、後に希望溢れる色をした鼻ちょうちんを膨らませていた彼女が言う発言ではない気がするが。
しかし、このメンバーの旅というものはすべて可笑しいものが含まれている。
前回が本当にいい例である。

そして今回も、その例の候補に挙がる。


「あ、村が見えたよー!」


ウミガメ号の覗き穴から顔を覗かしてチョコが叫ぶ。
よって全員が身を乗り出した。反動で車が揺れる。


「おお!ほな早速食い物ゲットしようで。懐を軽くして挑もうで!」

「待て。やはり盗みはするのか!」

「しゃあないことや。それしか方法がないやろ?」

「何かイベントしていて、賞品が食料だったら助かるんだけどね」

「クモマったらー。そんないいタイミングでイベントがあるはずないじゃないのー」

「な〜っはっはっは!そうだぜ!クモマは夢を見すぎだぜ!」

「そ、そうかい?…そ、そうだよね。あははは」


+ + +


『今日は待ちに待った体育祭!チーム一団となって優勝賞品である食料を得るために優勝目指して頑張ってね!』

「「……………」」


クモマがポツリと呟いたあの発言が、正夢となって現実に現れた。
車を門に入れた刹那流れてきた放送の音に全員が無言に陥られる。

もしかしたら車のシートが音を妨げて、そのように聞こえただけであるかもしれない。
そういうことで急いで車を降りるメンバーであるが
目の前の光景に、唖然となるのであった。


「た、体育祭…」

「たいいくさいって何だぁ?」

「いろんなスポーツをするのよ〜、と言ってもかけっことかリレーとかするんだけどね!」


目の前に広がった光景にはまさに『体育祭オーラ』が流れている。
この場に居る人々全員が白いシャツと短パンをはき、頭にはハチマキを巻いているというスタイル。
そのハチマキには何通りか色があるようで、色ごとに団を組んでいるようだ。

メンバーが唖然としていると、目の前にたすきをかけている中年の男が現れた。
たすきには『体育祭実行委員』と書かれてある。


「皆さんも、祭に参加希望ですか?」


訊ねられてソングが「いや」と否定する中、飛び上がる歓声があった。


「ええ!参加してもいいのー!きゃー私スポーツ好きだから興味があるのー!」

「面白そうだぜ!走ったりするんだろ!やってみたいぜ!」

「食い物食い物食い物…!食い物のためなら何でもやったるで!」

「まさか本当にイベントがあったなんて…。僕が予想した結果だし、参加したほうがいいかな」

「あなたの心に惹かれて参加することにするわ」


ソング以外のメンバー全員が参加希望を申し出たのだ。
こうなればソングも断るわけにはいかない、頷くのであった。

その場のノリに呑みこまれて、体育祭の参加を希望する。
すると実行委員の男は目を細めて、嬉しそうに口を開いた。


「それはよかったです。体育祭は参加するチームが多いほど白熱するものになりますからね」


そしてメンバーを大会受付まで案内する。
受付場は門のすぐ近くにある大きなテント。そこで受付を行う。


「チーム数は5人でよろしいでしょうか」

「待て!俺を抜かしている!6人だ6人」


メンバー5人、おっと6人で1チームのようだ。よかった離れ離れにならなくて。
もしブチョウとチームが分かれてしまえば負け同然なので。

実行委員の男は用紙にいろいろメモを取りながら、質問を繰り出してくる。


「チーム名は何にしますか?」

「え?チーム名?」


予想もしていなかった質問にクモマは目を丸めた。
男はにこやかに頷いて再度問いかけてくる。
なので頭を捻って唸りながら考える。そのときにブチョウが口を開く。


「『何だか人生に疲れちゃったわチーム』にしてほしいわ」

「「やめろ?!」」

「分かりました」

「やめてやめて!本当にそれだけはやめてください!!」


そんなチーム名になってしまえば、これから先、気が重くなる。
妨げるためにクモマが発言した。


「『みんなといっしょチーム』でいいじゃない?」

「どこの教育番組だ!」

「『サコツ様最高チーム』にしようぜ!」

「てめえだけしか満足しないだろが!」

「あ!『THE☆鼻水』は?」

「それ前に聞いたことあるチーム名だぞ!」

「『お笑い戦隊ラフメーカーズ』でええやん!」

「もうヒーローはこりごりだ!」


散々文句を言い放った後でソングが希望を放つ。


「『キュウリとメロディ』にしてくれ」

「「何だその組み合わせ!」」


全員がああだこうだでもめている背景では、ブチョウが実行委員の男と向かいあっていた。
そのときにチーム名を言ったようで、男はブチョウの意見を採用した。
つらつらと用紙にブチョウが言ったチーム名を書いて、男は再確認をとる。


「それではチーム名は『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』でいいですね」

「「嫌だ!!」」

「ってか無駄に長いな!」


ブチョウの気まぐれによりメンバーのチーム名は『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』になった。
メンバーがチーム名に不満を抱いているとき、次は運動用の衣服が支給される。
参加チーム全員が着用している衣服である。支給されたからにはこれを着なければならないであろう。
チョコが「こんなの着るの〜?もうちょっと露出している方がいいなー」とこれまた自分勝手な不満を抱いている間にも時間が流れる。
次は色のついたハチマキを渡された。


「あなたたちのハチマキは希望溢れる色ですよ」

「「わからねー!どんな色なのか全くわからねー!」」

「あんた最高じゃないの。チョベリグゥ」


今度は希望溢れる色のハチマキをもらい、これまた不満を抱くメンバー。
対してブチョウは今どき使わないであろう用語を用いて悦びを表した。

そして実行委員の男に「準備が整い次第グラウンドに集合してください。まもなく開会いたします」と促され、メンバーはウミガメ号の中で準備を整えるのであった。



+ + +


青空に浮かぶ白いシャツに黒い短パン、風に靡く希望溢れる色をしたハチマキ。
ブチョウに説得されたのだろうか、メンバーは無駄に胸を張った姿で堂々と入場する。
背を反って足を大胆に動かす。
その姿はまさに偉大であり、希望溢れていた。


「食い物ゲットのためや!絶対優勝するで!」


チームリーダーに任命されたトーフが盛り上げる。
それによってクモマが拳を握る。


「力には自信あるから任せてて」


チョコも胸を張ることにより自分の胸を強調する。


「足には自信あるよ!馬をなめないでね」


サコツも腰に手を当てて大いに笑い上げる。


「な〜っはっはっは!暴れまくってやるぜ!」


ソングは、眉を寄せて頭をかく。


「ったく、面倒くさい…」


そしてブチョウは希望溢れる光を放っていた。


「これぞ希望の道よ」

「あ!ウンダバ様の光だぜ!」

「「ウンダバーウンダバー」」

「偶像崇拝はやめろ!」


こうしてメンバーは会場であるグラウンドに足をつけた。
そのときに青い空の一部が膨張し破裂する。
煙の花火が上がったのだ。青い空に白い模様が彫られる。


『さあ!今から体育祭の始まりです!皆さんチームごとに整列してください』


放送の声にしたがってメンバーも整列した。何故かブチョウを取り囲んだ姿で。


『えっと、そこは…『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』ですね。整列方法が明らかに可笑しいですよ。周りを見て行動してくださいね』

「おっと、しまったぜ!ついクセでブチョウを囲んでいたぜ」


注意を受けてメンバーもきちんと縦列した。
そして始まる開会式。

辺りのチームを見てみると、意外にも自分たちと同じように少人数であった。
きっと仲間内で参加をしたり、自分らのように他所からきた旅人らなのだろう。
しかし自分等以上に可笑しなチームはないはずだ。
まずチーム名からして全てを表している。

赤、城、青、黄、緑、桃、茶、と様々なハチマキが風によって靡いている。
その中に混じる希望溢れる色。何だか場違いのような気がする。
だけれどメンバーは一致団結はしているようだ。食べ物を手に入れるために今回は必ず優勝してみせる。

ボケーっと空を眺めていたらいつの間にか開会式は終了していた。
そのため今から体育祭が始まる。
プログラム表がチームのリーダーに配られたので、全員でトーフの元へ行きそれを眺める。
しかしトーフは背が低いので視点を合わせるのが難しい。
全員が悪戦苦闘しながらプログラム表を見ようとしていることに気づき、トーフが声を上げてプログラムを読んだ。


「最初の競技科目は『かけっこ』のようやで」


競技によってはチームメンバー全員が参加するものと個人が参加するものとある。
かけっこは代表者一人が参加するようだ。
早速チョコが挙手する。


「私走りたいー!」

「分かってるがな。ほな行って来な」

「やったー!」


そういうことで第一に点を稼ぎに走るのはチョコとなった。
チョコはグランドの縁を取っている6つのコースの一つに立ち、相手を眺める。
相手はやる気十分のようで姿勢を構えて、すぐにでも飛び出せるようにしている。
対してチョコは直立姿勢だ。
そんなチョコを見やって複数の相手は不敵に笑みを零していた。
「勝てる」と思ったのだろう。
しかし、その考えはすぐに覆された。

よーいドンで響くピストルの音。
走者が走る。勢いつけて。
その中でチョコはぶっちぎりの走りを見せた。
遠くから眺めているメンバーには、チョコの残像より希望溢れる色のハチマキが目に映った。


「「さっすがチョコ!逃げ足の達人!」」

「「あの女ありえないぐらい速ぇー!!」」

「みんな私を甘く見過ぎよー」


チョコは難なく一位を獲得し、早速高得点を稼いだ。
最初の競技だったので、無論我がチームが一位だ。
放送もビックリの声を上げている。


「おーっと!なんと『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』が一位を獲得しました!これは面白い戦いになりそうだー!」


しかし、戦いは始まったばかりだ。


『次は「玉入れ」です!チームメンバー全員で参加してください』


チョコを大いに称えているときに流れる放送。
次は高い位置に立てられた箱に玉を入れる競技のようだ。
全員参加のようで全員でそちらへ向かう。


「『タマ入れ』ね。面白いことになりそうね」

「あかん!何だかよきならぬ悪寒が走るわ!」


ブチョウがトーフに危険な視線を送っている中で、メンバーはこの競技のルールについて確認をとっていた。


「この玉を上にある箱の中に入れるんだ」

「なあなあ、このおっさんは何してるんだ?」


サコツが指差す先には、屈みこんだ男がいた。
違う、この男は棒を支えているのだ。その棒の先には箱がある。
なるほど、つまりこの男は箱を支えているわけか。

そういうことで、


『おーっと!『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』が行動に出ました!何とゲーム開始直後にすぐさま全員で玉入れの箱を支えているおじさんに玉を投げ出しました!』

「やめてください。ぼくは何も悪いことはしていないはずです。そんなにぶつけないでください」

『おじさんが泣いてるぞー!』


サコツの案により全員で、箱を支えている男に向けて玉を投げたのである。
理由としては、この男を倒すことにより箱が倒れるということでそのときに箱に玉を入れる、何ともあくどい寸法だ。
男が痛い痛いと泣いているにも関係なく全員が男に玉を投げる。
ブチョウなんか何を思ったのか違う"たま"を投げ出した。


「ワイは玉じゃあらへーん!」


トーフと男が頭をぶつけたところで、箱が落ちてきた。二人が頭を押さえてもがいているからだ。
支える者がなくなったことで箱が地面につく。
その隙に玉を入れまくった。

しかし、不法行為と見なされ、呆気なく退場になった。


「当たり前だ!」


そういうことでこの競技では得点を得れなかった『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』。
次は頑張ってほしいものである。


「というかそのチーム名をいちいち口にするなよ!いろいろと無駄だろ!」


『鼻水が滴り落ちるあなたの姿はまさにフローラルな愚民だわ。そんなあなたに向けて私は心身痛めつけながらもティッシュを差し上げますチーム』は優勝目指して、希望溢れる色を靡かせる。


「お前も学習しない奴だな!」

「次も全員参加の競技やでー」








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