ドーンと鈍い音のあと、天井からパラパラ破片が落ちてくる。
村で暴れている巨大イカがメンバーたちの居る城を襲っているのだ。


「な、何?!」

「ま、待ちぃ!巨大イカって何やねん?!」

「きゃー!どこかに避難しなきゃ〜!」

「やべーぜ!皆必要なもん持って避難だぜ!」

「それじゃ私はこれを」

「アフロを取り出すな?!しかも特に必要なものって訳じゃねえだろ!」

「何言ってるのよ!私はこれがないと生きていけないわ」

「アフロに何の力があるんだよ?!」


更に城が押しつぶされ、メンバーは絶叫だ。
それを冷静に眺めているのはこの城の主。


「…困ったな。イカが暴れてしまったか」

「どうするんですか?王様」

「何か案はあるの?」


王に期待の眼差しを送るカイとフウタ。しかし王は首を振っていた。


「俺らに何ができるというんだ?避難するしか手がない」

「そ、そんな!?」

「追っ払うことできないの?」


フウタが案を出すが王の考えを翻すことはできない。


「無理だろ?俺らは何も武器を持っていない」

「おいおいおいー!何言ってんだよ目タレ王!」

「そうだよ!村を守りなよ目タレ王」

「能無しか、このタレ目」

「頑張ってよタレ目!」

「垂れすぎてるのよあんたの目!」

「病院行って院長さんと相談した方がええで、そん目」

「うるせーよ!目タレ、タレ目言うな!気にしてるんだから!!」


話に突然入り込んできたメンバーに目の垂れている王が叫び声をあげていた。
しかしそれは綺麗に無視されてしまった。


「とにかく、この村を守ることが何よりも大事です!今、この村には病に倒れている人が多いです。避難できない人がいると思います。その人たちを助けなければなりません」


童顔の彼、カイがマジメな意見を出す。意外に王よりカイの方がしっかりしているようだ。
そのころ王はうなだれていた。
気にせずメンバーはカイと話し合う。


「そうだね。病に倒れている人は動けないだろうね。助けてあげなくちゃ!」

「せやけど『ナミダナミダ病』ちゅうのは『泪を流すだけ』のもんやろ?寝込むまでいくのは可笑しいとちゃう?」


トーフの問いに今度はフウタが答える。
そのころ王はうなだれていた。


「泪を流しているときはね、人は動けなくなるんだよ。泪に自由を奪われてしまうんだ」

「そ、そんなっ」

「だからさっきシュンヤが泪を流しているときもイスに腰を掛けにいったんだ。動けなくなってしまうからね」

「と、すると」


そこでサコツが叫んだ。


「村の人たちあぶねーじゃねーかよー!」

「うん、そうなんだよ!早く助けなくちゃ!」

「今やこの村には僕とフウタさんとアキラさんとタカシさんしか元気な人がいません。皆病にかかっていて発病している人たちは寝込んでいます!」


皆が村を助けよう、村人を助けようと声を張る。
そのころ王はうなだれていた。
その間にも外からは音が激しい。巨大イカが何かしているのだろう。


「あかんわ!はよこっから出て村人を助けるんや!」

「「おー!」」


そしてメンバーとフウタとカイは急いで城の外へと泳いでいった。
そのころ王はうなだれていた。


「くっそー。俺の目をバカにしやがって…っ!」


王の目からは一筋の泪が零れていた。






「こらこらー。俺たちの村で暴れるんじゃねーよ」

「全くだ。ただでさえ寂れているのに壊そうとするなこのイカ野郎!」


村では、暖色系の頭のアキラとタカシが巨大イカを相手に戦っていた。と、いうか華麗に逃げ回っているだけなのだが。
しかし素早い二人の泳ぎにはイカはついていけていないようだ。
二人目掛けて2本のくねっている足を振り落とすが、全て空振り。
運良く、城の周りには民家はない。そこでイカは暴れていた。


「ははーんだ!俺らに勝てると思っているのかイカ!」

「以下同文」

「お、何だよタカシ。それイカす〜!」

「イカすだろ〜?」

「ああ。それにしてもお前、イカめしい格好してんなー」

「そう?俺そんなにイカついか?」

「あぁ。それがいい感じだぜ!」

「「イッカッカッカッカ」」


のん気に不思議な笑い声をあげる二人であったが、二人の間を引き裂くようにイカの鉄拳が振り降りてくる。
突然のことだったが、二人は何とか避けることが出来た。
鉄拳が何もない平野に落ちたのを見て、二人


「「い、イカれてるぜ…」」

「イカれてるのはてめえらだろ?!」


発言を覆されてしまった。
ソングのツッコミと共にメンバーとフウタとカイは二人の前に現れる。


「イカ会話しないでよ!ってか村で暴れないで!」

「本当ですよ。イカと戯れるんでしたら村の外でしてください!」


注意をするフウタとカイにアキラもタカシも頬を膨らませる。


「何だよ。俺らは村を守ろうとイカと闘っていたんだぜ」

「んだんだ。俺らは暴れてなんかいないぞ」

「あ!危ない!」


喧嘩をしそうな勢いの人魚たちの間にクモマが割り込んできた。
そして次の瞬間、クモマは海底に叩きつけられていた。

イカの鉄拳を喰らったのだ。


「クモマ?!」

「お前ら喧嘩してる場合じゃねえぜ?このイソギンチャクを止めなくっちゃ!」

「どう見たらイソギンチャクに見えるんだよ?!イカだイカ!」

「いかんなぁ〜」

「お前にもイカ語がうつってるぞ?!」


密かに会話の中に『イカ』という単語を使う『イカ語』にソングが頭を悩ませているとき、またもやイカが襲い掛かってきた。


「きゃ〜!みんな避難避難〜!!」

「また鉄拳が落ちてくるで!」

「おいおいー!誰かこのイカを追い出せよ」

「しょうがないわねー」


身を纏っているマントを払うブチョウの手にはハリセンがあった。
そのハリセンには魔方陣が描かれている。
魔方陣に触れて陣を発動させて、ブチョウが言う。


「クマさんを出そうかしら」

「「クマさんだけは止めて!」」


禁句を発したブチョウにメンバーが一斉に叫ぶが遅かった。


『ハローベイビー』

「「出てきちゃった?!」」

「うわ!何ですかその物体?!」

「キモイ!キモイしか言いようがないよ!」


ブチョウの召喚魔法によって呼び出されたクマさんにカイもフウタもツッコミを入れていた。
しかしクマさんはマイペース。


『あ、桜色の髪が美しいチョコさん。僕とお茶しないかいベイビー』

「ぎゃー!名前覚えられちゃってる?!」


思わず酷い悲鳴を上げるチョコ。クマさんは何気にチョコを気に入っているようだ。


『さあ、僕の背中に乗ってごらんよベイビー。喫茶店に行こう』

「どこに背中があるの?!ってか乗るのもイヤだから!あ、ちょっと!キャー!!」


チョコに襲い掛かってくるクマさんに蹴りを入れたのはブチョウだった。


「何してるのよクマさん。あんたにはこの私がいるじゃないの」

「姐御!」

『ぶ、ブチョウさん…っ。ふっ、僕は幅広く女性を愛する主義なのさ。もちろんブチョウさんのことも好きだよベイビー』

「何ほざいてんじゃこのヘソのゴマ!あんたは私1人を愛すれば十分なのよ!」

『だけどブチョウさん。僕も思春期なんだ。皆を愛したいんだよベイビー』

「そんなの私が許さないわ!このバカ、バカ、バカー!」

『ブチョウさん落ち着いて。ぼ、僕が悪かったよ。だから許してくれないかいベイビー』

「…あ…クマさん…」

『ブチョウさん…』


「「いいから早く戦ってくれよ!」」





+ + +


みんなが巨大イカと戦っているとき、城の中に居た王は


「……………なあ、どうしてお前が病にかかってしまったんだ……?」


病が発病したらしく、泣いていた。
ポロポロと大粒の泪が零れ、王を濡らしていく。
上にあるイスのとこまで泳ぐ気力さえもないらしく、王はその場に倒れていた。


「なぜ優しいお前が呪いにかかってしまったんだ?…そしてどうしてお前は俺に助けを呼ばなかったんだ?」


王は誰かと語っている。だけど相手はいない。
涙の膜を張っている目には何かが映っているのかもしれない。


「俺は確かに何も出来ない。病が流行る前…2ヶ月前に人間が人魚を捕まえようと村を襲い掛かってきたときも俺は結局何もできずに村をこんな姿にしてしまった。悪いとは思っていた。だけど俺は……ダメな奴だから…」


泪は一粒一粒丁寧に頬を伝う。


「俺の家族はみんな『ナミダ病』で死んでしまい、やっと『ナミダ病』が治まったと思ったら次はこれか…」


ナミダ病。それは水を求めすぎた人魚に掛かった恐怖の病。
病にかかってしまうと1週間後に死に至ってしまう恐ろしい病気だ。
しかし幸福と不幸と不幸と重なり。
2ヶ月前に『ナミダ病』が綺麗サッパリ途絶えたと思ったら休む暇もなく人間襲来、そして女王が持ってきた『ナミダナミダ病』…。

なんて不幸な自分。なんて不幸な河人魚。

なんて不幸な、愛しいあの人。


「王族が俺だけになってしまったから…俺は若いけれど王に就任。しかし俺の心はまだ未熟だ。お前を愛することもほぼできずにお前を死なせてしまったな」


泪のせいでぼける視界。
そのため王には見える。王の視界には見える。
愛しい女王の姿が。


「俺はどうすればよかったんだ?お前をどうやって守ってやればよかったんだ?泪に埋もれていくお前を俺は………っ」


泪はどんどん溢れてくる。
しかし王の視界には優しい笑みを浮かべた女王の姿。
気弱な女王であった。だけどとても優しい彼女。清い心を持っていて、彼一筋だった彼女。

そんな彼女が好きだった。


だけど女王はもう、いない。



「………もうお前を苦しませたくない。だから…俺は……」


泪は途絶えない。あごから泪が零れ落ちる前に目から新しい泪。
泪だらけに力は出ない。だけど王は、力を振り絞って立ち上がった。
凛とした声で王は言った。


「俺は、この村を守る。人魚を守る」


泪は止まらないが、王の目線の先は、壁の向こうの世界。
寂れている村。
そして苦しんでいる大切な仲間たち。


「もう傷つけてやるか」


ふらふらであったが王は泳いだ。泪を流しながらも城の外へ。










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アキラとタカシが繰り広げていた『イカ会話(イカ語)』は何年か前に友人と考えたネタです(笑
そのときは、こんな感じでした。
「ま、いいか〜」
「イカ墨スパゲッティ?」
「いかす〜」
「ははははは」
「いかんいかん」
「そんなイカばかり言っちゃいかんでしょ」
「同感(道管」
「師管」
「「二人合わせて維管束〜」」
…(恥)。維管束の意味が分からない人は中学の理科の勉強をしてみよう!

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