大ボスが驚いている隙にドアを突き破った3人は部屋へと侵入する。
これもブチョウのボタン入力の仕業であるが、クモマは立派に仁王立ちをして全てを見下した顔で大ボスを睨んでいる。
ソングとチョコもそれに見習って、早速同じようにボタン入力をし、トーフとサコツを同じように操った。


「3人して同じ顔で睨んでくるなよ!」

「さあ、覚悟しぃやーボス!」

「俺らは今急いでるんだぜ!」

「そうだよ。早く出ないと皆に本気で心配されちゃうからね!」


そう忠告した刹那、3人は動いていた。違う、動かされていた。
まず真っ先に攻撃に突っ走ったのはサコツだ。

チョコは画面上に浮き出てきたボタンの入力コマンドを丁寧にうち、サコツの技を発動させた。


「オパチョッフ斬り!」

『それはどいつらにもある技なのか?!』

『共通技ね』


サコツから繰り出されたチョップは見事大ボスの目に刺さる。


「目がー!!」

『早速急所かよ!』


思わずソングが突っ込んだ。
そしてそのままソングも画面の入力コマンドに従ってボタンを打った。…のだが、最後のボタンを押し間違えて敢え無く断念した。


「しっかりしてやソング!」

「「オパチョッフ斬り!!」」

「二人で同じ攻撃してこないでー!」


ソングが何度もコマンド入力に失敗しているとき、ブチョウとチョコは『オパチョッフ斬り』をマスターしていた。
クモマとサコツに同じ技をやらせ、その場に不気味なハーモニーを生み出す。

しかし、大ボスも黙ってはいられなかった。


「喰らえ!クソババアソード!」


ひどい技名だな、と気を緩めたときには遅かった。大ボスの手から繰り出されるしっぺによりサコツが犠牲になっていた。
攻撃を喰らったことにより、サコツは見る見るうちに小さくなっていく。


『あ、そうだった。キノコを食べて大きくなっても、それは攻撃を喰らうまでの間しか効果がないんだ』

「マジでかよー!」


ソングが遅いけれど解説したとき、サコツはいつものサイズに戻っていた。
隣りの者が元に戻ったということに一安心を見せるトーフ。と、そのとき


「ローリングアターック!」


やっとソングがコマンド入力に成功したようだ。しかし発動した技がコレだとは。
見習ってチョコも同じ技を入力して発動させ、ブチョウも無論発動させた。

その場には素敵に回転をしてみせる3人の姿があった。


『まぬけだな!』


見てられないほど可笑しな光景にすかさずソングが突っ込んだ。
しかし大ボスはそれの犠牲になっていた。
転がる3人にぶつかって大ボスも同じように転がっていく。


『何だこの光景は!醜いな!!』

「ゴールが目の前なら何でもやったるわー!ソング!何かもう一度ワイに技を発動させてえな!」

「ブチョウ頼むよ!最後にカッコいい技やらせてくれないかい?」

「チョコ!ドーンっと行こうぜ!」


ソングのツッコミは今の3人には通じない。今は何よりこのゲームの世界から出たい3人。
そして「何でもやる」という言葉をブチョウは聞き逃さなかった。
不敵な笑みを零して、ブチョウはまた何かを入力しだした。


『まずは皆アフロになるわよ』


言った直後にコマンド入力が終了し、クモマから技が発動された。
それは魔法のようだ。ゲームの世界だから何でもありのようで、クモマは魔法を繰り出した。
クモマの手から漏れる光はトーフとサコツに向けられると、ぼんっと頭が破裂させた。
すると二人の頭が素晴らしいことに


「「アフロだー!!」」

『さっきの技はアフロパラダイスよ』

「もう何でも来いだよ!」


何とその場にいる全員がアフロになってしまったのだ。
ちなみに別なものを入力している途中であったソングの頭もアフロに…。


『何故だ?!』

『まさに運命ね』

『やった!入力し終えたよ!いっけーサコツ!』


チョコも密かにコマンドを入力していたようだ。入力し終えるとすぐさまそう叫びサコツを促す。
一体何をしたのか気になってサコツに視線を集めてみると、凄い光景を目にした。


「にゃろりん波ー!!」

「「何か手から出しちゃったよ?!」」


まさにゲームでしか出来ないようなありえない波動を手に溜めてサコツは大ボス目掛けて放っていた。
しかし大ボスも負けていられない。そうだ、アフロな奴らに負けてなんかいられない!
大ボスも同じように波動を繰り出した。
サコツの波動を押し返すように大ボスの波動がぶつかる。


「何!」

「だはは!負けてたまるかよ!このまま俺様の波動に燃えつけるんだな!」


大ボスはやはり強かった。天まで伸びそうなサコツの波動をいとも簡単に押し返そうとする。
お互い波動を出し続け、押し合う。しかしサコツの体は先ほどから押されている。つまりサコツも波動も押されているのだ。

すかさずクモマも加勢した。


「僕も手伝うよサコツ」

「助かるぜクモマ!」


クモマも手から波動を出し加勢する。しかしそれでもまだ勝てない。
あと一人、力を加えてくれれば…。


「ソング!あんたも同じコマンドを入力するんや!」


トーフが急いでそう叫び、ソングも頷いて見せた。


『分かった』

『ソング、このコマンドを入力するのよ』

『ああ、って長いな?!』


画面上に浮かぶコマンドは今までの倍以上の数に値する入力コマンドであった。
これをこの二人は入力したのか。
非常に投げ出したい作業であったがここでやめてはいられない。
ソングもすぐさま打ちに入った。
しかし長すぎる。そして間違えてしまう。


「ソング早く!二人が押し負けちゃうで!」

『クソ!分かってる!』


全員から視線を浴びる。ソングは非常にやりづらそうに入力していたが、時間が掛かった末ようやく入力し終えることが出来た。
すぐにトーフも波動を放つ。


「これでどうやー!」

「トーフ!助かったよ!」

「このまま押し返そうぜ!」


『みんな、一斉に叫ぶのよ!』


「「ウンダバー!!」」


一斉に叫んだことにより心が一つになった。
3つの波動は大きな一つの波動となり、さきほどまでこちらを押していた大ボスの波動を呑み込んでいく。
そのまま一気に押し返してやり、大ボスを波動でぶっ飛ばした。
壁を突き破り大ボスは空の彼方まで飛び上がり、やがて宇宙に輝く星になった。

敵がいなくなり、その場に残ったのは3人の勇者たち。
肩で息をし、呼吸を整える。いつの間に汗を噴出したのだろうか、大量の汗を二の腕で拭う。

だけれど、これでようやく分かった。
自分らは見事


「「勝ったー!!!」」


ゲームをクリアしたのだ。
疲れているというのに3人は飛び跳ね今の嬉しさを堪能する。
しかしここで安心するのはまだ早い。
あと一つ、しなくてはならない使命があるのだ。


「最上階で捕まっているお姫様を助けなくちゃ」


ゲームのクリア条件を思い出し、急いでこの場を後にした。
近くに階段を見つけ、これで最上階を目指す。
「『ローリングアタック』をすれば楽に上がれるわよ」とブチョウから助言を受けたので早速実践する。
3人が回転しながら階段を上がっていく。
螺旋階段を転がりながら上がっていき、やがて目的地にたどり着いた。
段差がなくなったところで転がるのをやめる。
そして目の前にある扉に目を置く。


「ここだね」

「お姫様を助けたら出れるんだよな!」

「もうゲームはこりごりやな」


それぞれの顔には笑みが浮かんでいた。今まで苦労してきた甲斐があった。これでもう帰れる。
嬉しくて嬉しくてその反動で勢いよく扉を開けた。お姫様がいると思われる部屋の扉を。

しかしすぐに飛び出してきたものは複数の影であった。


「わ?!」

「次はもっと隅々まで探してね!もーミッキー待ちくたびれちゃったー。ぷんぷん」


影たちはクモマを過ぎって、階段を滑り落ちていった。
異様にどピンクの影たちが部屋から出て行き暫くの間、その影らを眺めていた3人。
しかし背後から声をかけられ、すぐに振り向いた。
つまり部屋の中に目を向けたのだ。

すると同じようにピンクの髪色をした女が立っていた。
キャピキャピと行動を弾ませながら言ってきた。


「あなたたちは誰なの〜?」

「…え?」


それはこっちの台詞である。
自分らはお姫様を助けにきたのだ。それなのに現れたのがど派手な女だと?
…というかこの女から妙に痛々しいオーラが漂っている。
昔の少女漫画の主人公みたいな程の不自然なリアクションをとる女。こいつは一体何なのだ。

そう思っていると偶然にも答えてくれた。
違う、女に心を悟られたのだ。


「ミッキーは〜魔女っ子なのらぁ〜」

「…魔女?」

「お姫様じゃないのかあ?」

「お姫様だよ☆ぴょんぴょん王国のお姫様なのらぁー」


いたーい。

自分のことを『ミッキー』と名乗っている女は痛々しいほど体を弾ませてメンバーを見やる。
ゲームの外から見ていた3人も唖然としていたのだが、その姿もこの女からすれば見えるものであった。

突然、天に向けて女は指を突き刺した。


「お友達もこっちにおいでよ〜!」


天を指している人差し指をくいっと折り曲げるとあら不思議、外にいたはずの3人ブチョウとチョコとソングもゲームの中に入ってきたのだ。
無論、彼女らも驚いている。


「ええ?!何?」

「あんた、ただもんじゃないわね」


ゲームの世界に余所者を引き込ませる力がある者だ。ブチョウの言う通り、この女はただ者でなさそうだ。
すると女は元気よく頷いて見せた。


「あったりまえだっぴょーん!ミッキーは人間さんじゃないものー」

「人間じゃない?」

「とすれば、お前は何だ」


質問に、答えた。


「ミッキーは〜エキセントリック一族の一人だっよ〜んだ」


やはりか。この場に嫌な空気が流れ込んだ。
女は続ける。


「それでね、ミッキーは〜ちょっと探し物をしてるの〜」

「探し物?」

「そう、ここへ来る途中、落し物をしちゃったの〜。ミッキーはずかぴい☆」

「いや、『はずかぴい』っていうのを聞く方が恥ずかしいよ!」


行動一つ一つがイタイ女にクモマが勢いよく突っ込んだときであった。
女が突然、目を丸々として見てきたのだ。
刹那、女は叫んでいた。


「あった〜☆ミッキーの落し物、只今発見いたしましたー☆」


女は小さな指をクモマに向けて指していた。クモマのアフロ頭に乗っかっているシルクハットを指差しているのである。
クモマが思い出したように、シルクハットに手を伸ばした。


「そうだった。これ道端に落ちていたよ」


シルクハットを拾ったとき、まさかエキセントリック一族の落し物ではなかろうかと思ったのだが、案の定奴らのものであった。
それだったら拾わなければ良かった、と思ったが女は本当に嬉しそうにしているので、クモマはすかさず女にシルクハットを渡してあげた。

シルクハットを受け取って、女は小さな頭を覆う。
キュッとシルクハットを深く被ってから、女は何も持っていなかった手からステッキを取り出した。


「見つけてくれてありがちょーん☆まさかあなたたちが見つけてくれてたなんてビックリしたよ」


ステッキをクモマに向ける。


「ミッキーたちの家族にとって黒いものは全て大切なものなの。それを届けてくれて本当に助かったよ☆」

「あ、いやいや。たまたま拾っただけだし」

「ううん。これはきっと運命だと思うよ☆だってあなた、実にね」


女は言った。少女漫画のワンシーンみたいに。


「ミッキーの、好みのタイプなのらぁ」

「………ええ?」

「すっごーい素敵…☆どうしよう、ミッキーね」

「……」

「あなたに恋しちゃった☆」



「ええええええええ?」


この上ないほど変な声が出た。
それはそうだろう。突然の告白を受けたのだから。しかもエキセントリック一族のイタイ女に。
今のクモマの姿がアフロ頭に快適足長グッズを着用しているとも関わらず、女はクモマに恋した。


「ミッキーはぁ、ずっとあなたを見ることにするよん」

「いや、そんな困ります…!」

「も〜照れ屋さん☆そんなに顔を赤くしてたら茹で上がっちゃうぞ〜☆」

「ちょっと…!」


恋する女は突っ走る。
ステッキをクモマに向けたまま、やがてクルクルとメンバー全員に狙いを定めているように大きくステッキを回し始める。
不吉を悟ったが逃げられない。何故ならここがゲームの世界であり、この女が支配している世界でもあるから。

女は唐突に話を変えた。
それは自分の目的について。


「ミッキーがここにいた理由、教えてあげるよ☆これも愛しのダーリンのためにね☆」

「ダーリンって…」

「ミッキーはね、ママに頼まれてこの2年間ずっとピンカースとブラッカイアを行き来してたのよん」

「……」


本当に唐突であるが、とても気になる内容であった。
ずばりこれはエキセントリック一族の闇の活動の一つに含まれるものであるから。

やがて女は言ったのだ。


「ママが作ったお"ハナ"さんを植えにピンカースにお出かけしてたのらぁ」

「………!」

「"ハナ"…!」


全員の頭に不吉が過ぎる。
"ハナ"を植えていたのはこの女だったのか。
トーフが恐る恐る訊ねた。


「ワイが聞いた情報やとピンカースの村は全部に"ハナ"が生えとるそうやけど」

「きゃーん☆なにこの猫たーん!めっちゃプリチー!」

「やめい!ワイの話を聞けい!」


くにゃっと体をくねらせた女が"ハナ"を植えた張本人ということを知りトーフの機嫌は悪くなる。
そのため怒鳴り声を上げ、女は口先を尖らせた。


「ちぇー。そんなに怒っちゃダメだぴょん?ミッキーは全部の村にお"ハナ"さんを植えてないもん。ミッキーは悪くないよ?」

「何やて?全部の村には生えとらんっちゅうことか?」

「うん☆まだ植えてる段階だもん!でもあと少しでピンカースを支配することが出来るぴょん」

「………!」

「だけど」


先ほどまで嫌に明るかった女の声が、ここで突然トーンを落とす。
ずっとクルクルと回していたステッキがここでやっと光を溜める。
ステッキの先には見る見るうちに虹色の光が渦を巻いていく。





「あなたたちがママの作ったお"ハナ"さんを消してるみたいだね?」


女はキャハっと口元をゆがめた。


「ミッキーたちの邪魔をする奴らは、こうしてやるぅぅ!」


刹那、光が発砲された。
場の空気を膨張させながら光は確実にメンバーの元へ向かっている。
逃げる暇も無かった。
発砲されたと同時に全員の体が吹っ飛びあがっていたのだから。
幸いにも全員が離れることはなかったが、先ほどの大ボスと同じように壁を突き破って彼方まで吹っ飛んでいってしまった。

消えていくメンバーを見て女は言った。


「ゲームの世界からは出してあげるけどね、絶対に始末しなくちゃならないよね」


ここでシルクハットを外して、視界に入れる。
大きな瞳にはシルクハットではなく彼の姿が映った。


「名前聞くの忘れちゃった☆だけどミッキーのダーリンには変わりないよね?ダーリン…絶対に手に入れてやるぅ〜☆」


そしてシルクハットを彼代わりにしてギュッと抱きしめるのであった。









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