白いじゅうたんのような道は、白い村へと伸びていた。


23.ヘヴンの村


サコツが逃亡して、一人かけてしまったラフメーカー。
何故サコツがあんなにも異常な状態になってしまったのかを調べるためメンバーはこの村へと向かう。

村の出入り口である門は豪華で大きな扉であった。しかし困ったことに閉まっている。
あんな大きな扉をどうやって開けようと思いながら車を進めていくと突然扉が音を立てながら自動的に開いていった。


「うわ…すっごーい…」


チョコが感嘆の声をあげ、メンバーも車の覗き穴からその光景を眺め
カラクリだ!とちょっと興奮してしまった。


「何だかえらいすごいとこに来てしもたみたいやなぁ」

「そうね。さすがだわ」

「ここの道が真っ白い理由もなんとなく分かるね」

「村人がアレだとな」


車は自動的に開かれた扉を潜って、中へと入っていった。


その大きな門には、筆記体で書かれたような華麗な字が浮かんでいた。

『Heaven』

…天国



+ + +


中に入ると早速村人が群がってきた。
ご自慢の白い羽根で羽ばたきながら。


「ヘヴンへようこそ!旅人さん」

「長旅で疲れたでしょう。さあさあゆっくりしていってください」


白い服を纏った村人たち。
それら全員、背中に羽根をつけていた。


「…本当に…天使の村だったんだ…」


透き通るように白い肌の村人を見てクモマが唖然と口を開ける。


「天使の村ってあったんか…知らんかった…」


てっきり天にあるだろうと思っていた天使の村。
しかし実際は地上のしかも自分たちのいる大陸にあった。それに驚くばかりだ。
意外にも様々な人種がこの大陸にはそろっているらしい。


「きゃー!天使ー!すっごいキレイ!!」


チョコは天使を見れて興奮していた。
背中につけている羽根は本物であり、羽ばたいている村人から時々小さな羽が舞い散らされる。
それはまるで雪のよう。


「…すごいな…本当に天使っていたのか…」


ソングも元々大きい目を更に大きくして眺める。
ときどき「まさかメロディも天使になっていないか」と思いあたりを見渡すが、彼女の姿は見当たらなかったらしくガックリと肩を落とした。


「鳥以外にも飛べる人種っていたのね…とっくりだわ」


それは"ビックリ"の間違いではないか、というツッコミを今のメンバーの様子ではできなかった。メンバー一同天使に目を奪われているから。
こんなに美しい生き物。実際にいたとは驚きだ。
あのブチョウさえも目を見開いていた。


「私ども天使はお客様のために何でもいたしますよ。何をすればよろしいでしょうか?」


1人の天使にそういわれ、メンバーは意識を取り戻した。
焦燥するメンバーにその天使はもう一度口を開く。


「ここには何でもそろっております。様々な店、施設、そしてお花畑や天へと続く三途の川もございます」

「「三途の川?!」」


三途の川という単語に全員が声をそろえた。
三途の川といったら、冥土への途中にあり死んで七日目に極善又は極悪でない人が渡るという川のことだ。
そんなものがあるとは驚きだ。


「亡くなった方の魂は必ずやこの村に訪れるのです。そして川を渡って上か下へ参ります」

「ちょいまてや。何であんたら天使が地上に住んでおるんや?」


この世界に天使や悪魔がいることは珍しいことではない。
しかし天使たちが地上に住んでいるとは聞いたことがなかった。
トーフの質問に村人の天使は答える。


「時代は変わっているのですよ。天使も普通に地上に住んでいます。羽根さえ隠せば普通の人間とは変わりませんので」


そしてその天使は背を向けると今まで出していた天使の羽をすぅっ消していった。
空気に溶け込むように消えていった羽根は、今その天使の背中に跡形もなく、なくなっていた。


「こうすれば、私たちは普通の人間と同じです」

「…すごいなぁ…」

「差別はよくないことですよ。天使だってあなたたち人間と同じように地上に住みたいのです」


優しくそういう天使であったが、少しトゲのある台詞であった。
トーフは思わず謝った。


「すまんな」

「いや、いいですよ。それでは、お好きに観光をどうぞ」


ニッコリと微笑んで天使たちはまた空を羽ばたいていった。
また雪のような羽がチラチラと舞い踊る。


「おい」


最後の1人が飛び立とうとしたとき、ソングがその天使を止めた。
天使が問う。


「何でしょうか?」

「俺と同じぐらい年齢の、左目下に三つの丸模様がある女の魂は川を渡っていったか?」


その質問に、メンバーは顔を見合わせた。
天使は首を傾げて


「分かりません。たくさんの魂が渡っていっているので」

「…そうか」


するとソングは物寂しそうに顔を背けた。
天使も申し訳ありませんと謝って早々と先へ飛び立った村人の後を追う。

そこに残ったのはメンバー。
俯いているソングの肩にチョコが優しく手を置いて、
しかしソングは軽く避ける。
チョコの手を払うとソング


「それで、どうするんだ?」


全員に問いかけた。
唸り込んでからトーフが答える。


「そやな〜…ますます訳わからんことになったわ」

「そうだね。こんな素敵な村なのに」

「サコツったら〜一体どうしちゃったのかな?」

「まあ、こんなとこいつまでいても仕方ないわ。とりあえずお花畑にでも行って走りましょ」

「いや、それは遠慮しとく。いまどき花畑を走り回る男女なんていねーよ」

「いいなぁ…私、それ夢」

「うん、僕も。海岸で追いかけっこもいいよねぇ」

「愛か。ええなぁ〜」

「1人欠けてもボケは相変わらずか…」


そしてメンバーは白い村の奥へと足を進める。



+ + +


サコツ1人いないのだが、メンバーはとりあえず村の中を歩き回り
目に入った飲食店へと踏み込んだ。
食い逃げをしようと思ったわけではないが何となくだ。足が勝手にそこへ進んでいた。

中は喫茶店みたいな感じだった。
飾りもきれいで、美しい天使たちにはよく似合う店だ。
…しかし天使にもそう美しい者ばかりではない。
オバサンもいたり、男たちもいたり。

普段天使たちは羽根を仕舞い込んでいるらしく外見はバッチリ普通の人間の姿だった。


「ほな聞き込み調査でもして見るか?」


サービスとして頂いたお茶をメンバーは啜りながらトーフの話を聞く。
トーフは意外にも猫舌ではないらしく一気飲みをしていた。
代わりにソングが猫舌だったらしくお茶を放置して冷やしている段階だ。


「そうねー、でもどうやって聞き込みするの?」


今メンバーは突然様子のおかしくなったサコツについて村人に訊こうかという作戦案を出していた。


「どうやってって…『赤髪のチョンマゲヘアーのおバカな人のこと知っていますか?』ってな感じ?」

「それで相手に伝わるか?」

「…際どいところや」

「チョンマゲの写真とかないわけ?生首でもいいわよ」

「それはヤバイだろ?!打ち首でもされたのかよ?!」

「ん〜何かいい案ないかなぁ〜」


唸り声を上げて考え込む。
クモマはトントンと指でテーブルを叩いてリズムを刻んでいる。
しかしそれは不快なものであった。


「おい、リズムが乱れている」

「え?」

「4分の4拍子だったらタンタンタンだ。お前のはタタタンタアンタンと狂いすぎている。聞いていて腹立たしい」

「え?あ、ゴメンね」


まさかそんなところでツッコミを受けるとは思っていなかった。

メンバーの機嫌は徐々に悪くなっていく。
1人メンバーが欠けるだけでこんなにも苦しいものだとは思ってもいなかった。

イライラが積もり、他のメンバーもテーブルを指で叩いて音を鳴らし始める。



トントントントン

トトトトトト

トン トン トン

ドンドンドン

ピーシャララー


「誰だ!?笛みたいな音を出している奴は?!!」


ありえない音にソングはブチョウに向けて叫んでいた。


+ + +


白い道から大きくそれて、
しかしそれでも天国のような村の近くに、いた。

 …まさか……


サコツは胸を押さえて大きな木に寄りかかっていた。
呼吸はやはり荒い。


 まさか…あの村に着くなんて…


ここからでも白い村は見えていた。
大きくて豪華な扉の門がひょっこりと頭を出している。


 最悪だ……つっ


その村の姿を見てしまいサコツはまた痛みに襲われた。
今は頭や胸だけではなく体全体にも及んでいる。

とくに上半身には酷い痛みが走る。


 願っていたのに、絶対に行きたくないと思っていたのに
 来てしまった。あの村に


 俺は、これ以上、失いたくない。


 失いたくないと願っていたのに
 何で、来てしまったんだ。



「…ぜえ…ぜえ…」


 苦しい


「……ぜえ……ぜえ…」




「…ぜえ……ぜえ…」



木に寄りかかるのをやめ、サコツは動き出した。
ふらつきながらであったがそれでも真っ直ぐに
行きたい場所へ歩いていき、やがて


着いた。


「………」


そこは、花畑だった。
少しの面積であるがサコツはキレイな花を次々と摘んでいく。

やがて手一杯に花が摘まれた。
花を持ってそこから更に奥へと足を運ぶ。
また村に近づいてしまったが、あの人のためだ。サコツは吐き気を抑えながら歩いていく。






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