快適足長グッズ使用中の団長の後ろをクモマとトーフとブチョウがついて歩く。
一体どこに連れて行かれるのだろうかと思っているとやがて目的地についたらしく団長の歩みは止まった。
少し出遅れて足を止めるメンバーに、団長は振り向かず、目の前にあるものをじっと凝視しながらやがて口を開いた。


「私の猛獣たちだ」


そこは動物のオリの前であった。
オリの中には先ほど脱走した動物たちが小さな唸り声をあげている。


「あぁ、僕たちが捕まえてあげた動物たちだね」

「何だ。アフロでももらえるのかと思ったわ」


悔しそうに舌打ちを打つブチョウをチラっと軽く見てからトーフは訊ねた。


「そんで、どないしてワイらをここに呼んだんや?」


しかしそんなトーフの意見を無視するかのように団長は話をそらした。


「私の動物たちは長旅の所為か、少し疲れているようなのだ」


突然何を言い出すのだろうかと、目の辺りを顰めるメンバー。
サーカス団はさまざまな村を回って芸をするため、実はメンバーたちと同じように旅をしているのだ。
そのため、一緒に旅をしている動物たちにも疲れが表れたよう。
あのとき動物たちがオリから脱走したのはストレスが溜まったからだろうとこの台詞から予測できた。

団長はこちらに振り向いて話を進める。


「動物たちが可哀想でな。今回はゆっくり休ませてやりたいのだ」

「…そいで?」

「それでだ。キミを私の猛獣として」

「却下や」


団長の作戦はすぐに敗れた。
どうしてだ?と喚く団長に、猛獣になれと誘われたトーフは叱る。


「ワイはあんたの猛獣にはならへん!ワイはラフメーカーなんやで!こんなアホみたいなことできへんわ!」

「それを何とか」

「いいや!ワイはやらへん!ワイも皆と同じように何か芸をしたいんや!」

「そうだよ。トーフは糸を使えるんだよ」


騒ぐトーフに続いてクモマがポツリと言葉を吐いた。
それに目を丸くするのは団長。糸のことは知らなかったようだ。
確かにあの細い糸は遠くからは見ることが出来ないだろう。

新たにトーフのすごさを知った団長はまた目を輝かせてるとトーフの小さな手をギュっと握った。
変な悲鳴をあげるトーフを気にせず団長は突っ走る。


「糸使いか?素晴らしい!猛獣が糸で何か芸をしたらもっと素晴らしいものが仕上がるぞ」

「せやからワイは猛獣はやらん言うてるやろ?!」


しかしトーフの言葉には一切耳を傾けない団長であった。

その間にクモマは先ほど自分が捕まえたライオンを見つめていた。
ライオンの目を見ると分かる。
目の光に元気がない。
これは疲れているという何よりの証拠だ。


「…疲労が溜まっていたんだね?」


ライオンに話しかけるクモマ。
しかし自分はチョコみたいな力はない。動物と会話が出来なかった。
そのためライオンはそっぽを向いてしまった。


「……」

「諦めなさい。たぬ〜。あんたは凡の次に凡人なんだから」


ブチョウに慰められたようだが、そんな気が全くしない台詞だ。しかも補足も追加された。


「あ、だけどあんたの足の短さには誰も敵わないわよ」

「…………そうだね…」


そこでクモマは大切なことを思い出した。
お、まさか暖色系の頭二人へ伝える伝言のことを思い出してくれたのでしょうか?
するとクモマはトーフと言い争っている団長に向けてこう叫んだ。


「団長さん!快適足長グッズを貸してください!!」


……クモマの頭には快適足長グッズのことしか入っていなかったようです。





+ + +


「へえ、ナギさんたちは別の大陸の人たちなんだ?」


そのころチョコとサコツとソングは剣使いのナギと仲良くおしゃべりをしていた。
テントの裏口にある倉庫で手品師のノッポーと道化師のデーブが着替えをしているため、メンバーたちはその場から離れ、暫く歩く。
まだサーカスの公演はしないのだろうか、結構のんびりとしている。


「私たちは隣の大陸からはるばるやってきたのよ」

「へー!ご苦労様だぜ!」

「…何でわざわざこの大陸をわたってきたんだ?」


ソングの無愛想な表情にもナギは笑顔で対応した。


「私たち『ピエールサーカス団』はサーカスしながら旅をしているのよ」

「へー!サーカス団って旅するのか?!」

「すっごいねー!私たちと同じように旅をしているんだね!何か親近感わく〜!」

「何で旅をしているんだ?」

「…何でって…まぁ、いろいろ理由があるんだけどね」


そしてナギの言葉は途切れてしまった。
今まではどんな質問にも笑顔で答えてくれていたナギ。それなのに「旅をしている理由」についての話題になった途端、表情が硬くなっていた。


「え?何かツライ理由でもあるの?」

「お〜?何だ何だ?是非とも聞きたいぜ〜?」

「おいおい、そんなに煽るなよ。言いたがっていないんだし放っておけよ」

「……いや…」


首を振るナギは視線を浴びる。
苦い表情をしているナギであったが、閉めていた口をそっと開いて言葉を出した。


「私たちは、ある人物を追っているの」


『ある人物』に眉を寄せ合うメンバー。
果たして誰のことなのか。
すると聞かれた。


「あなたたち、怪しい人、知らない?」


この質問はいくらなんでも可笑しいであろう。
怪しい人と言われても、どの人物のことを指しているのか全く分からない。
メンバーはただただ首を振るだけだった。


「…そう。それならいいかな」

「おい、意味分からねぇだろ。ちゃんと説明しろ」

「全くだぜ!怪しい奴ってどんな奴だ?ソングみたいな奴?」

「失礼な!俺のどこが怪しいんだ!」

「毎晩彼女の写真を見てにやけている奴なんか怪しい奴と等しいぜ?」

「……………にやけているつもりは…」

「それでナギさん!怪しい人って誰のこと?」


話が少しだけ反れてしまったのでチョコが勢いで戻し、俯いているナギまで身を寄せた。
するとナギ、顔を上げて、真剣な目でこう答えた。


「黒いフードを被った…おじさんで、『名も無き魔法使い』とか呼ばれてるの。私たちそいつを追っていて…」

「おじさん?!」


やはり『怪しい人』の定番はおじさんだろう。

しかしチョコが驚いた点はそこではなかった。


「黒いフード…被った……おじさん………黒……フード……っ」


突然躊躇いを見せるチョコに全員が目を丸くした。
冷や汗を流しているチョコの異常な姿にサコツは肩を掴んで揺さぶる。


「おい!どうしたんだよ!チョコ?!」

「ねえ!まさか何か知っているの?」


ナギの目は少しだけ期待に満ち溢れていたが、チョコは首を振って否定した。


「………ううん………もしかしたら違うかもしれないし」


それっきりチョコは口を開かなくなった。





黒いフードで思い出すものがある。
闇のように暗い村の中で出会ったある男のことを。
あいつも確かに黒かった。

顔は良く見えなかったし、10年近く前のことだ。詳しくは覚えていない。

だけどこれだけはわかった。
あいつは人間ではない。
あいつの体が溶けたと思ったら、自分の口から体の中へ侵入し、自分の体で村を破壊した。

あんなの人間に出来るものではない。
だけどあいつは現実にいた。
今でも覚えている。

あのときの恐怖が。

あのときの笑い声が…。





「………ゴメンね?何か過去の過ちでも思い出しちゃった?」


しばらくあのときの嫌な光景を思い出していたチョコが現実世界に戻ったのはナギの一声であった。
チョコの目に光が戻ったことに気づいて一息つくナギとサコツ。
そしてソングがポケっとしているチョコに声を掛けようとしたとき、そこに現れたのは太陽の色に反射され眩しい色に輝いている髪色をした二人の姿であった。


「「やっほー!ナギー!」」


声をそろえて奴らはチョコたちの前までやってきた。
明るい二人にナギは呆れた、といったため息をつく。


「あんたたち、本当に仲のよろしいことで…」

「まーそこが俺たちの売りだしな!」

「全くだぜ!まぁ、顔も売りだけどな」

「「はははははは!!」」


本当に元気のいい二人だ。
そこでナギは丁度いい機会なのでこの二人の紹介をし始めた。


「この赤い髪をしているのが空中ブランコの1人、アキラ。そしてオレンジ髪をしているのが同じく空中ブランコでタカシよ」

「「よろしくー!」」


元気良くお辞儀をする二人にその場は唖然となった。
テンションについていけないのだ。


「ところでよーナギ!団長どこいったか知らないか?」

「んだ。俺らちょっくら頼みたいことがあんだよ」

「ん?何?」


首を傾げるナギにアキラとタカシ仲良く声を出す。


「「フウタのとこに戻っていいかってな!」」


それを聞いて、ソングが思い出した。


「おい!お前らメガネかけた奴の知り合いか?」


メガネを掛けた奴…つまりフウタのことらしい。
別れ際にフウタは懐からメガネを取り出していたので、その印象が強かったみたいだ。
二人は頷く。


「おうよ!フウタは俺らの仲間だもんな!」

「ああ!俺らの故郷この近くだからよーせっかくだし会いに行こうかと思ってな!」

「ちょうどよかったじゃん!」


テンション高い二人の間にまたもやテンションの高い女の声が混じった。
チョコだ。
二人のテンションのおかげでチョコもいつものテンションを取り戻すことが出来たようだ。
そんなチョコの姿に安堵の様子を見せるサコツ。

チョコはいつものテンションで喋りだした。


「あのね!この村に来る前に私たちフウタさんに逢ったの!干からびた状態だったんだけど!まぁ、それはいいとして、フウタさんがねあなたたちに伝言があるって!」

「…干からびたって…」

「………あいつムリしたんじゃね?」

「あら。フウタくんったら命知らずね。水筒ぐらい持って来ればよかったのに」

「…?」


『干からびた』という表現に特に驚きを見せないアキラとタカシとナギ。
…何故だ?

しかしそんなところで疑問を持っても仕方がない。
チョコはフウタの伝言を二人に伝えた。


「『今、大変なことになっているから戻って来い』みたいなことを言っていたよ。何か慌てていたようだし相当大変なことになっているはずよ。だから早く戻ってみれば?」


その伝言を承って、アキラとタカシは


「「マジでかよ!!ヤベーじゃんか!!早く戻ろうぜ!!!」」


何かを悟ったかのように突然二人して同じような動きを見せたのだ。
そして二人はがむしゃらに走り、風が過ぎ去るような速さで早々と姿を消していった。


「…………………」

「…なんだったんだ?あいつら?」

「…意味わからね」


嵐が過ぎ去ったかのようにその場に残ったものは、静けさ。

対し二人が走り去っていった方を眺めるナギは


「……………まさか…川が…?」


誰にも聞こえない声でそう呟いて、拳を震わせていた。








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ピエールサーカス団が旅をしている理由は二つ。
一つは「村々を回って感激を届けるサーカスをする」
もう一つは「黒いフードの男を追っている」この二つです!
さてさてその黒いフードの男とは一体?(笑
ラフメとSOAを読んでいる人であればわかる答えですね

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