「あいつら、自分の意思でも動けるのか」
操作が荒いソングは何度もトーフを壁にぶつけ画面越しから叱られてしまっていたため、今はコントローラーから手を離していた。
しかし、画面上のトーフは動いている。
なるほど、自分らがコントローラーで操作しているときだけ相手は操られるようだ。
つまりこのように操作しなければずっと奴らは自分らの意志で動くことが出来る。
そういうことで操作をやめたソングであったが
「ソングもちゃんと操作してよー」
「そうよ。ちゃんとタマを虐めなきゃダメでしょ?今のあんたは最高級のタライ並にいけてるのよ」
「…褒められているのに、何か酷く嬉しくないのは何故だ?」
「最高級のタライと同じレベルにされたからじゃない〜?ま、一緒にやろうー!」
女二人にグチグチ言われ、結局はやるハメになった。
先ほどの会話はマイクに拾われなかったようで画面からトーフのツッコミがこなかったが、ソングがまたコントローラーを持つと、何やら悪寒を感じたのかトーフが嫌そうな目を向けた。
『あんた、ちゃんとしてぇな』
「分かってる」
操作しないといけないと思うと首が折れる。トーフに叱られるからだ。
しかし女二人がゲームに参加しているのだ。自分もしなくてはならないと責任を感じ、再び親指に力を入れることによりトーフを動かす。
刹那、トーフは穴にまっ逆さまに落ちてしまいそうになった。
急いでサコツが助け、無事に生還できたのだが、トーフは無論カンカンだ。
『あんたは信用できんわー!!』
何度も聞いた怒鳴り声を浴び、ソングは目の辺りを顰める。
「おかしい。何故こんなにも変に動いてしまうんだ?」
『あんたがゲーム音痴だからやー!!』
『オパチョッフ斬り』
『ぎゃー!何でチョップしてくるんやクモマ!』
『ゴメンね。勝手に動いちゃうんだよ』
「今回はタマをいじめることにしようかしらね」
『あかんー!ワイ殺されてしまうでー!』
可哀想なことに今回ブチョウのターゲットにされてしまったのはトーフであった。
先ほどから何度もクモマから繰り出されるチョップによって頭を沈めている。
哀れな、と思ったためソングがトーフを動かしてあげた…のだが、今度は壁に大きくぶつかっていた。
『もう嫌やー!!ヘルプミー!!』
「わ!トーフちゃんが壊れてきた!」
「哀れだな、ドラ猫」
『オパチョッフ斬り』
『あだ!…もー!あんたらのせいやこんボケー!あとで覚えときー!』
「トーフちゃん、頑張って…」
わーわー騒いでいるうちに、一方通行になっていた画面が大きく変わった。
少し広い部屋に着いたのだ。そして見える。多数のブロック。
それは宙に浮いている。
+ +
「何だろうね。このブロック」
「何や、嫌な予感がするわぁ。そして悪寒もするわ…」
「宙にブロックが浮いてるぜ!あれに乗るのか?」
突然のブロックの登場に、ゲームの世界に入ってしまっているクモマとトーフとサコツは目を丸めた。
ブロックは宙に浮いているのであるが、まるで透明な壁に接着しているかのようにどっしりと安定感がある。
サコツの言うとおりでこれはもしかしたら乗るためにあるのかもしれない。無数のブロックが奥へと伸びているので。
首を捻って考えてみた。
「もしかしたらこのブロックの奥には何かあるのかもしれないね」
「お、どんなんだ?」
サコツに訊ねられ、クモマは自分の持っている情報を頭から搾り出す。
「んー僕もあんまりゲームとか詳しくないんだけどね、結構こういうときはブロックに乗り移って移動してみるといいみたいだよ。そしたら違う部屋に辿りついたり宝箱があったりするかもしれないらしい」
「おおー!マジでかよー!なら早速乗ってみようぜ!!」
「ちょい待ち!ブロックの中におかしなもんが混じっとるで!」
情報を得てやる気になったサコツであったが、トーフによって遮られた。
トーフは5つぐらいに連なっているブロックの一部を指差している。
見てみると、そこにあるブロックの一つの異変に気づいた。
「何だろうね、あれ」
「『?』って書いてるぜ」
「ビックリ箱か何かやろか?」
一つだけ色が違うブロック。そこには『?』と書いてある。つられて3人も『?』になる。
同じ方向に首を傾げてブロックを不思議そうに見て正体を掴もうとするが、掴めなかった。
暫くの間、操縦者らも自分らを動かさなかった。きっと同じように悩んでいるのであろう。
だが、突如天からの声が聞こえてきた。違う、ブチョウの声だ。
『ぱお』
「それはもういいよ!聞き飽きたよ!」
「ブチョウー!何か分かったのか?」
間抜けな声に一気に気が抜けたクモマ、その隣にいたサコツが代わりに訊ねると、ブチョウはこう言い返した。
『ぱお?』
「分からなかったのかい?もういいよ!ぱおはもういいから!だからキミはもう喋らな…ローリングアターック!って、変なことさせないでよ!」
可笑しなブチョウに突っ込んで、しかしブチョウのボタン入力のせいで見事『ローリングアタック』という技を発動させたクモマは暫くの間グルグルと転がっていた。
その隙にソングが閃きを起こす。
『…もしかしたらあれは…何かが入っているブロックかもしれない』
ソングの閃きに、全員が納得した。
確かにアレは異様に怪しい。その名の通り不思議なものがあるに違いない。
クモマがまだ転がっているが、助けたときにオパチョッフ斬りを浴びてしまうかもしれない。そう思いサコツは敢えて助けずにソングの意見に頷いた。
「なるほどな!なら開けてみようぜ!」
『ああ、なら俺が開けてみよう』
珍しい。ソングが進んで行動を起こすようだ。よほど中身が気になるのであろう。
…て、ちょっと待て。
「あかーん!あんた何を考えとるんや!あんたが動くっちゅうことはワイが動くってことやんか!」
『そうだが』
「自覚ありかい!やめい!あんたじゃ何をやりだすかわからへん!ホンマやめてえなあ!!」
『黙れドラ猫』
天からの声に押しつぶされ、トーフは思うがままに動かされる。
このとき心底から「穴に落ちなければ良かった」と後悔した。
トーフは動く、まずは怪しげなブロックの下まで。
「…待てい。あんたはホンマ何を考えとるんや?」
『前にメロディと一緒にゲームをしたことがあるんだが』
「あんたゲームしたことあったんか?!それなのにこんなにヘタなんか!」
『黙れ!俺はほとんどやってねえよ!メロディがしてたんだ!隣から見てたんだ』
「んで、何や?」
『ああ、前に一度このような場面があったんだ。「?」ブロックがあってそこからアイテムが出てきたのを覚えている』
ソングは過去を思い出す。メロディとの思い出の一つを。
『そのときメロディは、使用キャラに頭突きさせることによって「?」ブロックからアイテムを出したんだ』
「え?」
不吉が過ぎった。トーフは急いで拒否する。
「やめーい!頭突きってあほなこと考えるんやない!そんなんでブロックからアイテム出せるはずないやんけ!」
『これはゲームなんだ。きっとそれでいいはずだ』
「メロディさんー!あんたの旦那を止めてえー!!」
『だ、旦那って言うな!俺とメロディはそんな仲じゃねえよ!』
動揺したトーフはソングの心を不安定にさせてしまった。
今のソングには躊躇いという文字が無い。遠慮なんかない。勢いよく実践してみる。
よってトーフの悲鳴が響き渡ることになる。
「いややぁあああぁあ!!」
ゴッチン
トーフが跳んだ。勢いつけてブロックに頭をぶつけた。目から星が出た。
頭をぶつけたことにより『?』ブロックから何かが噴き出る。これがアイテムというものなのか。
トーフが頭を押さえて痛さにもがいているとき、アイテムは連なっているブロックの道を渡って、やがて下へと降りてきた。
それを取りに挑んだのが
「おりあー!」
サコツであった。いや、チョコによって操られて取りに行っているのだ。
キノコのような形をしたアイテムを頭で受け止め、見事アイテムを手に入れる。
するとサコツに異変が起こった。
『ああ、思い出した。ブロックから出たのはキノコで、それを取ることによってキャラが一回り大きくなるんだ』
天からソングの説明が降る。
しかしそれは二人の悲鳴によって押し返された。
サコツが見る見る大きくなる。一回り大きくなっていく。
「「サコツがでかくなったー!!」」
「な〜っはっはっは!すっげーぜこれ!でかくなっちまったぜ!」
声もいつもより大きく響く渡る。サコツは大きくなってしまった。キノコを頭に浴びたことにより。
突然仲間が大きくなってしまったので、ショックを受けるクモマとトーフ。
「何てことだ!僕があれを浴びていれば足が長くなっていたかもしれないのに!」
「ワイが命懸けて取ったっちゅうのになんでサコツが取ってんのやー!ワイ損ばっかりやんか!」
しかし、屈辱を受けている理由は少し違うようだ。
それから3人は宙に浮いているブロックを辿って希望を奥へと託す。
一回り大きくなっているサコツが跳んで、続いてブチョウによって変な形でクモマが跳びあがるが、彼は足が短いために上手く飛び移ることが出来ずに何度も下に落ちていた。
下が穴でなくてよかったと思ったがそれよりも彼は自分の足に対して喚いていた。
「この足のせいで…この足のせいで…!」
「クモマ!自分を追い詰めるんじゃないぜ!」
『そうよ。ほら、ローリングアターック』
「わーい世界が自分を中心に回っているように見えるよ」
「あかん!クモマが可笑しくなってしもうた!」
「仕方ないぜ。あのブチョウが操ってるんだもんよー」
「そやな。それに比べてあんたはチョコに操られとるから楽やよなぁ」
宙に浮いているブロックの下ではクモマが再びグルグルと回っている。
あまりにも哀れな光景を見て目を伏せる二人。しかしトーフの目はそれよりも深く悲しみに帯びている。
先ほどからトーフも悲惨な目に遭っているので自分を見ているようでより見てられない光景になったのだ。
対してサコツはキノコによって大きくなっただけで他には何も悲惨な目に遭っていない。
そのためサコツが羨ましくて仕方なかった。
「な〜っはっはっは!日頃この行いがいいからだぜ!」
「ワイも皆のために頑張っとるんやけどなぁ…」
「ジャポーニカ!」
頭を垂らすトーフの背後には、先ほどここから落ち、下で回っていたクモマがいた。
いや、クモマは『ジャポーニカ』という技によりハイジャンプしてきたのである。
ゲームだから何でもありか。頭の中が麻痺してしまったためクモマとブチョウには突っ込まないでおいた。
「よっしゃ!もっと奥に行くぜ!」
「ソング!ここはワイに任せとき!あんたが操った時点でワイはまっ逆さまや…ってあああああ」
「トーフ!?大丈夫かい?ってあああああ」
ソングがコントロールしたことによりブロックから足を踏み外したトーフが地面に落ち、続いて短足なために足が届かなかったクモマも落ちる。
そんな二人をサコツは哀れな目で見ていた。
「…俺よりあの二人の方がボケだよな?」
思わずサコツは禁句を言い放った。
それから無事、全員でブロックを渡り終えた。
一回り大きくなっているサコツはやはり楽に渡ることが出来たようで全く呼吸が乱れていないが、残りの二人は空気を取り込むのに忙しいようだ。
二人の代わりにサコツが辺りを見渡す。
ブロックの道の先にあったものは、壁が凹んだことにより小部屋となっている場所。
そこに今足をつけている。
「うへー。せっまいとこだぜ!」
目を配っていると正面に何かがあることに気がついた。
まだ二人が体勢を崩しているので一人で正体を見に行く。
すると視力がいいサコツなだけにそれが何なのかすぐに把握することが出来た。
「……宝箱だぜ」
正体が分かるとすぐに死にそうな二人が飛びついてきた。いや操られて動いているのだ。
天から声が降ってくる。
『宝物には興味がある。絶対に俺が取る』
『何ほざいてるのよ凡。世界全ての物が私の物なのよ』
『姐御カッコいい〜!』
気づけば宝箱の在り処まで競争になっていた。
凄い勢いで3人が走る。操られて足を動かす。
しかしトーフは壁にぶつかって撃沈し、サコツはチョコのせいなのか女走りになっていた。そのため有利なのはクモマ。
だが、奴は足が短い。結局は互角の戦い。
そのとき、ブチョウがボタンを入力することによりクモマの動きが速くなった。
「ローリングアターック!!」
それは地面を抉るほどの回転力を見せるローリングアタックであった。
転がっているため然程力もいらない上、意外にもそれが速い。
そのため在り処に一番乗りで到着したのはクモマであった。
「あぁ…もうへとへとだ…」
ブチョウは思い通りになったことが嬉しかったようだが、操られているクモマは限界まで達していた。
心底、早くここから出たい、と思った。
しかし宝物をゲットすることによりクモマは回復する。
宝箱を開けると、神々しい光が放たれた。
「…こ、これは……」
そのとき、残りの二人もようやく辿りついた。
輝く宝物に目を奪われる。
何だ何だとクモマに近づいてみると、その正体を見ることが出来た。
「「それは…!」」
「快適足長グッズだ!!」
宝箱に入っていた物、それはクモマが最もほしいとする物である『快適足長グッズ』であった。
手に入れたことでクモマのやる気が満たされる。パワーも漲った。
「これでパワー回復だぁ!」
『よかったわねたぬ〜。ついでにアフロも追加してあげるわ』
「もう何でも来いだよ!ははは」
ブチョウのボタン入力により頭がアフロになってしまっているクモマであるが、彼はそれよりも何も足が快適足長グッズによって長くなったということが嬉しかった。
しかし、それでも隣にいるサコツには負けている、ということはこれから先も言わない方が彼のためでもあろう。
一人ボロボロ、一人巨大化、一人快適足長グッズとアフロ。
3人は最上階へと近づいていく。
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