もう一度、この手で掴みたくて…。


29.夢のような村


スゴロクをした村から出て、のんびりと細い道を進む。
エリザベスと田吾作が頑張って車を引いている中、メンバーはぐったりしていた。
先ほどまでエンエンと泣いていたブチョウがいつものペースを取り戻したからだ。


「やっぱりあんたは最高ね」

『そんな…照れるよベイビー。僕はまだまだ未熟者さ』

「そんなことないわ。あんたは私の中では最高級のイワシみたいな存在よ」

『そ、そうかい?それは嬉しいよベイビー。それじゃあ今度お茶を飲みに行こうよベイビー』

「何言ってるのよ。今すぐ行くわよ。私とあんたの夢の楽園へ」

「「こらこら!車から出ようとするな?!」」


何故か召喚獣のクマさんと会話をしているブチョウ。思わず全員で止めに入った。
するとブチョウはつまらなさそうに口を尖らす。クマさんもご一緒だ。


『つれないねーキミたちは』

「ってか早くこの化け物しまえよ!」

「クマさんは化け物じゃないわ。クマさんは私の最高の愛人よ!」

「姐御ったら〜」


あははとチョコが笑い声を上げて他のメンバーのつられて笑った。

何となくだけど…、とここでトーフは思う。
ブチョウがクマさんのことを「夫」とかではなく「愛人」と呼んでいるのか分かった気がする。
ブチョウには実の「本命」がいるからだ。そう、ポメ王の存在が。
だからクマさんは「愛人」というランクで呼ばれているのだろう。

そう考えるとブチョウが可愛く見えて…。トーフは違う意味で笑っていた。



「ところでさあ」


ブチョウがクマさんをしまったのを見計らって、クモマが話を持ち出した。
車で移動しているときにクモマが必ず言う台詞はこれ。


「次の村ってどんなところだろうね?」


予想できた言葉なだけにすぐに応答することが出来たのはチョコ。


「いい村だといいねー」

「うん。治安がいいところとか…。まあ何処もいい村だけどね」

「俺は変装とかしない村ならどこでもいい」


ボソっと呟いたソングであったが、チョコに気づかれてしまい大声で笑われていた。


「何言ってるの〜?おもしろいじゃんそういうところ!また変な看板が門前に立っていたら私に任せてね」

「ふざけんなよ!もう絶対に魔法なんかに掛かってやるか…!」

「な〜っはっはっは!いいじゃねーかよー!俺は好きだぜ?チョコの魔法」

「やっぱりサコツは話が分かるねー!サコツぐらいだよ私の魔法を褒めてくれるのは!」

「いや、それはサコツがノリがいいだけのような…」


苦笑しながらクモマは席を立つ。
この車はシートで全体を覆われているため外の風景を見ることが出来ないのだ。
唯一の窓はエリザベスたちがいる側の面に一箇所だけ、小さな窓がある。
そこまでクモマは歩く。狭い車の中であるが。


「お、ちょうどええわ、クモマ!今辺りはどんなとこか見てくれへんか?」

「うん。僕もそれが見たくて席を立ったから」


背後から聞こえるトーフの声にクモマは頷きながら、やがて小さな窓の前までやってきた。
本当に小さな窓だ。横の長さが両目ギリギリ入るぐらい範囲、本当に小さい。

そこからクモマは外の世界を覗いた。
すると


「ええ?」


クモマの悲鳴が上がった。
それにすぐに反応するメンバー。


「どないした?」

「おいおいー今回は何だよー?」

「ええー干からびた人とか倒れていないよね?!」

「敵でもいるのか?」

「アフロが落ちてたら私にちょうだいよ」


それぞれが予想を立てながらクモマのいるところまで歩み寄る。
重量が一気に前に傾いてしまったが、バランスは崩れることはなかった。意外に頑丈だ。

全員が外の風景を見せろ見せろを相手を押し合う。
その中で窓の前に立つことが出来たのはサコツであった。
ヤッタゼ!といいながら外を見るサコツ。するとサコツもクモマと同じように声を上げていた。


「……何だこれぁ?」


マヌケな声を出すサコツを押して次はチョコが陣取る。


「え?何?」

「…まだ昼だったよな…意味わからね」


外の世界を見たソングも同じく声をあげ、ブチョウも無言ではあったが目を見開いていた。
窓まで背が届かないトーフはクモマに抱き上げてもらい、外を見た。


「………真っ暗やんか…」


そう、喚いたのだった。



+ + +


車の中では上手く動くことが出来ない。こんなところを敵に襲われたりなんかしたら全滅の危機もあり得る。
そのためメンバーは車での移動は危険と察知し車をその場に止めた。

一番出口に近い場所にいた者から外の世界へ足をつける。
ヒヤリと冷たい感触を感じ取った。


「ひやぁ…何ここ…ぶっきみー…」

「全くだぜ。何だこの闇の中はよー」

「夜…てことはないしな」

「変なところね」


メンバーが足を止めた場所、そこは闇のように暗い場所だった。
空気も心なしか冷たい。
息を吐けば白い塊が口から出るような…という冷たさというわけではなく、心を冷たくするというか…表情が凍りつくような冷たさだ。
気づけば自分の体が小刻みに震えていている。

とにかく、この場は、闇のような場所だった。


「…すっごいところに来ちゃったね」

「ホンマやな。ここはもう村ん中やろか?」

「トーフちゃん分からないの?」


メンバーは身を寄り添う。
そうでなければ仲間を見失いそうだから。
真っ暗というわけではないが、真夜中のような暗さ。
目が慣れればきっと奥地を見ることが出来るだろう。だけど今はまだ無理だ。
仲間からはぐれないように、とにかく今はこの場に踏みとどめよう。

チョコの問いにトーフは首を振っているように見える。
暗くてよく見えないが、闇が左右にちょこっと動いたため、そう解釈できた。

トーフは言った。


「さっきから"笑い"を感じ取ってみよう思うているんやけど、無理なんや。"笑い"を感じとれへん」

「え?そうなの?」

「"ハナ"がない村なのか?」


ソングは銀髪なので闇の中ぼんやりとその髪色が見える。
そんなソングの声にトーフはまた首を振った。


「そんな村あらへん。今どこの村にも"ハナ"はあるんやからな」

「それじゃあここはまだ道なのかい?」

「それもわからん。とにかく今は情報を得ることが必要やな」


トーフはそう言うと一番近くにいた誰かの足をポンと叩いて、前へ歩こうと指示を出した。
足を叩かれたのはクモマ。うん。と頷いて、近くにいたサコツの肩を軽く叩き、連なってサコツもソングの背中を押す。
突然背中を押されてビクついたソングであったが、チョコの腰辺りを押し、チョコもブチョウの手を引いて、全員で一斉に前に足を踏み出した。


足を地面につける度、ヒヤリとした感触が伝わる。
鳥肌が立ちっぱなしだ。
お化け屋敷の中を歩いているかのような感じ。
そのためソングは怯えっぱなしだった。彼はお化けが苦手なのだ。


「…もうダメだ…俺はとにかく早く…俺たちの時代へ帰りたい…」

「俺たちの時代って一体どこよ〜?しっかりしなってーソング〜」

「皆で声を出し合っていれば、はぐれることはないよ」

「そうやで。だから安心せえ」

「だけどさー」


サコツは言った。


「どこだっけ…ほら、あの…幻が見えたあの場所。あそこでソングが行方不明になったことねーか?」


それを聞いて全員が不吉を悟った。
対しソングは目を輝かしていた。


「…まさか……またメロディと会える…?」


ソングの声は「キュウリっ!」と言っているときのように弾んだ声であった。
全員が慌てて覆した。


「ダメだよソング!またツライ目に遭うよ?!」

「そうだよ〜!あの幻の見えた場所って危険な場所だったんだよ〜!」

「もう諦めようぜソング。もう彼女は帰って来ないんだぜ?」

「ラブ男め…」

「告白もできたんやし、もうええやんか。とにかくワイらから離れようと考えるのだけはやめとき?」

「そんな…全員で反論してこなくてもいいじゃねえか…」


しょげ返るソング。
しかしメンバーの言っている通りである。
もしここがまた幻が見えるという危険な地域であったら、また大変なことになる。
幻というものは人間を騙すものだ。
それらは不意に自分らの元に現れ、異界へ引きずり込もうとする。
だから最も危険なものなのである。


何気にここから離れて愛しい彼女メロディの姿を探そうとしている危険なソングの両脇を捕らえメンバーはゆっくりと足を進めた。
しかしいくら歩いても歩いても、何も見えてこない。
本当にこの場は暗いだけである。
村なのか道なのか、何なのかわからない。
そのため、あのトーフもお手上げ状態だった。


「あかん。さっきから歩いても歩いても場の風景が変わらん。もしかしたらワイらは同じところをグルグル歩き回っているだけかもしれへんで」


そのトーフの解読に全員が唖然とした。


「待って待って!それって危なくないかい?」

「全くだぜ!しかもずっと暗いままだしよー。ここは引き返した方がいいぜ?」

「うんうん。私もそれに賛成〜!」

「だけどどうやって戻るんだよ。道が分からないのにこれ以上進むと逆に危なくねえか?」

「あら?さっきから隙あればメロディさん探しに行こうとしている凡が言う台詞かしら?」

「……クソ…」


全員がその場に立ち止まった。
何とか暗さに目は慣れてきたのだが、やはり暗いものは暗い。見えない部分も多々あったりする。
しかし幸運なことに相手の顔も見えるようになっていた。
クモマはちょうど隣にいたサコツに目を合わせる。サコツは苦い表情を作っていた。


「ねえ。僕ら無事にここから出れると思う?」

「どうだろーなー?どうせ歩き回ったって何も見えてこないだろうしなー…あぁエリザベスに会いたいぜ…」

「そうよねー。ここをグルグル回っているってことはつまりは私たちは来た道を戻れないってことよね?車まで戻れないってこと〜?いや〜」

「おい、お前のせいだぞ。どうするんだよ?ドラ猫」

「…困ったで……まさかこうなるとは思ってもいなかったわ…」


目は慣れてきたのだが寒さには慣れることはできなかった。
ヒヤリとしたあの独特の冷たさはメンバーの心を痛くさせる。
いやな汗も流れてくる。

メンバーはこの闇の中に閉じ込められてしまったのだ。
帰れなくなってしまった。
さあ、どうする?


「どうしようか…?」



そのときであった。

黒色にしか恵まれなかったこの地帯に別の色が浮かび上がったのは。


「…?」


それは光のように白いものだった。
白いものがこちらにゆっくりと近づいてくる。

いや、ゆっくりではなかった。
こちらに近づく度その威力は伝わってくる。

白いものはどんどんとこちらに姿を見せてきた。
それは細長いものだった。手を振ってこちらにやってきている。

人だ。
それは白い人だった。


暗さに目が慣れていたメンバーであったが、白い存在はまるで天使の光を放っているかのように輝いて見えていた。





いや、




それは天使だった。





「サコツ〜!!!」


突然名を呼ばれたサコツがその場に倒れ込んだ。
白い人がサコツを押し倒したのだ。


「え?!な、何で?!」


サコツは白い人の存在を知っているようだった。酷く動揺している様子だ。
対しメンバーはこの人誰?と眉を寄せている。


白い人は、言った。


「元気だった?サコツ。も〜あたしゃあんたのことが心配で心配で…」


サコツも答えた。


「……本物か…?」


サコツの目には泪が浮かんでいた。



「…母さん?」



サコツの上に乗りかかっている人物は、天使であった。
しかし背中には翼がもぎ取られた生々しい傷跡があった。










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