何の変哲のない村に愉快な団体がやってきた!
25.派手な曲芸団
道端で干からびていたフウタという男を助けたメンバーは、彼の頼みに答えるためある村へと向かっていた。と言ってもこの付近には村が1つしかないらしいのだが。
そしてフウタと別れ、川から暫く歩いていくと村が見えてきた。
この村の中にフウタの言っていた男二人がいると思われる。
村に近づいて、トーフが言った。
「何や、意外にも"ハナ"は発達しとらんみたいやな」
お得意の"笑い"を見極める力を使ってみたところ、そういう結果が出された。
結果を聞き、クモマが胸をなでおろした。
「よかった。被害の少ない村で」
「そうだよね〜!"ハナ"があると本当に厄介なんだもん!」
"ハナ"の被害が少ない村に喜ぶメンバーの中、ブチョウが先頭を切って歩き出していた。
「ほら、あんたたち行くわよ」
「アイアイさー姐御!」
「フウタさんが言っていた『暖色系の頭の男二人』も探さなくちゃね」
「本当に探すのか?!クソっ。面倒くせぇなぁ」
本当に面倒くさそうに頭を掻くソングを後尾にメンバーは村の奥へと足を進める。
+ + +
周りを見渡しても至って普通のこの村。
こんなに平凡な村も久々に見た。
最近は異常な村に会いすぎていた。たまにはこんな長閑な場所もいい。
そう気持ちを噛み締めながらメンバーは歩いていく。
順調に足を運んで行き、ついには村の中央となる街に入った。
すると驚きべき光景を目にした。
「………サーカス?」
そこには黄色に広がる大きなテントがメンバーたちを立ち塞いでいた。
パンパンと軽い花火が空に煙の花を咲かせ、村の人たちを集めていく。
「まさか今からサーカスあるの〜?やったー!私見たいな〜!」
「おい、今どきサーカスかよ。俺は興味がないな」
「何だ何だ?サーカスって何だよ?」
おバカなサコツはやはりサーカスというものを知らなかった。
ブチョウが答えた。
「バナナが刺さった釘のことよ」
「変なウソ教えるな!ってかバナナの方が刺さったのかよ?!」
「そんなバナナ!」
「失せろ!!」
バカなブチョウとサコツに頭を悩ますソングの後ろで、チョコが正解を教えた。
「サーカスはね、いろんな人がいろんな芸をするんだよ〜!私実際に見たことないけど面白いと思うよ!」
「うん。サーカスは面白いよ。僕小さい頃よく叔父さんと行っていたから」
後に続いたクモマの発言にトーフは耳をピクリと動かした。
気になる言葉があったからだ。
叔父さん…?
両親ではないのかと目で疑ってみたがクモマの目線は大きなテントに向けられていた。
黒い瞳に映るのは黄色。
他のメンバーより真っ黒い瞳をしているクモマであったが目が輝いているためテントの色が反射していた。
そんなクモマを見てトーフはため息つく。
「ほな、サーカス覗いてみるか?」
トーフに促されなくてもメンバーは早速サーカスのテントへと足を運んでいた。
「…まだ子どもやなぁ…」
そんなメンバーにトーフは小さく笑みを溢してテントに近づく。
サーカスなんて普段見ないものである。
とくにこの大陸でサーカスとは珍しい。
テントの周りでは愉快な格好をした人たちが何かを配っていた。
「ピエールサーカス団のサーカスが今から始まるよー!」
大胆に配られているものはチラシ。このサーカスのチラシのようだ。
目の前に飛んできた紙を受け取ってクモマが読み上げる。
「……えっと、空中ブランコ、マジック、剣の舞…、へー!いろいろあるんだね」
「きゃー!本格的ー!面白そう!」
先ほどからきゃっきゃとはしゃいでいるチョコは本当にサーカスを楽しみにしているみたいだ。
そして意外にもこの人もはしゃいでいた。
「いいわねサーカス。是非私も参加してみたいわ」
ブチョウも身を乗り出してチラシを見ていた。
というかブチョウの場合は存在自体がおかしいので余裕でサーカス団の一員になれそうな気がするのは気のせいだろうか。はい、気のせいです。
「それにしてもこのチラシ、おもしろい絵だな〜!」
チラシを指差し笑い声を上げだすサコツに、チラシを眺めていたクモマとチョコとブチョウも頷いていた。
「本当だね。人が愉快だよね」
「うんうん!何か異様に丸い人と長い人がいるね!」
「鼻毛が長い人もいるわ」
「剣を持っている女の人、美人だね〜!」
「耳毛がヘソから溢れ出ているなんてありえないわ」
「髪色が赤とオレンジの人たちもいるね!」
「次は胸毛モッサリを希望するわ」
「お前は一体どこの部分を見ているんだ?!!」
ありえない発言ばかりをしているブチョウについにソングが身を乗り出してきた。
ついでなのでチラシを見る。
するとチョコの言っていた人たちは本当に絵の中にいた。
丸い人と長い人、剣を持っている人、そして赤髪の人とオレンジ髪の人…
赤とオレンジ…
暖色……
「あ、この人!」
ソングがピンと気づいたときにはすでにクモマが声を上げた後だった。
悔しそうに舌打ちするソングを無視してトーフが訊いた。
「どないした?クモマ」
「この人………足が長く見える快適足長グッズを履いているよ!!やっぱりいいなぁこのグッズ。今度使おうかなぁ」
クモマの発言、忘れちゃってください。
+ + +
黄色いテントの裏側で、サーカスのキャストたちは集まって緊急会議を開いていた。
長いのと丸いの、剣使いの女性に暖色系の頭の二人とその他もろもろが体勢を低くして小声を出し合っている。
「どうするのである?」
「どうするかー!ここはもう引き下がれないぞー!」
「そうね。せっかく大陸渡ってこの村までやってきたんだし何とかやってみようよ」
腰に剣を吊るしている女性が握りこぶしを作って周りに気合を入れる。
ちなみにこの様子からこのサーカス団は他の大陸からやってきたらしい。
サーカス団は村々を回って人に笑顔を与えているのだ。
「それには誰もが賛成なのである。しかし本当にこの大陸にあいつがいるとは思えないのである」
長いのが女性に言ったのだが答えたのは丸いのだった。
「いいじゃないかー!あいつがいなかったとしても」
「そうそう。まあ、あとで村の人たちにこの大陸について聞いてみよう」
まだ握りこぶしを作っている女性はそう言うと、次は自分の隣にいる暖色系の頭の二人に問いかけた。
「そういえばこの大陸にはあなたたちの里があるんじゃない?」
言われて、赤髪の男の方が先に答えた。
「あぁーそうだっけ。んじゃ顔見せに行ってくるか?」
「そうだなー…もしかしたらフウタが俺らのこと探しているかもしれねえしな!」
「それだったらあとで里帰りでもしたらどう?…まぁ団長と話し合って許しを得ればの話なんだけど」
そこまで言うと女性は辺りを見渡し、思い出したかのように全員に聞いた。
「団長はどこに行ったの?」
「「さあ?」」
「団長は先ほどトイレに行っていたのである」
暖色系の頭の二人が声をそろえて首を振り、長いのが自分の知っている情報を言ったとき、事件が起こった。
「大変だあぁああー!!!」
団長の声が彼方から聞こえてきた。
+ + +
「ライオンが、ゾウが、キリンが、カバが何の目的なのか知らないが脱走しちゃったぞー!!」
やけに説明口調の悲鳴を上げる村人にメンバー全員が驚き、辺りを見渡した。
どこにそんな動物たちがいるのか探していると、チョコがいつものテンション高い声を上げた。
「いたいた〜!本当に脱走しているね〜!」
意外にのん気に言っているチョコとは裏腹にソングが叫んだ。
「何のん気なこと言っているんだ!猛獣が暴れているんだぞ!被害があったらどうするんだ!」
「何言っているの?あんなの猛獣とは言わない。あれは私にとっては友達の部類よ」
「戯言はいてる場合か?!」
「まあとにかくあの動物たちを止めなくちゃいけないね」
「そうね。せいぜい頑張りなさいよ」
「お前も頑張れよ!」
「ほな、みんなで止めるとするか。被害がでないうちにはよ止めるで!」
トーフの言葉が合図にメンバー全員が動き出していた。
目的地は動物たち。
村人は泣き叫びながら走り回り、隠れる場所を探す。
動物たちは唸りながら厳しい目で村人辺りを睨んでいる。
そこへやってきたのはメンバー。
「動物たち!覚悟しぃ!」
「悪さはしちゃダメだよ。大人しくオリの中に戻りな」
「…って、カバいるのかよ!カバ!」
「うへー大きい動物たちだなぁ…。どうやってオリの中に戻すんだよ?」
武器を持っているメンバーの中、やはりへっぴり腰のサコツは弱気な質問をした。
トーフが答える。
「何とかして誘導または力ずくで入れるで!」
「お、おい?!マジでかよ!力ずくって俺にはムリだぜ」
優しいサコツには力ずくということがイヤだった。
そのため、足を一歩後ろに向けたとき、ライオンがこちらに向けて襲い掛かってきた。
ぎゃー!と悲鳴を上げるメンバーの中真っ先に動いたのは
「危ないよ。そんな牙で襲い掛かったら怪我をするじゃないか」
クモマであった。
右腕を噛まれたがクモマはその隙を狙ってライオンをひっくり返し、地面に押し付けた。
「僕はいいとして、もし他の人を怪我させたらダメだよ?」
優しい声でそういうとクモマは大人しくなったライオンを難なく抱えてオリのある方へ向かった。
唖然となるその場であったが、動物たちは容赦ない。自分らの邪魔をするメンバーに躊躇なく襲い掛かってくる。
しかし相手が悪かった。
「斬られたくなかったらさっさとオリの中に戻れ、このカバ」
「パオーン言うてる場合じゃないやろ!ワイが糸引っ張るから大人しくオリに入れや」
『さあ動物たち。元いた場所へ戻るんだベイビー。それともぼくとお茶にするかいベイビー?』
そしてあっという間に動物たちはオリの中に戻った。
それから念押しでチョコが「もう出たらダメだよ」と動物たちを叱り、動物たちもしゅんとなって大人しく頷いていた。
そして
「さーて、サーカスサーカス〜!」
「それじゃあチケット買おうか」
メンバーらはすぐサーカス気分に舞い戻っていた。
動物のオリから離れテント前に戻ってくると村人から拍手をもらい、メンバーは照れくさく笑い合う。
すると
「見ましたぞ。あなたたちの活躍を」
赤い蝶ネクタイを首元につけたおじさんが手を叩きながらやがてメンバーたちの前にやってきたのだ。
背の高いおじさんの姿にメンバーは自然に顔を上げる。
「あ、あなたは!」
おじさんの顔を見てすぐにクモマが反応した。
目を丸くするおじさんにクモマは言った。
「チラシ見ました!あなたはもしや…足が長く見える快適足長グッズを履いている人じゃないですか?うわー!どうですかそのグッズ!やっぱりいいですか?」
鼻息を荒くして興奮するクモマは思わずおじさんの両手をガッシリと握手していた。
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ちなみに「ピエールサーカス団」は山吹のSOAにすでに出てきています!
意外にラフメとSOAを相互して読んでいる人たちがいるようなので私たちとして嬉しい限りです☆
これからも読者が増えるといいなぁ…。
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