「何が起こったの?」


突然天使の村が闇に包まれた。
何故暗くなったのか訳分からずメンバーも天使たちも大混乱だ。


「ええ〜?ちょっとちょっと!天使の村が暗くなっちゃったよ〜?」

「クソ、意味わからね」


走るのを止めて、天使たちと一緒に慌てまわるメンバー。
白い村は今、黒になっていた。
「黒」に怯えだす天使にチョコは訊ねた。


「これってどういうことなの?」

「わかりません!」


天使は大きく首を振る。


「今までになかったことです。どうして村が暗くなったんだ?」

「…ま、まさか……」



怯える天使たちの中、1人の天使が深刻な顔をして口を開く。
視線を浴びた天使はやがて考えを言った。



「悪魔が復活した…?」



その予想は天使をメンバーを硬直させていた。
表情が強張っていく。もしそれが本当だとしたら。



すると不幸な予想が的中した。



「悪魔あぁぁあ!!!」


村の外から男性の悲鳴が聞こえてきた。




+ + +


懐から"笑いの雫"の入っているひょうたんを取り出すと、トーフは"ハナ"に向けて一滴落とす。
場は暖かい空気に包まれて、"ハナ"を封じ込める。

今回の"ハナ"は本当に楽に消すことが出来た。
しかし、見てはいけないものを見てしまった気がしてならない。


「あの悪魔の羽、誰のだったのかしら?」


ブチョウが顔を上げてトーフを見やるが、トーフは玉になった"ハナ"をひょうたんの水晶に入れているところだった。
完全に封印したところでトーフも顔を上げてブチョウと目を合わせる。


「悪魔の羽…。答えは1つしかないやろ?」


息を吸って、トーフが苦い顔して言い放った。


「あれはサコツのや。サコツの悪魔の羽なんや」

「………やっぱりそうなの?」

「確実、ちゅうわけじゃないけど、ただ何となくそんな感じがするわ」

「そうね…。嫌なもの見ちゃったわね」

「ホンマやな。まさかあんな生々しい物見てしまうなんてな…」


サコツの物だと思われる悪魔の両翼は天使の両翼に重なっていた。
天使の両翼はありえないほど真っ赤に染まっていて、白い部分がほとんど見えなかった。
なぜそんなに赤いのか分からない。


「…気味が悪いわね。さっさとここから離れるわよ」


黒い羽と赤い羽を見るとブチョウは表情を顰めた。
トーフも頷く。


「そやな。はよサコツんとこ行くか」

「"ハナ"も消したんだし、私たちはもう用のない場所だわ」

「あぁ」


どうしてもここから逃げたかった。
見たくない、あんなもの。

血で染まった天使の羽なんか、もう見れない。
一体あの羽は誰のものなのか。知りたかったが聞くことも出来ない。

サコツ、お前は今無事なのか?


羽を暫く見て、形相変えてそこから離れる二人。
瓦礫の山を乗り越えて、やがて地面に足をつける。

知らないうちに天使の村は暗くなっていた。
何かが起こったに違いない。
だから走ろう、と構えた時だった。


「………やっぱりここはチョンマゲの家だったのね」


ブチョウがそう呟いたのだ。

彼女の目線の先には瓦礫の山。その間を悲しい目で見つめている。
そして、そこにはあった。サコツの家だという何よりの証拠
表札だ。

『ウナジ&サコツ』

手書きで書いてある手作りの表札。
綺麗な字で書いてあり見ているだけで心を和ませてくれる。
なんて優しい字なのだろう。
果たして誰が書いたのだろうか。この『ウナジ』という人なのだろうか。


「…ホンマや……」


本当にあの羽はサコツのものだったのか…。


「……まあいいわ。タマ、急いでチョンマゲのところへ行くわよ」

「おう!」


いくつかの疑問を抱えて、ブチョウを先頭に
二人は暗い天使の村を走っていった。



+ + +



クモマとチョコとソングは誰よりも早く悲鳴が聞こえてきたこの場所へ駆けていた。
そして実際にその場に来て見ると、そこは本当の『黒の世界』だった。
元々は白いはずの場所が今では黒い。なぜなのか。
理由は簡単だ。

悪魔が出しているオーラが強烈に黒いからだ。


ひどく残酷で冷たい世界の中心に、悪魔が立っていた。
血のような赤い髪を風に靡かせて、
背中には黒い翼を生やし
後姿ではあったがそれが誰なのかすぐにわかった。


「…サコツ…」


チョコが口を押さえ、ショックのあまり腰を落とした。
すぐにクモマがチョコを立たせてあげる。

サコツと呼ばれた悪魔は振りむかない。
ずっと夢中になっているのだ。

下にあるものを踏みにじるのに。


「やめろ…悪魔……」


サコツの足の下の天使が呻くがサコツは容赦ない、更に強く踏み潰す。

鈍い音が響いた。骨が折れたのだろう。
天使の男は枯れた声で悲鳴を上げた。


「さ、サコツ!!」

「おい!何してるんだ!」

「やめてよサコツ!サコツ〜!!」


「……」


メンバーの叫びにサコツはやはり振り向かない。
ずっとずっと天使を懲らしめている。
その天使はもう死にかけだ。呼吸も細い。


「サコツ!お願いだからもうやめて!どうしてサコツがそうなっちゃったのかわからないけどあなたはこんなことする人じゃないよ!だからもうやめて!」


チョコが悪魔姿のサコツに泣き叫び、ようやく反応があった。
足元には天使が潰れたままであったが、顔だけをこちらに向けて、サコツ。


「?!」


これが悪魔の顔なのだろうか。
長い髪が顔に影を作り、隙間から見える目が鋭くこちらを睨んでいる。

あの優しい目はどこにいったの?



やがて悪魔が口を開いた。牙がチラリと見える。





「…………………………………邪魔しにきたのか…?」




「「……っ!!」」



邪悪な声が深く空気を突き破った。
なんていう声なのだ。聞いている側をこんなに震わせるとは。
これが悪魔なのか?

これがあのサコツなのか?


信じられない。


「サコツ…」


クモマがサコツに声を掛けようとした、そのときだった。
天使たちがやってきたのだ。
武器を片手に、だけど震えている。


「いたぞ!悪魔だ!!」


天使の1人が叫んだ。しかし後が続かない。
全員が一歩身を引いていたので。
恐怖に押しつぶされて、全員が顔色を悪くしている。
叫んだ天使が呆れ顔を作って、全天使に告げる。


「おい、いいのか?せっかくのチャンスなのだぞ。今ここで悪魔を倒さないとどうするのだ?」

「だけど、怖すぎです」

「見てくださいよ、あの顔を」

「悪魔ですよ悪魔!あぁ、怖い…」


そしてまた退ける天使たちに1人の天使がまた叫ぼうとした、のだが


「何だ、死にきたのか?天使」


悪魔の囁きが聞こえてきた。そのためその場は絶叫の嵐だ。


「「ぎゃああああ!!!怖いよぉおお!!」」


天使たちは発狂して逃げ回った。しかしそれをすぐにメンバーが抑える。


「皆さん落ち着いてください!」

「大人しく村に帰って!サコツのことは私たちに任せて!」

「死にたくなかったら黙れ!」


しかし天使たちは言うことを聞いてくれなかった。
悲鳴をあげながら逃げ回った。恐怖に狂った天使たちは泣き叫ぶ。

そんな天使たちにサコツは、容赦なかった。
お得意の射撃だ。"気"を手に溜め天使に向けてぶっ放し、爆発を起こした。


「うわあ!ちょっとサコツ!落ち着いて」


暴れまわるサコツを抑えようとクモマが走り出したが、それは遅かった。


「ダメーサコツー!!」


チョコが先にサコツの元へ走っていたのだ。
サコツを後ろから抱き止めて動きを封じ込める。
しかしサコツは大人しくしない。相手がチョコとも関わらず、扱いは最悪だった。
激しく振り落とし、チョコを転ばせた。


「っ!」

「邪魔するな」


ただ一言だけそう言って、サコツは天使たちの元へゆっくりと歩み寄っていく。
チョコはしゃっくりあげて泣いていた。悲しかったのだ。自分の言葉が届かなくて。

クモマがそんなチョコに手を伸ばして立たせている間、今度はソングが動いていた。
腰にあるポシェットからハサミを取り出しすぐに大きくすると戦闘モードに突っ走った。


「これ以上暴れるな」


ハサミでサコツを捕らえるが悪魔のサコツには効かなかった。
上半身が裸のため傷がついて血は出たがサコツは無反応。むしろ悪魔の笑みを浮かべていた。


「この俺と戦うのか?」

「…っ!!」


なんていうことだ。
せっかくハサミで捕らえたのにサコツの悪魔の力で出来たカマイタチによりハサミは金属に当たる音を立てて空に吹っ飛んでしまったのだ。
宙を舞うハサミを取ろうと上を向いたその隙にサコツはソングに攻撃していた。

手に溜まった悪魔の"気"を腹にぶち込められ、ソングは喀血してぶっ飛んだ。


「がはっ!!」


そしてソングは大きな木にぶつかり、身を倒した。


「ソング?!」


腹を押さえてもがいているソングの元へ行こうとするクモマ。しかし目の前にはサコツがいた。


「邪魔をするなお前ら。俺は天使に用があるのだ。俺の大切な人をバカにした天使たちを俺は絶対に許さない。…だけどその前に邪魔をするお前らを倒す」

「うっ!」


首を掴まれクモマは浮いていた。
喉を潰されそうになり必死にもがく、しかしサコツは下ろしてくれない。
このまま首を折るつもりなのだろうか。


「……サコツ…お願いだから下ろして……ソングが苦しんでいるんだ………だから…」

「何だ、お前あいつに回復魔法を使う気か?ふざけやがって」

「っ?!」

「俺は死にかけの母さんに何もすることが出来なかったんだ。助けてやりたいのに悪魔には傷つける力しかない。だから見殺しにしてしまったんだ」

「!!」


サコツの力は更に強まる。
クモマは逃げようとするのだが、ムリだった。
意識が遠のいていく。


「やめてーーーー!!!!」


チョコが泣き叫びながら再びサコツを捕らえるが、蹴り飛ばされまた転ぶ。


「こんなことするのはやめてよー!!私たち友達じゃない〜!!」


わーんと声を上げて悲しみに泣き沈んだ。









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