「おっそいのよ!この役立たずっ!!!」


パックに入っているイチゴミルクをズゴーと飲み干した女は、自分の救世士となるジャックの腹に拳を入れながら、怒りをぶつけていた。


「ひ、ひどいジェイ?!オレっちちゃんとイチゴミルク持って来たジェイ」

「だけど遅いのよ!もう少しで死ぬところだったわっ!」

「ご、ごめんジェイ…オレっちも『B』ちゃんがいないと死んじゃうジェイ」

「あらっ、そしたら私、死のうかしら?」

「や、やめてほしいジェイ!オレっちも死にたくないジェイ!」

「むしろあんただけ死になさいっ!!」

「そんな、ひど…ジェっ!!」


腹に女の鉄拳を喰らって短い悲鳴を上げるジャックを、冷たい目線で見つめるメンバーの姿がそこにあった。
突然現れた黒づくめの2人はそんなのお構いなく会話を弾めている。
女は力ずくでジャックを脅し、ジャックにまた要求する。


「あんた、早くイチゴミルクを出しなさいっ!これだけで足りると思ってるわけ?」

「ご、ごめんジェイ…ちょっと待つジェイ…」

「待ちきれるかっ!早く出しなさい!死んじゃうでしょっ!」


そしてまた腹に鉄拳を喰らったジャックは、腹を押さえ苦しみと涙を堪えながら、やがて右手で『J』の形を作った。
それにしてもこの女、強暴だ…!
先ほどまでの苦しそうな姿は果たしてどこへいってしまったのやら。


「それじゃグラスを持つように柔らかく手を丸めて欲しいジェイ…」


左手は殴られた部分を撫で右手は『J』ポーズを作っているジャック。女は言われたとおりに軽く手を丸める。

するとジャックの右手には、見る見るうちに桃色の膜が張られ、終いには桃色の光が放たれた。
優しい光だ。
自称神が作った光とは全く違う。
そしてジャックは風を送り込むように右手を下から上へ勢いよく振り上げたのだった。


「ジェーイ!」


この掛け声はいるものだろうか。
ジャックがそう言いながら右手の光を女の丸められた手に振りかけた。
すると、驚いた。


「「……………」」


ジャックの魔法は女の手ではなく、全く関係の無いエリザベスの頭の上に出てきたのだ。
ちなみにエリザベスの頭には先ほど女が凄い勢いで飲み干したイチゴミルクのパックと同じものがある。

何だか冷たい風が吹いた気がした。


「あ、向こうに出ちゃったジェイ?」

「どこまであんたは"とんま"なのよっ!!」

「ジェっ!」


せっかく言われたとおりに手を丸めたのに違う場所に魔法が出てきたため、女はその怒りをまたジェイの腹にぶつけるのであった。


+ 


満足するまでジャックの魔法でイチゴミルクを出してもらい精気を取り戻した女は、やがてメンバーに体を向ける。
背の高い女だ。隣りにいるジャックを悠々と越している。
顔が白い女は黒い髪と大人びた眼と真っ赤な唇だけが目立って見える。
黒マントに体が覆われているため、然程身体は見えなかったがチラッと見えたところによれば、女は全身包帯に巻かれていたような気がした。それが服なのだろうか。

しかし、とても綺麗な女であった。


「突然出てきて騒いじゃってゴメンなさいねぇ」


惚けた感じに女はメンバーに向けて言葉を放つ。
それにトーフが笑いながら応答した。


「いや、あんたも元気になってよかったなぁ。ワイら心配したんやで」

「あらぁ、ほほほ。可愛い子じゃないのっあんた」

「び、『B』ちゃんは可愛い子が好みなのジェイ?」

「私はあんた以外の男なら誰でも好きよっ。そうねぇこの中での好みのタイプはあそこの白マントの子かしら」

「夢を崩すようで悪いが、あれは女だ」

「マジかジェイ?!あれはどう見ても男だジェイ!」

「全く、困っちゃうわね。私はどう見たってプリプリの乙女じゃないの」

「ジェジェ!微妙な線の声だジェイ?!これじゃあ男でも通せるジェイ?!」

「あんたは暫く黙ってなさいっ!」


また騒ぎ出すジャックを女が仕留める。それ以来ジャックは動かなくなった。
ようやく静かになったところで、トーフが話を振り出した。


「あんたは一体誰なんや」


まずは名前を聞いておこう。
この女、見るからに怪しい者だから。先ほどクモマをさらっていったあの男と同じような格好の者だから。

すると女はバラ色の唇をくくっと吊り上げた。
そこから見えるものは、肌と同じように白い歯。
だけれどその歯の両部…添歯は尖っている。


「私の名前を聞きたいのかいっ?」


女の声は重かった。先ほどと明らかに違う声の高さ。歯をわざと見せるようにずっと口を横に広げている。
メンバーはその声を聞いて背筋が一気に反り返った。
背中に指を通されたように冷たいものが走る。それほど女の声は怖かった。
先までとは違う様子の女、やがてこう答えてた。



「私はね 吸血鬼 だよ」



女の尖った歯がキラリと光り、メンバーの言葉を奪っていた。




+ + +



誰もいないはずの空間。
自称神が作った闇の空間だ。他の誰も入れるはずが無い。
しかし現に自称神は暗闇に向けて声を放っていた。
その声は少し怒りが入っているようにも感じ取れる。
それほど声がキモく低かった。


「…何だ。我の邪魔をしにきたのか?」


だけれど自称神は楽しそうに笑っている。
クスリッと空に向けて笑いかける。
しかし応答はない。


「それで隠れているつもりなのか、我を甘く見るのではないぞよ」



周りからは何の音もせず、静まっている。
それはそうだ。ここは自称神の世界なのだから。

しかし、突然闇の一部がブブっと歪み、そこからが声が聞こえてきた。


「……ばれてたか」


その声は、自称神とは全く違う雰囲気を醸し出している。低くもなく高くもない声。
声を聞いて笑う神がここにあり。


「クスクス。そちもまだまだだな」

「さすが、完璧に姿を消したつもりだったけどな」


自称神の声に反応する声。しかし姿は無い。
だけれど自称神はあたかも相手が見えているように、ある場所に向けて声を放つ。


「お主は存在が強いからどこにおるのかすぐにわかるぞよ」

「…そうか、勉強になった」


やがて自称神が見ている方面にある闇の一部が大きく歪み、それは固体化し、終いには人型を作っていた。
そして見る見るうちに黒い人物像を作り上げた。
また自称神は笑う。


「久しぶりだぞよ。『L』よ」


自称神と同じで闇の人物、それに向けて自称神は『L』と呼んだ。
そのまま続ける。


「まさか我の世界に自らやってくるとはそちもバカであるな?」

「はっはっは!お前に言われたくねえよ、『U』」


『L』と呼ばれた者は陽気に笑い声を上げると、自称神に向けて『U』と呼ぶ。
互いをアルファベットで呼び合うこの2人、何か関係しているのだろうか。

自称神の闇に侵入してやって来たこの男『L』は、自称神とほぼ同じような衣装を身に纏っていた。
シルクハットに黒マント。違う部分といえば、その明るい声と、明るい姿。
この男、髪色が派手なオレンジ色で、頬にも大胆な星模様が描かれている、見るからにど派手な人物なのだ。

やがて自称神は『L』に質問をした。


「クスクス。それで、何の用事でここに訪れたのだ?」


問われて『L』は口元をゆがめる。


「答えは一つしかないだろ?」


『L』は身を包んでいた黒マントを華麗に払い、パンク風味の姿を主張する。
右手を上に上げ、目は自称神をすっと睨む。


「ほう、それは一体何だぞよ」

「とぼけるなって。お前の魔力の強さならオレの心ぐらい読み取れるだろ?」

「…くすくす……面白い」


本当に面白かったのか、自称神は暫くの間笑っていた。
その間にも『L』は言葉を言い放つ。


「『U』、お前は人形を集めて楽しいのか?」

「楽しいぞよ。何せ長年このときを待っていたのだからな」

「珍しいな、こんな長期間に渡って一人の人物を狙うとは」

「この"お主"はいいぞよ。癒しの心を持っている優しい子だからな」

「…へえ…"癒し"か」

「どうだ、そちもこの人形が欲しくなるだろう?」


自称神に問われる『L』であるが、『L』は、まさか。と答える。


「オレは人形なんて興味ない、しかも人間だった人形だなんて、なおさらいらないな」

「くすくす。正直な奴だぞよ」


そして自称神は光の無い黒い瞳を閉じると、今度は赤色の瞳に変えて『L』を睨む。
『L』も右手は上に向けたまま、目を閉じて赤色の瞳を持ってくる。

いかにも発光しそうな4つの瞳。

闇を殺せそうな4つの瞳。
それらは2対2で睨みあっている。


『L』が言う。


「お前の身勝手な行動でこんな哀れな姿になってしまったこの人間の気持ちも考えてみろ」


『U』が笑う。


「何を言っておる?"お主"はもう我のものだぞよ。我に狙われた時点で"お主"は我のもの」


『L』が苦笑する。


「キモっ」


『U』が笑う。


「だから、そちなんかに奪われてはならぬ。"お主"は我のコレクションとなるものだ」


『L』が首を振る。


「それが身勝手だといっているんだ。その子を返してもらおうか」


『U』が目を細める。


「そちにそのようなことを言われる筋合いはないぞよ。我の邪魔をするのではない」


『L』も目を細める。


「悪いが、『J』と『B』ちゃんとで話し合った結果なんだ」


ニイっと意地悪く笑って『L』が言い切った。


「お邪魔しまぁす」



『U』こと自称神が空を撫で手のひらに光を掬うのと同時に『L』は上に上げていた右手を華麗に
パチンと奏でていた。





+ + +



「「吸血鬼ぃ?!」」


自分のことを「吸血鬼」と名乗った女に、メンバーはまるで前もって打ち合わせをしたかのように同時で叫んでいた。
女が歯を見せたまま頷く。


「そうよっ。私は吸血鬼」

「ちょっと待って?!吸血鬼って血を吸う人のことよね?」

「そうっ」

「マジでかよー?!俺ら血ぃ吸われちゃうのか?!やべーぜ!逃げなくっちゃ!」

「待ちなさいよっ私は危険人物じゃないから」

「「吸血鬼、という時点で危険人物だから!」」


また叫ぶメンバーに吸血鬼は楽しそうに笑う。
その間にジャックも復活した。


「あー死ぬかと思ったジェイ」

「あらっ。死んでなかったの?」

「や、やめてほしいジェイ!?オレっち何も悪くないジェイ?!」


手を頭にかざすジャックの姿に吸血鬼も呆れた表情を見せた。


「はいはいっ。それなら黙ってて欲しいわねぇ。『J』って本当にうるさいんだからっ」


吸血鬼に叱られシュンとなるジャックを無視して吸血鬼は話を戻した。


「言っておくけど私は"血"は吸わないのよっ」

「え?そうなんか?」

「むしろ"血"なんてキライよ私は」


そして本当に嫌いそうに目の辺りを顰める吸血鬼にソングが訊ねた。


「それじゃあ何故"吸血鬼"と名乗っているんだ」

「人からそう呼ばれたからよっ」

「ま、確かにその格好だと吸血鬼って思われちゃうよねー!」


相手は本物の吸血鬼ではないと分かるとチョコは元気を取り戻していた。
この女は血を吸わない者なのだ。血を吸わなければ吸血鬼ではない。
ただ「吸血鬼」と名乗っているだけなのだ。
しかも、周りからは女はこう呼ばれている。


「『B』ちゃん、そろそろあのこと話してもいいと思うジェイ?」

「あ、そうねっ」


「吸血鬼」または「Bちゃん」と呼ばれている女はジャックにそう言われ、ハッと大事なことを思い出していた。
一体何のことだろうと疑問に思っているメンバー。やがてBちゃんの口から出された一声に目を丸くする。


「私たちがあんたのお友達を助けてあげるわよぉ」


ジャックが来る前に地面を這って苦しんでいたBちゃんが言った言葉を思い出し、メンバーは身を乗り出して尋ねていた。
「それは本当ですか?」と。
それにBちゃんもジャックも笑顔で頷いていた。









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アルファベット続出!!

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