「あーやっぱりいい感じですか?だけど外見からして足長グッズ使っているのバレバレですよね。でも足が長く見えるってのはいい気分ですよね」


快適足長グッズのおかげで身長が高く見えているおじさんの後をメンバーはついて歩いていた。
彼に「来てくれ」と誘われたからだ。
動物たちをオリの中に戻したということでお礼でももらえるのだろうか。

ハキハキと声を出しているクモマはそんなおじさんの隣をちゃっかり歩いている。


「クモマがあんなにウキウキしているよ〜」

「何やええ絵やなぁ」

「いい表情だぜクモマ!」

「あの笑顔見ていると悲しくなってくるのは何故だ」


快適足長グッズに魅了されているクモマに全員が優しい視線を送った。
そんな視線を浴びているとも知らずにクモマはいい笑顔だ。
メンバーはテントの周りを歩いていく。

やがてテントの裏まで回ると、おじさんは足を止め、隣にいたクモマもつられて止めた。
残りのメンバーは少し後ろを歩いていたためまだ歩みを止めていない。

足を止めるとおじさん、両手を広げて、声を上げた。


「皆来てくれ」


するとどこからともなく様々な格好をした人たちが出てきた。
この人たち、見たことある…。
クモマが目を丸くしているとき、腰に剣を吊るしている女性が近寄ってきた。


「一体どこに行ってたんですか団長!」

「全くなのである。突然団長の叫び声が聞こえてきたから驚いたのである」

「それで一体どうしたんだー!」


女性の後を長いのと丸いのがついてくる。
その間にクモマたちの後ろにいたメンバーもこちらまでやってきた。クモマの隣に並ぶ。

訊ねながらやってきた人たちの質問に、団長と呼ばれたおじさんが答えた。


「私がトイレに行っている隙に動物たちが逃げてしまっていたようで、どうしようと思っていたときこの子たちが助けてくれたのだ」

「何油断してるんだよ?!」

「猛獣使いのくせに動物に逃げられるなよ?!」


暖色系の頭の二人に突っ込まれるが団長は気にせず話を進めた。


「それで聞いてほしいことがあるのだ」

「「おい!無視かよ?!」」

「何ですか?団長」


すると団長は隣にいるクモマの肩に手を置いて、言った。




「この子たちをサーカスに使おうと思うのだ」





「「ええええええええ?!」」


団長の告白にまず驚いたのはメンバーの方だった。
続いて団長の仲間たちも驚きの声を上げる。


「待ってください!それどういうことですか!」

「何で入団させようと思ったのである?」

「全くだー!我は納得できないぞー!」

「「俺らも納得できねぇな!説明してもらうぞ!クソじじい」」


うるさい人たちに団長は軽くため息をつくと、振り返ってメンバーたちと目を合わせた。
目が合ったのでトーフが訊ねた。


「どういうことや?」

「何か意味わからねぇんだけどよー」

「ホントホント!ってかあなたたち一体何者なの?」

「きっちり1000000文字で答えなさい」

「長ぇな?!」


こちらもぎゃーぎゃー喚いているため団長はまたため息をついてしまった。
そして笑みを作る。また両手を広げて、団長は軽やかに言った。


「私たちは見ての通りサーカス団なのだ」


言われてみれば確かにそんな気がする。
団長と呼ばれていたこのおじさんをはじめ、この場にいる人全てが愉快な格好をしているのだ。
顔に派手なペイント、服も露出していたりと普段するようなことではない。

彼らはサーカス団なのだ。
メンバーはそのサーカス団にスカウトされてしまったのだ。
もう頭の中がパニックだ。


「何で何で?何で私たちをサーカスに使おうと思ったの?」

「全くよね。きっちり2文字で答えなさい」

「短ぇな?!」


しつこく攻められるが団長はマイペースに答える。


「あば」

「本当に2文字で答えるなよ?!!」


思わず団長という偉い地位の人にいつもの口調で突っ込んでしまったソングであった。


「まぁ、冗談はいいとして、君たちの質問に答えよう。まずキミ!」


そして団長に指を指されたのはクモマであった。
え?とまた目を丸くするクモマに団長。


「キミは猛獣であるライオンを軽々と持ち上げた。ライオンといえば体重200キロもある動物だというのに。キミの力には驚いた」


褒められ、照れ隠しをするクモマから目線をはずして、次はトーフ。


「キミは珍しい素材だ。是非私の猛獣になってくれ」

「何言うてるんや?!」


失礼なことを言われトーフは憤怒する。


「ワイはトラやで!あんたの召使になんかなるか!」

「トラは立派な猛獣ですぞ」

「はっ!?」


思わぬ点に気づきトーフは黙り込んでしまった。
自分はトラだ。猛獣と等しいではないか…。
自分のことをトラだと言い切っているトーフなだけあり、言い返すことができなかった。
団長は次にブチョウを見る。


「あなたは召喚魔法を使えるのだね?しかもあんな猛獣を操るなんて素晴らしい!」

「何言っているのよ。クマさんは私の愛人よ。猛獣と一緒にしないでくれるかしら?」


……クマさんを猛獣と見てしまった団長の目を疑ってしまう。

ブチョウに叱られ団長は面目ないと頭を下げた。
そんな団長の姿に、後ろにいる派手な仲間たちは唖然としていた。

団長は止まらない。


「そしてさらに気になる素材はキミだ!」

「え?私?」


次に指を指され、チョコは驚きのあまり裏返った声を出した。
頷いて団長が言う。


「そう。私はこの目で見たぞ。キミは動物たちと会話していたね?」


うん、と頷くチョコを見て団長はハハンと笑った。


「やはりだ。いい。動物と会話が出来るなんて何て素晴らしいんだ。是非うちのサーカス団に入れたい気分だ」

「だ、団長?!」


あまりにも欲しい素材のため勢いでチョコに抱きつこうとする団長を仲間の女性が抑えた。
変な団長でごめんなさいね。と謝る女性であったがチョコは首を振っていた。
そして言う。弾けた声で。


「本当に?本当に私のことすごいと思う?わー!嬉しい!私このサーカス団に入る〜!」


突っ走るチョコをメンバーが抑えた。


「こらこらチョコ!落ち着いて!」

「そやで!よう考えてみぃ!あんたはラフメーカーなんやで!サーカスしとる場合じゃないやろ?」

「え〜だって〜!」

「ずべこべ言うな!さっさと"ハナ"を消すぞ」

「でもよー俺、今まで一度もサーカスってもん見たことねぇんだ…見てみたいぜ」


全員でチョコの腕を引いているとき、ポツリとサコツがそんなことを言っていた。
それにブチョウが答える。


「いいじゃないのサーカスぐらい。私も見たいし、やってみたいわ。こんなチャンスってもうないと思うし」


まさかブチョウまでもがそんなことを言うなんて、とクモマとソングが戸惑った表情を作る中、今度はトーフが言っていた。


「そやなー。こん村の"ハナ"なんてめっさ軽いもんやし、ちょっとはここで遊んでも悪くはないわな」

「ちょっとトーフまでそんなこといって?!」

「全くだ。俺はサーカスをするなんて反対だ」

「いいじゃねーかよ!俺サーカスやってみてぇんだもん!」

「私もー!しかもこんなに可愛い動物たちがいるんだよ!いろいろこの子達とお話したいし!」

「まあええやんかー。ちょっとだけチョコたちの夢を叶えさせてやれや」


頑固な二人にトーフがとどめを刺し、二人は無言になった。
チョコがゴメンねと手のひらを合わせたとき、今度は団長が二人に…というかクモマに言った。


「今回だけでもいい。是非やってくれないか?…この、足が長く見えるという快適足長グッズを貸してあげるから」

「引き受けます」

「……おぉい?!」


こうして、メンバーはこのサーカス団に今日だけ入団することになった。



+ + +


黄色いテントの裏口からメンバーは中に入る。
するとそこは様々な衣装と小道具大道具があり、はっきり言ってごちゃごちゃしている場所だった。
しかし関係なく興奮しているチョコとサコツ。
ちなみにクモマとトーフとブチョウは団長に呼ばれ今席を立っている。


「すっごいねー!」

「うわー!ドキドキするぜ〜」


大きな箱や大玉をはじめ、色とりどりのボール、縄、そして大砲も見える。
そして部屋の脇には剣が立てられていた。
それに見とれているのはソング。すると背後から声を掛けられた。


「何見ているの?」

「うわ?!」

「そ、そこまで驚かなくても…」


ビクつくソングの後ろにいたのは、腰に剣を吊るしている女性であった。
この様子からこの剣は女性のものだと思われる。
相手が誰なのか分かるとソングはいつもの無愛想な表情に戻っていた。


「…んだ。ビックリさせんな」

「ゴメンね。私の剣に見とれていたようだから」

「?あれお前の剣なのか?」

「そう」


頷くと女性は、立てかけられていた剣の柄を軽く握り、スっと刃で空気を斬った。
風がソングにまで届く。顔を風がなぞっていき顔を顰めるソングに女性は微笑む。


「私ね、剣使いなの。剣を使っていろんな芸をする、それが私の仕事」

「…そうか」


次々と繰り広げられる女性の剣の舞はその場の空気を鋭くしかし優しく斬っていく。
そよ風程度の風が煽られ、それにサコツとチョコも気づく。


「お、すげー!あんたすげーぜ!」

「すっごいキレイ〜!これが剣の舞なのね?」

「うん」


褒められ少し頬を赤くした女性は動きを止めると、最初にしなくちゃいけないことを今しだした。


「申し遅れたわね。私は剣使いのナギ。よろしくね」


そして持っていた剣をまた先ほどの場所に戻すと、丁寧にお辞儀をした。
つられて慌てて自己紹介するチョコとサコツ。しかしそれは妨げられてしまった。


「そこをどいてほしいのである」

「着替えをするのだー!すぐ終わらせるから外で待ってくれー!」


長いのと丸いのだ。
なんとも対照的な二人であるが仲はとてもいいようだ。
丸いのに言われたとおり、外に出るメンバーとナギ。
ついでなのでナギは先ほどの二人についても紹介した。


「長いのが手品師のノッポーで丸いのが道化師のデーブよ」


文字通りの名前の二人に思わずメンバーは苦笑していた。










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