「マジでかよ?前まで人魚って泣けなかったのか?」


ブチョウの召喚獣クマさんが巨大イカと華麗に戦っている間を見計らい、海底に叩きつけられていたクモマを救出することに成功したメンバーは手が空いたので人魚たちから話を聞いていた。
その内容は最近起こった出来事。

サコツの驚きの声を聞いてフウタが頷く。


「そうなんだよ。結構前からこの村では『ナミダ病』という危険な病が流行っていてね。泪を流すことが出来ない人魚限定に流行った病なんだ。ナミダ病は泪がないと治す事が出来ない。それで残念なことにシュンヤ以外の王族全員が亡くなってしまったんだよ」

「ええ?!」

「なるほど。せやから目タレ王は若いのに王をやっておるんやな」

「うん。だけどね2ヶ月前に人魚は突然泣くことができるようになったんだ。聞くところ海人魚の誰かが泪を流してくれたらしいよ。その泪が感染して無事人魚は泪を流せるようになったんだ」

「へえ」

「それで『ナミダ病』への不安は消えたんだけど、代わりにこの村ではまたもや事件が発生してね。それが…」


一旦間を空け空気を吸い込むとフウタは言い切った。


「人間襲来、だよ」

「「え?」」


メンバーの驚きの声に、カイがふっと目を向ける。その目は鋭かった。
フウタは声を抑えてなおも続ける。


「人魚はやはり珍しい生き物でね。存在を知っている人も少ないんだよ。キミ達も僕らが人魚だと知ったときは驚いたでしょ?」

「うん。驚いたよ。でも謎は解けたけどね。キミが干からびていた謎が」


クモマに言われ、フウタは恥ずかしそうに笑っていた。


「あぁ。あれはね…。人魚は随時水分を摂取していないと干からびてしまうんだよ。困ったもんだね」

「ってか、水を持たないで陸に上がったお前って逆にすげー根性してると思うぞ」

「んだんだ。俺ら干からびるの怖いからいつも水筒持ってたぜ」

「「フウタはバカだなぁ〜」」

「キミたちに言われるなんて…屈辱だぁ…っ!」


手で顔を覆ったフウタはそのまま俯いてしまった。
代わりとアキラとタカシが話を進めた。


「んでよー。あるとき人間が網とか持って俺らの村を襲ってきたんだ。あれにはすっげー驚いたけどな!」

「だよなー。そこまでして人魚を捕まえたかったのか?俺らの村は河の中にあるっていうのによー」

「え〜?人間ってわざわざ泳いでこの村を襲ったの?すごい根性〜!」


目を丸くするチョコに、タカシが目を細める。


「バカだよなー人間って。スノーケルつけてやってきてたけどよー結局苦しくなって退散したんだぜー」

「でもあいつらの襲来のせいで村がこんなにも寂れてしまったんだけどな」


そして、目を細めたまま村中を見渡すアキラとタカシ。
2ヶ月前の古い傷跡が村のあちこちに残ってある。
寂れた貝殻でできた民家からは村人が心配そうにこちらを眺めている。
今のところは被害者はいないようだ。


「だから人魚の中では人間嫌いの奴らがたくさんいるんだ。俺も人間は嫌いだ」


アキラの主張にメンバーが目線をそらした。
自分たちと同じ人種がこんなにもひどいことをしていたとは…ショックだ。

そんなメンバーを睨みつけているアキラの肩を叩いてタカシが、かっかと陽気に笑っていた。


「こいつはよー俺が人間に捕まりそうになったのにショックを受けてんだよ」

「だってよ!俺の大切な仲間が捕まりそうになったんだぞ!誰だって根を持つぜ!」

「今俺はこうやってピンピンしてるだろが。だからもう心配するなってば」

「タカシ〜」

「アキラ〜」


そして抱き合う二人。本当に仲のよろしいこと。
しかしそんな二人を引き裂くカイの姿があった。


「だけど僕はずっと人間を怨み続けると思います」


眉を寄せるメンバーとアキラとタカシにカイは遠慮なく言い放つ。


「人間は欲の強い生き物です。またきっとこの村を、人魚を襲うに違いありません。今だってそうです。人間がこの村にいる。僕はそれが気に喰わないです」

「か、カイくん」


カイの声に、フウタは顔を上げた。
そしてカイを止めようと手を伸ばすが軽く退けられてしまった。


「僕は人間を許しません」

「カイくん!いい加減にしなよ」

「だって人間は…っ!」


懸命に自分の意見を貫き通そうとするカイの姿はメンバーの心を痛くしていた。
そんなメンバーにアキラとタカシが教えてくれた。


「カイってよー見ての通りいい性格なんだ」

「あいつ、本当に仲間想いな奴だから人魚の仲を引き裂こうとした人間に恨みを持っているんだ」


小声でそう教えてもらい、メンバーは悲しみ篭った目を向け合った。
自分たちがしたわけではないが本当に申し訳ないと思う。

カイに目を向ける。まだ怒りはおさまっていないようだ。フウタに愚痴を言っている。


「だいたい悪いのは全てフウタさんですよ!人が善すぎるから甘く見られるんです!」

「な、何言ってるんだよカイくん!」

「フウタさんがあのとき人間を助けなければ…!」

「だって、河で人が溺れていたんだよ!放っておけるはずないじゃない!」

「だけど人間に自分たちの村のこと話すことはないじゃないですか!」

「興味深そうに僕に質問してきたからつい答えちゃったんじゃないか!」

「全てはフウタさんの責任です!」

「た…確かに僕が悪いと思うけど……」

「もー!僕、知りませんからね!!」


そしてカイはその場から離れていってしまった。


「か、カイくん!」

「どうした?」


カイを連れ戻そうと泳ぐ態勢をとるフウタに何者かが声を掛けてきた。
突然の声にフウタは驚きの拍子に振り向く。
するとそこにいたのは、目の垂れている王であった。


「シ、シュンヤ!あっ!発病してるじゃないか?!」


王の目からはまだ泪が流れていた。
そのためフラフラの状態の王。
そんな王の脇を捕らえて支えてあげるフウタに王は泪を拭いながら頷いた。


「あぁ。今回はなかなか泪が引いてくれなくて」

「それだったら寝ていればよかったのに」

「んだんだ。無理すんじゃねーよ目タレ」

「お前が来たってどうせ役に立たないんだからよー」


みんなのことが心配だったから頑張ってここまで泳いできたのに、こんな扱いされるとは、と違う意味で泪を流す王。何て哀れな人。
しかしそれでも王は口を広げた。


「今、どうなっているんだ?村人たちは?」

「村の人たちはみんな自分の家の中に避難しているよ。発病している人たちもあまりいないみたい」

「そうか…それならよかった。…ところで巨大イカは?」

「見ての通りだよ」


そしてフウタは巨大イカのいる方に目線を向けた。
王もつられてそちらに目線を動かす。すると変な光景が入ってきた。

巨大イカと戦っている変な生き物クマさん。

クマさんは頭に生えている突起をみょーんと伸ばしたり、バラを咥えたり
時には「ベイビー」と謎の言葉も発したりしている。
巨大イカもめげずに頑張って戦っている。


「何だあれはぁ?!!」


王は思わず絶叫していた。


「「クマさんだってよ」」

「く、クマぁ!?どの辺りがクマなんだ!どう見たら熊に見えるんだ?!」


暖色系頭の二人に教えてもらっても王は絶叫する。
伴って目からも泪が飛び散る。

異常に泪を流している王にクモマが訊ねた。
王も声を掛けられたので、気持ちを落ち着かせた。


「大丈夫?王様。泪が…」

「あぁ。いつものことだ気にするな」

「……大変だね」

「…あぁ、仕方ないさ。これが今流行の病なんだから」

「治せる方法はないのかい?」

「知らない。知らないから今どんどんと感染していってんだ」

「それはそうだね…」


指摘を受けクモマは黙り込んだ。
代わりにトーフが身を乗り出す。


「その病っちゅうんは女王に掛けられた呪いゆうてたよな?」


王は頷いた。


「あぁ。そうだ」

「呪い………目にかけられた呪い…かぁ…何とも難しいわな…」

「何か案でもあるの〜?」

「…いや、どんな呪いにも解ける方法はあるはずなんや。せやけどそん呪いは何を使って解けばええのかワイにはわからへん」

「そ、そっか…」


うなだれる王。
しかしトーフは前言を覆した。


「せやけど呪いやから解ける術は必ずあるはずや!ワイらが見つけたるで!」

「「え?!」」

「お、おい!何勝手なことほざいてんだてめぇ!」


ただでさえ人魚は人間を嫌っているのだ。そんな勝手なことをしたらもっと嫌われるに決まっている。しかもそれで呪いが解けなかったらもっと嫌われてしまう。


「大丈夫やねん」


そしていい笑顔でトーフは言った。


「ワイは人間じゃなくてトラやねん。嫌われることはないで!」


親指を立てるトーフにソングは怒りを覚えた。
この野郎。もしお前が失敗なんかしたら人間の評価がまたガクって下がるじゃねえかよ。

苦笑しているクモマが言う。


「どうせ僕たち"ハナ"を探さなくちゃいけない身だしせっかくだから呪いを解く術も探してあげるよ」


ソングと違いクモマはトーフの意見に賛成していた。
サコツもチョコも頷く。


「おう!呪いで苦しんでいる人を放っておけないぜ!必ずお前らを助けてやるからな!」

「うんうん!みんな力をあわせれば必ずいい結果に結びつくはずよ!だから安心して!」


自分たちが思っていた人間像と違うメンバーの姿に人魚は唖然としていた。
こんなにも自分たちのことを助けようとしてくれている人間ら。
2ヶ月前の人間とは大違い。

こんな人間もいるもんだな…。


「だからあんたらは安心しておねんねしていなさい。全てはクマさんがしてくれるから」

「そう……ってあいつがするのか?!余計心配じゃねえかよ!」

「大丈夫よ。クマさんは世界一の富豪なのよ」

「関係ないだろ!ってあいつ金持ちなのかよ!」


ソングはブチョウにツッコミをし、人魚はメンバーの考えに唖然としていたときだった。
クマさんがこちらにやってきたのだ。


『ハローベイビー』

「「また来た?!」」

「近くで見るともっとキモイな!」


またもや王が絶叫を上げる。メンバーの場合はクマさんの姿に慣れてしまっていた。
ブチョウが訊ねた。


「あら。巨大イカを倒したのかしら?」

『倒す前に逃げられてしまったよベイビー』

「あら、クマさん珍しいことしたわね。いつものあんただったら敵を瞬殺するのに」

「マジで?!」


しかし、あの顔を始めてみる人にとったら、あれは衝撃的なものだろう。瞬殺の意味も何となく分かる。
珍しいわね。と言っているブチョウにクマさんは申し訳ないと後を続けた。


『頭の耳を伸ばしすぎてね。僕が絡まっている隙に逃げられてしまったよベイビー』

「マヌケだぜ?!」

「って、その頭の突起って耳だったの〜?!」

「変なところについているよ耳!!」


衝撃的な事実にメンバーも驚いていた。
アキラが辺りを見渡しながら訊ねる。


「なあ、巨大イカってどこに逃げたんだ?」

『あそこだよベイビー』


そしてクマさんは、頭の突起…耳をみゅーと伸ばして、ある方向を指した。
そこには巨大イカの姿が。ちなみに民家からはより離れてくれている。


「あ、向こう側なら大丈夫だね」

「んだんだ。もう安心だ」


安堵の笑みを浮かべるフウタとタカシ。
メンバーもここから離れていく巨大イカの姿にほっとする。

しかし、1人だけ顔色が優れていない者がいた。


「…………あの方面は……っ!」


そして王はまだ病が引いていないにもかかわらず自分を支えてくれていたフウタを退かすと、ふらつきながら巨大イカの後を追っていた。


「お、おい?!」

「シュンヤ?」

「何してんだよ〜お前は!」


今度はアキラが泪でボロボロの王を抱きとめる。
しかし王は必死にイカの後を追おうとする。


「……ダメなんだ…あっちには………!!」


その台詞を聞いてメンバーは、王の代わりに巨大イカの後を追った。
何か不吉な予感を感じたのだ。
人魚たちが病の王を止めている間にメンバーは急いで巨大イカを追いかける。










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