突然の暗闇の訪れに、人々は言葉を失った。
黒一色の世界に驚き動くことが出来ない。息をすることさえも忘れさせられる。そんな闇の訪れ。

徐々に重なりつつあった太陽と月が今、完全に重なり合ったのだ。
世界に届くはずである光は月に遮られ地上に届くことができなくなってしまったために世界が暗くなった。

自然に人々の目線は上に向けられた。太陽を探そうとしているのだ。
しかしこんなにも暗闇。
太陽があった位置もわからないし、まず自分がどこを向いているのかも分からない状態だ。

だけれどこの時間もそう長くはなかった。これは毎年のことで、数秒もかからないものなのだ。
ほんの少しの暗闇体験。夜よりも怖ろしい暗さを体験。
そのため、すぐに太陽の光は空を照らす。ゆっくりとゆっくりと月が太陽から外れて太陽の姿を見せていく。
元々上を見ていた人々は太陽の光の復活により、太陽の場所を見つけることができた。
助かった。と思ったすぐ先には、さきほどまでなかったものが浮かび上がっていた。


自分らの前に、誰かが立っている。


太陽のあった位置、南に目線があるため嫌でも南にあるものが目に入る。
光を取り戻した太陽はそれらを照らしていく。
それらは複数の影だった。5つの影は人の形をしており、こちらに向けて仁王立ちしていた。

誰だ、と思えば太陽は正体を教えてくれる。

次第に太陽は世界を元の色に戻していた。そのおかげで目の前の5つの影も光に当てられる。


「だ、誰だ?!」


突如現れた5つの影の正体を早くつかめたく、盗賊団の1人が叫んだ。しかし少し声が突っかかっている。

チョコを捕らえている盗賊団の1人も同じだ。じっと5つの影を睨んでいる。
そしてサコツはその隙を見逃さない。ポケットにあるしゃもじを取り出すとすぐに"気"を溜め、盗賊団の手首を狙ってナイフを弾かせた。
衝動で落ちたナイフに盗賊団が驚いて力を緩めた刹那。チョコは力ずくで盗賊団から逃げることにも成功した。


「あ、くそう!」

「チョコ、大丈夫か?」

「うん!ありがとうサコツ」


サコツが手を伸ばしてチョコの手を掴むとこちらに手を引きチョコを滑り込ませる。
よってチョコはすぐにサコツの元へ逃げ込むことが出来た。
それに怒りを表す盗賊団であるが、ある声が遮った。


「しもやけ盗賊団の人たちですか?」


影の一つが微妙に動く。それからすぐに一段と小さな影がちょこっと動く。


「もうあんたらの好きにさせへんで!」

「んだぁ。おらたちが来たからにはおめえらは最期だぁ」


中心の影が動いたとき、その両端の影が大胆に揺れた。


「キャー!!タロウ様、素敵ですわ!!」

「やっぱりあんたは私の好みのタイプだわ。私のものになりなさい」


太陽の光は今全世界に行き渡り地面に溶け込んだ。
物も光のおかげで姿を見せることができ、人々も自分の姿をとり戻ることが出来、
そして、目の前にいる5つの影も正体を現した。
そして叫ぶサコツとチョコ。ソングもふと安堵した表情を作る。


「クモマ、トーフちゃんに姐御〜!無事だったの?よかったぁ」

「おーみんな!無事だったか?」


「うん。無事だよ。しかし、キミたちがしもやけ盗賊団を食い止めてくれてたんだね」


そんなサコツとチョコにクモマが微笑みながら答え、ソングが眉を寄せる。


「食い止めていたとは一体何のことだ?」

「こんしもやけはここにおる人らの村を襲う悪い盗賊団なんや。ワイらはそいつらを倒しにここにやってきたんや」


トーフが説明し、ソングは納得した。
なるほど、この盗賊団が言っていた村とはそこにいる2人が住んでいる村のことだったのか。

だが、そうメンバーがのんびりしているのを見計らって盗賊団は動き出す。
再び武器を持って、今度は突如現れた5人に向かって襲い掛かっていた。


「邪魔だどけー!!」

「邪魔はあんたの方やボケぇ!」


しかし裾から糸を取り出したトーフは無敵と言っても過言ではない。襲ってきた盗賊団をすぐに縛り上げる。


「あんたらはもうあん村に行かなくてもええんやで」


トーフの言っていることがよくわからなかったが、問いかけている暇もない。
盗賊団は人数を変えてまた襲い掛かってきて、ブチョウやソングに食い止めていく。
そしてクモマも同じく食い止めようとするのだが、


「………あれ…?」

「お前の力、ヘボいんだよ!邪魔だ!!」


するりと相手に逃げられていた。
前に出て食い止めようとしているクモマたちは今必死に自分らの後ろにいるタロウとハルカに盗賊団を近づけまいと手を広げている。
しかしクモマは簡単にすり抜けられていた。
クモマがミスするとは珍しいとトーフが目を丸くし、クモマは一瞬唖然としていた。
額には汗をかいている。冷や汗だ。


「………どうしよう……」

「どないした?クモマ」


クモマを避けて背後のタロウたちを襲おうとしている盗賊団をトーフが糸で捕らえながら問いかけ、クモマは目の辺りを顰めた。



「……力が…全くでない…」

「…え?」


クモマの告白に、トーフも思わず力を緩めてしまってた。
そのためトーフが仕掛けた糸も緩くなり、捕らえていた盗賊団を逃がしてしまっていた。
それに早々と気づき、トーフは追うが糸は届かない。
盗賊団は武器を持って走る。タロウとハルカの元へ。

クモマを置いてトーフが叫んだ。


「あかん!逃げるんやあんたら!」


盗賊団とタロウとハルカの距離は短くなっていく。
ハルカはタロウの後ろに身を隠し、タロウは…


「…仕方ないだぁ。おらの"奥の手"を出すしかないだぁ」


懐に手を突っ込んだ。
すると懐から光るものが出てきた。
一体何なのかと思ったが、眩しい存在に目を瞑る。

しかし、眩しい原因はすぐに太陽の光のものであると気づいた。
それにしても太陽の光をこんなにも綺麗に反射するものがあるとは…。刃物系であろうか。
そう思った人々であったが、違ってた。

タロウは懐から"奥の手"を出した。
"奥の手"は光る。太陽の光によって、美しく輝く。
それはまるで世界の光がこの"奥の手"に吸収されているかのよう。それほど眩しいものだった。

太郎の手には"奥の手"が握られている。


「これがおらの"奥の手"だぁ」


それは、刀でもナイフでも、斬れる物でもなかった。
今目の前にあるもは、よく食卓に出される物。


「その名も"大根ソード"だぁ」


白い肌が美しい大根であった。


「「…」」

「おらの大根ソードを喰らったらおめえらイチコロだぁ」

「「ふっざけんな?!」」


思いもよらなかった大根の登場に、全員が見事綺麗に同音でツッコミをいれていた。
しかしタロウはマイペースだった。


「おらの大根はすごいだぁ。実が引き締まっていて美味そうだぁ」

「だからどうした?!」

「大根はいろんな料理に使えるだぁ。だけどおらは生で食うのが好きだぁ」

「んなもん誰も聞いていねえよ?!」

「大根は人々に生きる勇気を与えてくれるだぁ」

「俺は一度も大根に救われたことねえよ?!」


そして思わずツッコミの連続を披露するソングの姿があった。

のん気なタロウを見て、メンバーも思わず気を緩めていた。
その隙に盗賊団は走る。全てタロウの方へ。
盗賊団はこう思ったのだ。

この田舎くさい男、絶対にバカだ。すぐに倒せそう。と。


盗賊団は刃物をタロウに向けて振り落とす。


スパっと物が切れる音がした。
きっとタロウの持っていた大根が斬れたのだろう。

しかし、違う。世の中はそんなにも甘くはない。今、そう実感された。



「おらの大根ソードは無敵だぁ」



驚いた。何と斬られたのは大根を斬ろうとして振り落としていた刃物のほうだった。
刃物の先は地面に叩きつけられ、短くなった刃物を呆然と眺めている盗賊団。
隙を見計らってタロウは太陽によって光り輝く大根ソードを振り落とす。それは全て盗賊団の武器に向けて。



「ぎゃー!俺の刀が真っ二つに?!」

「ナイフが粉々に!?」

「そんなバカな?!刃物が大根にやられるなんて!ありえねー!!!」





+ + +


こうしてタロウの大根ソード裁きによってしもやけ盗賊団を蹴散らすことが出来た。
尻尾を巻いて逃げていく盗賊団の姿をトーフがニヤニヤしながら見ている。


「あいつらはもうこん2人の村には来ないで」


そう断言したトーフにチョコとサコツが目を丸くする。


「どういうことトーフちゃん?」

「何で言い切っちゃうんだよ?」


トーフは笑みを浮かべたまま答えた。


「実はな、こん大根の人の家にな"ハナ"があったんや。そん"ハナ"のせいでしもやけの奴は村を襲っていたんや。きっと"ハナ"が盗賊団を引き寄せてたんやろな」

「だけど僕らが"ハナ"を消したからもう大丈夫だよ」

「しもやけの奴らももう村には来ないわね。あんな素敵な大根裁きをみてしまったら怖ろしくて近づけないうえに大腸が出ちゃうわ」

「大腸を出す根拠が分からん!」

「皆様、本当にありがとうございました」


"ハナ"を消したから安心だと喜び合うメンバーの間には頭を深く下げるハルカの姿が見られた。
それにクモマが首を振る。


「いえいえ、僕たちは僕たちの仕事をしただけですから」

「だけれど、おかげで私たちは救われましたわ。…何かお礼を…」

「い、いえ、いいですよ…!」


頭をペコペコ下げてお礼をしたいと言うハルカにクモマが慌てて止める。
しかしそんなハルカの背後にはタロウの姿があった。
そのタロウの手には大量の野菜が持たれている。そして足元にはエリザベス。


「おらが育てた野菜をおめえらにあげるだぁ。おらからの感謝の気持ちだぁ」

「ええ?!や、野菜…」

「何!野菜…!」


野菜を差し出すタロウにむけて二つの声が飛び交った。
前者が野菜嫌いのクモマで後者が野菜好きのソングだ。
ソングが言う。


「まさかこんなところで野菜をもらうことができるとは……恩にきる」

「や、野菜だけは本当に勘弁して……」


対してうなだれるクモマであったが、上機嫌のソングの声に押しつぶされていた。


「すげえ…!キュウリがこんなにたくさん…お、ナスもあるのか。これは嬉しいな」


そしてソングは自然に零れたヘタな笑顔をタロウに見せ、手を差し出し握手をした。本当に嬉しかったようだ。
握手をした後、タロウは足元にいるエリザベスに目を向けた。
エリザベスもタロウを見ている。


「おめえはどうするだぁ?……………そうかぁ。ならおめえも頑張るんだぁ。この野菜を食っておらたちのことを思い出してけろ」

「ブヒー…」


別れを惜しむようにエリザベスはタロウとハルカを見ていたが、やがて動き出した。
そう、彼女はメンバーの元へ帰ろうとしているのだ。


「エーリザーベスー!!」


すぐにお迎えがきていた。
エリザベスのことが大好きなサコツはエリザベスの麗しき姿を見るとすぐに飛び込んでいた。
太陽を背景に二つの影はゆっくりと近づいていく。そして重なり、通過する。


「………?!」

「ブビー」


サコツをすり抜けたエリザベスはそのまま突っ走り、やがてもう一匹の豚である田吾作の元で足を止めていた。
そして嬉しそうに鳴きあう2匹の豚。
サコツは足を崩した。


「え、エリザぁ………」

「まーまー、元気出してよサコツ」


頭を垂らすサコツにチョコが元気を与えていた。





それから、もらった野菜を大事そうに抱えたソングを先頭に、メンバーは車の元へ帰り、2匹の豚に運んでもらうのであった。









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何だかまたクモマの様子がおかしくなっていましたよ?何でしょうね?

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