突然サコツが消えてしまった。
サコツのコマが穴となってサコツを下へと落としたのだ。


「え?ちょっとサコツ?!」

「どこいったんや?」

「おい、冗談はよせよ」

「さ、サコツぅ〜?!!」


全員がサコツがいたマスへと駆け出して腰を落とす。
穴が開いたところを叩いてみるが何も起こらない。


「おい、どういうことだ?」

「なんで?何でなのサコツ〜」

「どうして落とされちゃったんだろう…?」

「………あ、みんな、思い出してみ?」


何かを思い出したらしく、トーフはそういってメンバーの目線を自分に向かせた。
眉を寄せているメンバー。そしてトーフは額に汗を垂らしながらこう言った。


「最初に流れたあん放送のこと思い出すんや」


メンバーはトーフに言われて、そのときのことを思い出す。
放送では、この村はスゴロクで進む村であり、近場にあるさいころを使って進めといわれた。
更にマス目にお題が書かれているものについては指示通りに従えのこと。
…そういえば、こんなことも言っていた。
 『もしお題の指示通りにできなければあなたたちに不幸が訪れることでしょう』
…………あ


「…しまった!『不幸』ってこのことを言ってたんだ?!」

「クソっ。最悪じゃねえか」

「いやー!サコツ〜!!」


トーフの言っている意味が分かり、メンバーは絶叫を上げていた。


「はよサコツを助けてやらんとあかんわ」

「でもどうやって?穴は塞がっているんだよ」

「姐御は早々と先に進んでいるし…もうどうすればいいの〜?」

「…はあ、面倒くせぇ…」


そして深くため息をついたときだった。
またブツっと心臓に響く無音が鳴るとすぐに放送が流れた出したのだ。


『皆さんお困りのようですね』

「て、てめえ!」

「ホント困っているよ!サコツはどうなっているんだい?」


ソングの悪態の声とクモマの質問の声に放送の声の主は笑うのを堪えながら答える。


『安心してください。彼には何もしていませんよ』


ただし!と接続語をつけてから言い切った。


『監禁していますけどね』

「「監禁?!」」


予想もしていなかった答えに全員が声を合わせて叫ぶ。
放送は続く。


『私が言っていた「不幸」とはこのことです。お題通りにしないと彼みたいな目に遭いますよ』

「やられたわ…」

「どうやったらサコツを返してくれるの?」


いかにも泣き出しそうなチョコの声に放送は先ほどと同じような口調で答えた。


『あなたたちがゲームに勝ったら返してあげますよ。まぁ生き残ればの話ですがね』


ふふふ、という相手の笑い声に、ソングは苛立ちを感じた。


「ふざけやがって」

「分かったわ。ゲームに勝てばええ話やな。絶対勝ってやるで!」


トーフの声は相手には届かなかった。放送は途絶えてしまい、場はまたシンと静まった。


「…よし、勝とう」

「うん」


そう決意するとメンバーはサコツがいたマスから離れ自分のマスへと戻る。


ちなみに、サコツの落ちた原因となったマスに書いてあったお題はこちら。

『鼬 この漢字は何と読むか』

このマスに近づいたメンバーはあえてこのお題についてはツッコミを入れなかった。
なぜなら、誰も読めなかったからだ。

ちなみにこれは『イタチ』と読みます。
読めた方、あなたは凄いです。


メンバーは再びゲームを再開する。


+ + +


「おい!ここから出してくれよ!!」


メンバーがスゴロクをしているその下では、サコツの叫び声がガンガン響いていた。
鉄格子をガッシリと掴み引き伸ばそうとするがクモマのように上手くいかない。
鉄格子の間から見える世界に向けてサコツはもう一度叫ぶ。


「何だよここは!教えてくれよ!」


サコツは今、地下室みたいなところにいた。
薄暗いがサコツの視力なら見ることが出来た。
この場は管理室なのか、たくさんの精密機械が設置されている。
壁には大画面モニター。それを囲むように小さなモニターがそれぞれ違うものを映している。

そして、それらの前に立っている人々。
サコツは人々に向けてまた叫ぶ。


「いい加減教えてくれよ!お前らは一体何なんだよ!俺らに何か恨みでもあるってーのか?」


いくつにも飛び交うサコツの声。
それにようやく人々の1人が反応する。
こちらへ体を動かし、ゆっくりと歩み寄ってくる中年代の男。


「元気がいいねキミは。それなのに簡単にゲームに脱落してしまうとはもったいない」

「…っ」


やがて男はサコツの目の前まで詰め寄ってきた。
睨むサコツであるが力の無い顔だ。
冷や汗ビッシリかいているサコツに男は小さく笑う。


「怖がらなくてもいいんだよ。キミに何もしないんだから」

「…それだったら何でこんなことするんだ?」

「だって」


男は目を細めて、サコツに言った。


「お題の指示通りに出来ない奴はゲームをする資格はないじゃないか」

「っ!」

「おっと、いま桜色の髪の子がお題マスに止まったね」


後ろをチラッと見たと思えば男はすぐにそう言ってサコツの目線をモニターへと移させた。
大画面モニターに移っているのは桜色。チョコだ。
チョコは自分のマスに書かれているお題に困ったと言わんばかりの苦い表情を見せていた。
果たしてなんて書いてあったのだろうか。
そう思っていると、モニターから声が聞こえてきた。
なるほど、盗視もしているうえに盗聴までしていたのか。

盗視も盗聴もされているとも知らずにチョコは口を動かす。


『あー困ったなぁ〜…、どうしよう……』


チョコは辺りをキョロキョロと見渡している。
周りの小さなモニターを見てみると、チョコの3マス後ろにソングがいるようだ。
ソングの存在に気づくとチョコはガクっと肩を落としていた。


『…さすがに無理よねー…。こんなことしたらソング鼻血だらけになっちゃう…』


そしてチョコは続けた。


『まさかお題が「一枚服を脱げ」だなんて…。私にはもう脱ぐ場所がないよ…』


そう戯言を吐いた瞬間だった。
モニターの下にある機械を操作していた人間が黄色のボタンを押したのだ。
するとモニターに映っているチョコの様子がガラっと変わった。
何とチョコがいたマスにもサコツのときと同じような穴が空きチョコを落としたのだ。
モニターからはチョコは消え、どこに現れたかというと


「きゃあああああ!!!」

「いでっ!」


サコツの上に尻から落ちてきた。
その場にドスンと音が響き、サコツは潰れる。
いててと尻を押さえてチョコ。


「…一体何なの〜?」

「チョコ、どいてくれぇ…」

「きゃああ!サコツ!そんなとこにいたの?」


自分の下で潰れているサコツの存在にようやく気づいたチョコは赤面しながら勢い良くその場から離れていった。
対してサコツはいつもの顔色だ。しかし背中にチョコの全体重がかかりその分の痛みを感じているらしく少し辛そう。


「チョコもダメだったのか。残念だぜ」

「ん〜ゴメンねー。お題がちょっと悪くて…」

「しかたねぇぜ?チョコはそれ以上脱ぐと18禁になっちゃうもんな」

「な、何で私のお題知っているの?!」

「全てを見ていたからですよ」


チョコの質問に答えたのはサコツではなく、自分らがいる牢屋の外で微笑んでいる男であった。
モニターを指差して男はチョコに教える。


「あのモニターを使えばあなたたちの行動全てを把握することが出来る」

「ええ!?全て見てたの?!へ、変態!」


チョコは赤面のまま叫ぶ。


「一体これって何なの?何する気なの?!」


そして鉄格子に手を伸ばす。
揺さぶるが反応しない鉄格子。


「まあ落ち着いて。あなたたちに何もしないから」


オリに閉じ込められた猛獣の如く威嚇してくるチョコに男は軽くため息つく。
チョコがまた何か反論しようとする前に男は口を開く。


「あなたたちを救うためにゲームをしている仲間たちを信じて、モニターでも見ていてください」


男はそういうと牢屋から離れモニターに近づいていった。
力の無いサコツとチョコはモニターに映っている仲間を見るために、鉄格子に手を掛け身を乗り出す。

大画面にはトーフが映っている。


+ + +


「…あかん。さっきから『1』しか出ん…。こりゃあかんわ…。はよサコツとチョコを助けなきゃあかんのに…どないしよ…」


只今5回連続『1』の目が出ているトーフは首を垂らしていた。
クモマもソングも自分より前の方にいる。
先ほどからどんどんと引き離されていっているのだ。


「どないするか…何かええ案はあらへんか…」


暫くうなだれて、そして何かを閃いた。
トーフは逆側の裾に手を突っ込む。


「…しゃあないわ。あの手を使うしかないようや」


そこからおなじみの糸を取り出したトーフは不適に笑みを浮かべると


「イカサマや〜!!」



+ + 



「「いらっしゃいませ〜トーフ」」

「何でやねん!!」


不法行為をしたと見なされトーフはゲーム失格となってしまった。当たり前だ。
トーフは悔しそうに地面を叩く。


「何て事や!ワイは二人を助けよう思ってやったのにワイまで落とされてしまうなんて…!」

「実力でやれよ実力でよー!」


字が読めなくて脱落した人に言われたくない言葉であった。




1人また脱落者が増え、ぎゃーぎゃー喚いている牢屋。
その間にもモニターでは新たな事件が起こっていた。

モニター画面はソングをアップにしている。


『おい、このマスは強制的にお題が出されるようだぞ』


そして画面はソングのすぐ後ろにいたクモマを映す。


『本当かい?どんなお題なの?』


クモマに訊ねられたがソングは無言で返す。


『ねえ、一体どんなお題なんだい?』

『俺には答えることが出来ない』


画面は二人の全身がきちんと入るようにと視野を広くする。
画面の中でソングはそう冷たい言葉を吐くと強制お題のマスを大股で越えていった。
ソングは後ろのクモマに言う。


『お前にはクリアできないお題だから』

『っ?!』


またさいころを振って先へ進むソング。
対しクモマは口を押さえてそこに立ち尽くしていた。
強制お題の指示にショックを受けているのだ。


『…そんな………』


クモマは悲しみ一杯の表情を作った。


『まさか…お題が「このマスをまたげ」だなんて…無理だよ、またげないよ…』


クモマは腰を落として両手を地面につけた。
クモマの短足ではマスをまたぐ事なんてほぼ無理に等しい。
ソングもそのことを分かっていたようだ。クモマを置いて彼は行ってしまった。

その場に残されたのはクモマ。
俯いていたがこんなことしていても仕方ない。
クモマは動くことにした。
お題の通りにしてみることにした。
このマスをまたぐことにした。


『…僕だって…やってみれば…きっと…きっと…………っ!』


+ + 


「「いらっしゃいませ〜クモマ」」

「無謀な挑戦だったよ!うわあああん!!!」


牢屋にまた1つ新しい影ができた。
しかしその影は悔しそうに本当に悔しそうに地面に拳を叩きつけていた。


残り2名……。








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