全員がお茶を飲み干した頃、ようやくソングがコップに口を付け始めた。


「困ったねぇ」


クモマが頭をかきながら呻く。どうやって村人からサコツの事を聞こうかと悩んでいるのだ。
他のメンバーも同じように呻きだす。


「何かええ作戦はあらへんかな」

「うーん…」

「えー?どうしよう〜?」

「このお茶、味が濃いな」

「私のハート並に濃いでしょ?」

「何が濃いんだ?!」

「毛が」

「毛?!」

「ちょっと!まじめに考えてよ!」


騒ぎ出すソングとブチョウにクモマが止めに入りまた場は静かになる。
しかしすぐにチョコが沈黙を破った。


「サコツ…帰ってきてくれないかな…」

「「…」」


この中でサコツと一番親しかったチョコには今サコツがいないということは不安に等しかった。
初めてできた仲間…友達の一人の様子が突然おかしくなって、あげくの果てには逃亡だ。
チョコにはそのことがとてもショックだった。


「サコツったら何であんたに怯えていたのだろうね〜?」

「わからんわぁ」


トーフが口を尖らせた。


「怯える理由も逃げる理由も何もわからん。あかんわぁ」

「あの白い道あたりから突然様子がおかしくなったよね?何か理由ってあるのだろうか…?謎だね…」


クモマも続けて疑問を口にし、ソングが答える。


「あの様子は異常だった。あれはまさに"恐怖"を見たといわんばかりの怯えよう…いやそれより酷いか」

「何かあるに違いないわね」


全員の首が上下に小さく揺れる。

絶対に何かあるに違いない。
しかし、それが一体何なのかわからない。
あの様子の異常さ。これほどまでに怯えているサコツ…いや人自体を見たことが見たことがない。
なぜにサコツは怯えていたのだろう。あんな異常に。吐き気まで起こすほどだ。
きっとひどい"恐怖"に遭ったのだろう。この村で。

この村はサコツの何かを知っている。

だからメンバーはこの村の住民にサコツのことを聞きたいのだ。

この村の住民は、天使。


「ねえ」


考え込んでいるためまたもや無言になるメンバーにクモマが声を掛ける。
それぞれの目線が全てクモマに集まるとやがてクモマは提案を出した。


「サコツの絵、描いてみようよ」


突然何を言い出すのかと眉を寄せるメンバーを見て、慌てて言葉を補充する。


「ほら、サコツのことを村人から聞くんだろう。だからサコツの参考となるものを持っていないとさ」


それで絵か。確かに写真はないし生首もない。
そうなると似顔絵が一番有効であろう。

メンバーは納得するとテーブルに身を寄せ、トーフは懐から紙とペンを取り出した。


「なるほどね!似顔絵描けば結構参考になるかもね!」

「いい案だと思うが、一体誰が絵を描くんだ?」


のん気にお茶を啜るソングの問いに全員がすぐに反応した。


「僕は絵苦手だし…小さな子供が描きそうな絵になっちゃうよ…」

「私も〜!絵なんてムリ!絶対ダメ!」

「絵とか普段描かねえし俺もパス」

「あかんあかん。モザイクかけてもらう勢いになるで。ワイの絵は」

「しょうがないわね」


完全拒否するメンバーの中、ブチョウだけが承諾していた。
テーブルの上に置かれている紙とペンを自分の領地まで運ぶ。


「え?姐御が描いてくれるの?」

「ありがとうブチョウ」

「ホンマ助かるわぁ。おおきに」

「は?お前が描くのか?任せて大丈夫なのかよ」


1人反対するソングにブチョウは「私に不可能なことなどないわよ」と反論し、黙々とペンを走らせる。
そして


「出来上がったわ」


ブチョウに握られていたペンがテーブルの上に置かれ、反動で少し転がる。
描いた絵をテーブルの中央へ、メンバー全員に絵が見えるように持っていく。


「どれどれ?」



































ええ?


+ + +


足を動かす度に嫌なものが目に入ってくる。
その色は白。白はサコツの最も嫌いとする色だ。吐き気がする。

 俺は赤が好きだ。


気持ちが悪い。ムカムカする。キリキリする。上半身が酷く痛む。

 白を見ると思い出してしまう。だから痛むんだ。


手一杯に溢れる花。
花束を持ってサコツは少しずつ少しずつふらつきながらも"白"に近づく。
見える"白"ではない。見えない"白"へと近づく。

 いや、"白"に向かっているのではない。"赤"に向かっているのだ。


花を見る。そこに浮かぶ色は主に白と赤。
しかし割合は白より赤の方が多い。
白に重なるのは赤。白の上に赤。白に赤。白が赤……


 ―――――――っ!!!


先ほどより酷い激痛が走った。白と赤の組み合わせを見た瞬間、ある光景を思い出していしまったのだ。前屈みになる。


 ヤバイ、ヤバイ…ヤバ……これはヤバイ…。イヤだ…イヤ…っ!!


サコツは必死に花を抜いた。赤い花を。
嫌いな色の花だけを残して、全てをそこに捨てる。そうしなければいけなかった。
そうしないとサコツは自分が壊れてしまうと分かっていたのだ。

白に赤を近づけたらいけない。
汚れ1つないこの色に汚れ色を混ぜたら…。


 ゴメンな花たち。どうしてもこうしないとダメなんだ。許されないんだ。
 俺は赤が好き。だけど本当は嫌い。
  俺の髪色だから。あの色だから。あの人を染めた色だから。

 本当の好きな色は白。白は大好きだった。
  あの人の色だから。尊敬する人の色だから。本当は大好きな色だった。
 だけど、奴らも同じ色。悔しかった。だけどとても
  羨ましかった。


 あの人を失ったとき。俺は奴ら全員を怨んだ。怨み嫌った。
 本当は奴らのことも好きだったけど、その日を境目に俺は奴らが嫌いになった。
  だから白が嫌いになった。
 今ではアレを思い出してしまってこんなにも苦しい目に遭っている。


前屈みになりながらもサコツは歩くのをやめなかった。
量は少なくなってしまったけど、花を、白い花を、あの人の色を、あの人にあげるためにサコツは歩いた。
体中が痛む。
特に背中が。あの傷が痛む。
だけれどやめない。歩くのをやめずに、
サコツはあの人の元までやって来た。


+ + +


「皆様、お茶はいかがですか」


ブチョウの描いたサコツの似顔絵に頭を抱え込むメンバーの元に、白い羽根を隠している天使の店員がにこやかにお茶を勧めて来た。
お願いしますとコップを店員に渡し、店員はお茶を注いでいく。
その間にも話は続行されていた。


「ブチョウの似顔絵じゃ、まずムリだね」

「この絵…どこかで見たことあるわ…どこやったか…?」

「…ねえどうしよう…。他にまともに似顔絵かける人いるの?あ、ありがとう〜」


チョコは店員から新しくお茶を入れてもらったコップを受け取る。
そして店員が次はトーフのコップにお茶を入れようとメンバーのテーブルに近づいたときだった。
店員の目にあの絵が映ってしまった。
すると驚いたことに店員は見る見るうちに"恐怖"の表情を作っていく。


「…………あ……」


口を押さえ店員は持っていた急須を思わずその場に落としてしまった。
急須の割れる音が響き、店内が一気に静まる。
熱いお茶をその場に散らし、店員を中心に湯気が濛々と立ち上がる。


「大丈夫ですか?!」


よろめく店員の元にクモマがすぐに駆けつける。
他のメンバーも席を立って様子を窺う。
店内にいた客の天使も口を閉ざし、果たして何があったのか。とこちらに目を向けている。

クモマが再度呼びかけると店員、震えた手であの絵を、ブチョウの描いたサコツの似顔絵を指差すと、突然絶叫しだした。



「悪魔ぁああああ!!!!」


その絶叫にその場にいる天使は皆"恐怖"の表情をとって怯えだし、
メンバーはいろんな意味で目が点になっていた。
























どうして?

どうして俺だけ皆と違うの?

どうして髪が赤いの?どうして?


どうして俺の羽根、黒いの?




ねえ、教えてよ



母さん










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次は待ちに待ったサコツの過去話!
サコツの全てが分かります!!

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