こんなのつらすぎる…!


私は王の部屋から出ると溢れそうになる泪を必死に堪えながら広い廊下を早足で歩いていく。
自分の身の自由の無さに泪を呑んでいるのだ。
どうして平民が王族と結ばれたらいけないのだ?
何が歴史だ。そんなの崩れてしまえ。

何で私、防衛隊なんかに入ってしまったんだ。
そんなのに入ってしまったからポメ王に心惹かれてしまったんじゃないか。
こんなことになるなんて…悲痛だ。


私はずっとポメ王の側にいたかった。

ポメ王の護衛を任されたときは本当に嬉しかった。
だってポメ王の最も近い存在になれるのだから。



あぁ、私ったら
本当に、ポメ王のこと………。



廊下でユエとすれ違った。
ユエが私に何か話しかけてきたがもはや私の耳には何も聞こえてこなかった。
もう頭の中が混乱しているのだ。
どうすればいいのかわからない。
この先私はどうしたらいいのだ?


あんなこと言ってしまったんだ。ポメ王はすごく傷ついていると思う。もう合わせる顔がない…。
告白をしているポメ王の顔、実際には見ていないけどきっと彼は、すごく勇気を振り絞って言っていたと思う。
だって、あのとき私の手を握っていたポメ王の手、私以上に震えていたのだから。
体温も熱かった。だからきっと顔は赤かったに違いない。

普段私たちは真剣な会話をしない。
いつもボケとツッコミで会話を成り立たせているため、今回のような会話は本当に初めてだった。

珍しくマジメに会話をして、
その中でポメ王は自分の心の気持ちを打ち明けて

それなのに私は答えることが出来なかった。
そのうえ、自分の気持ちも言うことが出来なかった。

ポメ王の告白、本当は凄く嬉しかった。
そのことを言いたかった。だけど言ったらいけない。なぜなら
私たちは結ばれたらいけない運命だから。

ここで私が「はい」と言ってしまったら、村中が大変なことになる。
王の結婚についての殺到の嵐が繰り広げられていたと思う。


『王は貴族と結婚をしなければならない』

こんな掟があるから私は今こんなツライ目にあっているのだ。
ツライ…本当にツライ…。



私だってポメ王みたいに
自分の気持ち、好きだと言う気持ちを打ち明けたかった…。

だけどもうできない。


私は哀れみの白ハト。
幸せを運ぶと言われているのに、私は運んでいない。
ポメ王の気持ちに答えてあげることが出来なかった。幸せを打ち崩してしまった。

ポメ…本当に、ゴメン…。






気づけば私は宮殿から出て、村を出て、外にいた。
私たちの村がある山、"レッドプルーム"を下っていた。

途方に暮れて私はどんどんと下っていく。

そしてその度、目からは泪が溢れ出る。
周りに誰もいないから、私は泪を流す。そしてつらさを噛み締めた。


「……ちくしょう…っ」


悪態をつく。
悔しくて悔しくて、悲しくて哀れで、私は泪をどんどんと流した。
泪を強引に拭き取るが泪は止まらない。


「…何で……何で……」


もう、何もかもが嫌だった。
どうして私はこんなにも不幸なのだ?


気持ちを打ち明けることが出来ない正直じゃない自分の存在が悔しかった。
ポメ王の気持ちを覆してしまった自分の存在が悔しかった。
お互い気持ちは一緒なのに叶えることが出来なかった、それが悔しかった。


「…もう、帰れない……」


震えた声。
だけど透き通る声。場所が静かだからか。
私は泣きながら呟き続けた。


「私はこれからどうしたらいいのかしら…何でこんなの…つらすぎる…」


泪がポロポロ溢れてくるので私は足を止め泪を拭うことに専念した。
すると背後から声が聞こえてきた。


「どうしたのよ?あなた」


ここには誰もいないはずだ。
しかも今までに聞いたことのない声。
村の鳥人かしら?だけど驚くほど醜い声。男の低い声。

一体誰?

私は恐る恐るそちらの方を振り向いてみた。
するとそこには、いた。


「んふ。前にあなたの歌声聞いたわよ。美しい声の持ち主ね」

「?!」


黒フードを被った背の高い奴。男だろうか。
だけど真っ赤で分厚い唇が黒フードの下から覗き込んでいる。
しかもあの口調、こいつはまさか…オカマ?


「んふ。そんなに驚かないでもいいわよ」

「…あんた…一体?」


黒フードに身を包んでいるためオカマの肌の色はほぼ見えない。
今どきこんな格好している奴なんているの?

見るからに怪しいオカマに恐る恐る訊ねてみるとオカマは小さく笑って答えてくれた。


「んふ。アタシは売買者よ」


オカマの言葉をそのまま返した。


「売買者?」

「そうよ」


楽しそうに頷いているオカマに私は詳しく訊ねた。


「一体何を売買しているの?リンゴでも売ってるの?」

「リンゴではないわね」


黒づくめの姿はまるで魔女のようだ。
私はあるおとぎ話を思い出したのでそう訊いてみたがやはり首を振られてしまった。
そしたら何を売っていると言うの?

するとオカマは私の心を悟ったのか、すんなり答えてくれた。


「アタシはね、相手の要望を売っているのよ」

「……要望?」


んふ。と頷くオカマに私は小首を傾げる。意味が分からないからだ。


「一体どういうこと?」

「んふ。つまりアタシはあなたの要望を答えてあげることが出来るのよ。あなたの要望を売ってあなたに買わせる、そんな売買よ」

「!」


オカマの商売に私は思わず興味を持った。
思わず身を乗り出す私をオカマは軽く目を向けて言った。


「あなた今『自由』というものが欲しいでしょう?」

「!?」


突然そう言われ私は躊躇した。
何故なら本当にそう思っていたからだ。

話していないはずなのにどうしてそれが分かるのだと目で訴え、オカマはそれにも答えてくれた。


「あなたの心を見ればすぐに分かるわよ。あなたはある人とお付き合いをしたいのに身分の差によってそれは妨げられてしまった。それが悔しいのね?だからさっきあんなに泣いていたのね?」

「…!」


図星だ。
驚いた。世の中本当に凄い奴がいるものだ。私の心を見抜く奴がいるなんて…。

オカマとの出会いのおかげで私の目からは泪は止まっていた。
だけど目はまだ少し赤い。
それなのにそんな私の目を覗き込んでくるオカマ。楽しそうにまた特徴的な笑みを言う。


「んふ。可愛いわね。そんなことで泣いちゃうなんて」

「っ」


まさか『可愛い』と言われるなんて思ってもいなかった。
しかもそんなこと言われたの初めてだ。唖然としている私にオカマは更に解読してくる。


「それで身分の差に泣いていたあなたは自分の『自由』の無さに泣いていたのね。そんなことで泣かなくてもいいのよ。あなたを救ってあげるわよ」

「え?」

「あなたの要望に答えてあげる」


オカマの告白、それに私は思わず目が点になっていた。
目の前にオカマがいたため私はオカマのフード付きの黒いローブを掴んで強く訊ねた。


「それ本当なの?私の要望に答えてくれるの?」


私はオカマの顔を覗き込んだ。
フードを被っているせいでオカマの顔はよく見えないが、分かるとすれば顔の彫りが深いということだけ。

目が真剣な私にオカマはコクと頷いてくれた。
嬉しくて私は更に身を乗り出す。


「そうよ。あなたの要望答えてあげるわよ」

「できるの?そんなことが」

「できるわよ。何故なら私は何でも売っちゃう売買者だから」


本当に信じていいのか分からないが、私の心を見抜くような奴だ。きっとできるのだろう。

掟という鎖に縛り付けられて自由を失っている私をこいつが助けてくれるかもしれない。
もしこいつが私に自由を与えてくれたとしたら私は身分のことを考えずにポメ王とまた会うことが出来るかもしれない。
ポメ王と結ばれるかもしれない。


私はこいつを信じることにした。


「それならお願いするわ。私に『自由』をちょうだい」

「んふ。そんなに慌てないで、落ち着いて。あなたの要望に答えてあげるから」


こいつ怪しい格好している割にはいい奴だ。
私の心身を傷つけた掟というやつを破ってくれると言ってくれているのだから。

オカマに注意され私は珍しく相手の言うことを聞く事にした。
そうしないともしかしたら取引を中止されてしまうかもしれないから。言うとおりにした。

オカマの服を掴んでいた手も放って一歩後ろに下がる。


「本当に叶えてくれるのね?」

「んふ。そうよ。何?信じられないわけ?」

「いや、あんたを信じるわ。あんたを信じないと手に入らないのだから」

「んふ。分かっているじゃないの。だけど条件があるわよ」


ここまできてオカマは突然条件を出してきた。
私は目を丸くして聞き耳を立てる。すると条件が聞こえてきた。


「アタシがあなたに『自由』を売る代わりにあなたも何かを私に売って欲しいのよ」


それは簡単な条件だった。
いわゆる等価交換ってやつだ。
ってことは私はこいつに何を売ってやればいいのだろう。

そう思っているとオカマがすぐに口を開いた。


「アタシね、実はあなたの歌声に痺れちゃったのよね。透き通るように滑らかで且つ軽やかな声。アタシその声好きだわ」


突然声を褒められて驚いた。オカマは続ける。


「聞いての通りアタシの声はこんなにも醜い声、アタシ自分の声嫌いなのよねー。前々から美しい声がほしかったの」

「…?」


そしてオカマはこのあと驚くべきことを言ってきたのだ。


「アタシ、あなたのその美しい『声』が欲しいわ」

「?!」

「気に入っちゃったのよねーあなたの声。是非欲しいわ。売ってほしい」

「は?」


無茶なことを言いやがる。
私は思わずマヌケな声を出した。だけどオカマは本気のようだ。
グイグイと詰め寄ってくる。


「あら?どうしたの?アタシにその声売ってくれないの?」

「無理に決まってるじゃない。この声は私のモノなんだから。人にやれるようなもんじゃない」

「何言ってるの。あなた、『声』を売ってくれなきゃアタシも『自由』を売らないわよ」

「…っ!」

「ほら『声』をちょうだい。『声』をくれたらアタシあなたに『自由』を売るわ。これで交渉成立だわ」


なんて無茶なこと…。
無理に決まっているじゃない。声は元々私のものなのだから。人にあげれるようなモノじゃない。
それなのになんでこのオカマ、真剣なんだ?

…だけど
私も『自由』がほしい。喉から手が出る勢いで、とても欲しい。
もしその『自由』というものを手に入れることさえ出来れば私はこの悲痛から逃れることが出来る。

『自由』がこんなにも欲しいのに、相手の取引条件がきつ過ぎる。
どうすればいいの?


するとオカマはやはり私の心を悟っていた。
んふ。と笑ってすんなり答えてくれた。


「アタシに任せなさい。アタシに不可能という文字は無いわ。何でもやってあげちゃう」


オカマの微笑みは徐々に崩れていく。


「あなたの『声』を貰う方法ぐらいあるわよ。だけどちょっと痛いかも」


痛い?

オカマの微笑みはついに邪悪なものになっていた。
私はその顔に目を奪われる。

固まっている私にオカマは邪悪そのものの声でゆっくりとこう言ってきた。


「アタシの"印"の力さえあればあなたの声を貰うことが出来る」


こいつ本気か?
私の声を取るつもり?

待ちなさいよ無理に決まってるじゃないの?


「あなたはさっき『自由』が欲しいと言ったわ。だから叶えてあげなくちゃ」


邪悪な声のままオカマは私に確実に近づいてくる。
その度私も後ずさりするがすぐに追いつかれてしまった。


「逃げちゃダメよ。むしろあなたはもう逃げられないわ」


オカマの言うとおりだった。オカマの目を直視した私は何故か体が動けなくなっていた。
金縛りというやつだろうか。逃げたくても逃げられなくなっていた。


「あなたの美しい『声』を今からいただくわよ」



そしてオカマは私の服を捲って腹をむき出しにした。
突然腹を見られて歯を食い縛る。

一体私の腹に何する気なのよ。


するとオカマの右手の全指先がボッと燃え出した。
メラメラと燃える。炎なのか分からないか何かが指先で燃えている。


「そして、あなたは私のものになるのよ」


そういってオカマはそのまま全部の指を私の腹につきたてた。


「―――?!」


突然指を突き立てられ私は声にならない声を上げていた。
いや、声を上げたくても上げられなかった。


声を今、こうやって抜き取られていっているのだから。





こうして私は、自分の『声』を奪われた。

腹に"印"を残され、それによって声を奪われた私は、『自由』は貰ったかというとそうではない。
ただオカマが


「んふ。村に戻ってみれば分かるわよ。きっと王があなたの帰りを待ってくれているはずだから」


そういってくれたので、私はオカマの言葉を信じて軽い足取りで村にまた戻っていったのだ。
だけど、まさか村があんなことになっていたなんて思ってもいなかった…。


何て自分は、愚かだったのだろう…。








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ついに『声』を売っちゃったよブチョウ!

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