「発病すると泪が止まらなくなる病気?」


アキラとタカシとカイが村のパトロールだぁーとか言って城の外へ出ていったため、フウタがメンバーに病の説明をしていた。
しかしメンバーはフウタの言っていることがよく理解できなかったようでポカンと口を半開きにしている。
困った表情のままフウタが頷く。


「そう。病態が治まるまでずっと泪を流し続けるんだ」

「泪が止まらない感染病…聞いたことあらへんわ」


あごをなでてトーフが考え事をする。
『ナミダナミダ病』について考えているのだ。自分の知っている限りの旅知識を振り絞って。
しかし結果は出なかった。猫耳下げて苦い表情を作る。


「ホンマ聞いたことないで、そんな病気」

「そりゃそうだよ。この病はこの村でしか流行っていないんだもん。誰も知らない病気だよ」


フウタは目を細める。
その目線の先には目の垂れているシュンヤ王がいた。
彼は今その病と闘っている。

また目線をメンバーに戻して


「『ナミダナミダ病』は2ヶ月前…突然女王から発病した病なんだ」

「「女王?」」

「うん。どうして彼女から病が発病したのか誰も知らないんだけどね」


情報が少なくてごめんねと肩を竦めるフウタにクモマが慌てて胸の前で手を振った。
つい最近起こった謎の事件なため情報は数少ない。謎の部分がたくさんあるようだ。


「人魚もいろいろと大変なんだね」

「早く治るといいね〜!」

「なあなあ」


そこでサコツ。キョロキョロを顔を動かして何かを探しているかのような動作をしながら言った。


「女王は今いねえのか?」


その質問にフウタは非常に辛そうな表情を作っていた。
その時点で「聞かなかった方がよかった」と思ったが、もう遅い。
フウタはおしゃれメガネのようなフレームの厚いメガネをクイっと上げてから篭った声で答えた。


「女王はこの前お亡くなりになったよ」


やはり聞かなかった方がよかった。
今更後悔しても遅い。皆平等に真実を知ってしまったので逃げ道がなくなってしまった。
居づらくなってしまった。


「す、すまん!そうだと知らずに嫌なこと聞いちまったぜ」

「あ、ううん。いいよいいよ」


とっさに謝るサコツにフウタは口元を緩めて笑顔で対処した。
フウタは続ける。自分の知っている限りの情報を提供する。


「女王から発病した病が村人に感染してしまって今この状況を作りあげているんだよ。今では王までも病にかかっているし。…そして女王はその病で亡くなってしまったんだ。可哀想に」


そう言ってからフウタは顔を上げる。そこにあるのは王が腰をかけているイス。
すると突然フウタが声を張った。


「シュンヤ!もう大丈夫?」


しかし王からの返事は返ってこなかった。
だけど微かに聞こえる王の声。


「…っ…見るな…俺を見るな……うぅぅ…っ……」


泪は止まっていないようだ。王の泣き声が耳に届く。
先ほどまであんなに元気のあった王。それなのに今では全く違う。
泪に埋もれ、泣いている。意味もなくただただ泣き続ける。

人の清い部分である泪をもてあそぶ病。何て卑劣なものなのだろう。


「しっかし、気になる点があるで」


そこでトーフが突然フウタに指摘しだす。
何だろうと首を傾げるフウタにトーフは言葉を突っ込んだ。


「ただ泪を流す病気なのにどないして死にまで至ってしまうんや?何か他に病状があるんとちゃうか?」


例えば、高熱が出る…とか。
しかしフウタは首を振っていた。


「この病の病状は『泪を流すだけ』だよ。そのほかには何も異常はないんだ」

「それなのに何故…?」

「それは誰も分からないんだ」


フウタの声は虚しく響いた。
そのままフウタの声が響くと思ったのだが


「この病は"呪い"の一種だ」


上から声が聞こえてきた。
シュンヤ王だ。
こちらへ降ってくる。泪を拭き取りながら。


「「"呪い"?」」

「あ、シュンヤ!もう無事なのかい?」

「あぁ。何とか治まった」


メンバーの声は空振り、王はフウタと会話していた。
王の目からは泪はもう零れていなかった。病が治まったようだ。
フウタは胸をなでおろした。


「よかったね。重体にならなくて」

「おう。俺はまだまだ元気だ」


そして軽やかに王は笑い声を上げた。
先ほど泣き言を吐いていた人とは思えない。

そこでメンバー、王の元へ駆ける。


「大丈夫ですか?目タレ王」

「もう泪は出ないんか?目タレ王」

「無理しちゃダメよ〜目タレ王」

「そうだぜ!ゆっくりしてろよ目タレ王!」

「厄介な病にかかって大変だな目タレ王」

「キミの目は異常なほどに垂れているねベイビー」


それぞれがそれぞれの思いを込めて王へ捧げたが、語尾に引っかかる点があった。


「みんなして失礼だな?!俺は目タレじゃねーよ!俺はシュンヤだ!」


王に対してなんて無礼なのだと王は叱咤する。
しかし無視され、クモマが話を進めた。


「ところで、さっき『呪い』って言っていたけどどういう意味ですか?」


初対面の人には敬語を使うクモマは丁寧にそう訊ねた。
すると王は先ほどとは違う表情を作って答えてくれた。悲しみ篭った表情で。


「この『ナミダナミダ病』はうちの女王にかけられた呪いなんだ。彼女は俺に言っていたよ。『"おハナ"を撒きに来たという奴が自分に"おまじない"だと言って自分の目に呪いをかけてきた』って」


王の発言にはフウタも驚いた様子だった。きっと今まで知らされていなかった内容だったのだろう。


「女王が『呪い』に?!ちょっと待ってよ!呪いって何だよ呪いって!」

「あいつがそういっていたんだ。間違いないだろう」

「ってか、ちょいまち」


『呪い』という言葉に驚きを隠せない様子のフウタと意外に冷静な王の間にまたもトーフが割り込んできた。
トーフは訊ねる。


「"おハナ"を撒きに来た奴って一体誰のことやねん」


トーフはその部分が気になったようだ。
王は首を振る。


「俺は知らない。彼女だけが知っているみたいだ」


苦い表情を作る王にフウタも一緒に同じような表情を作る。
そして二人は違う話で盛り上がっていた。


その間にメンバーは身を寄せ合い、小声で会議をする。


「ねえ、これはどういうことなの?」


まず初めに疑問符を飛ばしてきたのはクモマだった。
ソングが眉を寄せる。


「"ハナ"を撒きに来た奴って……」

「"ハナ"ってどの花?まさか今まで私たちが消してきた"ハナ"のことを言っているのかな?」

「おいおいそしたらこれってすっげー情報じゃねーか?」

「そうよね。スイカの種を10メートル飛ばす並にすごいことだわ」

「お前マジメに発言しろよ?!」


ソングに注意を受けるがブチョウは自分のペース。いつものやる気のないような真顔で話を進めた。


「とにかくこれは調べてみる価値はあるようね」

「そやな。もしホンマに"おハナ"がワイらの探している"ハナ"やとしたらこれはえらい情報となるで」


トーフは目を輝かせて、声を弾ませていた。

今までどの村に行っても、どんな人と話をしても、"ハナ"について知っている人はいなかった。
"ハナ"がどんな風に広まっているのかメンバーは知らずに旅をしていた。
"ハナ"の原因となるものを知らなかった。

しかし今回はそれを解決する1つの鍵となるものを手に入れた。
それとは『"おハナ"を撒く奴』の存在。
まだ"おハナ"が"ハナ"と同一しているものかは分からない。
だけどもし同一していたら、"ハナ"の謎が少しだけ明かされることになる。

"ハナ"は誰かが自らの手で撒いているものなのだ。

果たしてそれは本当なのかは知らない。


「ここまで旅をしてやっと"ハナ"の謎をつかめるチャンスを手に入れたね」

「ホント〜!長かったね〜」

「…だけどよー。"おハナ"を撒きに来た奴の正体を知っているのは亡くなった女王だけだろ?もう誰も情報もっていないんじゃねーか?」


サコツのさりげない言葉はメンバーの肩を落としていた。


「そうだね。女王様亡くなっているんだったら訊くことが出来ないね」

「あぁそうか〜。王様も"おハナ"の正体を知らないみたいだし、これじゃ意味ないね」

「またふりだしに戻ったか」

「あ、すまん…!」


自分の過ちに気づきサコツはすぐに謝った。
するとトーフが笑顔で返してきた。


「大丈夫やで。ワイの予想では"おハナ"を撒きに来た奴は"ハナ"と関係がありそうやねん」


断定するトーフに全員が目を向けた。


「どうしてそう思うんだい?」

「"おハナ"を撒きに来た奴が女王に『呪い』をかけたんやろ?そうするとそいつは『呪い』を使える者…つまりは『魔術師』ということになるわ」


うん。と頷くメンバー。
トーフは続ける。


「今世界には『怪しい魔術師』がぎょうさんおるわ。その中の1人が"ハナ"を撒いていると考えても可笑しいってことはないわな」

「な、なるほど…」

「って、怪しい魔術師って何だよ?!」


納得の声を上げるクモマとは裏腹にソングはツッコミを入れていた。
確かに『怪しい魔術師』と言われたら誰もがツッコミを入れたくなるだろう。

説明するのが面倒くさいのか、もしくはそこまで情報を持っていないのか、トーフは口篭った声で答えていた。


「『怪しい魔術師』…まぁ、どっちにしろ魔術師には変わりないで。ただ思考がちょこっと可笑しいだけやねん」

「魔術師っていうものは少し頭が可笑しいみたいだしね」


ブチョウも口をはさんでトーフの手助けをした。
何気にブチョウもいろんなことを知っているようだ。

そしてトーフがまとめた。


「とにかく、ワイらの目的が定まったで。ワイらは"ハナ"を撒いている魔術師を探すんや。"ハナ"を消しつつ奴を探そうで」


1人で盛り上がり、トーフはグっと気合を入れた。
対してメンバーは、突然そんなことを言われてもなぁと困った表情を見せる。

拳を作っているトーフにクモマ、
「どうやって"ハナ"を撒いている魔術師を見つけるんだい?どいつが魔術師なのかわかるのかい?」
と訊ねようとした、そのときだった。


「た、大変です!王様ぁあ〜!!」


閉まっていた王の部屋の重い扉をカイが勢い良く片手で開けてきたのだ。
扉の開いた大きな音にメンバーもフウタも王も驚く。


「ど、どうした?カイ」

「大変ですよ王様!」

「落ち着いてカイくん。何があったのか説明して」


肩で息をしているカイの背中を優しく撫でてフウタが彼の心を落ち着かせようとする。
そのおかげでカイは落ち着くことが出来た。
そして、王の目をじっと見て、カイは言った。


「巨大イカが村で暴れています」


そのとき、自分たちが居る城が大きく揺れあがった。









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ここまできてやっと"ハナ"についての情報を得ることが出来ましたね(笑
長かったっていうか、遅かったっていうか…。
早く真相を掴みたいですねー

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