「な〜、本当にこの事件は"ハナ"が関係してるのか?」

「じゃないかな〜?私はそう思ったんだけど」

「もし"ハナ"が原因だったとしても、その"ハナ"がどこにあるのか分からねぇだろ」

「そのときはウンダバ様の力で探してあげるわ」

『あの…本当にお願いしてもいいんですか?』

「大丈夫だよ。私たちは世界を救うために旅をしてるんだから」

『はぁ…?』

「でもよ、トーフがいないと"ハナ"を見つけたとしても消すことができないんじゃねーか?」

「そうだな。あの"ひょうたん"がないと消せないからな」

「ええ〜そしたらどうしたらいいのよ〜?」

「ウンダバ様の力を利用するしかないようね」

「お前は何がしたいんだ」

「じゃ、トーフとクモマを探さそうぜ!じゃないと先に進めないし」

「そうだね〜。……って、ちょっとまって。何でサコツは二人と一緒じゃないの?」

「あいつらが勝手にはぐれたんだ」

「ウンダバ様の力ね」

「いや、違うだろ?!だいたいウンダバ様って何者だよ」

「食べ物」

「食料品かよ?!」

『あの…本当に…大丈夫ですか…?無理なさらないでください…』

「大丈夫だって。私たちを信じて!」

『………はい……』

「んじゃトーフちゃん達を探そうか」

「あ。待ってくれ。そういえば、あいつらとここで待ち合わせしてたんだ」

「え?そうなの?」

「うんだば(頷く」

「変な応答するな?!」

「これ、きっと流行るわね…っ!」

「何期待してるんだ?!」

「それじゃ〜ここにいればトーフちゃん達が来るってこと?」

「あいつらと約束したからな☆」

「お前を信じていいのやら…」

「ま、どっちにしろ私はここで仁王立ちするつもりだったし、あんた達で話し合って行動して」

「お前も動けよ!?」


そういうことで、メンバーはこの街の中の公園でトーフとクモマを待つことにしました。


+ +

そのころ、噂のトーフとクモマは…


「お腹すいたわ…」

「そうだね…肉食べたいな…肉…」

「あぁ〜エリザベス食いたいわ…あいつ腹たっぷんたっぷんしとったもんなぁ〜」

「サコツに怒られちゃうよ」

「共食いよりマシやろ?」

「……」


餓死寸前だった。

先ほどからフラフラになっているトーフを見守る形でクモマが後に続く。
今日のトーフは元気がないため、ちょっと扱いが大変だ。


「公園ってどこなんだろうね?」


サコツと待ち合わせをしている公園を探す。
しかし、レンガ造りの街並みしか見えず、公園みたいな広場は見当たらなかった。
もう少し奥の方にあるのだろうか。


「とにかく…ワイはメシ…」


対し、トーフはとにかく食べ物を食べたいらしい。
このままで本当に共食いをしてしまいそうだ。


「困ったねぇ〜………」


すると、突然クモマは動きを止めた。
急に途切れたクモマの言葉に疑問を抱いてトーフが振り向く。
クモマはとある家をじっと目を見開いて見ていた。


「ど、どないしたんや?クモマ…」


驚いた表情のまま固まっているクモマに問い掛けるトーフ。
しかしクモマの目線は家のまま。

やがて、恐る恐るクモマが口を開いた。


「あ、…あれ…」


そして、震える手をその家に差し伸べた。
トーフはその手を追う形で目線を動かす。
指差された家を眺めてみる。

すると


「………っ?!!」


声にならない悲鳴をあげた。
彼らが見たものは

エプロンを纏った、30代半ばの
体が透き通った女性。


彼らと目が合うと女性はこちらを羨ましそうに微笑んだ。


「ゆ、幽霊?!」


裏返ったクモマの悲鳴が聞こえた。
トーフは早足でクモマの元へ駆け寄り、二人で震え上がる。

彼らの様子を見て、女性が微笑んだまま眉を下げた。


『そんな驚かなくてもいいのに…』

「いやいやいや、驚くから!え?何?幽霊さんなの?!」


異常な早口でクモマが騒ぐ。
抑える形でトーフが冷静に口を開いた。


「あんた、何者や?」

『見ての通り、幽霊よ』

「や、やっぱり?」

「何や?敵か?味方か?」


トーフは礼儀っていうのを知らないのだろうか。
遠慮なく言葉を吐き捨てる。


『…さあ?私はただ娘の帰りを待っているだけよ』

「「娘?」」


外見からしても母らしい女性は、娘の帰りを待っているらしい。
…幽霊なのに…?
娘も幽霊なのだろうか…?


「娘さんを探してるの?」


いい加減慣れてきたのか、クモマが震えるのを止めて積極的に問い掛けてきた。
女性は頷いた。


『娘ったら、何時までたっても帰ってきてくれないんだから』


少し頬を膨らませて、女性は子どものように態度を悪くした。
女性にクモマがまた訊ねる。


「娘さんも…あなたと同じで幽霊?」

『そうよ』

「成仏できへんかったんか?」

『いや』


首を左右に振って、否定した。


『成仏はしてたのよ。村の人全員で仲良くね』

「?」

『そしたら、また下界に下りてたからビックリしたわよ私らは』

「どういう…?」

「村の人全員ってどういう意味や?」

『あら?街の中歩いて気づかなかったの?』

「?」

『街の人々、みんな幽霊だったでしょ?』


「「え??」」


思ってもいなかった展開に目を丸くするクモマとトーフ。
まさかと思い、辺りを大きく見渡す。

女性に言われて、やっと気づいた。

街には人がいたのだ。
大量の人が。

だけど、全ての人の体が透き通っていて。
全員が幽霊だった。


「「?!!」」


人がいた。
しかし、薄い存在だったため、ずっと気づかずにいただけだったのだ。

クモマがこの女性を見つけることができたのはたまたま運がよかったからだろう。


「人…おったんやな…」


人波を眺めるトーフ。


「気づかなかっただけなんだ…。人がいたのに…」


クモマが補足する。
呆然とする二人に女性が微笑んだ。


『全員が幽霊ですみませんね』

「何でみんな幽霊なんや?」

「ホントだよ。そしてどうして成仏したはずの皆さんがまたここに…?」


二人の問いを答えるために幽霊の女性は
村が丸ごと破壊され、村が消滅したこと。
知らぬ間にまたこの場に戻ってきてしまったこと。
以後"墓場"になっていたこの場がまた"村"の姿になっていたこと。
全てを話した。


そして、真実を聞き、驚きを隠せない様子のクモマに考え込むトーフ。
やがてトーフが表情を重くして口を開いた。


「もしかすると、これは"ハナ"が関係しとるかもしれんな」

「あ、やっぱり?」


クモマも同意見だったらしい。
女性は"ハナ"の意味がわからず首を傾げるだけだった。

接続詞をつけてクモマが続けた。


「だけどさ。"ハナ"ってそんなことまでできちゃうの?成仏した人たちをまたこの世に連れてきちゃったり、墓場を村の姿に変えちゃったり」

「できるから、"ハナ"は恐ろしいんや」

「っ!!」

「こん村の"ハナ"はかなり強いみたいやな。何せ村の姿を変えるほどやしな」

「村を破壊させたのも"ハナ"の仕業かな?」

「……」


黙り込むトーフ。
何かを考えているみたいだ。

そして、トーフは会話をポケっと聞いている女性に訊ねた。


「この村が破壊されたのはいつや?」


突然の問いに、戸惑いつつも、女性が応えた。
アバウトに。


『確か…10年前…いや、20年ぐらい前かしら』

「そんな前に?!」

「!!!」


女性の応えにトーフは異常に驚いた。
その様子にクモマも驚く。
そこまで驚くことだったのだろうか。


「何やねん…っ」

「ど、どうしたの?トーフ」

「村が破壊されたのは"ハナ"のせいじゃあらへんで」



「え?」



眉を寄せるクモマ。
"ハナ"の所為じゃないとなると一体何の所為だというんだ?
頭の中に過ぎったその言葉をそのまま口に出してみた。
すると、トーフが頭を掻きながら唸った。


「分からん。"ハナ"以外にそんなことができるものって何やねん…?」

「え?トーフにも分からないの?」

「ワイは最近村に"ハナ"が生えて、それに世界がやられつつあるっということしか知らんで」

「"ハナ"って最近のことなの?」

「今から1、2年ぐらい前や」

「かなり最近だね?!」

「まだ世界に"ハナ"が生えたばかりなんや。傷が浅いうちに消さなあかんと思ってワイはあんたらに助けを求めたまでや」

「……」


トーフは自分が知っている世界のことを淡々と言い放つ。


「とにかく、この村が破壊されたのは"ハナ"の所為じゃないみたいやな」

「そしたら、墓場が村の姿に変わって皆さんがまたこの場に戻ってきたのは…」

「……」


二人に目線を向けられ、女性は慌てて応えた。


『最近よ。本当に最近。1ヶ月ぐらい前だったかしら』

「…こっちのほうは"ハナ"やと思うわ」


女性の応えにトーフはそう解釈した。
トーフの意見を聞き、クモマも頷く。


「やっぱり"ハナ"は関係してるんだね」

「あぁ。はよ見つけて消さなあかんわ」

「一体どこにあるんだろうね〜"ハナ"は」

『"ハナ"って何のこと?』


先ほどから"ハナ"と連呼している二人の間に女性が割り込んできた。
"ハナ"について大まかに語るトーフ。
クモマも改めて"ハナ"について学習する。

・・・

『そんな厄介な"ハナ"があるのね』

「そうなんや」

「困ったもんだよね〜」

「ま、いろいろ話してわかったことは」


そしてトーフは全てをまとめた。


「こん村は10年から20年前に何かによって破壊された。そん後に"ハナ"が生えたんやな。そんで1ヶ月ぐらい前には"ハナ"は酷く成長してしもうてついには成仏していた元住民をここにまた連れ戻し墓場の形も村に変えてしもうた…」


頷くクモマ。
女性も同じく頷く。


「ま、今はとにかく"ハナ"を消してあんたらを元の世界に戻してあげなあかんようやな」

「村が破壊された事件の方は…?」

「論外や」

「!」

「ワイらは"ハナ"を消すだけや。そっちの方は知らん」

「そんな…っ」

「仕方ないことや。ワイもそんなの分からへん。ワイらは今"ハナ"のことだけ考えとけばええんや」

「…そっか…」

『ごめんなさいね。お二人とも。私たちのために…』

「いや、"ハナ"を消すのは元々ワイらの仕事やねん。心配しなくてもええで」


申し訳なく眉を下げる女性に微笑み返すトーフ。
そしてその間をクモマが破った。


「そういえば、娘さん帰ってこないね?」

『…そうね。全くどこへ行ってしまったのかしらあの子ったら』

「ほんならワイらが探してこよか?」

『そんな悪いわよ』

「いえいえ。僕たちも探している仲間がいるし」

「ついでやから探したるで」

『あら。そしたら頼もうかしら』

「御安い御用や」

「娘さんってどんな人?」


今から探すため
女性の娘の特徴を訊いておく。


『名前はお梅』

「お梅さんやな」

『歳は16だったような』

「16歳」

『体脂肪率は18%』

「いや、そこまで聞いてないよ?!』

『趣味は釣り』

「休日のお父さんみたいな娘さんやな?!」

『特技はカエル跳びよ』

「「愉快だ!?」」

「しかし、何に使うんだろう?カエル跳び…っ!」

『しかも微妙に横回転がかかっているのよ』

「「すげぇっ!!」」

「どんなカエル跳びや!?」

『そして苦手なものはカエルね』

「「カエル嫌いだった―!!」」


気を取り戻して。


『特徴的なところは細い体に長い髪かしら』

「なるほど」

「だいたい分かったわ。ほな探してくるで」

『ホントありがとね』


手を振って挨拶を交わす。
離れていく二人に女性は叫んだ。


『娘はたぶん、公園にいると思うわ―。あの子の好きな場所だから』


女性の助言を聞き、顔をあわせるクモマとトーフ。
丁度自分らが行こうと思っていた場所。都合がいい。


再び女性に手を振ると二人はのんびりと公園を探しに行った。




* * *


二人が向かうはここの公園。
果たして無事に着くことができるか不安なところだが。

そこには二人が探していたサコツをはじめ、ブチョウとチョコとソング、そして女性の娘のお梅がいた。
5人はのん気にブランコに乗って、遊んでいた。


「うへ〜。ブランコ楽しいぜ〜」

「お前はガキか」

「久々にブランコとかに乗ったな〜。たまにはいいね〜公園で遊ぶのも〜」


キーキーとブランコの鎖が音を鳴らす。


『ですよね。だから私この公園好きなんです。楽しいし』

「うん。た〜のし〜!」

「ガキが多い…」

「そんなお前も意外に楽しんでるじゃねーか。俺より高く上がろうとしやがってこいつ」

「…お前は俺の下をこいでればいいんだよ」

「…っ!何を〜こいつ〜!負けて溜まるかこんちくしょ〜!!」


ブランコをどこまで高く上げれるか競うサコツとソング。
側からみたらただのバカだ。

そんな二人を羨ましそうに眺めるお梅。
ちなみに、幽霊でもブランコには乗れるらしい。


「バカだね〜二人は〜」

『楽しそうで何よりですよ』

「…しまったわ。ブランコに絡まったわ」

「わ〜!姐御がブランコにありえない形で絡まってる〜!!」


女性陣もそれなりに楽しそうだ。
チョコに助けてもらい、無事ブランコの餌食から逃れることの出来たブチョウに、笑うチョコ。そして、お梅。

異常に盛り上がる公園。
場は薄暗くてもさすがはラフメーカー。笑顔が絶えない。


そして、

チョコが気づいた。
誰かの気配に。

薄暗いこの場で足跡が響く。
複数の音。
二人組みのようだ。


「トーフちゃん?クモマ?」


呼びかけるチョコに、聞いて気づくメンバー。
ブランコをこぐのを止め、その場に下りる。

足跡は徐々に近づいてくる。


「やっと来たか。あいつら」

「遅かったな」

「早く来なさい。二人とも。さもなければ…かかと落しよ」

「ひどっ!!」

「ちなみにスローモーションでお送りします」

「いいよ。そんな補足は!しかもスローなの?!弱っ!!!」


珍しくブチョウにツッコミを飛ばすチョコ。
その間に
足跡は徐々に近づいてくる。
やがて、目を凝らせば、何とか相手の姿が見えるぐらいの範囲に縮まっていた。

最初に気づいたのは視力のいいサコツだった。


「違う!!」


突然の否定の声に驚くメンバー。
チョコが問う。


「違うって何が〜?」


口を尖らすチョコに、サコツは冷汗を掻きながら、叫んだ。


「人間じゃねぇ…っ!!」



サコツの叫びに誰もが言葉を失った。

全員が目を凝らして、相手を見る。




闇から現れたのは………

二体の魔物。



それらは尖った自慢の腕を抱えて、

全員に険悪の笑みを飛ばしていた。









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