背の高い木の上には男が片足で立っている。
漆黒のマントが風に靡かれ、服がチラチラとはためいて見える。全体的にパンク風味の格好をしている若い男だ。
シルクハットの下からは明るさを強調させる色をした髪が見え、頬には大胆な星模様。
頬の上にあるまぶたは静かに閉じられている。

明るいけれど黒ずくめの男。風に煽られ落ちることなくじっと目を閉じて立っている。


「…しまったな。奴の手にまわってしまったか」


固く閉じられていた口が微かに開くと、男は不吉を悟ったのか言葉を発する。
ようやく、まぶたも開けられ、そこからは闇を貫くことが出来そうな赤色の瞳が現れぼんやりと輝く。


「こうなったら仕方ない」


マントの下から健康的な色をした手を出し
再び赤色の瞳を閉めた男はパチンと指を鳴らすと、吹いてくる風と共に消えた。




+ + +



「うええええええぇぇ……ゴメンね…私のせいだぁ…うえええええ」


別な黒ずくめの男と共に消えてしまったクモマに大いに悲しんでいたのはチョコであった。
自分が手を離したからクモマは捕まっちゃったんだと泣き喚きながら、自分を抱きとめてくれたサコツの服を掴んで自分を追い詰める。
サコツは飛ばされる自分らを受け止めてくれた大きな木を背にして、何とかチョコを慰めていた。


「そんな、気にするなってチョコ。これはチョコのせいじゃねーんだからよー」

「だってだって、私があのとき手離しちゃったから…クモマが………ゴメンねゴメンね…」

「んー…仕方ねぇぜ。向こうが攻撃してきたんだから…。ところで怪我はねえか?」

「……うー…怪我していない…強い波動がきただけだから…」

「そっか、それはよかったぜ」

「よくないよ!クモマがさらわれちゃったんだよ!もー私生きていけない…!うえええええ…」

「……はあ…困ったぜ…」


サコツはいつまでたっても自分を追い詰めることしか出来ないチョコの頭をポンポン叩いてとにかく泣き止ませようとするのだが、その目には疲れが見えていた。
実はクモマが消えてからずっとチョコはこの調子なのだ。
休むことなく泣き続け過ちに後悔するチョコをずっと慰めているサコツにもさすがに限度があった。
しかしチョコが自分から離れないため、サコツはチョコが落ち着くまでチョコを慰め続ける。

そのころ他のメンバーはただ呆然と立ち尽くしていた。


「…あん男…クモマを人形にして一体どうする気なんや…」

「意味が分からないな…変人の考えていることは」

「世の中も物騒になったわね」


トーフをはじめ、全員が自称神の存在に疑問を持っていた。
それはそうだろう。突然現れてクモマをさらっていったのだから。
あいつがクモマを人形に変えたらしいし、全く、考えていることがサッパリだ。


「なあ、トーフ」


どう気持ちを表せばいいのか唸っていたトーフの元にサコツの声が飛んできた。
サコツは引っ付いているチョコの頭を優しく叩きながらこちらへ近づいてくる。


「何や?」

「おい、お前いつまで泣いているんだよ」


トーフの声とほぼ重なってソングがチョコの姿を見て突っ込んだ。
チョコはまだ心が落ち着いていなくてずっとグスグス鼻を啜って泣いている。
そんなチョコの頭をまたポンポン鳴らしてサコツが代わりに答えてあげた。


「仕方ないぜ?クモマを抱いていたのはチョコだったんだからよー。手放してしまったことがショックだったんだぜ」

「だけど泣きすぎだろ」

「おいおいおいー。お前って奴はどこまで優しさがない男なんだよ」

「失礼なこというなよクソ!おいアマ。あいつが連れ去れらてしまって悲しいと思っているのはここにいる全員も同じなんだぞ。1人で悲しむな」


サコツの言葉を軽く流してソングはチョコに言い放つ。
自分を追い詰めて泣いているチョコに苛立ちを感じてしまったのだろう。今のソングはいつもに増して声が低い。
その声に続いてチョコが嗚咽を堪えた声を出す。


「だって…私が……あの…とき…」

「だから泣くな」

「うええええええ…ひっく…ひっく…」

「まあまあチョコ、落ち着けって」


チョコの涙を止めようとしたソングであったけど愛想の無さが逆に涙を作っていた。
より一層泣き出してしまったチョコをサコツがまた慰める。
あんたって本当にダメな男ね。とブチョウに指摘されソングは表情を顰めるのであった。


「それでサコツ。とないしたんや?」


話がそれてしまい、本来の目的を忘れかけていたサコツは、トーフのその一声により目的をちゃかっと思い出した。
そうそう、と煽ってサコツはトーフの目を見た。


「俺たち、これからどうすればいいんだ?」

「もちろんクモマを取り返すで。せやけど手段が無いわ…」


トーフは即答するけど、元気の無い応答。

神と名乗ったキチガイ野郎。自称神。
奴はクモマを自分のマントの中に沈めて消し、メンバーが瞬きをした瞬間に何も無かったように奴も消えてしまっていた。
そのためどこへ行ったのか、全く見当がつかない。


「そうよね。手段が無ければここから動いても意味無いわね」

「だけど動かないと先に進めないだろ」

「うええ…ク、モマぁ……ひっく……帰ってきてぇ…」

「突然消えちゃったもんよー。探しようがねえぜ…」


全員分の唸り声が鳴り響く。
頭を抱えて考えるけど消えたものを探すなんてハッキリ言って無茶な話だ。
だけれど探さなければならない。だって、クモマは大切な仲間だから。

しかし、どうすればいいのだろう。




+ + +



ここは闇。
闇はもちろん暗い。漆黒の空気に覆われている。


「お主…ついに我の元へ来てくれたな。クスクス」


この場に名前はないであろう。
何故なら次元が違うから。


「これで邪魔者はいない。優しい心を持ったお主は我のコレクションだぞよ」


クスリッと笑う神がいるこの空間。暗闇の空間。
他の者は絶対に近づくことが出来ない。


同類の者だけを除いては。





「……邪魔者はいないと思ったのだが、」




闇色に溶け込む自称神は腕の中のクモマの頭を撫でていたのだが、ここでパタッとやめてしまった。そしてチラッと目を流す。
そして三日月に歪む口を作る。


「早速現れたか。邪魔者め」


自称神が作り上げたこの暗黒の空間に険悪な空気が張り、自称神は悔しそうに舌打ちを鳴らしていた。






+ + +



甲高い豚の鳴き声が響き渡る。
何度も何度も鳴り響く声にさすがに全員が不審に思ってエリザベスの方へ向かった。


「どないした?」

「何かあったのか」


ずっとサコツにしがみ付いていたチョコもエリザベスの鳴き声に驚くと自ら剥いでそちらへ向かった。
胸がやっと空いて、安堵するサコツ。

やがてメンバーはエリザベスの元へやってきた。
すると息を切らしつつもメンバーに「来て来て」と叫んでいるようなエリザベスがそこにはいた。


「エリザベスー!どうしちゃったんだよー!」


エリザベス愛好会会長(自称)サコツが真っ先にエリザベスに抱きつく。
するとエリザベスは鼻を使ってある場所を指しながら、尚且つ鳴くのだ。


「?」


慌てている様子のエリザベス、今度は「見て見て」と言っているような仕草を見せる。
メンバーも言うとおりにそちらに顔を動かし、そして声にならない悲鳴を上げた。


「「!!?」」


エリザベスが鼻で指す場所、メンバーが見た場所
そこには黒い影があった。

先ほどクモマを連れ去った自称神と同じ闇色だ。
しかし自称神ではなさそうだ。
格好もシルクハットに黒マントでほぼ同じであるが一つだけ違う点がある。明らかに様子が違うのだ。

その黒い者は地面を這いながらゆっくりとゆっくりと近づいてきている。
例えるとするならばその行動は……そう、カメだ。
それほどゆっくりと、だけれど苦しそうに這って来る。


「な、なんだぁあれは…!」

「さっきクモマを連れ去った男とはちゃうみたいやな」

「…お、女の…人みたい…」


しゃっくりを堪えたチョコが言うように、その黒い者は女であった。
ツヤのある長い黒髪がシルクハットの下から見えている。
しかしその綺麗な髪も地面に張られているため乱れてしまっているのだが。


「…ってことはこいつは何者だ?」

「まあ、助けないわけにもいかないわね」

「そやな、何や苦しそうやし」


そういうことでメンバーは怪しい黒い女の元へ駆けて行った。
実際に間近で見てみると、格好は本当に自称神と同じだった。
もしかしたら同類の者かもしれない。そのため用心する。

だけれど、女の口から発された言葉で、メンバーの気持ちは一気に崩された。


「…ク…」


女の口元は怖ろしいほど赤かった。
それはまるでバラのよう。


「…イチ……ルク……」

「え?」


かすれた声で女は呟き続ける。


「…イチゴ…ミルク……」

「は?」


女の口から発される言葉、それは聞き間違いかと思ったが、確実にそう言っていた。

女は震えた手をメンバーに向けて伸ばす。女の白い肌にはまたバラ色が見える。美しい爪だ。
爪を見せるように女は手を伸ばして、なおも呟き続けるのだ。


「イチゴミルク……っ」

「イチゴミルク?」

「……イチゴミルク……飲みたい…っ…」


突然何を言い出すのかこの女。
"イチゴミルク"という微妙な飲み物を要求してくるとは。
そのためメンバーも焦った。


「…な、何?何なのこの人…」

「イチゴミルク飲みたいって言われても持ってないぜ?」

「キュウリならあるがあげる気はない」

「すまんな。ワイら野菜しか持っておらんのや」


苦しそうな女にメンバーは惑い、しかし助けてあげることが出来ない。
飲み物も水しかないし、困った。

まず自分らはクモマを助けてやらなければならないのだ。
この時間もハッキリ言って、もったいない。
今すぐでもクモマを助けに行きたいのに。…まあ手段が無いのだが。


すると、女はこう言葉を持ってきたのだ。


「……困ったわねぇ……私…あんたらの手伝い…しようと思ってたのに……っ…」


一瞬、耳を疑った。
しかし現にこの女が発している言葉だった。
女はまだ手を伸ばしてメンバーに震えた声で訴えた。


「…イチゴミルク…さえあれば……手伝える…のに…困ったわねぇ……」

「ど、どういう意味?」


女のドッキリ発言に思わずチョコも涙を止めていた。
そして質問するチョコであるが、女はもう何も言わない。
メンバーに伸ばしていた手もパタッと下ろされ、女は苦しそうに息をするだけだ。
美しい白色の顔が地面に汚れ、茶色に染まってしまう。


「…ちょ…!大丈夫?!」

「ちょっと。しっかりしなさいよ」

「し、死ぬなよ?イチゴミルクぐらいソングが搾り出してくれるぜ」

「あいにく俺にはそんな常識外れたことは出来ねえよ!」

「ど、どないしよう…!」


ただでさえ暇が無いメンバーの元に現れたこの女。
あの男と同じで黒ずくめであるが様子は全く異なる。
何と自分らの手伝いをすると言っているのだ。
これは見放すわけにはいかなかった。

しかし、女が要求しているイチゴミルクは無念なことにここにはない。
むしろ今まで旅をしていてその飲み物に出会ったことがない。
そのためメンバーはより困っていた。


そのときであった、焦燥しているメンバーの耳に、前に一度聞いたことがある声が聞こえてきたのは。


「ジェエエエエエエエエイ!!」


また来た。語尾に「ジェイ」がつく喋りをする謎の黒ずくめの男、ジャックだ。
こいつの場合は倒れている女と違って黒ローブを着用している。しかし黒色には変わりない。

ジャックは叫びながらこちらへやってきている。
颯爽と駆けているジャックの手には見慣れないものが持たれていた。
それをこちらに見せ付けながらやがてジャックは言った。


「『B』ちゃん、イチゴミルク持ってきたジェイ!!」









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