サコツの呻き声はメンバーには聞こえなかった。
しかしサコツは呻き続けた。どう感情を伝えればいいのか惑い、おかげで胸が圧迫しそうになる。


「そんな…ウソだ…。だって母さんは俺の目の前で……」


やはりメンバーには声は届かなかった。
しかし上に乗りかかっている母には伝わったらしく優しく微笑みかけている。
そんな母の姿にサコツは動揺を隠せない。

メンバーは何が何だか分からないが、サコツの目が潤んでいるのを見て、黙ってはいられなかった。


「ねえ、一体どうしたんだい?」

「全くや。そん人は誰なんや?」


サコツはクモマとトーフの問いに答えることが出来なかった。
何故なら、泪をポロポロと流していたから。
仰向けになっているため泪は耳に目掛けて流れていく。
突然泣き出したサコツに全員が戸惑った。


「おい、どうした?」

「さ、サコツ?」

「チョンマゲに何したのよあんた」


この白い人がサコツに何かして泣かせたのだろうと思ったブチョウは真っ先にそう突っ込んでいた。
すると、泣いているサコツの上に乗っていた白い人は、こちらに顔を向けてきた。
その顔は笑顔だった。

笑顔に一瞬躊躇したがブチョウは訊ねた。


「あんた、何者よ?」


ブチョウの声に白い人は陽気に笑い声をあげていた。


「な〜っはっはっは!」

「?!」


聞いた事のある笑い声に全員が唖然とした。
この特徴的な笑い声は…。

思わず固まってしまっているメンバーに、笑い声を上げている者は弾んだ声で答えてくれた。


「すまないね!ビックリしたでしょ?も〜あたしも息子との久々の再会に思わず興奮してしまってたよ」

「え?息子?」


鋭く突っ込んだクモマはそのまま喚く。


「息子って…まさか…?」


すると、白い人は笑顔で頷いた。


「あたしはサコツの母親よ」



「「ええええ?!」」


一瞬、間があった。
そりゃそうだ。サコツの母親といったらサコツの話によると既に死んでいる人物なのだから。


「…あら…やっぱり驚かれたか…」

「当たり前じゃねえかよ…」


サコツの母親…ウナジが「まいったな」と呟いたとき、下で潰れている息子の声が聞こえてきた。
泪を強引に拭き取ってサコツは言葉を続けた。


「だって母さんは死んだはずじゃんか…俺の前であんな無残にも………」


7年前のヘヴンの村で、悪魔のサコツを処分しようという計画が成され、まず初めに母親天使のウナジが殺害されてしまった。
目の前で大切な人が傷ついていくのをサコツは泣きながらしかし何も出来ずにただ見ていることしかできなくて、見殺しにしてしまっていたのだ。
大好きな母の美しい白い羽が強引にもぎ取られ、赤く染められてしまった。
サコツはそれが心残りだった。
いつの日か、母を前にして謝りたかった。
自分のせいでごめんなさい。と謝りたかった。
お母さんのことが好きだと、言いたかった。

だが、母親は死んでしまった。あんな無残な姿にされて。
だからサコツはそれが悲痛で仕方なかった。


しかし今、自分の目の前にはその母親がいた。動いていた。
7年前のあの事件以来動かなかった母親が、動いていた。
そのことが嬉しくて嬉しくて、サコツは泪を流し続ける。
嬉し涙を流し続けた。

そんな息子を見て母親は笑っていた。


「な〜っはっはっは!バカだねあんた。泣くことないでしょ?」

「…な、何言ってんだよ!俺のせいで母さんが………っ!」

「ちょ、ちょっと待っちぃ!」


二の腕辺りで泪を強引に拭き取るサコツを笑うウナジ。その横に立って、トーフが割り込んできた。
何?と笑顔をそのままこちらに向けてくるウナジにトーフは少し躊躇い、けれども口を開いた。


「これは一体どういうことや?サコツの話によるとあんたは死んだはずやで?」

「そ、そうよ!ちゃんと説明して!」


チョコも口をはさみ、他の皆もウナジに目を向ける。
しかし視線を浴びてもウナジは笑顔を崩さなかった。


「…ま、堅いこと気にせずにあんたらも今ここでじっくりと堪能したらいいんじゃない?」


そう言ってウナジは自分の下にいる愛しい我が息子の上半身を起こすとギュウっと抱きしめだした。
サコツは泪に埋もれていて何も言わないが、ウナジと同じように抱きしめる。
7年前の自分に戻ったかのようにサコツは母親を愛した。


対してメンバーはウナジの言っていることの意味がわからず首を傾げていた。
一体何を堪能すればいいのだろうか?
すると、悲鳴が上がった。チョコからだ。


「きゃああああ〜!!」


突然の悲鳴に全員が驚いた。チョコの方を振り向く。だがチョコはその場にいなかった。
チョコは遠くへ突っ走っていたのだ。
遠くに行くチョコは何かを叫んでいた。


「みんな〜元気だった〜?」


そして身を低くしてチョコは何かと抱き合っていた。
それは動物たちだった。猫や犬など様々な動物がいた。
実はこの動物たち、みんな数年前に死んだ子たちだった。
病気や事故などで無念にも人生にピリオドを打ってしまった動物たち。
それにチョコは悲しんでいた。メンバーと出会うまでチョコには人間の友達がいなかった。動物だけが彼女の友達だった。
だからその友達の死にはチョコ、常日頃から心の奥底で悲しんでいたのだ。

しかしその動物たちが今彼女の前にいる。
死んだはずなのに動物たちはここにいた。


「も〜また会うことができるなんて嬉しいよー!あうあう…」


そしてチョコは泪に埋もれてしまった。
たくさんの動物に囲まれてチョコは嬉し涙を流す。




それを遠くから眺めていたメンバー。
もう何が何だかさっぱりだ。

すると次の事件が起こった。
ブチョウが何かに反応したのだ。


「……うそ?」


ブチョウは上空を見上げていた。
クモマもトーフもソングも見上げる。

そこには、黄色い鳥と黒い鳥が優雅に羽ばたいていた。
クモマの頭に黄色の羽根が舞い落ちてきて頭の一部が黄色く見える。

すると可愛らしい声が聞こえてきた。


「あ〜!いたいた〜!」


それは黄色の鳥…カナリアが言っているように聞こえた。隣の黒い鳥…カラスは何も言わない。
ブチョウはその二羽を見て、震えていた。


「ヒヨリ!ジュン!」


そう叫ぶとブチョウも白ハトの姿になり、二羽の元まで羽ばたいていった。
上空に舞う鳥は三羽となりそれらは仲良く会話しだしたのだが、何を言っているのかは下にいる者には聞こえなかった。


それぞれが、失った大切な人と出会っている。
もう既に死んだ者たちが今この場に現れている。
しかもそれは幻ではない。実際にこの場にいるのだ。触れればその人の体温を感じることが出来る。

今だって、ソングがそうだ。


「……………………………っ!!!」


少し熱い体温を背中から感じ取っていた。

これは前にも感じたことがある感触だ。
幻が見えたあの場所で。
ソングは最も会いたかったあの人の優しい体温を背中に感じとても幸せだった。

そして、今も幸せだ。


「ソング…」

「…メロディ…?」


名を呼ばれソングも相手の名前を呼ぶ。
するとソングの背中に引っ付いている彼女が楽しそうに笑っていた。


「あはは!会いたかったよソング」


このお惚けたような声はまさしくメロディのものだった。
メロディが笑うたび振動がソングに伝わってくるが、ソングはそれ以上に震えていた。

後ろのいる者がメロディだと分かるとソングは


「メロディ!」


どうしても彼女の顔を見たくて勢いよく振り返っていた。
そして、見れた。
メロディの笑顔を。


「また会うことが出来たね、ソング」

「……っ!」


彼女の愛しい顔を見れてソングは思わず笑顔を作っていた。
メンバーはその笑顔を見ることが出来なかったが、メロディだけが見れた。
ソングの下手な笑顔にメロディは爆笑していた。


「あはは!も〜ソングったら〜!」

「あーダメだ。変ににやけてしまう…」


そして二人は熱く抱き合っていた。





目が暗さに完璧に慣れていた。
どこに誰がいるのかも分かる。
しかし全員が抱きしめあっていた。
大切な人と抱きしめあっていた。


残されたのはクモマとトーフ。
何でこんなことが起こってしまったのだろうか分からず、呆けていた。


「世の中、不思議なことが起こるものなんだね」

「そやなー。ワイもこんなのはじめてや。一体何やろうなーここは?」

「全くだよね。何だか僕たちだけが置いていかれちゃったよね」

「みんな死人に会っとるみたいやけど、これ何や?」

「ここって死人と会うことが出来るところなのかな?」

「ってことは天国っちゅうことか?」

「ええ?こんな暗い天国見たことないよ」

「そしたら他には何やと言うんや?」

「え…トーフが知らないなら僕も知らないよ…」

「……はあ…ホンマ、何が起こっているんや?」

「訳が分からないね…」


そして同時にため息をつくクモマとトーフ。何だかかわいそうだ。
それから二人は、久々の再開の邪魔をしたらいけないと、一歩退ける。


今この場には、死んだはずの者たちがいた。
サコツを一方的に抱いているウナジ、エンエンと泣いているチョコを取り囲んでいる動物たち、暗い空を羽ばたいている白ハトのブチョウと楽しく会話をしているカナリアのヒヨリと、先ほどから声を出さないカラスのジュン、そしてソングと熱き抱き合っているメロディ
全員が過去に死んだはずである人物であった。

しかしみんなして幸せそうに微笑んでいる。


これは幻ではない。実在している。
しかし死人のはずだ。何故ここにいるのだ?


本当に訳が分からず、トーフは頭を抱え込んだ。そのときだった。
クモマに異変が起こった。


「…………!!」


目を見開いているクモマ。遠くを凝視している。
トーフも慌ててそちらを見た。するとそこには、あった。
二つの影が。


「……え……」


二つの影はこちらに近づいてくる。
仲良く身を寄り添っている影たちはどんどんとクモマのほうへ。
クモマも歩み寄っていく。そのため彼らが会う時間は短縮された。


見上げるクモマの目には、ガッチリとした体格の男と細身の女の影があった。
それぞれが口を開いた。


「あら…こんなにも大きくなって」

「元気そうで何よりだ」


嬉しそうに口を開いた二つの影に、クモマも自然に笑顔を作っていた。


「…お久しぶり…」


クモマの目には泪は浮かび上がってはいなかった。
代わりに喜び色が浮かび上がっていた。

目を細めてクモマは言った。


「会いたかったよ。お父さん、お母さん」…と。











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ってかサコツがあんなに号泣していていいのやら(汗)イメージダウンしてしまったかもしれません。すみません。

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