闇が集まるとき、世界に何かが起こる。


56.臨時総会A


淡い光を燈すランプが幾つもの闇を照らす。
闇の中にある濃い闇は全部で21つ。前回の総会より数が増えている。
それらはやはりシルクハットと黒マントで身を包む、あるいは黒ローブのフードを深く被る、という容姿をしている。

部屋の中央には円状の長机があり、それを縁取るように26つのイスが並べてある。
そこに腰をかけているのがその闇たちだ。


「前回に引き続き、会議を行うでアール」


紳士が声を張ると全ての闇の顔がそちらへ向けられた。
対して紳士こと『R』は目線を右や左に持って行き、全部の闇に行き届くように口を開く。


「今回はそれぞれの活動内容について報告してもらうでアール」


そして手を打つことによりレポート用紙と黒い羽根を取り出した。
黒い羽根の先を口に含み、水分を与えることで色を取得する。
羽根先をレポート用紙に当てて、『R』はメモを取る体勢を作った。


「さて、最初に誰から訊くでアールか…」

「はいはーい☆ミッキーから聞いてナリー!」


誰から確認を取るか決めていなかったらしく会議中に唸り声を上げそうになる『R』に助けの手を伸ばしたのは、キャピキャピと弾んだ声を上げる女であった。
そんな女『 I 』を見て『R』は頷いて見せた。


「そうでアールな。それなら I から反時計回りで聞いてみるでアール」

「ヤッピー☆Rおじちゃまありがとー!」


『 I 』がはしゃいでいる左隣りでは、『J』が「反時計回りだと自分が最後になるジェイ」と思い挙動な反応を見せている。
『 I 』は席を立ちエッヘンと胸を張ってから自分の活動内容を報告した。


「ミッキーはピンカースに"ハナ"を植えてきましたぞい」


ふむふむと声を上げて活動内容をメモした『R』が訊ねた。


「前日も出掛けていたようでアールが"ハナ"を植えていたでアールか?」

「ううん☆昨日は普通にお散歩なのらぁ。ゲームにちょこっと顔を出してたんだよん」

「ゲーム、でアールか?」

「そう!…あ!そうだったー!」


口の前で手を開き、いかにも「あ」と何かを思い出したように行動だけでも分かる反応を見せる『 I 』、全員が不思議そうに眉を寄せた。
隣に座っていた『H』が訊ねる。美しい声を流して。


「んふ。どうしたのよあなた。驚きすぎよ」


注意を受けると『 I 』は少女漫画風味に後頭部に手を当て、んべっと舌を出した。


「てへ☆メンゴメンゴ☆実はねーすっごく素敵な彼と会ったことを思い出したの」

「素敵な彼?あら、 I も恋するお年頃なのね。可愛らしいわね、んふ」

「も〜Hったらーミッキーはずかぴい☆」


オカマの『H』に煽てられて『 I 』は異様に顔を赤くした。頬に手を当てて色を隠そうとしている。
話が進まない上に別に興味のない内容だったため『R』が次に進めようとした刹那、『 I 』が一足先に口を開いた。

『 I 』は頬を赤くしたまま、愛しの彼を思い出す。


「ミッキーは、ダーリンに本気の恋をしちゃったのらぁ」


それにすぐさま反応したのは、コップに口をつけていた『L』であった。
口に含んでいた液体を吹き出しそうになったが無事に堪えて、急いで飲み込む。それから訊ねていた。


「び、ビックリしたなぁ。一体誰に恋したんだよ?」


またコップに口をつけて中の液体ヤクルトを飲み込む『L』。
『 I 』は肩をキュッと抱いて大きく体をくねらせる。


「えー何ぃ?Lお兄ちゃんったらミッキーに興味があるのぉ?キャー☆」

「やめてくださいー!L様は私のものなんですー!あなたなんかに渡しませんよー!」

「冗談はやめてくれよ。オレは身内の者には興味ないんだから」

「素直じゃないL様も素敵ですー!」

「んもー☆Lお兄ちゃんは恥ずかしがり屋さんなのねぇ?」

「そんなL様も可愛いですー!キャー!!」

「Lお兄ちゃんよりダーリンの方が可愛いよん☆キャー☆」

「うっさいわねっあんたら!」


シルクハットの広いつばで耳を覆う『L』は現実から必死に逃げようとしている。
そんな彼に気づいて声を上げたのは、彼と親しみのある『B』だ。
鋭い『B』の声は見事うるさい女二人に突き刺さり場を無音へ変える。
そして深くため息をついた。


「ったく、こっちはあんたらの恋バナなんか聞きたくもないわよっ!そもそも今は会議中なのよ」

「全くでアール。今は大切な時間でアール。無駄に使ってほしくないでアール。それとワガハイは活動内容の報告だけをしろと言ったはずでアールが」


あまりにもまとまりのない団体に対し、『R』は表情を濃く顰めた。疲れたと言わんばかりの表情だ。
しかしまた『H』が『 I 』に再び話題を振り戻した。


「それで、その相手というのは誰なのかしら?」

「ん〜?Hお姉ちゃんも聞きたいのぉ?言っておくけど誰にもダーリンは渡さないからね☆」

「話を進めたいのでアールが」

「それじゃあ特別に皆に教えてあげる☆」


闇のまとめ役である『R』の声も恋する乙女の耳には届かない。
『 I 』は手を組んで、頭の中に彼を思い描いた。


「名前を聞くのを忘れちゃったんだけどね、とっても優しい人なの!柔らかい感じの黒髪でぇ両目尻にまん丸お月様のような模様があるぅ見た目はタヌキみたいな彼なの〜めっちゃラブリー☆」


今にも目をハートにしそうな『 I 』。しかしほとんどの闇が『 I 』の恋話に無関心のようだ。
対して、一人だけ激しく反応する者がいた。


「…お、お主か…!」


それは『U』であった。
普段、どのようなことにも動じないあの『U』が今回珍しく目を見開いて『 I 』を見ていた。
『 I 』は小首をかしげる。


「お主、ってだーれ?」

「お主、だぞよ」


『U』は大事に抱えている人形を指差した。
その人形に目を向けると『 I 』の表情も晴れ上がった。


「ダーリンだー☆」


人形は、帽子を被っている。下には黒い髪があり、その下には両目尻に赤い丸模様があるのが見える。
それはまさしく、さきほど『 I 』がキャピキャピと説明した人物と値する姿であった。
『 I 』は身を乗り出して『U』に訊ねた。


「どうしてここにダーリンがいるのぉ?」

「クスクス。これはダーリンではない、お主だぞよ」

「きゃーん☆めっちゃ可愛いこのお人形さん!ミッキーにもちょうだいー☆」

「何を言う?お主は我のものだぞよ」

「ケチー!いいもんいいもん!ミッキーはモノホンをゲットして見せるもん!」


『 I 』が頬を膨らませると『U』がすぐに反論する。


「そちなんかにお主は渡さない。我は10年ほど前からお主一筋なのだ」

「へへーんだ!Uおじちゃんよりミッキーの愛のほうが大きいもん!」

「貴様ら騒々しいわ!」


我が道を突っ走る『 I 』と『U』の会話は非常に騒々しいの一言に尽きるものがあった。
そのため気の短い『G』がすぐさま首を突っ込み、会話を中断させる。
続いて『R』がまた入る。今度は結論を述べるという形で。


「つまり二人は同じ人間を狙っているということでアールな?」

「そういうことになっちゃうねん」

「それならば二人で分け合えばいいでアール。同じ人間を協同で手に入れたら解決する話でアール」


『R』の意見を聞いた途端、『 I 』は表情をガラっと変え、『U』は然程変えなかった。
お互い目を向き合い、『R』の意見に賛成しあった。


「そうよね!ミッキーとUおじちゃんは大の仲良しだモンね☆一緒に頑張ろう!」

「クスクス、いずれにせよお主はあと一年の運命だぞよ。またこの手に入れることが出来る」


その後、暗いこの場に危険な笑声が漂った。
只でさえ寒い空気が凍りつく。それほどまでに不気味な笑い声。
二人はターゲットであるクモマを手に入れるため仲良く口元を歪めあっていた。

非常に居た堪れなくなったので、『R』が急いで手を打った。


「さて、そろそろ次に移るでアール。 I の反時計回りだから次はHでアール」


場の空気がほぐれたところで早速次へと参る。
『R』はレポート用紙に目を向けたまま『 I 』の右隣に座っている『H』に促しをかける。
すると『H』は「んふ」と笑みを浮かべた。


「アタシはこの美しい声を手に入れることが出来たから今はもう満足しているわよ」


『H』の報告を聞き、『R』は目線を変えずに眉だけを寄せた。


「つまり、この一年間は何も活動を起こしていないということでアールか?」

「そういうことになるわね」


白ハトの美しい声が流れる。それは聞く者全てを幸せにさせるような声。
しかしそれを使っている者は非常に醜い様。
あまりにもアンバランスなのであるが本人が満足しているようなので誰も口を挟まないことにした。

『R』は次にたすきを渡す。


「G、今年は随分暴れたようでアールな」


それは『H』の右隣に座っていた『G』。
『G』は顎を引くことによりフードを下げて目を隠し、「っくくく」と笑って答えた。


「ピンカースには興味はない。"イエロスカイ"だけで十分だ」

「確かにピンカースよりイエロスカイの方が平穏が維持されているから逆に手を入れやすいでアールがイエロスカイも侮れないでアール」


『R』の言葉には「だからお前もピンカース征服にまず専念してほしいでアール」という気持ちが込められていたが『G』はかぶりを振っていた。


「自分の手で一つのものを支配したいのだ。だから他の奴らの手は必要ない。貴様らはピンカースを狙い自分はイエロスカイを狙う」

「…分け合う気はゼロでアールか」

「貪欲馬鹿よねぇ」

「黙れぐおおおおお!」


闇の者たちが只今標的を向けているピンカース大陸、その隣国であるイエロスカイ大陸を『G』ただ一人が狙っていた。
貪欲なために一つのものを一人で手に入れたかったためにイエロスカイ征服を狙う『G』。彼もまた努力しているのである。
それを邪魔してはならないということで『R』は何も口出さないことにした。

次へ移る。


「Gの次はFでアール」

「あは、あはあは」

「…すまなかったでアール。その次に移るでアール」

「ぶー」

「…すまなかったでアール。次に移るでアール」


報告文をレポート用紙に丁寧に書き込んでいく『R』は一度も目を向けずに相手を促す。
しかし、相手の声を聞いた途端、次に飛ばすという姿が見られた。
『G』の右隣に座っていた者は『F』。あめを惚けた顔で食べている。いかにも何も考えてなさそうな顔だ。いや、現に何も考えていないのである。
そのことが分かったので『R』は次の者にたすきを渡した。しかしそれも失敗に終わっていた。
『F』の右隣は空席であるため二つ先に座っている『D』が報告する番であるが、奴も何も考えていなさそうであった。
他の闇よりも数倍大きな体を持った『D』。奴は見ての通り食べることが大好きなのである。
だから今も肉を頬張っていた。

『F』と『D』できたところで次の相手が誰なのか分かった『R』、ようやく顔をあげた。


「次はC、頼むでアール」


『R』の顔は読書に励んでいる老人『C』に向けられていた。
名を呼ばれたところで『C』も読書をやめ本を閉じる。よって本独特のにおいが少しだけ空気に馴染んだ。
『C』は『R』に目を向けてククッと笑う。


「クルーエル一族の面倒を見ておったことぐらいかのう」

「クルーエルでアールか、そういえばそのような一族もあったでアールな」


クルーエル一族に関しては『C』に任せているため全部の闇が無縁状態である。
面倒を見ていたと言っても彼らにかけた呪いを操ることによりクルーエル一族を悪の道に動かしていたのであるが。
ブラッカイア大陸に住んでいる邪魔な一族を滅ぼしに彼らを使ったのである。

これ以上に話すことがないようで『C』は再び読書に戻る。ペラペラと本を捲り先ほどまで読んでいた場所を復習する。
その間に『R』がレポート用紙に丁寧に書き込んでいく。


「次はBでアールが…」

「私は何もしてない、以上っ」

「やはりでアールか」


『C』の右隣に偉そうに腰をかけている『B』はたったそれだけ述べると懐からイチゴミルクを取り出して飲んでいた。
前回イチゴミルクに関して突っ込んだら『B』の元気がしょげ返ってしまったため、今回はイチゴミルクについては全く触れないことにした『R』、勢いに乗って次へ移る。


「A、合成獣はどうなったでアールか?」


次の相手が『A』ということですぐに合成獣の話題を持ってくると、『A』は非常に嬉しそうに反応した。


「ひゃっひゃっひゃ!合成獣ちゃん作りは順調だよ!だけど人間では実験していないんだ」

「おや、どうしたでアールか」

「可愛いベビーを手に入れることが出来なくてねぇ作りたくても作れないんだ」


合成獣作りは今も健在しているようだ。
しかし人間の合成獣は作っていないようで、この様子から動物と動物の合成獣を生んでいるようだ。

そのことをレポート用紙に書き込んでから『A』の次へと問いかけた。


「Y、何か活動は?」

「ひ、あ、あの…その…何もしていません。でも…あ、何でもないです」



『Y』は前回の総会に参加していなかった。この通り、人と対面するのが苦手だからだ。
そのため『R』は困ったそぶりを見せたがすぐに次へ移った。


「次は、Xでアール」

「何よチャーリー、レディにはお茶を出すのが礼儀じゃないのかしら?」


俯いている『Y』の隣りには顔をベールで隠している女性がいた。
それが『X』。『X』に注意されてから『R』が急いで手を打つことによりお茶を取り寄せた。
早速湯飲みに一口つけたところで、『X』が口元を歪める。


「さすがチャーリーね。湯加減がとってもいいわ」

「それはよかったでアール」


お茶に満足したところで『X』は活動内容を報告した。


「わたくしは城内のお掃除チェックをしていましたわ」

「…あぁ、そうだったでアールな。ワガハイが掃除した箇所を徹底的にチェックしていたでアール」

「近頃はチャーリーも掃除がお上手になったようで、わたくしも満足しておりますわ」

「喜んでもらえてよかったでアール」


『X』から良い評価を得て『R』は一息ついた。安堵したようだ。
他の闇たちは「R、掃除していたのか」と『R』の陰の活躍ぶりに密かに関心を抱いていた。

『R』は黒い羽根の先を口につけて、水分を滲ませることによりまた色を取得する。
すらすらっと字を書いてから次を促した。


「それでは次はW、何かしたでアールか」


『R』の問いかけに『W』と呼ばれた微老人が弱弱しく答えた。


「風邪を引いてしまって、毎日寝込んでます、こほんこほん」

「大丈夫かヨ、もやしー」

「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。こほんこほん」

「先日風邪を治したと言っていたでアールがまた引いてしまったでアール?」

「スミマセン、こほんほこん、こほこほ…」


見るからに病弱な体つきをしている『W』は苦しそうに咳き込んでいる。
それを心配する『R』と隣席の『V』。
小さな『V』は行儀悪くイスに腰をかけて、やがて『R』を小悪魔な顔で見やった。


「次はぼくちゃんの番かヨ?」

「そうでアール。そういえば暫くの間、城に戻ってきていなかったでアールが、どうしたでアール?」


前回の総会のときは出席していたが、あれは久々の出席だったようだ。
長い期間行方知らずだった『V』。邪悪な顔で笑った。


「ぐふふ。ちょっとね、悪魔と遊んでいたら天使たちに押さえ込まれてしまってね、暫くの間クリスタルの中でお寝んねしていたんだヨ。ったく、腹立つ連中だったヨ。あの天使の微笑みが胸糞悪いものだった」

「だから言ったはずでアール。暴れるのもほどほどにしろと」

「まあ、いいんじゃね?また元に戻ることができたんだからヨ」

「これを機に行動を慎むでアール」

「うるせえヨ。Rはお人よしすぎるんだヨ。自分のことぐらい自分で管理できるから心配するんじゃねえヨ」


小さな赤ん坊にグチグチいわれ、逆に『R』が口を慎んだ。
何だか『R』が可哀想で居た堪れなくなった『L』が笑って場の雰囲気をガラっと変える。


「はっはっは!Vちゃんはいっつも一言多いよな!心配してもらえるって言うのは有難いことだと思うけどな」

「うっせーヨ、キャラメル頭!てめえは黙ってろ!」

「お前が黙れ。うるさいのはVちゃんの方だ。いつもオレたちをまとめてくれるチャーリーに感謝ぐらいしたらどうだ」

「……チッ。腹立つ男だヨ」


割り込んできた『L』に腹を立てた『V』であるが、舌打ちをした後は口を開かなくなった。『L』の説得が効いたのであろうか。
『V』を抑え込んでくれた『L』をチラッと見てから『R』は次へと進める。


「Uは何か行動を起こしたでアールか?」


相手が『U』ということで敢えて顔を向けない『R』。身内にもキモがられている『U』はクスリッと笑ってからこう答えた。


「毎日、お主の手入れをしているぞよ」


そして"お主"の仮人形の頭を撫でる。
これはいつの日か人形になったクモマが撫でられる運命になるのであろう。
こんな奴に狙われていて哀れだな、と人形になる予定の子に向けて全員が同情の視線を送った。

急いでメモをとってから『R』は『U』の隣りに目を向けた。そこには『T』がいるはずなのであるが、空気だけが座っていた。
『T』は部屋に篭っていたかと思い出してからその隣の席である『S』に声をかける。


「Sはフェニックス管理をしていたでアールな」

「そうだ。俺様はMと一緒に管理してたんだ」

「ぎゃーっしゃっしゃっしゃ!フェニックスは俺様を燃やしてくれるから気持ちいいよ!」

「いいなー!俺様は切り刻みたくても切り刻むことは禁止されてるから出来ないんだ!」

「いいよいいよ!その代わり俺様を切り刻んでくれればいいから!」

「それならご希望通りに」


『S』と『M』はフェニックス管理をしている。
二人は同じ顔なので区別するのが非常に難であるが、大幅に違うところといえばサディストであるかマゾヒストであるかというところ。
『M』に言われた瞬間『S』はどこからともなく武器を取り出し、『M』に向けて刃物を投げ飛ばした。
見事腹に刺さり、『M』は嬉しそうに笑っている。ときどき外れた武器が隣席である『L』に刺さりそうになり、彼は怯えていた。


「誰かこの二人を止めてくれ!オレが死ぬ!」

「いっそ死んじゃえーヒッヒッヒ!」

「何言ってんだよ!Lを刺すぐらいなら俺様を刺してくれよ!」

「こらこら、やめるでアール」


『S』から『M』に向けて無数の刃物が飛行するので、その間に座っている者たちは無言の悲鳴を上げていた。『R』なんか『S』の隣席なので本当に危機である。
手を打って『S』を抑えたところで『R』は自分の右隣に座っている『Q』に報告をお願いした。


「Q、活動報告を頼むでアール」

「ああん?俺に向けて頼みごととはいい度胸だなこの野郎!」


しかし『Q』は隣りの『R』の胸倉をつかんで憤っていた。
胸倉を掴まれた『R』は戸惑っている。


「いや、これは我が一族の名誉のためを思っての活動であってきちんと答えてもらわないと困るでアール」

「うっせえんだよちょび髭!俺に喧嘩売ってんのかぁ?ああん?」

「ヒッヒッヒ!それなら俺様にもやらせてくれよ!今非常に肉を切り刻みたい気分なんだ!」

「何言ってんだよS!それなら俺様を切り刻んでくれ!」

「喧嘩反対ー!もうやめろよお前ら!」


両サイドからリンチを喰らった『R』は困り果てた顔をしている。
苦労人の『R』を助けるために『L』も参戦するがそれはなかなか治まらず騒ぎは大きくなる一方。
しかし、パタンと本が閉じた音がすると全員の口が閉じた。
『C』が、熟読していた本を閉じたのだ。つんと本の匂いがまた漂う。


「ワシは静かに読書をしたいんじゃが」


『R』の右左に座っている者たちの動きも止められた。
胸倉を掴んでいた『Q』は体を震わしながらやがて『R』を離す。
その姿を見た刹那、全員が「Cに動きを操られている」と悟った。

完全に『Q』と『R』に距離ができたところで『C』の傀儡術は止まる。


「ふざけとらんでさっさと活動内容を報告したらどうじゃ?」


自分の意思で動けることを手のひらを動かすことで確認した『Q』であるが、もう何も言わない。
じっと『C』を睨んでいる。『C』も睨み返す。
ククっと『C』の笑い声が響いた。


「それとも何じゃ?エキセンに不名誉なことでもしとったのか?」

「……うるせえじじい」

「クク、つまらないことで口論する奴じゃな」


嫌な沈黙が流れた。これがエキセントリック一族のトップに立っている者の力なのか。
同類をこのように操ることが出来るとは『C』、怖ろしい者である。
静まったところで再び読書に励もうと本を開く『C』だが、その前にある場所に目を向けた。
そこは『L』。『L』は『C』に向けてシルクハットのつばを下げ「ありがとう」と告げているようだ。
『C』も口元をゆがめることにより相手に応えた。

場が静まったところで、『R』が再び『Q』に訊ねた。


「活動報告をお願いするでアール」


すると今度は正直に答えた。


「隣族と喧嘩していたことぐらいだ」


エキセントリック一族が身を潜めているこのブラッカイア大陸では数多くの小一族がいる。
エキセントリック一族もその中の一つであるが、ご覧の通り奴らが最も危険だ。
『Q』は普段から物事あれば喧嘩で事を済ませるという考えを持っているらしく、毎日のように喧嘩をしていたようだ。
レポート用紙にそのことを書き込んでから、『R』は進行した。

『Q』の右側の席は二席空いている。誰も座っていない二席。
目を細めて『R』が訊ねた。


「今回もOは出席していないでアールか」


『R』は確実に『L』と『B』を見ている。
二人は同時に目線を反らした。
しかし『L』が応える。


「オレは知らない」

「本当でアールか?」


しつこく聞かれたので『L』は眉を寄せて、「そもそも」と発言を繋げた。


「あいつのことなんか普段誰も心配していないだろ。今回も気にすることないじゃないか?」

「まあ、そうでアールが」

「早く次に行けよ。次はNだろ?」


『L』が強制的に促すと、すぐに『N』が反応した。


「へっへーんだ!残念だったなーおいらはなーんにも報告することないんだよー!」

「いや、それは自慢することじゃないだろ?」


見るからに子どもの容姿である『N』は元気よく笑っている。
『L』に向けて『N』が言った。


「L兄ちゃんー!今度スカートめくりの旅に出ないかー?」


すると『L』は目の色を輝かせたが、頭を振って考えを直した。


「いや、我慢する」

「んじゃおいら一人で旅にいってやるぞーいいのかー?」

「が、我慢する…!」

「L、あんたそんな旅なんかに出たらケツ抉るわよっ」

「ごめんなさい。絶対にいきません」


変な誘いに惑わされる『L』だが、『B』によって鎮まれた。
頭を垂らす『L』に向けて『R』が口を開く。


「うなだれている場合じゃないでアール。次はLの番でアール」


『R』に注意され、『L』は顔を上げた。『N』の右となりは『M』だが、『M』は『S』と行動が常に同じなので流したのだ。
『L』は目を閉じることで冷静心を取り入れ、エキセントリック一族のトップの一人として目を開く。
きりっとした表情で挑んだ。


「そうだな、今までの活動内容についてか」

「出勤回数が多かったでアールが、どこで何をしていたでアール?」


突っ込まれ、『L』は陽気に笑い声を上げた。


「残念。それはただのお散歩さ。特に大きな活動は起こしていない」


シルクハットのつばをさげることにより、話題から逃げる。


「オレ、闇魔術はからっきしダメだからさ、オレに希望を託さないで他の奴らに託してくれよ」

「そんなに我が一族の力になりたくないでアールか?」

「…さあな。オレは気まぐれだから」


そしてその場に空気が鋭く揺れる音がした。舞い上がる煙。『L』が指を鳴らしてこの場から消えたのだ。
『L』が逃げたと知ると『R』は深くため息をついた。


「全く、何を考えているのかわからない奴でアール。あいつは力があるんだから我が一族のために手を貸してくれたら非常に助かるのでアールが」

「あんな奴ほっとけヨ!闇魔術が使えない奴なんて一族にいらねえヨ。あいつがここの四天王になっている意味すらぼくちゃんには理解できねえヨ」

「んふ。それならばLの枠を外してそこにアタシを入れてほしいわね」

「何言ってんだヨー!そこにはぼくちゃんが入るんだヨー!」

「こらこら、醜い争いはやめるでアール。Lのことは放っておいて次に移るでアール」


それから『R』は『K』に訊ねた。


「K、近頃は何をしていたでアールか?」


すると、隣にいた『L』が消えたことにより元気がしょげ返っている『K』が答えた。


「L様…あたしを置いていかないでくださいよー………」

「K、報告をしてほしいでアール」

「L様…L様……ったく、L様を追い詰めたのは全てR!てめえのせいだごらぁ!!」

「ジェーイ!Kちゃん、落ち着くジェーイ!」

「てめえなんかに『ちゃん』呼ばわりされたくねえよ!うぜえから消え失せろ!」

「喧嘩はやめるでアール。また止められるでアールよ?」


愛しの『L』が消えたことにより深く心傷ついた『K』は隣の『J』に怒りをぶつけるが『R』の言葉によって止められた。
『R』の言葉には「今度はお前がCの傀儡になるでアールよ」が込められている。それに気づいたから動きを止めたのだ。
そして『K』は先ほど切れだした者とは思えないほどの大人しさを作ってから活動内容を報告をした。


「あたしは、L様の全てを探っていただけですー」

「Lの、でアールか」

「L様の部屋の家具の配置とか、L様の健康診断をこそっと計って見たりとか、L様の後をこっそり追ってみたりとか」


おお、Kよ、それはいわゆる『ストーカー』ってやつだよ。
深く内容を知るのを恐れた『R』は最後のひとりとなった『J』に目を向けた。


「最後はJ、お前は一体何をしたでアールか?」


『R』の問いかけに『J』は困った様子を見せた。


「ジェジェ!お、オレっちは何もしなかったジェイ!」

「やはりでアールか」

「やはりって予測してたジェイ?!ひどいジェイ!オレっちだってやればできるジェイ!」

「ほう、そしたら何かできたでアールか?」

「ジェ……その、この前お菓子の城を作ったジェイ!」

「これにて活動内容報告会を終了するでアール」

「ジェジェー!軽く流されちゃったジェイ?!」


騒ぐ『J』を手を打つことにより抑え、『R』はやっと終えた会議に一息ついた。
今まで書き込んできたレポートを眺め、また黒い羽根に口をつけて色を取得したところで字を一言二言付け加える。

全部の闇から注目を浴びているところで『R』はレポート用紙を閉じ、全部に告げた。


「これにて今回の総会を終了するでアール。しかし、四天王であるC、U、L、Gは後ほど残ってほしいでアール」


そして手を打つことで姿を消す。
連なって全部の闇がその場の闇に溶け込んだ。


それぞれが行動を起こしているエキセントリック一族。
何が目的なのか。全てが趣味のレベルであるが、それでも怖ろしいものを漂わせている。

その場に危険な空気が横切った。






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