王の城というものには赤いじゅうたんは欠かせないものなのだろうか。
この村の城にも赤いじゅうたんが敷かれていた。
しかしその赤いじゅうたんに足をつける者はいないであろう。みんなが人魚なのだから。
赤いじゅうたんの上空を泳いで渡る人魚3人とメンバー。


「ところでよー」


泳げないトーフの手を引いて人魚の後をついていくメンバーの耳にアキラの声が聞こえてきたが、それはフウタに向けられた言葉であった。
しかし黙って耳を立てる。
フウタと目が合ったのだろうかアキラは言葉を続けた。


「村が大変ってどういうことなんだ?」


そのことを聞かれ、フウタは事の大変さを思い出した。
苦い表情を一気に作り上げフウタ。


「………実はね。あの"病"が大量感染してしまって」


タカシも身を乗り出して聞いていた。二人は眉を寄せる。


「「マジでかよ?」」

「うん。村のほぼ全員がやられちゃっているよ」

「お前は大丈夫なのか?」

「僕は大丈夫。村で唯一無事だったのがカイくんと僕だけ。そしてキミたち…あ、ナギさんもだね」

「…そこまでやられちゃったのか?」


フウタは黙って頷く。
3人の話を後ろからこっそり聞いていたメンバーは"病"という単語に全員で顔を見合し首を傾げあった。
人魚にも病気というものにはかかるようだ。そして今その病気に悩まされている。


「王も病にかかっていてね。…本当に大変なんだよ」

「「そっか…」」


王も人魚の病にかかっているらしい。
それなのに今から会いに行って大丈夫なのだろうかと不安に思うメンバー。
しかし人魚3人は気にせず王の部屋へと向かっている。感染したらどうする気なのか。


「ったく世話の焼ける王だな…。さっさと王のとこ行って笑わせてやるか」

「おう。この村にゃ"笑い"が必要だもんな。この状態が続くといつか滅びるぜこの村」


そして頷きあう二人。それにメンバーは目を丸くしていた。
この村にはすでに"笑い"がなくなりつつあるのか?

そのことについて聞こうと思い口を開くが、それは同時に開かれたフウタの声によって妨げられてしまった。


「ついたよ。王の部屋に」


目の前には大きな扉があった。
ほら貝の中に扉があるとは、さすがは人魚の村。不思議だらけだ。
アキラとタカシが一緒に扉を引く。
重いのだろうか鈍く開かれる扉。そこからは中の光が開いた分漏れてくる。
やがて全開に開かれた。


「「帰って来たぜ目タレ〜!!」」


アキラとタカシはそういうと爆笑しながら開かれた部屋の中へ入っていく。
メンバーは焦燥しつつもつられて入る。最後にフウタが後ろ手で扉を閉めた。内側からだと扉は簡単に動くらしい。

二人の叫び声にすぐに反応したのは


「誰が目タレだ!!」


王冠を被った王様であった。
その彼は二人が言うとおりに目が垂れている。異常に。


「お前そろそろ自覚しろよ。お前ほど目が垂れている奴はいないぞ」

「んだんだ。カガミ貸してやろっか?」

「余計なお世話だ!ったく、王相手に何ていう態度とるんだてめえらは!しかも久々の再会なのに!」


そして王様は垂れている目とは裏腹に綺麗につりあがっている眉を寄せる。

この村の…河人魚の王は思ったより若かった。人魚3人と同い年ぐらいだ。
王の隣には先ほどメンバーの前に現れたカイの姿があった。


「まあ事実だし仕方ないことですよ王様」

「お前まで言うか!?…はぁ、何て情けないんだ俺…」


ついには頭を抱え込んでしまった。何て王だ。村人にバカにされているなんて。
そんな王の姿に陽気に笑い声を上げるのはアキラとタカシ。

何と言うか、苛め現場を見ているような気がしてならない。
病に悩んでいる王かと思ってヒヤヒヤしていたのだが、全く違っていた。
外見から見ても元気そうで常に叫び声を上げている。
これのどこが病人なのだろうか?

やがてずっと口を閉じていたフウタが前に出てきた。


「目タ………シュンヤ」

「お前今『目タレ』って言おうとしなかったか?」

「気のせいだよ」


あははと笑って誤魔化した。
ちなみに王は『シュンヤ』という名前のようだ。『目タレ』は周りが勝手につけた愛称らしい。
フウタは本題に移した。


「キミは病、無事なのかい?」

「無事なはずないじゃねえか」


王は即答で返す。
だろうね。とフウタは苦笑い。


「今は治まっているようだからいいんだけど、発病したら結構厄介なんだ」

「そう…治る方法ってないのかな?」

「さあな、俺はいいとして村の人たちには治ってほしいな…」


垂れている目を細める王の姿にフウタは首を振る。


「村の人たちだけじゃなくてキミも治ってくれなきゃ困るよ。今じゃ王族はキミだけなんだから」

「あぁ。わかってる…」


王は垂れている目を閉じる。


「だけど俺より先に村の人たちが病にかかっているんだ。心配だ」

「…そうだね。速く対処法を見つけないと彼女のように…」

「……あぁ。あいつに続いて誰も失いたくない。どうにかし………」


まだ言っている途中だろうに、王は言うのを突然やめた。
どうしたのだろうかと心配の眼差しを送るメンバー。
やがて王は


「……すまん」


謝りながらゆっくりと目を開けた。
すると驚いた。王は目から泪を流していたのだ。
泣いている王の姿にその場にいた人魚がギョっと目を見開く。


「やべ!発病したか?!」

「目タレ!うつすなよ!」

「大丈夫ですか王様!」

「シュンヤ!」


アキラとタカシは苦い表情で後ろへ下がり、カイとフウタは王の元へ急いで駆ける。
王の目からは泪は止まらない。ポロポロ流れ落ちる泪。


「…困ったな…アレがはじまった」

「王様、もう寝ていてください!これ以上病態がひどくなったらどうするつもりです?まだ浅いうちに治しておきましょう!」

「シュンヤ。カイくんの言うとおりだよ。寝ていなよ。泪が止まるまで」


そして王は高い位置に設置されているイスに腰を下ろすためにカイに支えられながら泳いでいった。
メンバーは何が起こったのかわからず呆然と立ち尽くしていた。

共に立ち尽くしていたフウタにトーフが訊ねた。


「一体どないしたん?」

「アレだよ」


アレ?と首を傾げるメンバーにフウタは唇をキュっと閉めて答えた。


「今、この村で流行っている"病"…『ナミダナミダ病』…」



+ + +


それは突然の出来事。
1人の女性が病にかかったのが事の始まり。

海藻を摘みに行っていた女性はある日海藻に絡まっていた魚を見つけた。

コンブのような、だけど少し雰囲気が違う。何の海藻か分からない。今まで見たことのない海藻。
その海藻に身動きを奪われていたのはシャケだった。

きっと海から河へ渡ってきたのだろう。
その途中で海藻に絡まり、仲間からはぐれてしまったに違いない。
なのでシャケを助けようと女性は手を差し伸べた。
すると


―― えーこんなのに騙される人もいるんだ〜?ビックリしちゃった〜☆


誰が言ったのだろうかと思った。
周りを見渡しても自分以外に人魚はいなかった。
いるとしたら、自分が今助けようとしているシャケだけ。


―― ふ〜ん。お兄ちゃんたちが言ったとおりだ〜。人魚っているんだね。ミッキー驚いちゃった☆


まさか、そんな…ウソだろう?
目の前のシャケが器用に口を動かして喋っているなんて。


―― キャハハ。驚いているようだね!そりゃそうだよね〜。お魚さんが喋るんだもん。


女性は何も言うことが出来なかった。
恐ろしくなり女性は逃げようと身を引いた。すると


―― 逃がさないよ〜んだ!あなたはもう私のターゲットになっちゃったんだから☆


シャケの形が変形した。
魚には無いはずの手が突然生え、女性の手首を捕らえる。
短い悲鳴を上げる女性。逃げることが出来なくなってしまった。


―― そんなに怯えないでよ〜も〜☆ミッキーが悪いことしているように見えるジャン☆キャハハ!

元シャケだったモノが甲高い声で笑う中、女性がビクビクしながらも訊ねた。


「…あなたは…一体何者…?」


すると元シャケ、くにょくにょ形を変形させると、な、何と…


「ミッキーの正体知りたいの〜?でもダメ〜。教えないよ〜っだ!」


自分の目の前に自分がいたのだ。
見事女性の姿に化けた元シャケ。女性は悲鳴を上げた。しかしその声は空振り、誰にも伝わらなかった。


「でもね〜これだけは教えてあげるよ、お人魚さん☆」


人差し指を口元に持っていき口先を尖らせて元シャケが言った。


「ミッキーはね〜この人魚の村に"おハナ"を撒きに来たんだよ〜☆」


何のことを言っているのか女性には分からなかった。
気にせず、女性の姿に化けている元シャケは続ける。


「それとね〜」


キャハ☆と笑って。


「人魚さんにね『おまじない』かけに来たんだよ☆」


すると突然、女性に向けて星などキラキラしたものを混ぜた光を放ってきたのだ。
光は女性の目を殺す。
悲鳴を上げる女性を見て、女性の姿に化けている奴がまた笑う。


「キャハハ☆素敵な『おまじない』だ・よ〜ん」


そして元シャケはポンと軽く小爆発を起こし、姿を消した。

誰もいなくなったこの場。
そこで『おまじない』をかけられた女性の目からは泪がこぼれていた。
ポロポロと止まることを知らない泪。
泪は延々と溢れ出ていた。



それが『ナミダナミダ病』のはじまり。
女性にかけられた病は人魚限定に感染し、村中に広まった。
ただでさえ寂れかけている村で起こった悲惨な事件。

病は、女王から村人へ広まり、ついには王の元まで手を伸ばし…。









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ってか、すっげーイタいキャラが出てきましたね。あいつ、一体誰だ?って思うだろうけど今のところ気にしないでやってください。
いつの日かきっと判る日がくると思うので…。

ちなみに「ナミダナミダ病」はSOAの「ナミダ病」とはちょっと違います。

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