ドンドンと激しい音が鳴り響く地下。
クモマが悔しさのあまり地面を殴っているのだ。振動が鈍く伝わる。
気の毒に、と思いながらもメンバーは突っ走るクモマのことをほうっておくことにした。


「これで生き残っているのは姐御とソングだけになっちゃったね」


クモマの出す音を背景音に、チョコは皆に確認を取る。
一同は頷く。


「そやな。驚いたことにソングがまだ無事なんてな」

「今回は頑張ってくれてるじゃん〜!」

「ブチョウもすげーよなー!1人突っ走ってたもんな!さすがだぜ」

「やっぱり快適足長グッズを履いていればよかったよ!あぁもう悔しいー!!」


ゲームが苦手だといって、前に訪れた『ギャンブルの村』では真っ先にゲームから落とされていたソング。
このスゴロクをするときも乗り気ではなかった。
しかし彼は生き残っているのだ。このまま頑張ってクリアしてほしいところ。
ブチョウは今どこを進んでいるのさえもわからない。彼女は素晴らしい速さで進んでいってしまったのだ。
…さいころの出る目が明らかに多いのが原因であろうが。


「それにしても、村に地下があるなんて驚きやねん」


トーフがそう話を持ち出してきた所為か、先ほどからサコツたちに接している男がまた近寄ってきた。


「この村の住民は皆この地下で暮らしているんだ」


男の話を聞き、メンバーは目を丸くした。
疑問に思ってトーフが口開く。


「どないして?地下で住む理由なんかあるんか?」


すると男の顔色が微笑み色になった。


「理由は本当に簡単なこと」


男は手を広げて、言った。


「私たちは人々を喜ばせることを生きがいとしているからだ」

「……人々を喜ばせる?」


相槌打つチョコに男は頷く。


「そう。他所から来た人々がいつでも楽しめるようにと私たちは村をスゴロク盤にしているのだ」

「……」


男から語られる真実にメンバーはただただ驚くだけだった。
クモマも男の声が耳に入ってきたのだろうか地面を叩くことも忘れている様子。
地面をボコボコに空けてしまったクモマであるがそこからやっと立ち上がり正面を向いた。


「確かにスゴロクをしていて楽しかったよ」


いつものクモマに戻った、と安堵つくメンバー。
男はクモマの言葉が嬉しかったのかまた目を細めて微笑んでいる。
クモマは言葉を続けた。


「人を楽しませようというその広い心にすごく驚いたよ。だけど…」


そしてクモマは幸せそうに微笑んでいる男に向けてこう言った。


「あなたたちはこんな薄暗い地下に追いやられて、つらくないんですか?」


暗く冷たい地下の中ではクモマの凛とした声は鋭く響いていた。
もしかしたら奥にいる村人にまで聞こえたかもしれない。
シンと静まる地下。
周りの反応がないことに、クモマは何かいけないこと言っちゃったかなと思い焦った。
しかし自分の目の前にいる男の表情は優しいままだ。
やがて男が口を開いた。


「つらくない」


また目を細めて、今度は男1人だけでなく、村人全員が声をそろえて言った。


「「人が楽しんでいるのを見ることが出来るのだから」」

「…!」


こんな村もあるものだな。
今世界には"ハナ"という厄介なモノがあるせいで"笑"がなくなりつつあるのに、この村はまるで違う。
"笑"を常に追い求めている。自分たちと同じように。

今までの村ではやはり"笑"というものがなくなりつつあったせいか、考えが厳しくなっていたりしていて争いごとが多かった。
しかしこの村ではどうだろう。
自分たちの身を犠牲にしてまでも他所から訪れる人たちのために"笑"の場を提供してあげている。

メンバーはこの村の人々に大変感銘を受けた。


「…あんたら、偉いで…」

「全くだぜ。今までの村とは大違いだぜ」

「よかった〜。ここにはまだ優しい心を持った人たちが多いのね!」

「いいことだね」


村人の笑みにつられてメンバーも微笑む。
しかし、気になることがあった。


「…だからってゲームに負けた人をこうやって閉じ込めなくたっていいじゃないか…」


クモマの呟きが聞こえたのだろうか、男が答えてくれた。


「こうやって捕まったりした方がスリルがあって楽しいだろ?」

「…………あぁ、そうだね」


常に楽しさを求めているこの村。
少し強引であるが、それは村人の気持ちが深く込められている。
もっとゲームを楽しみたかったなと思いながら、メンバー全員その場に腰を落とした。

それぞれ自分の座りやすい座り方で寛ぐ。
あの二人のうちどちらかがゲームクリアをしてくれれば自分たちはこの牢屋から出ることが出来る。
…と言っても先にクリアするのはブチョウであることは確実であるのだが。


「まあ、ワイらは気長に待っていようや」

「そうね〜」

「なあ、どっちが先にゴールするか賭けしねぇか?」

「あ、いいね!面白そうだ」

「うんうん!それじゃ私は姐御に賭ける!」

「ワイもブチョウに1票」

「僕もブチョウかなぁ」

「なんだよー皆ブチョウかよー。俺もブチョウに賭けよう思ってたのによー」

「だってブチョウが真っ先に進んで行ったんだよ。ブチョウが先に着くに決まっているだろう?」

「ってかソングはきっと途中でゲームから落とされるで。ワイらみたいにな」

「あのソングだもん〜!私の姐御より先にゴールだなんてありえない!」

「…これじゃあ賭けする意味がないね」


目線を、壁に埋め込まれている大画面モニターへ動かす。
そのモニター前に立っている村人たちは皆微笑んでいる。
モニターに映っている人たちの笑顔を見ることが彼らの幸せなのだ。
そう考えるとメンバーも笑顔になってしまう。

大画面モニターは今誰も映っていない。自然だけを映している。
そのモニターの周りの小さな画面にはソングがチラホラ映っていたりしている。
ブチョウの姿はない。カメラさえも追う事が出来ないぐらい先に進んでいるのか?
それとも…?


+ + +


さいころを振る。
驚いた。まさか連続10回も『6』の目が出るなんて…
何てついているんだ俺…。

さっきから誰も後をついてこないがまさかチョンマゲのように皆下に落とされてしまったのか?
何だか嫌な予感がする。

お題マスに止まった。
マスに書いてあるお題を見る。そこには『胡瓜 この漢字は何と読むか?』と書いてある。
俺は即答で答える。


「キュウリだ」


するとどこからがピンポーンという正解音が聞こえてきた。
当たり前だ。俺がキュウリの問題を落とすはずがない。キュウリのことなら誰にも負けない自信がある。

さいころ振るとまた『6』の目が出た。何だこの幸福の連続は?

どんどんと俺は前へ進んでいく。
それなのにまだ白ハトの姿を見つけることが出来ない。あいつどこまで行っているんだ?

今度は何も書いていないマスだった。なのでまたさいころを振るとしよう。
…また『6』だ。すごい。何だこれ?
俺、こんなときに運を使って大丈夫なのか?

6マス進んでみるとまたお題マスだ。
お題はこう書いてある。『Cucumis Sativus L これは何の学名?』
俺は即答で答える。


「キュウリだ」


また正解音が聞こえてきた。
当たり前だ。こんなの俺にとっては常識中の常識。
またさいころを振るチャンスを与えられた。
さいころはまた『6』を出す。一体どういうことだ?

またお題マスだ。面倒くさいと思いながら俺はお題の指示に従うことにした。
すると俺は自分の目を疑ってしまった。
これはどういうことだ。
まさか『10マス進め』だなんて…。

何かの間違いだ。ゲーム音痴の俺だぞ。それなのにこんなにゲームに勝っていいのか?何だか不安になってくる。
しかしこれは夢ではない現実だ。
俺はお題に従い10マス進んだ。
そしてそこでまたさいころを振る。

これの繰り返し。



+ + +


「「う、うそ?!」」


モニターに映る衝撃的な映像にメンバーは目を見開き唖然としていた。
村人の1人が放送用マイクに口を近づけて喜びを表現する。


「おめでとうございます!見事ゴールです!」


その声も弾んでいた。
モニターに映っている影にもう一度祝福する。


「あなたが一位です!おめでとうございます」


メンバーは身を寄り添って震えを堪えていた。
ありえない光景にただただ驚く一方。


「一位になった感想をどうぞ!」


モニターに映っている影がその声に反応する。


『まさか嘘だろ?何で俺が一位なんだ…』


ソングをアップに映しているモニター。
まさかあのソングがブチョウを越して一位になるとは思ってもいなかったのだ。


「いえ、嘘ではありませんよ。あなたが一位なんです」

『おい、冗談はよせ』

「冗談ではありません。私たちは約束を果たします。よって下で監禁していたあなたの仲間を地上に帰しましょう」


その放送の声に続いてギイと豪快に開く音が鳴った。
それは自分たちの自由を束縛していたもの。牢屋のドアが開かれたのだ。


「え、いいの?」

「私たち外に出れるの?」


突然自由になってしまったことに焦燥するメンバー。
対して村人はやはり笑顔で接してくれる。


「はい。あなたの仲間が無事ゴールしたので解放します」

「マジでかよ!やっほー!助かったぜ!」

「今回はソングに感謝せえなあかんな」


何だか嬉しくて飛び跳ねながら牢屋から抜ける。
そして自由になったのを狙ってメンバーは大画面モニターのところまで駆ける。


「すっごいなぁ。こんな機械始めて見たよ」

「ソングの顔をこんな大きく見ることが出来るなんて、面白い〜!」


田舎者みたいにキャッキャとはしゃぐメンバーを楽しげに眺めている村人に、トーフが不意打ちで尋ねてきた。


「なあ、ブチョウはどうなっているんや?」


その質問はメンバーの目線を集めるものになった。
突然注目され、村人は恥ずかしいと顔を赤くしながらもやはり笑顔で答えてくれた。


「そうですね。彼女は一度もモニターに映っていませんでしたからね。どうなっているか見てましょうか」


言われて気づいた。
確かにこのモニターに今まで一度もブチョウが映されなかったのだ。
どうして映さなかったのかと訊ねると村人は


「あの時間内に彼女を見つけることが出来なかったのです。だけど今は時間に余裕がありますので探してみましょう」


そして村人はいろいろなボタンを押してモニター画面をチラチラと変え出した。
時々ゴールのところにいるソングが映ったり、スタート地点が映ったり、誰もいない自然が映ったりする。
しかしブチョウの姿はまだ出てこない。
彼女はどこにいるのだ?


「…ブチョウ出てこないね」

「姐御ったら〜何しているのかな〜?」

「ブチョウだし何かすっげーことしてんだぜ!」


メンバーが焦りを見せている中、トーフだけがじっと画面を睨んでいた。
あごに手を置き、睨めっこ。
金色に輝く目に画面の色が反射して映っている。


「……おかしいで。まだブチョウが見つからん」

『おい、どうした?』


もしかしたら放送のスイッチが入ったままだったのかもしれない。
外にいるソングの問いかけが聞こえてきた。
チョコが答える。


「姐御が消えちゃったのよ」


するとソング。


『…そういえば、ここまで来るのに一度もあいつと会わなかったな』

「「……………え?」」


そのときであった。
大画面モニターの右下にある小さなモニターに今までなかった影が映ったのだ。
影は白いマントを身に纏っている。


「ブチョウだ」


しかし、その様子はおかしかった。

ブチョウはバランスを崩して腰を落としていたのだ。
そして、座ったまま退ける姿を見せるブチョウ。

そして、彼女の目の前にいる黒い影。


「ちょ…っ!この画面をこっちのでかい画面に移してくれへんか!」


トーフの叫びに従って村人はボタンを操作する。
すると巨大モニターに先ほどの映像が映し出された。

酷く怯えた様子を見せているブチョウの前に影。
影は何なのかよく見えない。
だけどブチョウはそれに怯えていた。
今までに見せたことのない表情で、ついにブチョウが声を出した。


『……………………………………何で…あんたが…………』


そしてまたブチョウは後退する。その度動く影。
クモマが叫んだ。


「ブチョウ?!」


放送のマイクに口を近づけてまた叫ぶ。


「どうしたのブチョウ?!」


しかしブチョウは放送の声には反応しない。


「おい!地上に戻るにはどうすればいいんだ?」

「は、はい!そこの階段を上ればゴールの目の前にある大きな木のところへ行くことが出来ます」

「わかった!ありがとね〜!」

「はよブチョウのとこへいくで皆!」

「「うん!」」


メンバーは親切な村人が指差して教えてくれた階段を勢い良く登っていく。
様子のおかしいブチョウの元へ急いで行く。


モニターに映っているブチョウはというと、腰に手を当てハリセンを取り出すと


『………………………私は…あんたを……許さないっ』


ゆっくりと、立ち上がって、目の前の影と向き合っていた。









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『スゴロクの村』はこれで終わりだけど
何だこの終わり方?!

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