宝箱があったこの空間にはまだ何か仕掛けがあるようだ。
それに気づいたのは、少しだけゲームに詳しいソング。
使用キャラのトーフを動かして仕掛けに歩み寄ってみる。
「どないしたソング?何か怪しいもんでもあったんか?…ってあだ!」
動かせられながらトーフが天に向かって訊ね、しかし壁にぶつかって撃沈する。
顔を覆って痛さを堪えているときにソングが答えた。
『大抵こういうのには二重トリックが仕掛けられているんだ』
「いたたた…何やて?」
「二十ってそんなにトリックが仕掛けられてるのか?」
『お前は馬鹿か。二つ重なってトリックが仕掛けられていると言ってるんだ』
お馬鹿なサコツに頭を抱えながらもソングの口は止まらない。
『ブロックを伝って宝物を手に入れたが、もしかするとこの奥にはまだ仕掛けがあるのかもしれない』
「そうなんか、ってあだ!」
『タヌキしか喜ばないような宝は前振りで、奥にはまだいい物がある可能性がある。見る限り奥にも行けそうだ』
「ほなもっと探ってみるかってあだ!」
「トーフ、大丈夫かい?オパチョッフ斬り」
「もうその手には乗らないで!ってあだ!」
「さっきから壁にぶつかりすぎだぜトーフ!」
そういうことで、ソングの力説により全員で奥へ行ってみることにした。
確かに宝箱の奥にはまだ道が続いている。もしかするとソングの予言どおりになるかもしれない。
次は皆が喜ぶような宝物がいいな、と思いながら足を運ぶ。
その中で一人、クモマだけが転がっての移動だが、ブチョウが操っているため文句が言えまい。
ブチョウに操られている以上、クモマには可笑しくなってもらおう。
少し薄気味悪い場所なので何があるのかまるで見えない。
しかし視力の良いサコツには全く問題のないものであった。これも悪魔の力なのであろうか。
目を凝らして奥を見て、サコツが声を上げる。
「何かあるぜ!」
『え?何があるの?』
チョコが訊ねると、サコツは首をかしげた。
「それが何なのかよく分からないんだ。でも宝箱の形ではなさそうだぜ!」
「お、そうなんか?ってあだ!」
『宝じゃないなら一体何かな〜?』
『行ってみる価値はありそうね』
物がある、という情報を得ると早速ブチョウが行動を起こした。
またボタンを入力することにより、転がっているクモマの回転数を倍に上げる。
クモマはこの上ない速さで転がっていった。
「ああああぁぁぁぁ」
「クモマ!あんたさっきから回りっぱなしやけど大丈夫か?ってあだ!」
「クモマとトーフ!いろいろと大丈夫か?さっきからひどいぜ!」
『何か、惨めになってくるねー…』
転がりっぱなしのクモマと壁にぶつかりっぱなしのトーフ。
サコツとチョコは惨めな二人に同情の視線を送った。
やがて真っ先に突っ走ったクモマが、その例の場所に着くことが出来た。
回転が止まったところでふらつきながらも立ち上がり、そのものを見ようとする。
続いて残りの二人もやってきた。
「…?」
「何だ何だあ?」
「"物"には変わりないけど、アイテムじゃあらへんな、ってあだ!」
『トーフちゃんさっきからぶつかりすぎよ?!』
『扱いにくいんだ。仕方ないだろ。ところで一体何を手に入れたんだ?』
『最高級のアフロかしら。モンモン』
『それは"ドキドキ"の間違いか?それとも"わくわく"か?』
『なんか優しいツッコミだね?!』
クモマが手にした物を全員で見やるが、それは先ほど『?』ブロックから出たキノコでもなくて、何か武器になりそうなものでもなかった。
それを手にして、クモマが不思議そうに訊ねた。
「シルクハット?」
クモマの手にはシルクハットが乗っていた。
暫くの間シルクハットを観察する。
しかし何も変哲は無かった。
シルクハットといえば、見覚えがある。
そう。我らの敵エキセントリック一族の一部が身に付けている帽子だ。
しかし、『L』や『B』が身に付けていたシルクハットとは一味違う。
少し小さいのだ。頭が小さい者が身に付けていたのだろうか。
そもそも、このシルクハットがエキセントリック一族のものとは限らないだろうし、メンバーは気にしないことにした。
「長帽子なんか使い道あらへんわ。とっとと捨てて先に行こうで」
「そうだぜ!早くここから出ることを考えようぜ!最上階にいるお姫様を助けなくっちゃよ!」
トーフとサコツがそういうけれど、クモマは気になった。
シルクハットなんて普通落ちているような物ではない。きっと誰かが落としたのだ。
そう思ったのでクモマは持っておくことにした。
アフロ頭の上に乗せて、いざ出発。
「「いやいやいや!その格好は明らかに変だ!」」
「さあ行こう」
「アフロを取るか帽子を取るかどっちかにせえ!」
「大丈夫だよ。邪魔にならないし」
「俺らはクモマの心配をしてるんだぜ?!」
「心配してくれてありがとう。もう目は回っていないから」
「いや!そっちじゃなくって!」
思考回路が少々ずれてしまったクモマを本気で心配していた二人であるが、クモマに軽く流され断念に終わった。
本当に早くゲームをクリアしなければ、負傷者が出る。脳の負傷者が出る!
もしかしたらどこかでこのシルクハットを落とした人と会えるかもしれない、と思いクモマは足を進める。
二人も置いていかれないように、だけれど可笑しな頭は見ないようにと急いで後を追う。
この空間にはまだ奥があるようなのでもう少し奥に行ってみることにした。
+ + +
ゲームをやっていて、ふとあることを思い出した。
「そういえば、ここには住民がいないのか?」
それはソングの発言であり、始めこの村に訪れたときに浮き出た疑問でもあった。
そういえばそうだった。ゲームに夢中になっていたから忘れていたが、あれから結構時間がたっているというのに村人一人現れてこない。
辺りを見渡してみると家が連なっているのが見えるのできっと住民自体はいるのであろう。
しかし住民は外には現れない。
家の中にいるのか?
「ずっと家の中に隠れてるのかな?」
「隠れる理由がまずわからねえだろ」
「だけど村のよって風習が違うからチョコの考えも一理あるわよ」
コントローラーを持った3人の声はマイクに拾われなかった。
3人は3人だけで話を進めていく。
目は画面に、親指は十字キーに。口は開き意見を交わす。
「まず、俺らが何故あいつらを使ってゲームしているのか分からない」
「そういえばそうよね!夢中になっていたから全然気にしてなかった!」
「これは何かの運命だと思うわ」
「何だそのドラマみたいな発言は」
現れない住民のことは後にして、まずは自分らの今の状況について考えることにしよう。
このゲームを始めるきっかけになったのは、そう、トーフの足元に落とし穴が出現してトーフとその他もろもろが落ちてしまったことにある。
それで残された3人がどうしようと悩んでいたとき、突如このモニターが現れた。
自分らの足元からイスも出現して自動的に座るハメに。気づけばコントローラーも手にしていた。
このように、成り行きでゲームをすることになったのだ。
全てが突然だったので、理解する時間も疑問を持つ時間も無かった。
『自分たちはゲームが大好きなんだよ』
天から声が降ってきた。放送だ。ゲームから流れている軽快な音楽、それに乗りながら放送が自分らの疑問に答えてくれた。
放送はリズムに乗っていく。
『ゲームが好きだから他所から来たお客さんにもこうやってゲームしてもらってるんだ。ゲームっていうのはこのように楽しいものなんだよ、て知ってもらいたくて強制的だけどやってもらってるの。今あなたたちがやっているように』
「「……」」
理由を聞いて眉の彫りが濃くなっていくのが分かる。
眉間にしわが寄っているソングとブチョウはお互い口を閉じたまま。
対してチョコは違う形で眉を寄らせて、恐る恐る口を開いていた。
「確かにゲームは楽しいよ。だけど仲間を使ってゲームはしたくないよ…」
『楽しいならそれでいいよ。自分たちは満足だよ』
「………」
「おい、他の連中はどこなんだ?」
チョコが苦い表情のまま固まったのを見てソングが動き出した。
前々から浮かんでいた疑問である住民の居場所、そのことを訊ね、放送が答える。
『村人はみーんな部屋に篭ってゲームをしてるよ』
「「………!」」
『ゲームは楽しいからね!毎日やっても苦にならない』
住民は家の中にいた。その考えはあっていた。
しかし自分らはてっきり住民は部屋に隠れているのでないかと思っていた。
今まで旅をしていて、そのような場面に何度もめぐりあっていたので。
だけれど今の真実を知り、呆気に取られてしまった。
一度も外に出ずに家の中に篭っている理由が、ゲームをしているからだと?
あまりにも
「「ふざけてる」」
その場の空気に重い息が乗っかった。
ソングとブチョウが合わせた言葉、それがあまりにも重いものだったので、一気に場の空気が沈んだ。
どっしりと重い言葉は、放送の声を途切れさせ、仲間であるチョコの言葉も奪っていた。
しかし、チョコの場合はすぐに震えが取れた。
ゲーム画面に異常が発生したからだ。
ソングとブチョウもそのことに気づくと、先ほど邪悪な言葉を言い放った者とは言えない明るい声を放った。
「やったじゃんー!ちょーラッキー!」
「まさかこんなところに隠し扉があったとは」
「まさに運命ね」
放送の声は途切れてしまっていたが、泣いているのが聞こえるような気がする。
自分らが好きなものを馬鹿にされたのがショックだったのであろうか。
しかし、このゲーム好きは異常だ。
部屋に篭ってゲームばかりだとこれからの人生が大きく変わってしまう。
今までもずっとこのように生活をしてきていたのだろうか。
いや、違うであろう。
きっとこれは"ハナ"が関係してあるのだ。
"ハナ"であれば人々の思考を狂わせることが出来る。
この村の場合は"ハナ"に『ゲーム好き』というのを利用されてここまで異常な考えを持ってしまうようになってしまったのだろう。
そう解釈し、3人と3人は最終ステージに向かった。
+ + +
「「…近道しちゃったのか」」
ゲームの中にいる3人は、目の前にある光景に勢いよく目を擦った。
まさかこんなにも早く最終ステージを迎えるとは思ってもいなかったのだ。
しかし、目の前にあるものは一枚の扉であり確実に『大ボスの小部屋』と書かれてある。
「大ボス、といえばこのゲームの最後を締めくくる敵のことだよね」
「マジでかよ!ここまで一度も敵が現れなかったぜ!」
「ワイらは裏道を通ってきたみたいやな」
ブロックを伝って宝物を手に入れた場所、実はこのゲームの裏道へと繋がる入り口でもあったのだ。
そのため容易にここまで行くことが出来た。いや、一部省く。
壁に当たりすぎてボロボロになっているトーフがこれからのことを悟ってみた。
「大ボスっちゅうことはかなり強いやろな」
「そうだね。ここまで敵が出てこなかったというのも兼ねてボスは強いだろうね」
「ってかよー、戦う前から仲間がボロボロっていうのもどうよ?」
二人がボスを目の前に怯えているとき、サコツがふとそんな二人を見やった。
確かに二人はボロボロだ。壁にぶつかりすぎたトーフと回りすぎたクモマ。しかもクモマはアフロ頭にシルクハット、快適足長グッズ着用だ。
だがこのように心配している本人も巨大化しているため変というのに等しい。
これでは敵の首を取る前に笑いを取れてしまうであろう。
しかし、心配されている二人は気にしていない様子であった。
「よし、中に入ってみよう!」
「「おおー!」」
クモマが促して、早速扉を開けようと一歩前に出た。
と、その瞬間
「アフロファイアー」
クモマは扉目掛けて勢いよく拳を突き放ったのだ。これもブチョウのボタン入力の仕業である。
豪快に突き破られた扉は繋がる部屋の中で宙に舞い、中で待機していた大ボスも驚きの悲鳴を上げていた。
「ドアが突き破られたー?!」
「あんたがボスか!」
いざ、参る。
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