レストランの中でも口は閉じることを忘れてしまっている。
周りの音全てが「ゴボゴボ」ということに唖然としているのだ。


「何だぁこの村は?」

「お、面白い村だね〜…」

「そ、そうだね…面白いね。ははは…」

「音全てがゴボゴボって可笑しくあらへんか?」

「素敵じゃないの。ゴボゴボって」

「頭が痛くなる…」


自分らをレストランまで誘導してくれた村人はこのレストランのマスターらしく、
「オススメの料理を是非お口にしてみてください」と勝手に薦めてきて、腕を振るって料理に励んでいる。
豪華なテーブルに腰をかけてメンバーはマスターの帰りを待つ。

周りの音は、水槽の泡の音やお客が水を飲むときに音を鳴らしていたりと騒がしい。
何故こんな音を鳴らしているのか不思議でたまらない。
これが風習なのか。
だけれど先ほどの村人は自分の語尾についている「ゴボ」に気づいていなかった。

一体、何なのだろうか。


「どんな料理が来るんだろうね?」


クモマの素朴な疑問にチョコが小首をかしげる。


「オススメって言ってたけど一体何なのかな?」

「きっと美味しいんだぜ!オススメだもんよー」


サコツが言ってからチョコはキャッキャとはしゃぎだした。
村の入る前の悦っている姿とはまるで違う、いつものチョコの姿だった。


「最近野菜ばっかりだったからいい加減飽きてきてたのよねー!オススメって言うのだからきっとすごいのよ!」

「俺は野菜で十分だったのだが」

「肉がいいな。骨付き肉を食べたい…」

「肉だったら生肉!生肉以外考えられないぜ!」

「ワイは生もの以外なら何でもええで。食い物ならなんぼでも食えるわ」

「アフロボンバーな気分になれるなら私もどれでもいけちゃうわ」


それぞれがオススメ料理の想像を膨らます。
いま全員が空腹状態なのでこれならばどんな量の料理が出されても食べれる気がする。
まだかまだかと待ち構えていると、やがてマスターがトーフとサコツの隙間に顔を入れてきた。


「お待たせいたしました」


後ろからほのかな香りがする。
しかしありえない音が聞こえていた。


「当店オススメの料理"ゴボゴボ"でございます」


それはトーフの前に置かれた。
全員が身を乗り出してそれを凝視する。得体の知れない物体を。


目の前にある物体…料理"ゴボゴボ"はあからさまに危険な匂いを漂わしていた。
見るところ普通の肉であるのに、それはゴボゴボと音を立てながら泡を内からこみ上げている。
大きいゴボって音が鳴ると思えばその泡は肉の皮膚を破裂させるように壮大に現れる。

見てすぐに全員が固まった。

マスターはそんなメンバーのことを気にせず、満足そうな笑みを溢して後ろへ下がった。


ゴボゴボと奇妙な音が鳴る中、全員が無言になる。
目を点にし口を半開きにしてその物体を眺める。

やがてチョコが訊ねた。


「…これ、食べれるの?」


一斉にツッコミの声が上がった。


「食えるか!肉が泡まみれだなんてはじめて見た!」

「嫌だよ!僕は確かに肉が食べたいとかいったけどこれはまた別だよ!これは食べ物じゃないよ!」

「何で肉がこんなにゴボゴボになってんだぁ?」

「素敵ね」

「あかん…これ誰が食うんか?」


全員が質問を出した主を見る。


「トーフ、頑張って」

「トーフならいけるぜ!たぶんいけるぜ!」

「お前に出された料理だからお前が食え」


応援されてもトーフは首が下がるだけだった。


「……無理や…こんなの…死ににいくんと同じようなレベルや…肉がゴボゴボっちゅう音を当たり前のように出してるなんてありえへん……ワイはこれから死ななきゃあかんのか……」


うなだれるトーフがかわいそうに思えたが、トーフは食べる気があるようだ。フォークを構えてた。


「…ひ、ひ、ふぅ……ひ、ひ、ふぅ……」


なぜかラマーズ法の深呼吸をするトーフ。気が動転しているようだ。
頑張れトーフ。負けるなトーフ。
心の中で全員が応援した。

そしてフォークはゴボゴボ肉に刺さる。


「……皆、今までホンマおおきに……」


遺言を告げるとトーフは肉を一齧りした。
全員は息を呑む。
トーフも肉を飲む。


「「…………」」


暫くトーフを見やり様子を見る。
しかしトーフは何も反応しない。
分かることといえばトーフはあれ以来動かないということだけだ。


「……と、トーフ…?」


肉を食べた被害者に声を掛ける加害者1。
トーフは固まっている。フォークを口に入れたまま、目も肉をギッと凝視し、だけれど力の無い顔だ。

急いで加害者1ことクモマが被害者のトーフの肩を揺さぶった。
すると反応がでた。


「…………っ」


現実世界に無事に戻ってこれたと言わんばかりに目を見開き、トーフはようやくフォークを口から外した。
メンバーもその様子に汗を拭う。


「よかった…キミが動かないからどうしちゃったのかと思ったよ」

「全くだぜ!人騒がせだぜ」


大きく胸を撫で下ろすサコツを見て、トーフがゴボゴボ肉を食べたあの口を開いた。


「大丈夫、ワイは無事ゴボ」



わああああああああ!!
無事じゃなかったよおおおお!!


トーフの語尾のゴボに全員が絶叫だ。



「トーフ!!語尾が語尾が!!」

「ゴボって言っちゃってるぜ!大丈夫かよ?!」

「やっぱりあの肉は危険だったのか…!」

「きゃートーフちゃんゴボー!!」


すると驚いた。
最後に絶叫を上げたチョコの語尾にもゴボという言葉が現れたからだ。


「チョコもゴボって言ってるぜ!やべーぜゴボ!」

「おい!てめえも言ってるぞ!あ…まさか…俺もゴボゴボゴボ」

「わー!ソングが異常にゴボゴボ言ってるよゴボ!」

「皆、慌てるんじゃないゴボ!落ち着くんだゴボゴボ!」

「落ち着いていられないゴボ!ゴボゴボ…」

「ゴボゴボゴボ」

「ゴボゴボゴボゴボゴボ…!!」


何と驚いた。
全員が語尾にゴボを言うようになってしまったのだ。
もはや誰が何を言っているのかもわからない状態だ。

その中で1人だけ、正常のものがいた。


「あら、みんな大変ね。ゴボゴボになっちゃってるわ」


なぜかブチョウだけがゴボゴボにかかっていなかった。
そんなブチョウに身を乗り出すのはもちろんメンバー。


「ゴボゴボゴボ!」

「ゴボゴボ…ゴボゴ!!」


何を言っているか理解不可能だ。


「ん?何々?『今晩のおかずはアフロボンバー』?」

「ゴボゴボ!」

「ゴボゴボゴボゴ!」

「みんな落ち着きなさい。アフロは確かに偉大だけどそこまで興奮するほどじゃないわよ」

「ゴボゴ?!」


何気に会話が通っているようだ。
しかしブチョウは元が可笑しい人なので、まともに会話が出来ていないようである。


「ゴボゴボ」

「分かってるわよ。キッチンペーパーの使い道ぐらい分かるわよ」

「ゴボゴボゴボ〜!」

「チョコ、落ち着きなさい。キッチンペーパーはトイレットペーパーとは一味違うんだから」

「ゴボー!!」

「凡、死にたいの?」

「ゴボゴボ?!」


一応メンバーはツッコミをしているようだが、これでは全く会話が成り立っていない。
ブチョウは人の話を捻らるくせがあるため何とも凄い結果を生み出している。

周りを見渡してみると、この現象はメンバーだけに見られたものではないようだ。
元から語尾にゴボを付けていた全村人が今ゴボゴボという言葉しか発することが出来なくなっている。
全員がゴボゴボの中、ブチョウ1人だけが正常。いやある意味異常…。


「わかったわ。私、やってみるわ」

「ゴボ?」

「コンサートをのっとってウンダバ様を崇拝してみせるわ」

「ゴボゴボ!」

「大丈夫よ。ウンダバ様以上に偉い人といえば私ただ1人よ」

「ゴボゴボゴボ?!」

「何よ凡。死にたいの?」

「ゴボゴボ?!」


もう意味のわからない展開になってしまっている。
作者は困った。これをどう終わらせればいいのか、と。
非常に困った。これはまるで剛速球でトイレに駆け込んだのはいいものの実は風呂場に用があったというオチャメな経験と同じぐらいのレベルだ。

しかしこのあとブチョウは驚くべき行動に出るゴボ。
え、な、何?自分までそうなっちゃうの?やめてよいやだよゴボゴボ!
ゴボ…いやゴボゴボゴボゴボ……!

ゴボゴボゴボゴボゴボ。
ゴボゴボ。ゴボゴボゴボゴボゴボ…ゴボゴ。


ゴボゴボ。


「ゴボゴボゴボ!ゴボゴボ…ゴボ?」

「ゴボゴボ!」

「ゴボ?」

「分かってるわよ。脳卒中でしょ?」

「ゴボゴボ」


ゴボゴボゴボゴボ。


「ゴボゴボゴボ?ゴボゴボゴボ!」

「ゴボ〜!ゴボ」

「ゴボゴボゴボ……」

「……ゴボ…」


ゴボゴボゴボゴボゴボ。
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ。


「当たり前じゃないの。私は真のウンダバよ。ウンダバウンダバ〜」

「ゴボゴボゴボ?!」

「ウンダバ〜ウンダバ〜」


ゴボゴボゴボゴボ。




+ + +


ここは闇のように暗い地。
壁に一つ二つ、薄暗いランプが場をほのかに燈しているだけ。
だけれどこれでは闇に等しいものだった。

その中に紛れているのは3つの固体の闇、そして3つの闇は一つの闇と向かい合っている。


「オレらをここに呼んでどうしたんだ?」

「ま、全くジェイ…オレっちたち何も悪いことはしてないジェイ」

「……いやねぇ、この空気っ」


一つ目の闇は派手な色使い。シルクハットの下にオレンジ色の髪がチラリと輝いて見える。
二つ目の闇は特徴的な口調で、奴だけが周りの闇とは違う容姿。黒ローブを着用しフードを深く被っている。
最後の闇は赤い唇から見える白い牙が目立っている。

その3つの闇の声に反応するのは、視線を浴びているもう一つの闇。
片眼鏡をかけていて、ちょび髭を生やしている紳士だ。
しかし奴も黒い。シルクハットを深く被り黒マントに身を包んでいる。

その闇が口を開いた。


「惚けようとしても無駄でアール。ワガハイの耳にちゃんと情報が入っているでアール」


するとすぐに反応する。二つ目の闇。


「な、何のことだジェイ?オレっち何も分からないジェイ」

「『J』。顔に書いてあるでアール。"ピンカースで騒ぎを起こしたジェイ"とな」

「…ジェジェ…」


ピンカースとはラフメーカーが旅をしている大陸の名称だ。
『J』と呼ばれた闇は動揺して思わず一歩後ろへ後ずさりする。
それを片手で止める最初の闇。


「怯えることはないって。オレらは悪いことはしてないから」

「してるでアール!『L』も惚けるのではないでアール!」


最初の闇のことを『L』と呼び、紳士はちょび髭をいじりながら得た情報を確認する。


「ワガハイの耳に入った情報によると、『L』たちはある旅人の手伝いをしたそうでアールな?」

「…まあ、そうだから何もいえないわねぇ」

「び、『B』ちゃん!だジェイ!」


赤い唇を動かす『B』はニヤリと紳士を睨みつけている。


「私たちはただのお手伝いをしただけよぉ?なーんも悪いことはしていないつもりだけど?」

「そうそう。オレらは可哀想な少年を助けただけだ」

「だけど」


紳士は派手な色に向けて言い放った。


「『U』の邪魔をしたらしいでアールな?」

「……」


『L』は黙り込んだ。
図星だからだ。


「あれほど身内のものの邪魔をするなと言ったでアール。お前たちは最近何も悪さをしていないしワガハイ心配でアール」

「ジェジェ…」

「私はそういうのに興味がないわっ」


『B』の言葉に紳士はちょび髭をいじりながら眉を寄せる。


「興味がないという問題ではないでアール。ワガハイたちは一体何のために生まれてきたと思っているでアール?」

「…」

「まあまあ落ち着けって『R』。『U』の邪魔をしたのは全部オレなんだし。『B』ちゃんも『J』も悪くないよ」


口調が強くなる紳士こと『R』を『L』が止める。
すると『R』の体は完全に『L』だけに向かれた。


「やはりでアールか。『U』に対抗しようという勇気ある者は『L』ぐらいだと思っていたでアール」

「いや、オレもかなり勇気を振り絞った」

「しかし『U』も『U』でそれなりに悪さをしているでアール。邪魔をしたらならんでアール」

「……だけどあいつの悪さは…」


『L』は対抗しようと口を開いたが、そのあとすぐに閉ざした。
隣りの『J』はその意味が分からず首を傾げる。
するとそのときの衝動で向こうの景色が見えた。

向こうにあるもう一つの影。影は異様なオーラを放っている。
そして聞こえる独特の笑い声。


「クスクス。我の噂でもしておるのか?」


何も無かったはずの空間に突如出現した闇に『R』は片目を細めた。


「『U』でアールか。機嫌は直ったでアール?」

「クスクス。そう簡単に機嫌は直らないぞよ。我はあの年頃の人形がほしかったのに…全て『L』のせいだぞよ」

「…」


その闇は丁度噂していた『U』であった。
奴の手には仮の人形が持たれている。人形の頭を撫でながら奴も『L』の目の前まで無音でより詰めた。


「まあ我はこれからも"お主"一筋で行くぞよ。"お主"ほど善い素材はないぞよ」

「ああそうかい」

「クスクス。そちはつまらん男だぞよ。我の楽しみを一つ削りやがって」

「…お前のその汚い頭、ぶっ飛ばすぞ」

「まあまあ2人とも喧嘩はよくないでアール」


喧嘩腰になる『L』を『R』が言葉でとめた。
『L』は鋭く『U』を睨み、『U』は楽しそうに眺めている。


「…このままだと2人がまた大げさな喧嘩を始めてしまいそうでアール。一先ずここで解散するでアール」


そう言われると『B』はいそいそと闇に溶け込んだ。
『J』も早くこの場から逃げたかったが消える術を持っていないらしく走って消えていた。

『L』も消えようとするがその前に止められた。


「『L』と『U』は残るでアール」


それにもちろん『L』が突っ込んだ。


「何でだ?」

「会議をするでアール」


ピクリと反応する『U』。しかし口は開かない。
代わりに『L』が開いた。


「……例の"実行日"の計画でもするのか?」


『R』は口元だけで笑う。


「そうでアール。それでは『C』も呼んで少し長く会議をするでアール」




+ + +


やっと人々からゴボゴボが抜けた。
ブチョウが広場の噴水に"笑いの雫"をかけたからだ。
実はその噴水が今回の"ハナ"だったのだ。
そのため可笑しくなっていた人々は無事正常に戻れた。

この村のゴボゴボという音は全て巨大噴水…"ハナ"が出していた音から浸食したものだったのだ。
それを消したことにより、噴水はいつもの姿を戻し、村人も語尾にゴボをつけることがなくなった。

メンバーもやれやれと汗を拭う。



「厄介な村だったね」

「途中意味が分からなくなったもんね〜!」

「俺は楽しかったぜ!ゴボゴボ」

「意図的に言うな!もうこんなのこりごりだ!」

「あん肉…ホンマ未知なる味がしたで……」

「みんなハレンチだから驚いちゃったわ。ウンダバーウンダバー」

「お前もお前で偶像崇拝するのはやめろ!!」


もうこりごり、といいながらメンバーはため息つく。
村人に持っていかれていた車を出してもらい、その車で旅を続けるのであった。










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途中、自分が可笑しくなってしまって申し訳ないです(汗

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