本日は 晴れ ときどき 男…?!


37.降ってきた男


両手にキュウリを持ったソングは幸せそうにそれらを頬張りながらメンバーと並んで道を歩いていた。
エリザベスと田吾作が引いている車より前に出て会話を弾ませる。
クモマ以外のメンバーは皆、手に野菜を持っていた。


「キュウリは最高だ」

「こんなに野菜をもらっちゃうと食べるのに一苦労しちゃうね〜」

「せやけど、はよ食わんと野菜腐れてしまうから、早々と平らげへんとな」

「そういって1人だけ別世界の速さを見せるように平らげていくトーフは流石だと思うよ」


ボリボリと野菜を食べる音が鳴り響く中、クモマだけが野菜を食べていなかった。


「あれ?クモマは野菜を食べないの?」

「…い、いや……野菜苦手なんだよ…」


実はクモマは野菜が大の苦手であった。
それに首を突っ込んでくるのは珍しいことにソングだった。


「お前、野菜をバカにするな」

「い、いや、バカにしているつもりはないのだけど…!」

「いや、野菜を食べないなんて野菜を侮辱しているのに等しい」


クモマに対してソングは野菜が大の好物であった。
野菜がないと生きていけない…いや、キュウリがないと生きていけない彼にとって野菜は人生の友である。
恋しくキュウリを口の中に入れ味わうソングを見てクモマは申し訳なく眉を寄せる。


「肉は好きなんだけどどうも野菜は食べれなくてね…」

「肉なんて食べたって太るだけだろ。野菜はヘルシーで体にもいいんだぞ」

「だけど野菜は苦い!」

「肉の肉汁が嫌いだ」

「何言っているんだい!その肉汁が美味しいんじゃないか!」

「はあ?お前あれは動物の脂だぞ?気持ち悪いじゃねえか!」

「そ、そんな!野菜の方が土の中で育てられた実だよ!美味しいはずないじゃない!」

「て、てめえ…!!」

「「って、くだらないことでもめるなよ?!」」


討論で始まり終いにはお互い喧嘩腰になりかけていたので急いで間に割り込んだメンバーはクモマとソングを取り押さえてた。
そしてサコツが言う。


「2人、合体しちゃえばちょうどいいんだろーなー」


それにチョコが笑ってた。


「だよね〜!そしたら野菜も肉も食べれていい体になりそう!」

「私は筋肉モリモリが好みだわ」

「あ、私もー!体の細い人はちょっと…」


チョコがそう言ったとき、激しく反応したのは先ほど取り押さえられた2人であった。


「ぼ、僕は好きでこんな細身しているんじゃないよ…!」

「クソ、仕方ねえだろ。野菜しか食べてなかったんだから」

「な〜っはっはっは!んじゃこの中じゃ俺が一番いい体してんな!」

「何言ってるのよ。あんたらなんか比べ物にならないわよ。クマさんは腹筋が12こも割れているのよ」

「それは割れすぎだろ!ってか逆に気持ち悪い!」

「って、クマさんってどこに腹筋あるの?!」

「それじゃ見せてあげるわ」

「「いや!遠慮しとく!!」」


野菜を頬張って、道を歩いていく。
何もない一本道のため、こうやってのんびりと外を歩けるのだ。
しかも本日は晴れ。いい天気だ。
そのため雲の流れも最高である。

入道雲のように重みのある雲が空をゆっくりと泳いでいる。
クモマはそれの存在に気づき、ふと目を上に向けた。
ああ、雲はいい。と空を仰ぐ。

突然クモマがそんな行動を取り出したため、揉め事はここで中断された。
全員が野菜を食べたり隣と会話したりと自由に行動をとる。
その中でやはりクモマは空を見るのをやめない。


「…やっぱ空も雲もいい…!」


そうクモマが至福を感じているときだった。
青と白の世界に黒い粒がポツっと浮かび上がったのだ。
視界に入ってきたそれの存在に、クモマはふと疑問を作る。


「何だろう、あれ…」


それは見る見るうちに大きくなってきている。こちらに近づいている何よりの証拠だ。
そして聞こえてくる。悲鳴のようなものが。


「……ねえ、何か落ちてくるよ」


クモマがそう言うと一番近くにいたチョコが、え?と目を丸くした。


「"何か"って何なの?」

「分からないんだ。だけどこっちに落ちてきているみたいだよ」


クモマが空を見ているのでチョコもつられて空を見る。
するとチョコも言っていた。


「何か落ちてきてる…」

「だろう?」

「え?何?何アレ?」


チョコも何か言い出すのでついには全員が空を仰いでいた。
そして全員が同じように声を出す。


「何か落ちてきているな」

「何だーあれぁ?」

「鳥…じゃないよね〜?」

「鳥っつうたらブチョウか?」

「いや、ブチョウは今ソングの頭を突付いている段階やで」

「いててててて!やめろ、この野郎!何か出るだろ!」

「出しちゃいなさい。恥ずかしい物体を」


全員がそう言っている間にもその物体はこちらに近づいてきている。
悲鳴も普通の悲鳴ではなく、何だか特徴的な悲鳴だ。


「ジェエエエエエエエエイ!!」


悲鳴も間近で聞くことが出来た。そして形も見えた。
落ちてきているもの、それは
黒い者だった。


「「うわああ?!」」

「ジェっ!!」


もう間近に迫ってきていたので全員は素早く身を引くと、メンバーが作った円の中央に見事その黒い者が墜落してきた。
黒い者はまるで漫画のように地面に人型の穴を作って大胆に落ちる。

一瞬、間があった。



「……何…?」

「わ、わからない…だけど何かが落ちたよね…」

「………」


そして全員して中央にある人型の穴を覗き込んだ。
するとそこからニュっと手が生えてきた。
落ちてきた者がよじ登ってきたようだ。

やがてそれは地面に足を掛け、全身を現す。


「………!」


そいつは、ただ者ではなかった。
何故なら見覚えのある格好をしているから。


黒ローブを着用している男。



「…あ、あなたは……」


クモマが「あなたは誰?」と問おうとしたとき、驚いたことに向こうから激しく反応してきた。


「あービックリしたジェイ!ここは一体どこだジェイ?」


それはとても珍しい口調の男であった。
顔をマジマジと見てみると、この男、全く邪悪な表情を作っていなかった。


黒ローブ姿に酷く怯えた表情を作っていたブチョウだったけど、目の前の者が自分が最も憎む者ではないと気づくと、表情を緩めてた。
そして他のメンバーも、まさかブチョウが憎んでいる相手『オカマ』かと思ってヒヤリとしていたのだが、ほっと安堵のため息をついた。

あのオカマと格好がほぼ同じようだけど全くの別人のようなので胸をなでおろす。
そのとき向こうから訊ねてきた。


「あんたらは一体何者だジェイ?」

「それはこっちの台詞だ!てめえは誰だ?!」


突然現れた…というか、落ちてきたその男
とてもひょうきんな者のようで、顔を見るだけでもそれは分かる。
鼻の頭にそばかすのある、見るからに軽そうな男だ。
前に出会ったオカマとは程遠い存在だった。

ソングのツッコミに男は答えた。
謎のポーズをとりながら。


「オレっちはジャックという名を授かった者だジェイ!」


そしてジャックと名乗った変な男は、手で「J」の形を作って自己主張した。
一瞬呆気にとられてしまったため、出遅れてお辞儀をする。

手を「J」の形にしたままジャックがまた訊ねてくる。


「あんたらは何者だジェイ?」


訊ねられたので、トーフが答える。


「ワイらはラフメーカーや」

「ラフメーカー…知らないジェイ」


首をくいっと下げるジャック、やはりラフメーカーの知名度は低いようだ。
ラフメーカーの存在を知っているものは魔物だけなのだろうか。

そう思っていたら、ジャックが身を乗り出してきた。


「それにしても愉快な団体だジェイ」


驚いたことにジャックもメンバーの姿を見るなりそう言っていた。
あのときのオカマと同じだ。
あのオカマもメンバーを見るなりいろいろと見抜いていた。
果たしてこいつも見抜くのだろうか。…そう不安に思っているとき、ジャックは口を開いた。


「髪色が様々だジェイ!ハデで愉快だジェイ!」


……あのときのオカマとは本当に程遠い存在のようだ。

1人で弾けているジャックにクモマが恐る恐る訊ねた。


「あの、何で空から降ってきたんですか?」


それは最も気になる点であった。
するとジャックはちょっと口先を曲げてツライ過去を思い出すように、語ってくれた。


「ちょっと仲間にぶっ飛ばされてしまったんだジェイ…。あれには驚いたジェイ。オレっちはお菓子の城を作っていただけなのにジェイ」

「は?お菓子の城?」

「美味そうやな」

「それなのにあんな些細なことでオレっちを飛ばすなんて…ひどいジェイ」


この様子からジャックは仲間によってぶっ飛ばされてしまったらしい。仲間割れだろうか。
声に元気がなくなってしまったジャックに何故か全員が慰めかける。
その中でトーフだけが険しい表情を作って、さらに問いかけていた。


「あんた、見ての通り黒づくめのようやけど、まさかあんオカマの仲間とちゃうか?」


トーフ、単刀直入だ!
さあジャックは何と答えるのか?


「オカマというかキモイ奴はたくさん知ってるジェイ!」


あまり答えになっていない回答をしてくれた。
トーフが返す。


「そっか、ならええわ。…ちょっと気になったことがあったんや。あんたみたいな黒い人、いろんな形で会っておんねん。せやから聞いてみたところや」


それにジャックは「そうかジェイ」と無理に語尾にジェイを付けて頷いていた。


そういえばトーフの言うとおりだ。
メンバーはそれぞれ黒い人物と出会っている。

クモマの場合は幼き頃に心臓を奪っていったあの男…自称神。あいつも黒づくめだった。
チョコも会っている。幼き頃に自分の体に乗り移って村を破壊した男、名前は知らないけどあいつも黒づくめ。
ブチョウは例のオカマ。もちろん黒づくめだ。
そしてトーフも実は会っている。数百年前に自分の右目に呪いをかけた老人、あれも黒づくめ。
それからトーフを生き返らせてくれた人物…トーフの右目の呪いを封印してくれた人物、あれも実は黒づくめであった。

不思議な人物は皆黒づくめ。これは一体何か関係しているのだろうか。

ジャックも似たような黒づくめだけれど、関係あるのだろうか。
気になったのにちゃんと返事をしてくれないジャック。
せっかくのチャンスだったのに情報をつかめなくてがっかりしているとき、今度はジャックが行動に移していた。

クモマの前まで歩み寄り、顔を眺めている。


「な、何?」

「…………この顔は……っ!」


クモマの顔を覗きこんでいるジャックは見たらいけないものを見たと言わんばかりに目を見開いていた。
自分の顔に何かかついていると言っているように感じとれたクモマは顔に手を持っていくのだが、
ジャックに「あんたの顔に何もついていないジェイ」と注意された。
そしてジャックは言ったのだ。


「この顔…見たことあるジェイ…!」


するとジャックはぐっと腰を曲げて、じっとクモマの胸元を見てきた。
クモマは、まさかまた胸の中に手を入れられる?と思い、ビクッと震える。
そしてジャックは案の定、胸の中に手を突っ込んできた。

ジャックの手はクモマの胸の中に……


「…ジェっ!!」


入らなかった。
見事胸板に当たり、しかも関節がグギっとなってしまいジャックはもがき苦しんでいた。


「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だジェイ…」


一体何がしたかったのか分からなかったけど、ジャックはまたクモマの胸を、いや胸の奥にある心臓を見ようとしている。


「うーむむむむむむだジェイ」

「あの、何を…?」


意味が分からなくて、クモマは訊ねた。
だけどジャックは睨んでいる。心臓がどこにあるのかと訴えているように。

やがてジャックは言ったのだった。


「……オレっち、あんまこういうの得意じゃないけど、あんた"あの男"の犠牲者だジェイ?」


クモマも他のメンバーもギョっと目を丸くしているとき、それは問いかけから忠告に変わっていた。


「感じるジェイ。オレっち魔力はからっきしダメだけど、あんたの顔を見た瞬間感じたジェイ。…あんたこれから気をつけた方がいいジェイ。きっと危険な目に遭うジェイ。……あいつのお迎えが来ちゃうジェイ…」

「え?」

「だけど、オレっちにいい考えがあるジェイ!」

「え?」

「ちょっと行ってくるジェイ!」


いろんなことを言われ戸惑いを隠せないクモマであったが結局頭を整理できないまま、ジャックに逃げられていた。


「ちょっと?!」


クモマは止めようとしたのだけれど、ジャックは懸命に走っていた。
あのときのオカマのようにすっと空気に溶けるように消えることなく、走って去っていくジャックの背中を複雑な気持ちで眺める。


「何だぁあいつ?」

「さあ?」


ジャックの影が見えなくなるまでメンバーは不思議そうに首を傾げていた。







そのころ走っているジャックは、黒ローブの中から受話器らしきものを取り出すと
いくつも並んでいるボタンのうち一つのボタンを押して、耳に当てていた。

暫く繋がらなくて無言であったが、ブツっと向こうが受話器を取った音が鳴ると、すぐにこう叫んでいた。


「オレっち『J』だジェイ!実は知らせたいことがあるんだジェイ!」


向こうの声を暫く聞いて、またジャックは叫ぶ。


「会ってしまったジェイ!あの"例の子"に……本当だジェイ!まさかオレっちを疑っているジェイ?ほ、本当だジェイ!『L』、信じてほしいジェイ!!」










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ジャックは相互リンクしているSOAに登場していますよ!

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