『さーついにレースがはじまったよーん!一位になってフェニックスを手に入れることが出来るのはどこの家族かなー?』
何台もの車が走行する道の頭上、星のように瞬く飛行物体。
よくよく見てみるとそいつがこの放送を流している種だった。
光の正体は神秘なる光、主に妖精と言った類が放つもの。虫のように透明感ある羽を羽ばたかせて、妖精は無数の車の後を追い、実況する。
なるほど、放送をしていた者は妖精だったのか。
「本当にこの世界は何でもありだね。まさか妖精もいるなんて…」
しかし、物珍しいという妖精が間抜けた声で放送していると思うとイメージダウンである。
そして前々から自分の正体を『妖精さん』と自称していたサコツはというと、本物の妖精を見て「俺にそっくりだぜ!」と無茶な発言をしてみせた。
車は走る走る走る。
それは様々な動物の力によって。
馬や犬が車を引いて走る中、鮮やかな色の豚二匹は人々の目を点にさせるほどの素晴らしい走りをしてゆく。
エリザベスも田吾作もこの村に着くまでずっとメンバーを乗せて歩いてきたのだ。
肥満度ある小さな体だけれど力には自信がある。レースとはいわゆる長距離走のことだ。つまり持久力を求められる競技なのである。
遅いけれどここまで車を引いてくれたということにも感謝する上で、今回ではいい走りを見せてくれていることに向けて彼らに1つ拍手を送りたい。
そういうわけで敵である他の家族は、むき出しの家族を乗せているボロ車が無駄のない走りをしていることに驚きを隠せなかった。
「な〜っはっはっはん!さすがエリザベスだわん!このまま一位になっちゃうわよーん!」
「2匹ともすごいね!まさか僕たちの気持ちが伝わったのかな」
メンバーはこのレースの優勝賞品『フェニックス』を手に入れるために優勝したいのだ。
ブチョウの親愛なる彼をもしかするとここで取り返すことが出来る。これは嬉しい情報だ。
だから意地でも優勝という王冠を手に入れ、そしてブチョウの笑顔も手に入れる。これがメンバーの目的。
そのためエリザベスと田吾作の走りにクモマは大いに感動する。
それをその豚らに伝えるとチョコはほんのりと微笑みを溢した。
「エリザも田吾作も優勝したいって言ってたよ」
エリザベスと田吾作の気持ちを聞いてメンバーの顔色も緩んだ。
「何や、わかってるやないかこん豚たちも。ブチョウのために優勝したいんやな」
「あら〜ん!さっすがサコっちゃんのエリザベスだわん!心優しいわね〜ん」
くねくねと体を動かしキモさを強化させるサコツの後ろには仁王立ちのブチョウがいた。
そのブチョウ、顔がとても真剣だ。この上ない真剣の眼差し。
このレースに全てがかかっているのだ。自分の愛しいあの人を取り返すことが出来るのだ。
フェニックスであるポメ王は、憎き相手オカマの様子からして奴に捕まってしまったかと思ったが、もしかすると違うかもしれない。
ポメ王は何らかの理由でレースの優勝賞品になっているだけかもしれない。
実はこの不死の薬もただの偽物かもしれない。
そう考えると胸が一杯だ。思考を全てプラスに変えると心が躍る。
「このチャンスは逃がさないわよ。マントヒヒの2匹には頑張ってもらうわ」
「奴らはマントヒヒではないと思うが」
豚二匹が引く車、頑張って先頭チームについていこうとするがやはり豚は豚だ。勝てない相手もいる。
さすがに馬には勝てなかった。馬は持久力のある動物。だから荷馬車にも使われる。
そんな馬に追いつかない豚たちは後をついていくことでもう限界だった。
「…困ったね。馬には勝てないか…」
「なら私が走っちゃおうかな」
そんな冗談言うなよと思ったソングであったが、彼女はまじめな顔をしていた。
チョコはペガサスと合成されたが失敗により馬の足だけを手に入れた。
そのため足は馬のように速い。だからチョコは豚の代わりに走るという。
しかしトーフにとめられた。
「あんたは力がないやんけ。あんたが馬の足を持っているとしても馬の力は持ってへん。なら車を引くことは不可能や」
「う!確かにそうね…!」
盲点だった。とチョコは喚く。
トーフに指摘されチョコはあえなく断念した。
その間にもこの車『ウミガメ号』は突っ走る。
しかし前車との距離は縮まらない。むしろ離れていく。
これは困った。
「何ぐずぐずしてんのよ。早く一位になりなさいよ」
この調子だと優勝が出来ないと悟りブチョウは表情では見せないが焦りを作った。
今に全てがかかっているのに。このレースで勝たなければ彼は手に入らないのに。
ブチョウの顔色を見て、メンバーも焦る。
「どうにかして一位になってよエリザと田吾作ー!このままだと姐御が可哀想よ!」
「エリザベスーん!サコっちゃんの愛をあげるから頑張って〜ん!」
「無理をせず、だけど優勝目指して頑張っておくれ」
「しかし馬を追い越せるか?」
とにかく優勝を目指したいメンバーは豚2匹を困らせる発言を多々する。
そのなかでソングが2匹を煽らず真っ直ぐと正面を見た。
その通り、馬に豚が勝てるはずが無い。今だって勝てていない。それなのに勝てることは出来るのか。
トーフが全てを解決する。
「できるで。ホンマ簡単な方法やねん」
トーフの自信の満ちた言葉にメンバーは身を乗り出した。
一体何なのか、問いかけるとトーフはあのときの目を作る。
そう、何かあくどいことを考えた目に。
不敵な笑みを溢した口が開く。
「このレースのルールはどんな手使っても構わんと言っとった。ちゅうことは、こんなこともやっても可能ってことや」
笑みは不吉をつれてくる。
トーフは裾に手を突っ込むとそこから糸を取り出して太陽の光を散らす。
ボロ箱から身を乗り出したトーフは全反射を繰り出す糸を前方へ放つ。手前にいる車、それを引く馬の後ろ足へと。
動きは確信をもたらす。
自分らの前方を走る邪魔な馬に糸を絡めるとトーフはぐいっと力強く引いた。
すると案の定の結果。
馬は足をとられひっくり返ってしまった。
馬が転んだということはその馬と繋がっていた車もバランスを崩して倒れる。
そういうことで、1体の車は馬と一緒に転がり他の車も巻き込みながら落ちていった。
「「…………」」
「つまりこんなことしても何も言われんってことやな」
自分らの前が空き、そこを埋めるためにウミガメ号が割り込む。
上から妖精が繰り出す放送の声が聞こえる。
『おおーっと!目の前で見ちゃったよー!ボロ車が何と攻撃を仕掛けてきたよーん!だけどルール違反はしていないからこのまま続行オッケーだよー!』
放送から広がる情報。それは他の家族に恐怖を持たせる。
対して犯人であるボロ車の持ち主は…
「「…………………」」
お互い顔を見合わせ、何やら不敵な笑みを溢しあっていた。
+ +
先頭チームの先頭近くを走っている車。それはヤクザの塊。
「優勝は俺たちの家族だ!邪魔な奴らは処分だ!」
車から身を乗り出してブンブン鎖を振り回しながら吼えるヤクザの父を中心に成り立っているこの家族は、先頭を走る車をボコボコにするまで鎖をぶつけ、潰している。
迷惑を無視して奴らは前へ前へと走る。
「がははははは!これで俺らの前に出る者はいなくなった。がはははは」
ヤクザの父が大声で笑っているとき、それを遮る音が後方から聞こえてきた。
何かと思って、身を乗り出していた体を後ろへと向かせる。すると見た。
驚くべき光景を。
「邪魔や邪魔や邪魔やー!ワイらの前におると潰れるでー!」
ガラガラといつでも壊れそうな音を背景に近くにいた車を転ばせるボロ車がいたのだ。
フードを被ったトーフが糸を使って次々と相手チームを転ばせている。その数、数多。
只今先頭を突っ走り中のヤクザもその光景にはあんぐりだ。
「もっと上がいたー!!」
「お、あんたらはあんときのヤクザ家族か。何やあんたらが一位やったんか」
『ついにボロ車が先頭チームに追いついたよー!相手を次々に突き落としていった2チームがついに対面だよーん!』
先頭までやってきたウミガメ号は、ヤクザ家族の姿を見て複雑な表情を作る。
ウミガメ号はトーフのあくどい攻撃により、見事先頭まで導かれたのであった。
質問されてもヤクザは相手の話は聞かない主義。
すぐさま相手を潰そうと手を伸ばす。
「優勝は俺たちだ!お前らも消えてもらう!」
しかしそんなのこのメンバーが聞くはず無い。
今のこいつらは善の無い悪そのものだ。優勝のために相手を消していった悪だ。
悪が悪に手を伸ばし、悪も抵抗の手を伸ばす。
「消えるんはあんたらの方や!ワイらは絶対に優勝せえなあかんのや!」
鎖をボロい箱に叩きつけようとするためトーフは糸でそれを縛ってとめる。
ヤクザは攻撃を妨げられて悔しい表情を作ると思いきや、むしろ笑みを溢していた。先ほどメンバーがしていた笑みと同じものを。
「がはははは!邪魔な糸をこれで封じた」
「!」
「こっちにはまだこれがあるんだよ!」
父が叫んだ刹那、車の中から顔を出した母が黒い塊と一緒になって現れた。
母の両手で支えられているものは長く鋭いもの。ライフルだ。
あっと思ったときには遅かった。ライフルが撃たれ空を突き破る音が響く。
『驚いたよーん!何と銃を取り出したよー!これは面白い戦いになりそうだー!このまま殺し合いになっちゃうのかなー!楽しみだねーん!』
「何で楽しそうに実況してるの?!」
「おっほほほ!こちらには力強い味方がいるのよ」
「しもうた…銃を持ってたか」
動物が引く車にむき出しになっているメンバーは風の抵抗がツライ。
身を低くして、ヤクザを睨む。
銃弾が埋められ星型に穴が広がってしまった車を見て強く舌を打つソングは無意識にハサミを取り出していた。
「クソ…!ただでさえシートが破られて修正してたのに、さらに俺の仕事を増やしやがったな…!」
手先が器用なソングは自動的に車の補修にまわされる。
そういうことで今先ほど作られた星型の穴も彼が埋めなければならないのだ。
そのため怒りが積もる。
しかし怒りは銃声に掻き消される。
「刃物と銃、勝つのは果たしてどちらかしらね」
「…!」
ヤクザ母はソングを狙って撃ったがクルーエルのソングは戦いが上手い。俊敏に銃弾を避けた。
そのため銃弾は彼方へ飛んでいく。
上手く避けたソングだがバランスを崩した上でこの風速。そのまま体勢を乱して手のひらを床に突ける。
「…場が悪いな。もっと静かな場所なら今すぐにでも殺すことが出来るんだが」
「…」
暗殺など殺しを得意とするクルーエル一族、その血が流れているソング。
メンバーに自分の正体がばれてしまったためか、人面獣心になっている。
ボソッと残酷な言葉を吐いたソングの存在を消すためにクモマが動く。
「喧嘩はよくないよ。今はゴールを目指そう」
そう言うクモマの目は緑色に染まっていた。
目の前が緑の密集地帯、山があるからだ。
そう、このレースのゴールは一山越えた場所にあるのだ。
他の山より小さい山けれども、坂や木々が邪魔となる一番の難の場所であろう。
そんな難関を目の前に、少し口を止める。
見る見るうちに近くなる山に恐怖を抱くメンバー。
その隣りを走行しているヤクザの車。そこから身を乗り出している父とライフルを持った母は何かたくらんだのか危険な表情を浮かべている。
比べてメンバーは強張っていた。
なんだか恐怖が漂っているこの山。見ているだけで鳥肌が立ったのだ。
そのように黙り込んでいたため、お構いなくメンバーの前へ出るのはヤクザの車だ。
「次でお前らを確実に落とすぜ」
ヤクザ父が捨て台詞を吐くとヤクザの車、それほどまで力が有り余っていたのかビュンと風の如く山の中へ吸い込まれていってしまった。
対してメンバーの車はのんびりと走り。
エリザベスと田吾作も疲れたのか、少し走りが遅い。
その間に生き残っていた車が追いついてくる。
何故メンバーや豚2匹の動きが鈍くなったのか。
それはこの山が関係している。
「……あかん、こん中に"ハナ"があるわ」
不吉な言葉を語ってトーフは目の前の山を睨んだ。
今までずっと"ハナ"を追っていたメンバーと豚2匹も"ハナ"に鋭く反応することが出来た、そのため強張ったのだ。
『さーついにやってきたよー!一番の難関である山だよーん!みんな頑張って登ってねー!』
しかしこんなことで足を緩めたら将来に大きな傷が残る。
メンバーはフェニックスを手に入れるために、不安を持ちながらも山の中へ入っていった。
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