同じ人間だというのに、どうしてこんなにも扱いが違うのだろう。


19.ミブンの村


鳥族が住んでいた"レッドプルーム"を降り、ラフメーカーたちは次の村へと向かっていた。
豚のエリザベスと田吾作が引いている車の中にはメンバーがいる。
いつもは騒がしいのだが、今回は珍しいことに静かであった。

何とも悲しい過去を背負っているブチョウを見る度、英雄話を思い出してしまうのだ。
あのハスキーな声もブチョウのものではなく友人のものだという事実にも驚いた。
今まであんなに偉そうにしていた彼女なだけにその真実はメンバーに情を持たせた。

そしてそのまま次の村についてしまった。
エリザベスの合図の声が聞こえ、車も止まる。


「…あ、もう次の村についたんか?」


やがて沈黙をトーフが破った。
あまりにも静かだったためトーフの声は大きく聞こえた。


「本当だね。…それにしても、さっき僕何してたんだっけ?」


先ほどまでうわの空になっていたクモマが惚ける。
サコツが笑い声を上げ、やっと車内が明るくなった。


「おいおい〜!うわの空してたのかよ〜!」

「いやぁ、だってあんなに静かだと…」

「でもそうだよね〜。珍しく静かだったもん〜」


ボケ担当のサコツと盛り上げ担当のチョコが口を開くとすぐにその場は賑やかになる。
さすがラフメーカーの一員だ。
その二人を抑える担当であるソングが訊く。


「ここは一体何処なんだ?」

「さあ?でもここにも"ハナ"があるんだろう?」


ソングの問いにクモマが答え、そのまま質問を繰り出す。
トーフが反応した。


「そや。ここも"ハナ"があるわ。やけに"笑い"を感じ取ることができへんから」


この様子だとこの村は久々に"ハナ"に侵食されているようだ。
苦い表情を作るのはソング。


「んだよ。ここは"ハナ"にやられているってことか」

「結構ヒドイみたいやわ」


猫耳下げてトーフが全員を見つめる。
その目も目尻が垂れて、困り果てたといった表情をとっている。


「皆、気緩めたらあかんで。今回は久々に大物やねんで」

「…大物って…」


クモマがすぐに眉を下げた。
ソングは表情を顰めている。

トーフの一言はその場の雰囲気を悪くした。
険悪な空気の中、トーフが席を立つ。


「ほな、村に入ってみようで。村ん中入ればまだ"笑い"を見極めることができると思うわ」

「そ、そうだね」


トーフにつられて車から出る。
目の前に建っているものは大きな門。
豪華な門に圧倒されるメンバーであったが、足を進めてみた。



+ + +


豪華な門をくぐってみると目を疑う光景が広がっていた。
門とは裏腹に醜い世界。

ボロボロの家と道が虚しく続いている。


「な、何だ?このボロっちいところは」


思わずサコツが呟く。
メンバーも同意見だったため頷く。


「門はあんなに豪華なのに、何でこんなにも…」

「おっかしいね〜。何かあったのかな?」

「戦争が起こってこうなった…って言う風には見えないが」

「醜いところね」


ブチョウの言葉は痛く響く。
それはちょっと言いすぎだろうと目で訴えるがブチョウはマヌケ面で返すだけだった。
…この人が英雄には見えない…。

唖然と醜い光景を眺める。
ゴミとかも散乱しており、前回の鳥族の村とは違い全く舗装もされていない。
果たして何故こんなにも汚いのだ。


「…と、とにかく奥に行ってみようよ」


固まる一同を何とかクモマが促した。
解凍されメンバーも動き出す。


「そやな。いつまでもこなとこおっても"ハナ"は消せへんしな」

「もしかしたら村の中心は栄えているかもしれないしね〜」

「とにかく俺はこんなとこから早く出たい」

「何ほざいているのよ、ゴボゴボ」

「てめえこそ何ほざいてるんだ?!」

「よっしゃー!とにかく村の中央へ出発だ〜!!」


元気なサコツの掛け声が合図となり、メンバーは前へ歩みを進めた。
そしてそんなメンバーを物陰から見ている謎の影が二つ。


「「…いいもの見〜つけた」」


背の低い影は声をそろえて、動くメンバーの後を物陰に隠れつつも追いかける。



+ + +


結構な道のりを歩いた。
しかし見渡す限りあるのはボロイ風景。
豪華な門と相当する風景はないのだろうか。


「…何がどうなってるんだ?」


ソングが口を開く。
その一言を始め、全員の口が次々と開かれる。


「全くだぜ〜?何だよここは?いい加減綺麗なところにつきたいぜ〜」

「うん、そうだね…」

「ってか、村の人はいないのかな〜?」

「みんなで砂浜を駆けているのかしら」

「何青春ごっこしてんだよ?!」

「…困ったなぁ〜。何で人おらへんのやろ?」

「まさか…」


不吉が過ぎった。
クモマは恐る恐るその不吉を言ってみた。


「村人全員が"ハナ"にやられちゃったのかな…」


それは本当に不吉な意見であった。
一気にメンバーの表情が強張る。


「それめっちゃやばくない?!どうしよう!早く"ハナ"を消さなくちゃ〜!!」

「でも本当に人が"ハナ"によってやられていたら"ハナ"を消しても意味がないぞ」

「どっちみち消さないと被害者が増えるだけだぜ〜!ここは真っ先に"ハナ"を消すのが一番だぜ!」

「まあ、勝手にやってなさい愚民ども」

「てめえもやれよ?!しかも愚民どもって…、てめえ何様のつもりだ!」

「ウンダバ様のつもりよ」

「嘘つくなー!!」

「う、ウンダバ様…っ!!マジでブチョウがウンダバ様なのか?」

「何動揺してんだよチョンマゲ!!」

「ウンダバ〜ウンダバ〜!」

「拝みだすな?!」


可笑しい人たちは放っておいて


「トーフ。"笑い"を見極めることできるかい?」


クモマが話を戻した。
問いかけられトーフは申し訳なく首を振る。


「あんまわからへん。相当強力な"ハナ"なんやろな…。困ったわぁ」

「少しはわかるってことかい?」

「まあ、ホンマすこ〜し何やけど…」


苦い表情で答えるトーフにチョコが目を輝かせて近寄る。


「それってどこ?」


期待溢れるチョコの視線を浴びられ、トーフは元気なく答えた。


「…この村のどっか」


「「………」」



あまりにも適当な答えに、全員は思わず口を閉ざした。



そして


「「全くわかんないんじゃねーかよ!!!」」


同時にツッコミを入れていた。
トーフは苦い表情のまま笑みを溢して


「だからすこ〜ししか"笑い"を感じ取れへん言うたやないか」

「これはあんまりじゃないか?!村のどこかに"ハナ"があることぐらい僕らにだってわかるよ!」

「せやからすまんって。ワイ今回は全くの無能やねん。皆で仲良く探そうで」


手を広げてトーフが全員を誘う。
…これではすぐに村を出られないなと肩を落とすメンバー。
そして答える。


「そうだね。頑張って"ハナ"を探そうか」

「あとこの村のことも調べたいよね〜」

「いい男はいないかしら」

「…早く帰りたい」

「な〜っはっはっは!久々の展開だぜ〜!楽しもうじゃねーかー!!」


意外にも乗り気のようだ。
この様子にトーフも胸をなでおろした。

そして告げる。


「皆にはホンマ申し訳ないわ。時間がかかってしまうかもしれへんけど頑張って"ハナ"を探そうで」


うん、と頷くメンバー。
そして目線をトーフに戻した、そのとき事件が起こった。


先ほどまで目の前にいたトーフが突然消えていたのだ。


一瞬沈黙になるその場。


「…あれ?トーフは?」


いつも真っ先に口を開くクモマが今回も一番に言葉を出した。
皆も繋げる。


「しらね。何処行ったあいつ」

「え?え?え?トーフちゃん〜?」

「タマ五郎〜」

「誰だよ?!」

「おーい!トーフー!」


「「わっはっはっはっは」」


消えたトーフに疑問を抱きながら叫び声をあげているメンバーの背後から、生意気な声が聞こえてきた。
突然のことだったので、一瞬驚いて固まるメンバーであったがすぐに気を取り戻してそちらを振り返る。
するとそこには、いた。


「こいつはおれたちがいただいたぜ〜!」

「いただいたぜ〜!」


クモマの半分ぐらいの背丈の小さな子供が二人、立っていた。
前者の言葉をそのまま返したように発言した後者の腕の中にはトーフがぶら下がっている。


「ちょっ?!何するんや?!!」


トーフが怒鳴り声を上げる。
そのトーフを見てメンバーも不安の声を漏らす。


「トーフ?!」

「何で!トーフ!」

「おい!トーフをどうする気だよ!!」


サコツが吼えると前者の子供が偉そうに腕を組んで笑い声を上げていた。


「わっはっは。残念だったな〜!こいつはおれらのもんだぜ〜!」

「おれらのもんだ〜!」

「ちょっと!意味分からんって?!!」


生意気な二言にトーフがジタバタ暴れながら叫んだ。
仲間思いのサコツも続ける。


「何でトーフを奪おうとするんだよ!!」

「わっはっは。こいつは珍種の猫だぜ!こいつを売ってたくさん金をもらうんだ!」


それを聞くとトーフは一気に表情を強張らせていた。
確かに傍からみてトーフは猫にも見えて人間にも見える珍種だ。
しかもどこかの種族でもないらしく、本人曰く"トラ"らしい。


「そ、そんな勝手なマネさせないよ!!」

「全くだぜ!トーフは売り物じゃねーんだぜ!」

「ってかそんなもん売っても金にならねえぞ」

「売るなら私を売りなさい」

「何いってんの?!姐御!!」

「キミ達、一体何者だい?!」


クモマの問いに、子供二人は正直に答えてくれた。


「「おれらはこの村一の仲良し兄弟、ボンビ兄弟だ!」」


生意気な声は不細工なハーモニーを生んだ。
先ほどから偉そうに口を開いているボンビ兄弟の一人が言う。


「おれはボンビ兄だ!そしてこっちがボンビ弟だ!」

「おう!あんちゃん!」


自己紹介をされ、トーフを捕らえている弟が大きく首を動かし頷いた。
そして


「それじゃあおれたちは急いでるんだ!お前らと遊んでいるヒマはねえんだぜー。それじゃあ」

「「あばよ〜」」


兄弟はその場から走って逃げ出してしまっていた。トーフを捕らえたまま。


「わああああ?!!!」


トーフの悲鳴が聞こえてくる。


「トーフ〜!!!」

「トーフちゃん!!」

「こうなったら…っ!!」


トーフを売ろうとしている兄弟を追いかけながら、サコツが手段を使った。
ポケットからしゃもじをとりだすとすぐに真っ赤な"気"を溜め込む。


「逃げさせっかよ!!」


そして"気"を撃った。
"気"は激しく渦を巻きながら空気を切っていく。
やがて"気"は兄弟の元まで届き、


「あだ〜!!!」

「あんちゃーん!!」


見事ボンビ兄の足を捕らえた。
足を奪われたボンビ兄はそのまま勢い良く転びあがった。

倒れた兄を見て走りを緩める弟であったが兄に叫ばれそのまま走り続けた。
トーフを抱えたまま。


「弟よー!俺は無事だからさっさと離れるんだ〜!って、げふん!」

「…しまった。一人逃してしまったな」


うつ伏せに倒れているボンビ兄の背中を足で踏みつけ、逃げられないようにとソングが捕らえる。
その場に次々とメンバーも集まってきた。


「くっそ〜!ミスったぜ!トーフに当たったらいけないと思ってあえて兄の方を撃ったのに、そのまま逃げられてしまったぜ」

「トーフ〜!!」

「困ったわね」


ボンビ兄を捕らえたということで走りをやめるメンバーの中、一人だけ緩めないで走り続ける影があった。
チョコだ。


「私はあのガキの後追いかけるよ!皆はその子を頼んだ!」


このなかで一番足の速いチョコは身軽な足取りでボンビ弟とトーフを追いかけていった。
あとをついていこうとするクモマ。しかし止められた。


「あんたはチョコの2分の1の足の長さでしょ。諦めなさい」

「………………………うん…」



"ハナ"を消す前に厄介な相手と出会ってしまったメンバー。
すでに姿が見えなくなってしまったボンビ弟の影を睨む姿がそこにはあった。







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