白い天使の村は今ガランとしていた。
天使たちが一斉に悪魔退治に行ってしまったから。
その後を追いかけるのは3つの影。


「信じられないよ、本当に」

「これは何かの間違いって誰か言ってよ!サコツが悪魔になんて私見えないよ!」

「…真実をこの目で確かめるしかないな」


クモマとチョコとソングは走り回っている天使の後を追っていた。
天使たちは恐怖から逃げるために悪魔であるサコツを倒そうとしている。
唐突過ぎるこの状況に3人は眉を顰めあう。


「一体サコツに何があったんだろう?」

「何で天使たちがサコツが悪魔だということを知っているのかな?」

「何か裏がありそうだな」

「うん」

「あ」


チョコがひらめきの声を上げた。


「サコツの様子がおかしくなった理由、何となく分かったよ」

「え?本当かい?」


頷いてチョコが推理する。


「さっき天使が『天使は悪魔に怯えている』って言っていたじゃない。きっと悪魔もそれは同じだと思うの。悪魔も天使が怖いのよ」

「なるほど。それだったらつじつまが合う。そうするとあいつが怯えていたものは天使だったのか」

「天使の『白』が怖かったんだろうね…」


こう話していると次々とサコツが悪魔だということが真実に繋がっていく。
悪魔という生き物に全てが当てはまるサコツ。
だけど、1つだけ当てはまらないところがあった。


「サコツは優しい人なのにね。悪魔には見えないよ」


クモマの言葉に全員が頷いていた。
そう。サコツは悪魔のような心を持っていないのだ。純情で優しい、天使の心を持っている。
そのことはメンバー全員が確信していた。

戦いが苦手で、悲しんでいる人を放っておけない。
そして無邪気な笑顔を絶やさずにする。そんな優しい奴。
サコツは悪魔ではない。そう信じていたかった。


「とにかくこの天使の団体の後についていってチョンマゲを見つけるぞ」


前を走っている天使たちを睨みながらメンバーは走り続ける。
メンバーは天使の団体から離れない。離れない方がいい。離れない方がいい結果が見えるから。

天使の団体から離れてサコツ探しをするのは危険に等しい。
メンバーが天使たちよりさきにサコツを見つければ全然問題はないのだが、もし天使たちのほうが先に見つけたとするときっと最悪な結果が訪れるだろう。
戦いが嫌いなサコツだ。天使が現れたら殺される覚悟をとると思う。戦いはしない、絶対に。

だから、メンバーは天使の団体から離れないのだ。
天使たちと一緒にサコツを見つけて、天使たちを抑えながらサコツを救出した方がいいと考えたのだ。
危険な考えであるが成功する確率は何より高い。
メンバーは危険を乗り越えてサコツを助ける気なのだ。


「サコツの無事を祈ろう……」


天使の白い団体とメンバー3人の影がサコツの元へ少しずつ近づいていく。



+ + +



「どのへんに"ハナ"がありそうなのよ?」

「もうちょっと奥にありそうや」

「ぷーん」

「自分から聞いてきておきながら何やその態度は?!ってか『ぷーん』って?!」


そのころ、"ハナ"探し担当になったトーフとブチョウは天使の団体からだいぶ離れたところにいた。
この辺りは誰もいない。白く細い道を2人は走っていく。
トーフは"笑い"を見極めながら。


「まあ、ともかくワイたちも早くあっちに合流せなあかんな」


そしてチラっと天使の団体に目を向ける。天使の団体の後ろにはクモマたち3人がついてきている。


「そうね。私もチョンマゲのこと心配だわ。だから早く"ハナ"を見つけなさい」

「んなこと言われなくてもわかってるわ!せやからワイの頭突付かんといて!何か出そうやから!」


頭を勢い良く突付いてくる白ハト姿のブチョウに叫びながらもトーフは走るスピードを緩めない。
一歩ずつ確実に"ハナ"へ向かっていく。
これ以上突付くとヤバイものが出そうだからとブチョウも突付くのを止め、人間の姿に戻ってトーフと一緒に走る。

そして


「ここや」


"ハナ"のある場所についた。のだが、


「………これのどこに"ハナ"があるのよ…」


そこは瓦礫の山だった。
元が何なのかもわからないぐらい、めちゃくちゃになっている現場。
天使の白い村に黒い部分がそこにはあった。


「…何やねん。ここは…」


どうしてここだけが違うのだろう。白いものが崩されて黒くなっている。
白色はどんな色にも染まってしまう。ここは何かがあったからこうなったに違いない。
しかし、一体何があったのだろう。黒い部分。


「…それで?どれが"ハナ"なの?」

「ちょい待てや」


瓦礫の山の中に立って、トーフが目を閉じ始めた。改めて"笑い"を見極めているのだ。
この村の"ハナ"はそこまで成長もしていなく、今回はトーフにしか"ハナ"が分からない。

やがて


「わかったで!」


トーフは目を開けるとすぐに動き出していた。"ハナ"の場所が分かったらしい。
ここで"ハナ"を消すことが出来たらすぐにサコツの元へ行こう。
そう心に決めて、"ハナ"の場所へ行く。
そして、あった。


「…………………………っ!?!」


突然棒のように固まってしまったトーフの様子にブチョウが不安になって駆け出した。
「一体どうしたのよ?」と尋ねながらやってくるブチョウであったが、彼女も突然固まってしまっていた。
目の前の光景に唖然となる。


"ハナ"はあった。白い綺麗な花の形で。

それはいいとして、問題は二人の目線の先だ。
"ハナ"のすぐ隣にあるものに二人は言葉を失っていたのだ。

"ハナ"の隣にあるもの、それは


「黒と赤の…羽……」


赤く染まった天使の両翼の上に重なっている黒い悪魔の両翼。





+ + +


ゴッ ゴッ ゴッ


 ガサガサ…ガサ…


大きな木を蹴る音と一緒に葉の揺れる音が鳴る。
悲しく鳴るその音を妨げるようにサコツも叫ぶ。


「…お願いだから……もう…」


しかし、その声を天使の男が掻き消す。
木を蹴る音と、木に語る声で。


「ふふふ。なあウナジさんよー、お前の息子はやはりただの役立たずだぞ。お前を守ることもできない」


そしてまたウナジの木を蹴る。


「やめろ!」


サコツは叫ぶ。しかし体で庇おうとはしない。いや、庇いたいのに、守ってやりたいのに
体が言うことをきいてくれないのだ。
心が背中が何もかもが痛いのだ。
痛くてサコツは動けない。
その間に男は木を蹴り続ける。


「くっそぉ…」


悪態をつくがサコツは動かない。背中が痛い。
翼のあったあの場所が痛い。


嫌な汗が出て、吐き気もして、だけど目の前には守りたいものがある。

不幸の重なり。最悪だ。


「ふはは!弱虫め!これがあの悪魔だとは思えないな!やはり翼がないということは素晴らしい!」

「…」

「あの時はよくも天使を傷つけたな悪魔め!今度はこっちの番だ!内側からじわじわといたぶってやる!」

「……」

「苦しめ悪魔!黒い心を持った悪魔は世の中から消えるがいい!」


「…………」




痛い痛い痛い…イタイ…イタイ


背中が焼けているかのように酷く痛く熱い。
苦しい、熱い、痛い。

痛い

痛いうえに熱い。それから逃れようとサコツは無我夢中で上着を脱ぐ。
背中が痛いため背中を押さえるが痛みは引かない。

そんな背中には傷があった。二つの肩甲骨に深く出来た傷。
その傷から痛みがくる。

傷の痛みは体を振動させて、サコツの心に触れる。
傷の痛み、あの痛みはもろくなっている心に手を伸ばし、サコツを更に苦しめる。















なあ、母さん


あのとき俺、天使になりたいって言ったけど
もう、無理だと思うんだ。

だって、黒い心を持ったら、俺は簡単に





人を傷つけることが出来るんだから。





















「………………………どっちが悪魔だ」






邪悪な声が深くその場を抉った。
その声に身震いを感じて、男は木を蹴るのを中断して、声の聞こえてきた方をサコツの方を振り向く。
するとまた声が聞こえてきた。





「人殺しめ」




男の体は吹っ飛んでいた。上空を舞った男はそのまま地面に叩きつけられた。


「ぐはっ!」


背中を強く打ち吐血をする。そして、また口から血を出す。
がら空きの腹を踏まれたから。


「………」


無言で男を踏む赤髪の男。
いつものチョンマゲヘアーも今は何故か解かれ、長く赤い髪が風を靡く。
むき出しの背中からは黒い翼があった。




「…そんな……悪魔………っ?!!」



男の目には、赤い髪をした悪魔の姿が映っていた。


「死ねよ、天使」


悪魔の囁きが聞こえてきた。









>>


<<





------------------------------------------------

inserted by FC2 system