みんなは悪魔という生き物を知っているか?
悪魔という生き物は人々に不幸をもたらす生き物だ。
人が困っているところを見るのが好きで、そのためバカに明るい者が多い。
この世界の悪魔もやはりそういう生き物であった。
翼に込められた力は最悪に強烈なもので、周りに被害を与える。
喧嘩にも強く、戦いも上手い。
だけどやはりバカはバカ。
それが悪魔。
そんな悪魔にも苦手なものがあった。
それは天使だ。
天使の癒しは悪魔の苦手とするものだった。
優しい光に包まれている天使。
悪魔にとっては眩しい存在。
だから苦手。
「お願いだから…サコツ……もう皆を傷つけないで…」
クモマの首を絞めているサコツの足をチョコが必死にしがみ付いていた。
泣きながらもう一度お願いをするチョコ。
「サコツはこんなことする人じゃないよ。お願いだからもうやめて…」
「……」
しかしサコツは無視し、首を絞め続ける。
その被害に遭っているクモマは抵抗する力もなくなっている。目を瞑っているのだが…もしかして…。
嫌な予感がしてチョコが叫んだ。
「サコツもうやめて!クモマがクモマが…」
「……」
「いやだいやだ……うわぁあん」
とうとうチョコは嗚咽に埋もれてしまった。口から出る声は全て泣き声。
そのうるさい声にクモマが意識を取り戻した。
「……チョコ…僕は大丈夫だよ」
「クモマっ…」
クモマの声を聞いてチョコが嗚咽を溢すのを止めた。
クモマは首をつかまれ浮いているがそれでも下にいるチョコを見る。
チョコもサコツの足にしがみ付きながらクモマを見上げる。
泣いているチョコの姿を見てクモマが優しい声で言った。
「チョコは離れなよ…ここは危険だよ」
「いやよ私は皆を助けたいんだもん…特にサコツを」
「…うん。それは僕だって同じだよ……だけど今はとにかく離れて」
「え?」
「いいから!」
そのときチョコは何故か走って離れていた。
そして次の瞬間、その場に爆発が起こっていた。
ずっしりと重い音、爆発音に似た音に驚いて振り向く。
すごい土煙の中であったが目を開けてみると、見えた。
クモマの立っている姿が。
クモマの首を掴んでいたサコツはクモマの短い足に蹴り飛ばされたようだ。少し離れたところから身を起こしている。
「ゴメンね、サコツ」
クモマの声が聞こえてきた。
首を絞められ口から血が出ていたため、親指で血を拭き取る。
「僕はキミと戦いたくない。だけどキミはやる気だ。だから僕はそれに答えようと思うよ」
「クモマ?!」
クモマの意見にチョコが首を突っ込む。
しかし無視された。
「キミは遠慮していないようだから僕も遠慮しない。そうじゃないと僕もキミと戦えない」
悪魔の力は強烈だ。
クモマのバカ力も通用するかどうか、不安なのだ。
土煙が晴れてきた。
その場を走り回っていた天使たちは足が竦んだのだろう、腰を落としている。
ソングは腹を押さえながらずっとメンバーの姿見ている。意識はあるようだけど腹から出る流血が激しいため動けない様子。
チョコは泪を拭うと再び走り出していた。クモマたちからどんどんと離れていく。
そしてサコツはというと悪魔のような笑みを浮かべていた。
「…この俺と戦うのか?無謀なこと考えるもんだな」
「本当は戦いたくないよ。だけどキミを救うためにはこうするしか方法がない」
「…俺を救う?バカなことを言うな」
蹴られたときに口の中を切ったらしく、出す唾が血色に染まっている。
まるで別人になっているサコツにクモマは口を出す。
「救える。キミを悪魔から救ってみせる」
「何言ってるんだ。俺の本来の姿が悪魔なんだぜ」
「違う、キミは…」
まだ言っている途中とも関わらずサコツは攻撃をしてきた。
手に溜めた"気"をクモマ目掛けてぶっ放す。
あまりにも速い攻撃だったためクモマは避けられなかった。
「つっ!」
「ムダだ。こんなとこいたらお前が死ぬだけだぜ」
気づいたときには遅かった。
黒い翼で風を斬り、すごい速さでクモマの元へやってきたサコツは鋭い爪を向けると、躊躇なくクモマの腹を抉った。
その場にいた天使とソングが目の辺りを顰める。
その場に血が飛び散った。クモマの血が。
サコツはクモマを切り裂いていく。
+ + +
村が暗いということと村人やメンバーの姿が見当たらないということで焦っているのはトーフとブチョウ。
実は、彼らはまだ村の中にいた。
「どこにおんのや?」
「困ったわね」
村の中を走り回っても走り回っても結果は変わらない。誰もいないこの村の中を走る。
「何でおらんのや皆」
「まるで屍のようね」
「使い方間違ってるで?!」
「まあ、慌てるんじゃないわよタマ。こっちには奥の手があるんだから」
「え?何やねん?」
奥の手、と言われ興味津々に身を寄せてくるトーフ。
ブチョウが平然とした表情で答えた。
「クマさんを召喚すれば」
「却下や」
即却下された。
「何よ。クマさんは強いのよ?」
「いや、確かに強いとは思うで。ある意味な」
クマさんの存在自体が最強だ、とトーフは確信する。
「だから召喚してあげるわよ」
「せやからええって!ありゃ出しちゃあかん!場の雰囲気が一気に壊れるわ!」
こうやってクマさんの事で言い争っているときだった。
前方からすごい勢いでこちらへ駆けて来る者の存在に気づいたのだ。
目線をそちらへ向ける両者にそいつが叫びかけてきた。
「トーフちゃんと姐御〜!!」
チョコだ。
俊足のチョコが二人の元へあっという間に駆けて来て、やっと出会えた仲間の姿にトーフが安堵をつく。
「どこにおったんやあんたら?皆村ん中おらんかったからワイらビックリしたんやで?」
「二人とも私の後についてきて!」
トーフののん気な声はチョコの慌てた様子の声に掻き消されていた。
ブチョウが眉を寄せる。
「何かあったのね?」
「うん!サコツとクモマが、それにソングが…」
「有り得ないぐらい大きいおならでもしたの?それで行方不明?」
「んなはずあるか!!」
「のん気に会話している暇もないよ!とにかく私の後ついてきて!」
チョコの目が真っ赤になっていることに気づきトーフとブチョウは目の色変えると、いつもの速い足取りで走っていくチョコの後ろを黙ってついていく。
+ +
「ホンマかいな?」
「あいたこりゃ、何ていうことなの…」
走っている中、チョコは状況がつかめていないトーフとブチョウに今まであったことを話してあげていた。
サコツが悪魔になってしまったこと、
ソングがサコツにやられたこと、
クモマがサコツに宣戦布告したこと
全てを言い、黙って聞き入れていた二人は唖然としていた。
「あかんな…何でそんなことになったんや?」
「何でチョンマゲがまた悪魔になってしまったわけ?」
間を空けることのない連続の質問にチョコは肩を竦める。
「私もサッパリなの。何でサコツが悪魔になっちゃったのかわからない。私たちがサコツのとこへ来たときは既にサコツは悪魔の姿になっていた…」
誰もが知りたい真実。
だけど誰も知らない。一体誰が知っているのだ?
誰がサコツを悪魔にさせたんだ?
沈黙になってしまったので、チョコが話題を振った。
「ねえ、トーフちゃん。何か情報持っていないの?」
突然の質問にトーフは走りながらも首を傾げる。
「何の情報や?」
「天使か悪魔のことについての情報よ」
するとトーフは突然黙り込んでしまった。
不思議に思って、というか怪しく思ってブチョウが訊く。
「何よ?何か知っているわけ?天使と悪魔のことについて。ちなみに私はクマさんのことなら何でも分かるわよ」
「いや、クマさんの情報なんていらんわ!」
「それでトーフちゃん!何か知っているの?」
先頭を走っているチョコは、走りを緩めてトーフの横に並んだ。
期待の目を向けられトーフは「本当なのかは知らんけどな」と話を始めた。
「天使と悪魔ときくと皆『天使』の方がいいと思うやろ?せやけど天使は考えが難しい生き物でな、法律とかホンマ厳しいんや。恋愛も天使同士じゃなきゃあかんし、喧嘩もしちゃあかん。対して悪魔は気楽な生き物や。自由に行動もでき、考えも自由、何もかもが自由なんや」
3人並んで、目的地サコツたちのいる場所へと向かっていく。
「昔な、ある天使がある種族と恋に落ちたそうや。二人は本当に仲もよくてな、でも禁じられた恋やったんや。天使は天使としか恋愛ができんのやから。それでその天使は偉い地位の天使にな罰として何にされたと思うか?」
「何にされたの?」
「悪魔にされたんや」
「「え?」」
思ってもいなかった答えにチョコとブチョウは声を合わせた。
目線をトーフから離さずブチョウが訊ねる。
「天使が悪魔にされちゃったわけ?」
「そや。変な話やろ?天使が天使を悪魔に変えたんやで?おかしな話やな。自分たちの嫌いな種族の悪魔に変えてそれを罰とするなんて。ちょっと頭おかしいと思わん?」
「…」
「天使は厳しい生き物なんや。決まり事があればそれを第一に守り、もしそれを破られた場合は仲間とも関係なく裁く」
それが天使…。
「天使はな、確かにええ生き物やで?優しいし人を幸せにすることができる。せやけどその裏は厳しい世界やったんや。天使たちは苦労していたんやな」
+ + +
天使は変わり者を一番に嫌う。
悪魔は変わり者を一番に好む。
天使は規則通りにならないと、恐怖を抱いてしまう。
悪魔は何も考えていない。
天使は悪魔が嫌い。悪魔の姿を見ると怯え、そして倒そうとする。
悪魔は天使が嫌い。天使の姿を見ると真っ先に倒そうとする。
あるとき天使の村に1つの命が誕生した。
しかしその命は汚れた命。
天使から悪魔が生まれてしまったのだ。これは大問題。
さっそく天使たちはその悪魔を処分しようとした。
しかし、そんな天使たちを止める1つの勇姿。
悪魔の母親の天使だ。
母親天使だけが規則を気にせず、自分の考えを貫き通そうとした。
天使なのに悪魔のように楽観主義者の母親。
いつしか天使たちはそんな母親が嫌いになっていた。
そしてあるとき、天使たちは母親天使を殺害しにきた。
悪魔を育てる侮辱者。生かす必要がない。だから殺す。
規則を守らない天使など消えてしまえばいい。
しかしそれを阻止しようとした者がいた。それは悪魔。天使の悪魔の子だ。
母親天使を殺害したので天使たちは次は悪魔に手を伸ばす。
しかし天使は悪魔にやられてしまった。
力が違ったのだ。悪魔の翼に込められている邪悪な力が。
少しの気の乱れが命取り。その天使たちは殺されてしまった…。
悪魔は強い。
だけど天使の力には弱い。
天使が本気を出せばきっと悪魔に勝てるだろう。
そう、天使が本気を出せば…
「…ふふふ…死ぬのはお前だ…悪魔め………」
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