見渡す限り、道は雲のように白かった。


22.真っ白な道


温泉の事件の翌日、メンバーは早々と車を出していた。
暫く道を進んでいくと、場は徐々に白くなりつつある。
霧が出たわけではない。道自体が白いのだ。
白いじゅうたんが敷かれているように綺麗な道。
そこを二匹の豚がのんびりと歩き、それと共に箱が引かれていく。


「…おえぇえ…」


その中で1人、激しい頭痛と腹痛に襲われている奴がいた。


「うえええ…」

「大丈夫?サコツ…」


それはなんとサコツであった。
普段どんな道でも酔わないあのサコツが今回は珍しいことにやられていた。
こんな平坦な道であるのに…。


「………ぅぇえ…」

「吐きたいなら吐きなよ?無理しちゃいけないからね」


クモマがサコツの背中を擦りながら落ち着かせようとする。
隣で心配そうな目をしているチョコがそんなクモマに訊く。


「ねえ、クモマの回復魔法で何とかできないの?」


それを聞いて無言になっているソングとブチョウが期待の目を向けるがクモマは首を振って否定していた。


「無理だよ。僕の回復魔法は怪我しか治すことが出来ないよ。病気などは治せない…」

「そ、そう…」


シュンとするチョコに申し訳ないと頭を下げる。
その間にもサコツは苦しそうに胸を頭を押さえていた。
サコツは体全体からすごい量の汗をかいていた。
息も荒く、何度も苦しそうに呻いている。
これは…異常な状態だ。


「…ぜえ…ぜえ…」

「サコツ、苦しいなら寝てなよ」

「そうよサコツ!無理しちゃいけないからね!」


二人が声援を送るが、サコツは目を真っ赤にし身を丸くしたままであった。
トーフもついに身を乗り出してくる。


「ホンマあんた大丈夫か?これは異常やで?なんか変なもんでも食ったんじゃあらへんな?」

「……っ」


サコツは答えない。答えられない。ただ苦しそうに胸を頭を押さえるだけ。


「どこか近くに村はないわけ?」


ブチョウも口を開く。
ソングも後を追う。


「全くだ。どこかで休憩を取ったほうがいい」

「チョコ。エリザベスたちに聞いてみてよ」


クモマに促され、チョコは頷くと、その場から大声を張った。
外にいる豚2匹に話しかけているのだ。


「エリザベスと田吾作〜!近くに村はある?」


すると可愛らしい豚の鳴き声が聞こえてきた。きっとエリザベスの方が答えたのだろう。
後を追って田吾作のものだと思われるブサイクな声も聞こえてきた。

二つの鳴き声を聞くとチョコは安心といった表情を取った。


「よかった…」

「どうしたの?」


ため息をつくチョコに全員が目を向ける。
チョコが爽やかに微笑んで


「すぐ近くに村があるんだって!」


すぐにメンバーも笑顔に満たされた。


「なんだ、よかった。なら早く村に行こうよ」

「そやな。はよ村に行って休憩とろか」

「休憩すればチョンマゲも気分がよくなるでしょ」

「それなら早く車を走らせろよ」

「………っ」


ワイワイ騒ぐメンバーの中、やはりサコツの顔色は優れていない。



 この感触………


 白い道を見ると思い出す…。あのときのことを


 白い道、白い村。白い人たち




 白い……


また頭痛に襲われた。サコツはまた呻く。


「いってぇ……」


 白いものが怖かった

 霧とかの白はいいのだが、本当の白は嫌いだった。

 怖い、怖い…怖い…




 思い出してしまう、あのことを。

 俺は、また大切な人を失ってしまう。

 もし、この道があの村に繋がっていたら…


「次の村ってどんなところだろうね?」

「そやなー。今さっき"笑い"見極めてみたけど、そこまで"笑い"はとられておらんみたいやで」

「何だ。楽じゃねえか」

「そしたらまたのんびりできるね〜!」

「温泉とかあればまた入りたいわね」

「「もうこりごり」」

「え?何で?」

「だって姐御!体見せ放題だったじゃん!フォローするの大変だったんだよ。もう疲れた〜」

「こっちも大変だったよ。魔物が出てきた戦うはめになるしさ!」

「全くだ。知らないが田吾作に好かれてしまうし」

「そういやあのときサコツ結局風呂に入らなかったんか?」


サコツに問いかけるトーフであったが、サコツはそれどころではなかった。
先ほどより状態が悪化していたのだ。息の荒さがより増している。


「ぜえ…ぜえ…ぜえ…ぜえ……」


 怖い。怖い…。怖い……っ。


「サコツ!!」

「おい、もっと速く車動かせよ!」

「ん?何?田吾作?」


田吾作の声が聞こえてきたのだろう。チョコは耳を傾ける。
するとまた明るい表情を作った。


「ええ?マジで?!」

「ん?どうしたんだい?」

「んとね!」


チョコはハイテンションで答えた。


「次の村って……」



チョコから出された次の言葉により、メンバーは感嘆の声を上げていた。
しかしサコツだけが違った。


怖いものを見たと言わんばかりに目を見開いて
突然暴れだしたのだ。


「さ、サコツ?!」


暴走したサコツはそのまま車から飛び降り、逃げ出してしまった。


「ちょっとサコツ?!!」

「おい!」

「どないしたんや?!」


メンバーが車から顔を出して外にいるサコツに叫ぶが、サコツは逃げたままだった。


「私、追いかける!」

「ちょい待ちぃ!ここは放っておこうで」

「何で?!」


サコツを追いかけようと構えるチョコをトーフが止めた。
憤慨するチョコであったが、トーフが言う。


「何かサコツの様子がこの村付近になってからおかしくなっとる。なんかあるんや」

「…」

「今はそっとしておこう。…あんなサコツ見たんは初めてや…あんな怯えておるなんて…おかしいわ…」

「…何かあるのかな…」

「どうやろな…でもその村に行ってみる価値はありそうや」

「…うん…」


サコツがいなくなった車の中。
チョコの返事を最後に静まり返ったまま
車は、その村へと入っていった。






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