魔物の存在に気づくと、真っ先に動いたのはソングだった。
腰にダルそうに備えられていたポシェットの中からハサミを取り出すと
それをクルリと回し、ハサミの大きさを変える。
同じく、ブチョウも自分の体全体を覆っていたマントを払って、腰につけている巨大ハリセンを取り出す。
サコツとチョコは素早く公園の木の後ろに隠れこむ。
お梅も彼らに引き込まれ木の後ろ。

前に出る、ソングとブチョウ。
目つきが鋭くなっている。
戦闘準備は整ったようだ。


その間に二体の魔物も完全にメンバーの前に姿を見せていた。
一体が大きな口を開いた。


『おやおや、お前らラフメーカーじゃないKA』


何故か語尾がローマ字だ。
続いて、もう一体も牙を動かす。


『自ら前に出てくれるなんて優しい奴だピー』


ピーが口癖なのだろう。
変な口癖の二対に鼻を鳴らしソングが睨んだ。


「魔物か」

「さあ、やりなさい。凡」

「待て。お前は戦わねぇのか」

「私はここで鬼ごっこでもしているわ」

「一人で哀しいことするな?!」

『何騒いでるんだピー!』

『さあ、俺たちと遊ぼうZE』


騒ぐ二人に魔物は早速襲い掛かってきた。
会話をやめ、魔物と戦うために大きなハサミの刃を開いて、同じく襲い掛かるソング。
対し、ブチョウはその場にまだ立ったままだ。


『バカな男だ』


バッチリ男に見られているようだ。
って、あのままでは魔物の標的の的だぞ!ブチョウ!

そして、魔物は案の定ブチョウに襲い掛かっていた。
ブチョウの両サイドから襲う魔物。
しかし、次の瞬間。
パシンという軽い音が鳴った。
なんとブチョウが巨大ハリセンを大きく振って、語尾にピーがつく魔物の腰を打ったのだ。

魔物はピーと叫んで大袈裟にぶっ飛ばされてしまった。


「「おおおお〜!!」」


感嘆の声を上げる木の後ろの腰抜けたち。
ハリセンで相手をぶっ飛ばすことが出来るなんて凄いことだ。
もう一体の魔物もそれには驚いているようだ。


『ロバート!!』


ピーの魔物はロバートという名前らしい。
顔に似合わずとっても素敵な名前である。

しかし、ここで気を緩めたのが運のつきだった。
叫ぶ魔物の背後には巨大ハサミを構えたソングが立っていた。
気づくのが遅かった。
魔物はそのときすでにハサミの餌食になっていた。


「余所見したらいけねえだろ」


邪悪なソングの声が響く。
ソングは魔物をハサミで挟むと、そのまま勢い良くハサミの刃を閉じ、斬った。

しかし、


『残念だったNA。俺の体は丈夫でYO』


魔物はビクともしなかったのだ。
言われてみれば確かに語尾がローマ字の魔物は鎧を着たかのような頑丈な皮膚を持っている。

しまった。と目を見開くソング。
ハサミを魔物から離すとハサミの刃が欠けていないか心配する。

その間に魔物がソングに襲い掛かってきた。
しかし、次の瞬間。

銃声が鳴った。

よって、語尾がローマ字の魔物はロバートと同じくぶっ飛ばされてた。
目を見開いてぶっ飛ぶ魔物を見るソング。
そして銃声が鳴った方に目を向ける。

それは自分らの背後にあった木からであった。
大きくなったしゃもじを持って、サコツが立っていて。
しゃもじからは赤い"気"が渦を巻いている。


「お、お前…っ!」

「なに気緩めてるんだよ!!ソング」


異常に汗を掻いているサコツは言葉を吐き捨てた。


「俺は戦いたくねぇんだよ!」

「おいおい!なんてやつだ?!って、お前さっき何したんだ?!」


ソングに問われ、サコツが応えた。


「俺は自分の"気"を操ることができる。それだけだぜ」

「…?!」

「護衛はしてやるから戦ってくれ」

「お前…自分から戦う気ゼロだろ」

「戦いは苦手なんだよ」

「…」


負け腰のサコツに舌打ちを打ち、ソングはまた戦闘に集中する。
サコツはゼエゼエ苦しく息を吐き、心を落ち着かせる。
相当戦うのが苦手なのだろう。

そんなサコツの背中にチョコが手を当て、慰めた。


その間、ブチョウは、ピーが口癖のロバートと戦っていた。いや、虐めていた。


「目潰し」

ドブスっ!

『ピーっ!!!』


あまりにも酷い虐め現場のため、次に移りましょう。



+ + +


「さっき、銃声が聞こえてこなかった?」


街中をのんびりと歩いているクモマとトーフの元に銃声らしき音が聞こえてきた。
トーフも頷いて応える。


「ワイも聞こえたわ。今回は幻聴じゃないみたいやな」


意地悪っぽくトーフがクモマを見る。


「さすがに今は上の空していないよ」


この様子から彼はしょっちゅう上の空になっているらしい。


「ま、嫌な予感がするわ。銃声が聞こえてくるなんて…」

「そうだね。えっと、どこから銃声聞こえてきたかな?」

「こっちや!」


銃声の音を頼りに現場へ向かう二人。
今度は走って移動する。

徐々に、ピーという悲鳴や銃声の音が近づいてきた。
もう現場の付近らしい。

緊張の顔色を見せるクモマと冷汗を掻くトーフ。
一体何が起こっているというのだ。



もう暗闇に目が慣れたからだろうか
目を凝らさなくても目の前に何があるのか分かるようになっていた。

公園だ。

公園が目の前にあった。
安堵を浮かべるクモマ。


「あ、公園だ。ここにサコツとお梅さんがいるかな」


のんびりと発言するクモマを打ち消す形でトーフが叫んだ。


「何のん気なこと言ってるんや!」

「え?」

「ここから銃声が聞こえてきたんやで!」

「あ!」


音を追って自分らはここまで来ることが出来たのだ。
公園から銃声が鳴った。
そうすると、この中で何かが起こったのだ。
嫌な気がする。


「サコツ〜!?」


思わず叫ぶクモマ。
そのまま公園内に入ると、異常な現場が見られた。

大きなハサミを構えるソング。
彼と戦っている魔物。
ピーと泣き叫ぶ魔物を虐めているブチョウ。
木の後ろに隠れているチョコとお梅。
そこから大きなしゃもじを持ってチラチラと姿を現すサコツ。


なんとそこにはメンバーが揃っている上に
彼らは魔物と戦っているのだ。


「おおークモマー」


冷汗を異常に掻いているサコツがクモマの声に反応した。
サコツの声にチョコも木から顔を出してきた。


「あ〜!トーフちゃんにクモマ〜!やっと来たね〜」

「だ、大丈夫?みんな…」

「見ての通り、ソングと姐御が戦ってくれてるよ…ってキャっ!!」


のん気に会話を交わすチョコの顔を無理矢理引っ込めて、サコツが叫んだ。


「危ね〜って!お前ら!!」


そして、しゃもじに溜まっていた"気"を銃のように撃った。
銃声に驚くクモマ。
この音が自分らの耳に聞こえてきたものだというのが今わかった。

サコツが撃った"気"はそのままソングの目の前にいた魔物に当って、ぶっ飛ばしていた。


「わー凄い…っ」

「ほれ、クモマもこっちに隠れろ。お前じゃいつ襲われるか分からねーからな」


あのまま上の空になりそうなクモマにサコツが誘う。
彼に言われ、頷くクモマ。
3人が隠れている木の後ろへ近づく。
と、そこで、叫ばれた。ソングに。


「おい!そこから離れろ!!」


他所から見るクモマにもソングが叫んでいる理由が分かった。
対し、状況が分かっていない隠れ組。


「え?どういう意味?」

「…っ!!」


サコツも"殺気"を感じ取ることができたのだろう。
すぐさま、しゃもじに"気"を溜めた。
しかし、その行動は遅かった。

サコツのしゃもじは宙を舞って飛ばされていた。

それによって存在に気づくチョコとお梅。
振り向くとそこには
いつの間にか木の後ろへと廻り込んでいた語尾がローマ字の魔物がいた。

しゃもじを飛ばされ、ショックを受けるサコツ。


「しまった!!」

「キャ――――?!!」

『……っ!!!』


悲鳴をあげる3人。
サコツは女性二人を守るために庇おうとするが魔物に睨まれ、動くことが出来なくなっていた。


金縛り?!!


苦い表情を作るサコツ。
チョコもお梅も二人で震えながらも逃げることが出来なかった。


『喰らEっ』


魔物は鋭く尖った腕を、動けなくした3人に目掛けて構える。

ソングが何か叫んでいるようだったが、聞こえなかった。
ブチョウやトーフもこのことに気づいたらしくこちらへと向かってくる。

しかし、もう間に合わない。


もうダメだ。やられる……。





深く、刺さる。鈍い音。


肌に感じるは、生暖かい液体。
大量のその液体は、サコツにもチョコにも掛かり。お梅は透き通っているためか掛からなかった。


目を見開く。
目の前の状況に、絶叫した。



「「クモマ――――っ!!!」」


全員が叫んだ。
大量に血を流してその場に立っているのはクモマだった。
クモマはあの瞬間。
彼らを庇うために、自分の身を犠牲にしていた。
魔物の鋭い腕は完璧にクモマの左胸を貫いていた。


「な、バカな!!」


サコツが喚く。


「クモマ―!!」


涙を流すチョコ。


「ちょっと待ちなさいよ!たぬ〜!!」


お人よしのブチョウがロバートを置いてコチラへ向かう。


「……」


トーフは何も喋れない。

あのときのことを思い出していたから。
それはエミの村での出来事。旅に誘うためにクモマと逢ったときのことだ。
突然現れた魔物に襲われそうになったトーフは
あのときクモマに庇われてしまっていた。
クモマは腹を深く刺され、いや貫通されながらも自分の身を犠牲にして…。
そのときは、回復魔法が使えるから大丈夫と言っていたが

今回の場合は…左胸を刺されている。
あれでは…。


しかし、クモマは、皆が思っている以上に、強かった。




「…………残念だったね…」


幻聴が聞こえた。
クモマの声が聞こえてきたから。
しかし、それは幻聴ではなかった。

左胸を貫かれているクモマは、大量の血を吐きながら、言っていた。


「どんなことをしても、僕は、死なないよ」


全員が絶句した。
何を言い出すのかと。

しかし、実際にクモマは死んでいない。
左胸を貫かれ、あんなにも血を流しているのにも関わらず生きている。


ありえない。


だけれど、それが今、目の前で起きているのだ。


『な、何故だYO』


魔物も信じられないといった表情でクモマを眺める。
クモマは平気そうに自分の左胸に刺さった魔物の腕を抜いた。
そして、応えた。


「僕には、ないからだよ」


血が出ている左胸に手を当てる。



「心臓が」



「「………っ!!!」」


まさに全員が驚いた。
まさかクモマの心臓がないだなんて。

真っ先にサコツが叫んだ。


「い、意味わからねーぜ?どういう意味だよ!」


口から流れた血筋を親指で拭って、クモマが拒否した。


「今はいわない。今は」


目の前の魔物を睨みつける。


「こいつを懲らしめないといけないみたいだから」

『…!!』


驚く魔物にクモマは素早く蹴りを入れた。
それによってぶっ飛ばされる魔物。
さすが力だけは異常にあるクモマだ。
彼は強い。


『くっそ〜!』

「一つ聞いておくよ」


襲い掛かってくる魔物に肘打ちを喰らわせ、クモマが訊いた。


「"ハナ"はどこにあるの?」


それに魔物は意外に正直に答えてくれた。肘打ちが効いたのだろうか…。


『…クソぉ……教会だZE』

「…教会?」


チョコが応答する。
続けてサコツ。


「協会って何の協会だよ?!ゴルフ協会か?」

「いや、キョウカイ違いだろ?!しかもゴルフかよ?!」


ソングがツッコんでいる間に魔物たちは会話を進めていた。


「どこの教会なの」

『SA〜、それは教えられないNA』


魔物が否定した瞬間、魔物はまたクモマによってぶっ飛ばされていた。


「ギャー!!」


魔物は見事、ソングまで巻き込んで豪快に倒れた。
可哀想に魔物の下敷きになってしまったソング。


「あ。ごめんね、ソング」


巻き込んでしまったソングにクモマは急いで謝る。
しかし、ソングはグッタリして、気絶していた。
反応の無いソングを見て


「よくも、ソングを…っ!」

『い〜やいやいYA?!自分がやったんだLO?!』

「いや、キミが重いのが悪いんだよ」

「無責任NA!!」


クモマを怒らせてしまった魔物は、次の瞬間、悲鳴を上げていた。






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