何だ。この有様は…。
どうしてこんなことになっているの?
ここは一体何処?私は村を間違えたのかしら?

私の村って、こんなにも黒く、そして赤かった?


酷い世界だった。
私が村に戻ってくるとそこはまるで別世界だった。

美しかった村は何処にいったの?
私がいなかった間に何があったの?


何で…?


村の門前に立ち竦む。
呆然と、ただただ燃えていく村を眺める。


何が起こったのかサッパリだ。
どうしてこんなことになっている?

…どうして………


頭の中が真っ白になった。
唐突過ぎる現実に目が眩んだ。

一体村に何が起こったの?
みんなは無事なの?
みんなは…王は?

ポメは…?


一気に冷や汗が出た。
嫌な予感がひしひしとしてきた。


急がなくては!
村を、みんなを、王を守らなくては!!


私は炎の燃え盛っている村の中に入っていった。



村の中はありえない世界が繰り広げられていた。
オカマと会っていたあの数分の間に何が?

家は燃え尽きて真っ黒になっている。
自然もボロボロ。

上の方にある"宮殿"は無事のようだ。


王は無事かしら?


顔が熱くなる。
周りが熱い所為でもあるが、もう一つ理由がある。
それは、あの時受けたポメ王の告白、それを思い出したからだ。


みんなも無事なの?


何故村人全員がいないのか不思議だった。
村人を探すために私は黒い且つ赤い村を走り回る。


出来ることなら村人に呼びかけの声を上げたかった。
皆、無事か?と。
だけど無理。だって声が出ないのだから。

私の喉は空っぽだった。何も入っていない。

腹に記された"印"が根こそぎ私の声を奪ったようだ。


―― ……!



そして暫く走って、影が見えてきた。影は私に向けて手を振っている。


「ブチョウさん〜!!」


防衛隊の一人の男だ。防衛隊の実力試験のときに私と一緒にいた奴。
私はそいつの姿を見て安堵をついた表情を作っていた。


「無事でありましたか?」

―― 無事よ


答えたが、声は出ていなかった。
本当に自分の声が無いことにショックを受ける私であったが防衛隊の男はその様子に気づかず話を続ける。


「皆さんはこの避難所の中にいます」


それを聞いて私は表情を緩めた。


―― それは、よかったわ


やはり声は出なかった。
もう一度口を開こうとしたが、濛々と立ち上がる黒煙が器官に入ってきてむせてしまった。
あまりにも煙いこの場所で口を開くなんて困難なことだ。しかし男は驚いたことに平気に口をあけていた。


「…ところでお願いがあります」


防衛隊の男は目を震わせると、私にこう話しかけてきた。


「ブチョウさん、あの二人を連れ戻してくれないでしょうか?」


突然、頭を下げ、勢いで土下座をする男を見て私は呆気にとられた。


―― どうしたのよ?


出ないと分かっていても男の行動を見たら声を出さずにいられない。
私はそう問うたがやはり伝わらなかった。
しばらく男は頭を下げ続け、ようやく口を開いてくれた。


「ワタクシがカルガモなばっかりに…っ!あの二人を飛んで追うことが出来ませんでした…」

―― あの二人?

「今ではそこへ向かうには飛んでいくしか方法がありません」


男は額を地面に付けたまま、私にお願いをした。


「ブチョウさん。どうか行ってもらえないでしょうか?」

―― …っ!


目つきを変えて私は男を無理矢理その場に起こした。
その二人を助けることが出来るのはこの私しかいないようだからだ。助けてあげなくては!
だから居場所を問い詰める。


―― そこは何処なの?



声は出なかった。
しかし私の目を見て分かったのだろうか、男は答えてくれた。


「コートのある小屋であります」

―― ……っ!!!


コートのある小屋。
見覚えのある場所であった。
…いや、見覚えありまくりだ。


そこは、…そうだ。
昔よく皆と遊んだ、あの場所だ。
ボール遊びをした、あの場所。

そこへ向かった二人…?

誰のことだ?

まさか…


―― ジュンとヒヨリ?!


私は手荒く男を突き放すと、白ハトの姿になって、黒い世界を羽ばたいていった。


あのコートは普段誰にも使われていない場所だ。
それを私たちが占領して遊び場に使っていた。

そうするとその場所に自主的に向かうなんて奴はあのメンバーの誰かだ。
その中で特にあの場所を気に入っていた奴らは、ジュンとヒヨリ。


だけど本当に二人が…?

こんな炎だらけの中コートに向かって行っちゃったの?
何考えてるのよあいつら!
怪我したらどうする気なのよ?!


私は無我夢中で羽ばたく。
真っ直ぐにコートのある小屋へと飛翔する。



+ + +





今までずっとずっと 一緒にいたから
僕らは 知らぬ間に 繋がれていた

見えない鎖に繋がれ 一緒に歩んで
僕らは 知らぬ間に 絆を築いた

切りたくても切りたくても切れない間 それが絆
喜びも辛さも乗り越え 強くなる鎖

ほら、見てごらんよ。僕らの心を
ほら、繋がっているよ。見えない鎖が


離れ離れになったとしても
僕らにはある 嬉しい絆が

もしあなたが消えてしまっても
残っているから 絆の鎖が

だから大丈夫。安心してください
僕はあなたを忘れないし、忘れられない。

今までずっとずっと一緒にいたから 強くなった その絆
今までずっとずっと一緒にいたから 笑いあえる 僕たちは



+ + +




私は眩みそうになった。
幼い頃からの大の仲良しの姿がこんな無残な姿に変わり果てているから。

ジュンもヒヨリも傷だらけだった。


―― ジュン!ヒヨリ!


私は叫んだ。
しかし、そんなの聞こえない。誰にも聞くことが出来ない。
私は声がないのだから。



真っ赤になってしまったジュンとヒヨリ。
私の大親友がこんな姿になってしまった。

どうして?
どうしてこんな目に遭ってしまったんだ?


私は、ただ、自由になりたかっただけなのに…

ポメ王と結ばれたかっただけなのに


それなのにどうしてこんなことになっているの?
オカマは私に自由をくれたんじゃないの?
私は声をちゃんと売ったのに、あんたは自由を売ってくれないの?



私は…騙されたの?



+ +





ブチョウさんの歌声って本当に綺麗ですよね。

何か…こう、心を鷲づかみにされるというか…癒される…と言いますか…

きっとブチョウさんはこの村の中で一番美しい声をしていると思いますよ。
俺もブチョウさんの声、好きですし。



毎日でも聞きたい気分です。



…あ、すみません。変なこと言ってしまいましたね…。

だけど、また、歌ってくださいね。『絆』を。






――――- ブチョウってさ〜綺麗な声してるよね〜!私うっとりしちゃうもん〜


―――――― ゴメンな。ブチョウ…私の声が"ヒキガエルの潰れたような声"で…。
          それがあんたのになると考えると…ツライな…。何せブチョウの声は本当に綺麗だったから…
          羨ましかった。綺麗な声が…。その声は一体どこにいってしまったんだよ…?






皆、私の声をいつも褒めてくれた。
透き通るように滑らかで美しい、そんな声が皆好きだと言ってくれた。
私も何気に好きだったあの声。

だけど私は皆の期待を裏切ることをしてしまった。

声を売ってしまった。


皆の大好きな私の声は、もう私の元には無い。

私は空っぽな存在になってしまった。



今だって、そう。


こうやって大親友の首に手を掛けている。





+ + +



僕らは、絆で結ばれている。だから離れることはないんだよ。
そんな悲しい瞳をしないで。ほら、僕らには絆があるんだから。
誰にも切ることができない絆。だから安心できるんだよ。


あなたがもし、僕のことを嫌いになったとしても、
あなたはきっと僕のことを忘れることはないだろう。
こんなにも頑丈な絆が残っているのだがら。
僕はいつまでも君の事を忘れない。
ずっとずっと想い続ける。
あなたへ捧げるメッセージ

…嬉しい絆をありがとう……



+ + +





「………………………」


ジュンの喉を潰し、ジュンの声を手に入れた私。
顔全体にジュンの血を被ったが泪がそれを拭ってくれる。
今私の目の前で視力を失っていたヒヨリが力尽きた。

私は思わず無言になった。

ヒヨリの言葉に唖然となっていたのだ。


前からヒヨリとジュンは私の帰りをずっと待っていてくれていたのだ。このコートで。
私たちとボール遊びをしたいから暇あればこのコートに来ていたようだ。
それを知らずに私はいつもポメ王の元へ駆けつけていた。

私は大切なことを忘れていたのだ。


いつも目の前の存在のことしか考えていなかった。
ポメ王のことしか考えていなかった。

だけど私にはもう1つ大切なものがあったのだ。


ヒヨリとジュン、そして皆…。


「………」


私は横で転がっているジュンに手を伸ばした。
そこで手に入れたのはジュンが愛用にして使っていたハリセン。
大きなハリセンを持ち上げて、次はヒヨリに手を伸ばす。
そこで手に入れたのはヒヨリの赤い血。
そこに私の指を突っ込む。

ヒヨリの血を手に入れた私は、そのままジュンのハリセンの表に何かを描き始めた。
それは魔方陣。ダビデで構成されている召喚魔方陣、私はそれを力強く描いた。


そしてそれは完成した。
私はまた羽ばたいていく。魔物が向かったという宮殿の方に。



+ + +


宮殿の中は意外にも綺麗なままだった。
外の世界とは全く違っていて逆に恐ろしい。


「おい、誰か〜?」


私は叫んだ。手に入れた声を使って。ジュンの声を使って。
しかし応答は無い。


「誰かいないの?」


もう一度叫ぶがやはり応答はなかった。
宮殿の中にいた人たちも避難しているのだろうか。
そう思ったときだった。


「……ジュン?」


1つ、応答の声があった。
しかも私のこの声を聞いて『ジュン』のモノだと分かった人物。

どこから声が聞こえてきたのか辺りを見渡していると、声の主が現れた。


「…え?ジュンじゃなくてブチョウだったの?」


それはユエだった。
しかし両手、両足をロープで縛られて身動きが取れなくなっているようだ。
ユエの後ろには宮殿内の使いの者たち全員の姿があった。しかしユエと同じように縛り付けられていたが。


「ユエ!どうしたの?」

「それはこっちの台詞よ!どうしてジュンの声が…?」


どっちも同じように混乱していた。
そりゃ誰だって私のこの変声具合には驚くだろう。その場にいた者たちも同じように目を丸くして私を見ていた。

しかし説明している暇はない。


「とにかく、何があったのか説明しなさい!どうしてユエたちは縛られているの?」


ジュンの声で問われ、ユエは焦燥していたが、すぐに答えてくれた。


「何者かに背後から襲われてしまって…。目を覚ましたらこうやって捕まっていたの。私たちだって何が遭ったのか本当に知らないのよ」

「…それは魔物の仕業?」

「たぶんね。だけど気づけば魔物がいなくなっていたわ。今この宮殿にも村にも魔物はいないかもしれない」

「ってことは魔物は逃げたってこと?」

「わからない。ゴメンね。情報が少なくて…」


私がユエの自由を奪っているロープを解いているときにユエはお得意の泪をこぼしていた。
エンエンとユエは泣き出してしまったが、私がロープを完全に解いてやると泣き声は少し治まってくれた。


「ありがとう。ブチョウ…」

「いえいえ。ところで聞きたいことがもうひとつあるのよ」


両手と両足を縛っていたロープがなくなったためユエは無事自分の手で泪を拭うことが出来た。
「何?」と訊ねるユエに私は目を真剣にしてこう言った。



「ポメ王は?」



それにユエも驚いた表情を作っていた。


「え?ブチョウが知らないの?」

「は?」

「私、てっきりブチョウが真っ先に助けてあげてるかなって思ってた」

「…?!」


ちょっと待ってよ


「誰かポメの居場所知らないの?」


私の声にその場に捕まっていた者すべてが首を振っていた。


「…ちくしょう!!」


悪態ついて私はまた走っていた。
その場にいる者の解放はユエに任せて私はポメ王の元へと急ぐ。
向かうは先ほど私が泣いて出てきたあの部屋、ポメ王の部屋だ。


広い廊下には誰もいなかった。
汚れた気配もない。何も異常のない廊下。
私はその中を凄い速さで走っていた。



ポメを助けなくちゃ。

そしてポメに会って言わなきゃ

私はオカマが言うには自由の身になったらしい。
だから私はあんたと結ばれるよって。
私は平民ではなくて自由の民になったから、王族の掟を気にしなくても良くなったんだよって。

あんたとまた会うことが出来るよって。



それをとにかく言いたかった。




「ポメ!!」


ポメ王の部屋の扉を豪快に開いて、私は急いでポメ王の部屋に入った。
広いポメ王の部屋。
いつも彼はそこの一番奥にある大きなイスに腰をかけている。
しかし今回はその姿はなかった。


何もなかった。


その部屋には人の気配がなかった。姿ももちろんなかった。



「………ポメ……?」


私は呼んだ。ポメ王が好きだといってくれた声ではない別の声で。
だけどポメ王は返事してくれない。
それはそうだ。この部屋には誰もいないのだから。


「ポメ!」


私はポメ王の部屋を駆け巡った。
必死に走って、人が隠れることが出来るような場所を見つけては姿はないかと探してみる。
しかしそれは無謀なことだった。


「ちょっとポメ!いないの?何処いったの?」


ポメ王はいつもこの部屋にいる。
むしろこの部屋から出たところを私は今まで一度も見たことがない。

この部屋にいなくちゃおかしい。
この部屋の扉を開くと真っ先にポメ王の姿を見ることが出来るのに、

今回はそれがなかった。


「ポメ!……ポメ……………っ」


知らぬ間に泪が零れていた。
私は今まで何のために頑張っていたのだろう。


私はポメと結ばれたかった。
だから私とポメの間になかった『自由』というものがほしかった。
そのとき変な奴オカマと出会った。
そしてそいつと取引をした。

『自由』と私の『声』を。


私は『声』をオカマにあげた。
オカマもきっと私に『自由』をくれたと思う。
だから私はウキウキ気分でポメ王の元へ行こうとした。


だけど現実は違ってた。

村は燃え、世界は黒くなっていて。
私はその中で大切な親友二人を失い、その中でジュンの声を奪ってしまった。


「……そんな…」


ジュンの声で私は喚いた。
目の前にあるモノが私に衝撃を与えたのだ。


私の潤んだ瞳に映ったものは
赤く炎のような羽根。
フェニックスの羽根だった。

それはいくつにも散乱している。


「………いやだ…………」


ポメ王の欠片を見て私はまた泣いていた。
ポロポロ零れてくる泪。それは頬を伝って顎で滴り落ちる。そしてポメ王の羽根をぬらした。


「いや…ポメ……ポメぇ……」

『ギャース!!』


泣いている私の背後から魔物が襲いかかってきた。
全魔物が逃げたのだろうかと思っていたが、逃げていない奴もいたようだ。
私に襲い掛かってくる。
しかし私はそんなのをまともに相手にしている余裕はなかった。

手作りの武器、魔方陣が描かれているハリセンを地面に叩いて、呪文を唱えて私は召喚獣の紅を出すと、あとは奴に任せっぱなしだった。
私は泣くのに忙しかった。
魔物の相手なんかしてられない。
ポメ王が消えてしまったその現実に泣くことにとにかく忙しかった。




+ + +


そして翌日もその翌日も、私は村の人に王の捜索を頼んだが、いい結果は返ってこなかった。
ポメ王は消えてしまった。
私はポメ王の期待を裏切ったままになってしまった。
ポメ王に無邪気な笑顔を見せたかったのに、見せることができなくなってしまった。

きっと私は『自由』なんてもの、もらっていなかった。

私は大切なものを失ってしまったばかりだった。



「私、旅に出るわ」



私は村の人々にそう告げた。
王を探してくる、自分の声を取り戻しに来る。と。


さよなら、は言わないわ。
また帰ってくるから、ポメ王を連れて必ず帰ってくるから
だから言う言葉は



「いってきます」



そして私はハリセンを腰に仕舞うと、白ハトの姿になって青い空を羽ばたいていった。

白い私は大きな雲を背景に、旅立ったのだった。











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前ぇの話「― 絆 ―」での場面をそのまま描いている部分があります。

実はブチョウはいろんなものを失ってしまったんですねー。
声は失うわ、自由は失うわ、親友二人を失うわ、王を失うわ
何か、可哀想!

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