+ + +
「おいジャック、それは本当か?」
『本当だジェイ!オレっちこの目でちゃんと見たジェイ!』
「うーん…何ていうか、お前が言うと説得力がないなぁ」
『酷いジェイ?!オレっちを信じてほしいジェイ!』
「お前、魔力弱いじゃん?」
『だ、だけどこのオレっちでもちゃーんと感じることができたジェイ!あの子から感じたんだジェイ』
「何を?」
『「U」の魔力をだジェイ!あの子、きっと心臓のある場所に「U」の魔力を埋め込まれちゃったんだジェイ』
「!?…本当か?…お前にも魔力感じることできたんだな」
『オレっちのこと弱い者としか見てなかったジェイ?』
「だって、なぁ?」
『オレっち悲しいジェイ?!「L」のこと信じていたのにジェイ』
「はっはっは!分かったから泣くなって」
『な、泣いていないジェイ…』
「それで?用件は何だ?」
『そうなんだジェイ!実はオレっち、あの子の将来のことが心配なんだジェイ』
「うーん。確かになぁ。『U』の奴、前々から計画練っていたからなぁ」
『本当かジェイ?』
「ああ。この前言っていたんだよ『もう少しで我の人形の完成だぞよ』って」
『こ、怖いジェイ…!』
「しっかし、その"人形になる子"とジャックが会っていたなんて」
『オレっちもビックリしたジェイ!見た瞬間ちびりそうになったジェイ!』
「臭いから止めてくれよ」
『誰も今漏らすとは言っていないジェイ?!』
「はっはっは!んで、オレはどうすればいいんだ?」
『できればあの子を助けてほしいジェイ』
「……………助けてやりたいのは山々なんだけど、相手はあの『U』だ。オレも敵うかどうか分からない」
『何言ってるジェイ!「L」はオレっちたちの"エリート"なんだジェイ?きっと大丈夫だジェイ』
「っ!エ、"エリート"って言うな!オレ気にしているんだからな!」
『気にすることないジェイ。いつものように"パチン"をしてくれればいいジェイ』
「……だけど…」
『お願いだジェイ。あの子が可哀想だジェイ。救ってほしいジェイ』
「………分かった、考えとく。…ところで、その子の人形化はどのぐらいまで進んでいたんだ?」
『オレっち分からなかったジェイ』
「この役立たず!!」
『ご、ごめんジェイ!オレっち「U」の魔力に気づくだけで精一杯だったジェイ』
「まあ仕方ないか。ジャックは魔力が弱いからな」
『何度も言わないでほしいジェイ!』
「はっはっは!だから泣くなって!」
『な、泣いていないジェイ…』
「んじゃ、ジャック。こっちに戻ってきたらまた連絡してくれ」
『分かったジェイ。そのときはオレっちの部屋に来てほしいジェイ」
「もちろん。あ、『B』ちゃんも誘っていいか?」
『ほ、本当かジェイ?!「B」ちゃんも来てくれるジェイ?嬉しいジェイ!!』
「あんま大声出すなって。耳が痛いだろ」
『ごめんジェイ』
「それじゃ、また連絡頼むな。ミャンマー」
『ミャンマーだジェイ』
+ + +
本日も晴天なり。
「皆ミャンマー!」
車のシートを捲ってチョコが顔を出す。
最初に目線の入る場所にはクモマがいる。クモマは汗をびっしょりかいていたけど笑顔を作って手を振っている。いつものように挨拶を声に出していないが。
エリザベスを抱きかかえながら現れたのはサコツで、元気よく挨拶を返してくれる。
トーフも目を擦りながら眠たそうに挨拶。
ソングは歯磨きをしているようで無言で手を上げ挨拶の形を作っている。
一通り見たチョコはやがて足を地面につけたのであった。
「今日もいい天気だね!」
朝っぱらからいつものように元気のよいチョコに微笑むのはトーフ。
「ホンマやなぁ。天気がいいと気分も晴れるなぁ」
「うん!ホントホント!」
元気よく返答しているチョコの背後から現れたのはブチョウ。しかし何故か頭がアフロになっている。
「ベトナム」
「いや!挨拶は"ミャンマー"だよ姐御!って、何その頭ー!!」
「うわ!ブチョウすっげーアフロになってるぜ!」
「あら、寝癖が酷いわね」
「それは寝癖というレベルを遥かに超しちゃってるよ!?」
ブチョウのアフロ姿を見て、全員がツッコミをいれているとき、ソングもどうしてもツッコミをしたくて急いで歯磨きを終了させていた。
「お前、少しは人間らしい寝癖をつけてみろ!」
「あら、私は人間の中でも恋を夢見るか弱い乙女のつもりだけど」
「か弱い乙女が寝癖でアフロになるか?!」
さすがソング、ツッコミが激しい。
そしてそんな朝の光景を微笑ましく眺めているトーフの後ろにはクモマがいた。
しかしそのクモマ、朝の第一声を出さずに、笑顔だけを作っている。
だけれどその笑顔も汗をかいているものであり、苦しそうな表情と言ったほうが正しい。
クモマは無理に笑顔を作っていた。
そんなクモマに声を掛けたのはトーフ。
振り返ってクモマを見上げている。
「今日も楽しい一日になりそうやなぁクモマ」
にっと笑うトーフの声掛けにクモマは何も返さなかった。
頑張って笑顔を作ろうとして、口も開こうとして、だけれどその通りにならない。
どうしてもツライ表情になってしまう。口も閉ざしてしまう。
いつもと違う様子のクモマに流石のトーフも気づいたらしい。すぐに身を乗り出した。
「どないしたクモマ?なんか様子がおかしいで?」
しかし返事はなし。
「何で何も答えてくれないんや?ワイのことキライになったん?」
無言。
「クモマ?!」
「おい、どうした?」
遠くにいたソングもこの光景を見て歩きながらであるが駆けつけてきた。
トーフは急いで答える。
「クモマの様子がおかしいんや」
「は?んなわけあるか」
しかしソングは信じてくれなかった。
「ホンマや!クモマがさっきからワイの声に反応してくれへんのや!」
「お前が嫌われてるからじゃねえか?」
「……やっぱりそうなんか…」
ソングにからかわれてトーフは耳を下げる。ソングはそれを見ずに、クモマの前まで歩み寄る。
「おい、タヌキ」
無言。
「おい!」
本当に返事のないクモマにソングが叫ぶ。
だけれどクモマは、動かない。
しかも先ほどより表情が緩くなっている。笑顔も崩れ、ほぼ真顔に近い表情だ。
よくよく見てみると、クモマの目の焦点も合っていない。
「……!」
何だか危険を察してしまった。
ソングはクモマの無事を確認するために、急いでクモマの腰辺りに蹴りを入れ込んだ。
すると驚くべき光景を目にした。
パタン
何も抵抗もなく、クモマは倒れていた。
「「……………?!」」
+ + +
何も、感じない。
瞳に風景が映る。
焦点は合わなくてぼんやりしているけれど
メンバー全員が、表情を強張らして、僕に何か叫んでいる。
だけどね
何も、聞こえないよ…。
+ + +
「クモマ!!」
然程強く蹴っていないのに、クモマは倒れてしまった。
まるで看板が風で倒れたようにクモマもパタンと倒れ、それ以降動かない。
蹴った本人はもちろん、メンバー全員が驚きの表情をして、今の気持ちを叫んでいた。
「どうしたのクモマ?!」
「何で動かないんだよ?クモマ、どうかしちゃったのか?」
「…何の冗談よたぬ〜…」
「おい!ふざけんのもほどほどにしろ…!何だよお前…」
「…………あかん…」
+ + +
動けないよ。
動かせないよ。
この体、もう僕のものじゃないんだよ。
+ + +
「何で?何でクモマ動かないの?!意味が分からないよ!唐突過ぎるよ!ねえクモマ!何か言ってよ!!」
「チョコ、落ち着きなさい」
倒れてしまったクモマを抱きかかえ、チョコは何度も揺さぶった。
しかしクモマは動かない。動けない。体を動かすことが出来ない。
「………これは一体何の前触れなんや…」
こんな唐突な出来事、全員が理解できるはずなかった。
動かないクモマに驚きを隠すことが出来ない。
昨日はあんなに元気だったのに、昨日は動いていたのに、昨日は声を聞くことが出来たのに
今日はそれらが皆、できなかった。
「これ、本当にクモマなの?」
思わずチョコが問うた。
しかしトーフが首を縦に揺らす。
「クモマや。昨日の夜クモマはワイに眠る挨拶していたわ。ちゃんと動いてた」
「それじゃあ何で今日は動かないの?」
「わ、ワイが知るはずないやろ」
トーフが困り果てながら応答している背後でソングが先ほどのことを思い出しながら言葉を漏らす。
「……さっきはちょっとだけ動いてたよな?」
「動いてたぜ!チョコの挨拶に手ぇ振ってたもんよ!」
「だけどいつものような挨拶じゃなかった。声を出して挨拶してなかったよ…」
+ + +
おかしいなぁ。
朝一番はちょっとだけでも動けたのに。
起きることも出来て、チョコの挨拶にも手を振って答えることが出来たのに
突然だよ。
急に奪われるなんて。
『動き』と『感情』と『聴覚』を。
あと残っている器官って一体何だろう?
脳と目だけ?
でも目も虚ろになってきたなぁ……
+ + +
「クモマ!どこにいるの!クモマ!!」
「何言うてるんや。クモマはこれや!」
「違うよ!クモマはちゃんと動くもん!私の知ってるクモマは優しく微笑んでくれるもん!こんな人形じゃないよ!!」
「…ワイも、信じたくないわ…」
+ + +
ゴメンね。ゴメンね。
今の僕は、人形に等しいものだよ。
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クモマはどうなっちゃうの?
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