悪事をするためにこの翼をはためかす。


40.ジゴクの村


熱くもないヒヤリと冷たい地面に向けて視線と落とす4つの影。
影だから黒いのかと思ったがそれは間違い。そのもの自体が黒いのだ。
黒いマントに身を包み、だけれど個性溢れる髪色をして、全部の背中には漆黒の……。


「起きてください」

「おい起きろ」


二つの者が口を開き地面に向けて呼びかけた。
残りの二つも頷きながら前者と同じように声を出す。


「さもないとてめえら食っちゃうぞ」

「食っちゃうぞぉ!!」

「やめてください!ヨダレが出ていますよ?!」


ヨダレを垂らす者は地面に倒れている6つの者を真っ直ぐに見つめている。どれが美味しそうか見ているようだ。
呆れた顔を作る残りの三つのうち一つがまた視線を落とす。


「それにしても…起きねぇな…こいつら…」


するとすぐに反応する先ほどの影。


「じゃあ食っていいかな?」

「だからやめてください!」


先ほどから口に指を当て欲しそうに眺めている者はとにかく倒れている者たちを食べたいようだ。
危険を察した者は奴が襲い掛からないよう押さえ込み、その間に他の影が動く。


「仕方ねえなぁ。起きないなら起こすしかないか……うりあ!!」


唐突であるがその者は手から黒い"気"を出し倒れている6つの影に当てるのであった。
そして起こる、小さな爆発。


「「ぎゃあああ?!」」


"気"が当たったらしく複数の悲鳴が聞こえてきた。先ほど倒れていた6つの影からだ。


「な、何?さっきの何だい!?」

「何やねん?!敵襲か」

「あーいい夢見たー!まさか夢の中で『L』さんと会えるなんて…うへへへへへ。愛のメリーゴーランド」

「いいなーチョコ!俺もその夢見たかったぜ!」

「いいのかよ!?愛のメリーゴーランドとかほざいているぞ!」

「そのツッコミ、まるでマンモスの落とし子みたいね」

「お前のそのボケの方がそれっぽいだろが?!人のツッコミを変な風に例えるな!」


やがて爆発の煙も晴れ、目覚めたと同時に騒がしくなった6つの影の正体が現れた。
個性溢れる団体、ラフメーカーのメンバーだ。

やっと起きた6人を見て起こした影が満足そうに頷いた。


「やっと起きたか!よかったよかった!」


その背後には悔しそうに舌打ちをしているヨダレを垂らしていた者とそれに対して突っ込んでいる者の姿があった。
そちらも騒がしかったためメンバーも自分らの目の前に立っている4つの影の存在に気づくことができた。


「あれ?あなたたち誰?そしてここはどこ?」


すると先ほどから物静かに立っている者が小さく口を開いた。


「それはこっちの台詞だ。お前ら何しにここに来た?死んだ者のようには見えないな」

「は?」


思わず短く聞き返してしまった。言っている意味が分からないからだ。死んだ者…?
その隙にマジメな影がメンバーに問いかけてきた。


「あなた方、上の者ですよね?どうやってここにやってきたんですか?」


確かにその通りだ。
突然この場に現れたメンバーの存在にこの者たちもさすがに戸惑ったであろう。
何故ならメンバーは上から降ってきたのだから。


+ +


それは今から数分前の出来事だ。


「「サル、ゴリラ、チンパンジー、サル、ゴリラ、チンパンジー」」

「意味の分からない歌を合唱するなよてめえら?!」


平坦な道をメンバーは気楽に歩いていた。
本日もいい天気なので太陽光を浴びに車から外へ出ているのだ。
ポカポカな光がメンバーを優しく包み込む。気持ちの良い晴天だ。


「この辺で休もうか」


クモマが促す先には休憩所のような休めるスペースがあった。
そこにエリザベスと田吾作が引く車を止め、メンバーは腰を下ろした。

ここまで結構歩いたため、少し汗をかいている。


「次の村はどこにあるんだろうね」


汗を拭いながらのクモマの質問に他のメンバーがのんびりと答える。


「どこかにあるだろ」

「うんうん!歩けば必ず村につけるんだから〜」

「それにしてもいい天気だぜ。このまま眠ってしま…くかー」

「言ってる最中に寝るな?!」


芝生の上で大の字になっているサコツの言う通り本日は本当に良い天気。
雲ひとつ無い空でクモマは少し物寂しそうであるが、それでも天気のよさに目を細める。

雲が一つも無いということはつまり、最高の天気ということだ。
これから天気が崩れるということはまずないであろう。誰でも予測することが出来る。


「でもホンマええ天気やな。最近は天気崩れたりしてえらい大変な目にあったからなぁ」


しみじみと過去を思い出すトーフの隣に腰を下ろし、クモマも微笑んだ。


「そうだね。でもこの様子から天気も崩れることはないだろうし、いい旅が出来そうだね」

「そやな。何も変哲のない気楽な旅をしたいわなぁ」


そうトーフが発言した直後であった。
ご主人の周りを駆け回る犬のようにバタバタと辺りを走っていたチョコが突然悲鳴を上げたのだ。
そちらへ目線を動かすとチョコは何と、消えていた。


「え?!チョコ?!」


チョコの失跡に全員が声にならぬ声を上げた。
サコツもその声を聞いて目覚め、それからすぐに状況を把握することが出来た。
先ほどまでチョコはいつものように駆け回っていたのだ。何も変哲のないこの場所で突然彼女が消えるなんてありえない。
チョコの声が聞こえてきた方へ全員が同じタイミングでやってきてみると、原因をすぐに掴むことが出来た。


「た、助けてぇ…!」


足元から聞こえてくる声はチョコのものだ。
驚いたことにチョコは穴に足から胸上まで落ちていた。
いや、これは穴ではない。黒い水溜りのようなものだ。液体みたいに、チョコを中心に波紋を作っている。
チョコがもがく度に波紋は濃く彫られていく。


「チョコ?!」

「変な穴に落ちちゃったのか?大丈夫かよチョコ」

「あんたも変なのに引っかかったわね」

「穴ではないみたいだ。何だこれは?」

「何のんびりしてるんや!はよ皆でチョコを助けるで!」


すぐに助けようとしていないメンバーにトーフが注意すると全員が一斉にチョコに手を伸ばした。
かろうじて腕は水溜りのようなものに落ちていなく、チョコは差し伸べられた全員の手を必死に掴もうとする。
しかし水溜りの下からも引っ張られているのか、ぐんと下へ沈んでしまう。


「チョコしっかり!」


クモマが沈んでしまった腕を引き上げる。しかし驚いた。あのクモマでさえもチョコを引き上げることが出来なかったのだ。
チョコは沈んでいく。クモマも他のメンバーも手を伸ばす。
しかし沈む。チョコを掴んでいるメンバーも前へ屈んでいく。


「これって一体…!」


素朴な疑問を口に吐いたとき、メンバーの足元も闇になった。
肩上のチョコを中心に出来ていた黒の水溜りがメンバーの足元にまで広がったのだ。
そのためメンバーも水溜りの犠牲になる。


「な、なんだぁこりゃ!」

「ちょ…ちょっと待ちぃ!」


もがく度に沈んでいく。
まるで底なし沼のような闇の水溜りの中、メンバーはやがて脳天まで沈んでしまったのであった。



+ +


そして、現在に至る。


「なるほど。お前ら『ゲート』に入ってしまったのか」


これまでの過程を話すと冷静にそう言い返されてしまった。
『ゲート』って何だよとメンバーの顔に書いてあったのか、その者は一言補充してくれた。


「つまりこの場所へ繋がる出入り口のことだ」


するとすぐにチョコが反応する。


「私はただ走っていただけよ。そんなのに入った覚えはないけど」

「ここへ繋がる『ゲート』は一定の場所に踏みとどまらずにあちこち移動するんだ。水溜りのような形をしているゲートは降ってくる雨に紛れて移動をする」

「だけどこの大陸ではあまり雨が降らないのでそこまで移動することはないんですけどね」


チョコが最初にはまり最終的には全員が落ちてしまったあの黒い水溜りはここへ繋がる『ゲート』だったようだ。
…と、ここでクモマは思った。


「ここは一体どこなんですか?」


すると一瞬呆気にとられる4人の姿が見られた。


「は?お前らここがどこかわからないのか?」

「鈍感だなー。オレよりも鈍感なのかよぉー」

「ハッハッハ!俺はバカな奴らは好きだぞー!」

「バカって言ったら失礼ですよ。この方たち誤ってここに落ちてきてしまったんですから。何も知らないというのは当然ですよ」


陽気に笑う3つの影に肩を重くしながらやがて一つの影が教えてくれた。


「ここは 地獄 ですよ」



今度はこちらが呆気に取られてしまった。
何故ならありえない答えがかえってきたからだ。思わず同音で叫ぶ。


「「地獄?!」」

「は?何でそんなに驚くんだよ?別にオレはお前らを獲って食うってことはしないよ?」

「ウソ言わないでくださいよトラさん!さっきめちゃくちゃヨダレ垂らして眺めていたじゃないですか!」

「「地獄ってどういうこと?!」」


メンバーは絶叫だ。
ここが地獄だなんて。自分らが地獄に落ちてしまったなんて。


「だから、地獄の『ゲート』にお前らは自分から落ちてしまったんだろ。自業自得だ」

「そんな!僕らだって好きでここに落ちたわけじゃ…ってここが地獄ってことはつまり僕らは死んでしまったの!?」


涙があったら泣いてしまいたいほどショックの大きいクモマであるが、ここで礼儀の正しい影が安心してくださいとクモマの肩を叩いた。


「ここは確かに地獄ですけどあなた方は死んでいませんよ。今の地獄は一般の方でも自由に出入りできるようになっているんですから」

「は?」


思わず変な声で聞き返す。
影は続けた。


「一般の方が観光で来るようにとあの『ゲート』が地上におかれているんですよ。だから心配することはありません。こちらの『ゲート』に入れば元の世界に戻ることができますし」

「ほ、本当に?」

「だけど」


影は苦く笑う。


「こちら側の『ゲート』はすばしっこく、どこにあるのか分からないんですよ。『ゲート』は冷たいところで活発に動きますから地獄では動きが素早いんです」


確かにこの場…地獄はヒヤリと冷たい。暑いというイメージはただの幻想にすぎなかった。
てっきり火の海やら湧き出ているのかと思った。

なるほど、地面はこんなにも冷たい。これならば『ゲート』は水を与えられた魚のように活発に動き回ってしまうであろう。


「ま、そん『ゲート』さえ見つけることが出来ればワイらは元の場所に戻れるっちゅうわけやな?」

「そういうことです」

「ならばその『ゲート』をさっさと見つけてしまおう」


そういってメンバーをゲート探しに促すソングであったが、元気な影…自分らに"気"をぶつけて起こしたあの影に止められた。


「せっかく貴重な地獄ってもんに来たんだ。少しぐらい遊んでけよ!」


さっさとここから立ち去ろうとしていたソングの肩をぐっと引き戻す。


「地獄って意外にも楽しいとこなんだぞ。ちょっと観光しちゃえって!」

「そうだ。『ゲート』もそう簡単に見つかることはない。観光も悪くないと思う」


冷静に物を言う影が言うと、自分らの自己紹介をしていないことに気づき、そのまま自己紹介に走った。


「俺の名前はウルフだ」

「僕はトンビです」


先ほどから丁寧に言葉を出していた者もお辞儀をしてトンビと言う名を言う。
その隣にいる者はメンバーの姿を見るなりヨダレを垂らしそうになりながら


「オレはトラ」


そして手前にいる元気な影を指差すのであった。


「そしてこいつがバカ」

「よろしく!」

「何乗ってるんですか突っ込んでください!この方はドラゴンさんです!」

「あ、よろしく…!」


トンビは突っ込みつつも丁寧にお辞儀をしてくるためクモマも慌てて頭を下げようとした、そのとき、目の前の者がお辞儀をする度に何かが見えた。
背中にある黒いものだ。自分らにはない、ある人種に生えているものだ。

その黒いもの、一度…いや二度見たことがあった。


一度は現に自分の隣りに立っているサコツ。サコツが一度背中に生やしていたアレ。
もう一度は今から5年ほど前に自分の家族を襲ったあいつ。あいつの背中にも生えていたアレ。


「あ、言い忘れていたが」


ここでウルフが肝心なことを遅けれども言った。


「俺ら 悪魔 だ」

「「もっと早く言えよー?!」」


再び絶叫するメンバーに対し、背中に生えている漆黒の翼を大きくはためかせる4人の悪魔たちは邪悪どころか楽しそうに笑みを溢しメンバーの腕を引いて歩いていくのであった。














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この悪魔たちは私の脚本「悪魔のお仕事〜獣物語〜」に登場しているバカ悪魔どもです(笑

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