「…あ、姐御……っ!!!」


フウとヤシロから繰り広げられたブチョウの英雄話に
メンバーは唖然と口を開けっ放しにし、チョコは号泣していた。
チョコの泪は止まらない。


「そんな……姐御…ジュンさんもヒヨリさんも…みんな可哀想……うえぇぇえ…」

「ハンカチをどうぞ」


鼻も垂らしそうな勢いだったのでフウは急いでポケットの中にあったハンカチを渡す。
チョコはズズっと鼻を啜って、何とか泪を堪えている。


「まさかブチョウにそんな過去があったなんて…驚いたね」

「全くやな。あのハスキーな声はジュンっちゅう人のもんやったんやな」

「…なるほど。だからあいつ自分の声を異常に気に入っていたのか」

「……泣ける話じゃねーかー…。ブチョウにもいろいろあったんだなー」


他メンバーは泪は流していないもののいつもと違い深刻な表情になっている。
ヤシロが続ける。


「そのあとブチョウは魔物を倒した後、すぐに王のところへ行ったみたいなのよ。だけどどこを探しても王の姿がなかった」


目線を下にして


「王は消えてしまったの」


「「!?」」


また新たな真実にメンバーは再び驚きの表情を取る。
今度はフウが答える。


「行方不明みたいなんだ。むしろ生死も分からないんだけど」

「王の失踪事件にブチョウは酷くショックを受けていたみたいよ。…ブチョウは王の防衛隊だったから」

「だからブチョウはその後すぐに村を出たんだ」

「王と自分の声を奪った奴を探しに、ね」


交互にフウとヤシロが語る。
メンバーは真実にただ驚くだけだった。

まさかブチョウがこんなにも…。


「…助けてあげたいね」


ポツリとクモマが呟いた。
その場の目線は全てクモマに向けられる。


「ブチョウを助けてあげたい。だって一人であんなに荷物を背負っていたら大変だろう?僕らに出来ることあれば是非手伝ってあげたいな。て」


様子を窺うクモマ。
否定されるのだろうかとヒヤヒヤしていたらしいが、
クモマの優しさには全員が頷き、笑顔を見せていた。


「そうだね!助けてあげよう姐御を!」

「声をとられたっていくらなんでもツライぜ?早く取り戻して綺麗な声を聞いてみたいぜ!」

「人を幸せにするんのもラフメーカーの仕事や。幸せにしてあげて、そいから笑顔を見るんや」


ブチョウを助けようと気合を入れるメンバーの中
ソングが疑問を口にした。


「…王が失踪?何で王は突然消えたりしたんだ?」


確かに、そうだ。
なぜ王は消えたのだ。

それはヤシロが教えてくれた。


「王には素敵な能力があるからなのよ」


「「能力?」」


まさに全員が口をそろえた。


「能力って、ほら、あの手からビームが出たりするやつか?」

「どんな能力だ?!」

「やっぱりここは足が伸びるんだよ」

「それはてめえの願望だろ」

「そうだよ。僕の願望だよ」

「断言した?!」

「能力っちゅうたら、あれや。…どれや?」

「知るか?!」

「能力ってどんな能力なの?」


まともな"能力"を知らないメンバーの発言にフウは笑いを堪えていた。
チョコが身を乗り出して訊ねる。
それにフウが答えようとする。


「あら、歌の時間だわ」


しかし、ヤシロの声が重なり、フウの声は消えてしまった。
不思議そうな表情でこちらを見るメンバーにヤシロは


「鳥族は習慣で歌を歌うのよ。自分の自慢の声を披露するの」


と教えてあげた。
フウが懐かしむ感じで目を細めた。


「月に一度こういう披露宴が行われるんだ。よくブチョウがこのときに輝いていたっけ」

「そうね。ブチョウの歌声は本当に綺麗だったから」

「………だけどジュンさんの声でも一度聞いてみたいよね」

「…あの声で?」

「いいじゃないか。僕はジュンさんの声好きだよ。ジュンさんはいつも歌ってくれなかったから歌声聴いたことないんだよね」

「…そうね。そういえば、ヒヨリも毎月バンバンはじけていたっけ」

「うん。ヒヨリさんのはひどく音はずしていたけどね」

「…懐かしいわね」

「……そうだね」


楽しかったあのころを思い出していたのだろう。
目が潤んでいる二人の姿がそこにあった。

仲間を二人失ったのだ。心もその分傷ついてしまったようだ。

何とも居づらい雰囲気が流れる。それを掻き消すように外からは声が流れてくる。

歌声だ。
鳥族の歌声が今、村中を響いている。

メンバーはその歌を聞きたくて、辛さを抱いて和らげている二人を置いて家から出た。
そしてすぐに感嘆の声を上げていた。


村人全員が本来の鳥の姿になって、歌声を上げていたのだ。
それはとても綺麗な声で。


「すっご〜い…」


うっとりした表情でチョコ


「綺麗…」

「うん。そうだね」


クモマも和やかな表情で頷く。
そして訊ねる。


「一体なんていう歌なんだろうね?」

「聞いたことない歌だな。この村の民謡じゃねえか?」


適当にソングが答えてくれた。
だけれどその可能性は高い。

村人全員が歌っている歌は、"絆"を題にしているようで
"絆"とは一体何か。"絆"の力。"絆"の有難さを伝えている歌詞であった。


「いい歌じゃねーかよ〜!思わず眠くなりそうだぜ!」

「寝るなよ。失礼だからな」

「ぐがー」

「寝たー?!」

「…綺麗な歌と歌詞だね」


立ったまま寝ているサコツを必死に起こしながらクモマが目を細めた。
チョコもサコツに蹴りを入れながら歌を堪能する。


「本当。綺麗…」


チョコの蹴りは見事サコツの背中をとらえた。
しかしそれでも起きないサコツはなかなかのツワモノである。


「…ブチョウは歌わないのかな?」


サコツをそのまま寝かしてクモマがあたりを見渡す。
ブチョウはいないようだ。


「…何や。ワイちょいとブチョウの歌声聞きたかったわ」

「うん。私も〜!姐御の歌声ってきっと綺麗なんだろうね〜!」

「…でもあの声だぞ」

「いいじゃん!私聴きたいなー」


村人の歌声の中、メンバーは心を和ませる。
歌で本当に人の心を癒せるのだなと実感する。



+ + +


「…まだやっているのね。この披露宴は」


"宮殿"の王女の部屋にはブチョウとユエ王女がいた。
ユエ王女は微笑む。


「もちろん。歌は私たちの元気の源だから」

「…そうね」

「ねえ、ブチョウも歌いにいけば?」


ブチョウは首を振る。


「遠慮しておくわ。ジュンの声のイメージを崩したくないもの」

「ええ?何で?ジュンだってブチョウに歌われたら嬉しいに決まっているよ」

「まさか」


苦い表情でブチョウは笑う。
そして話を上手くそらした。


「王女は歌わないのかしら?」


今度は王女が首を振った。


「私、音痴だから。きっと一気に評価が下がっちゃう」

「大丈夫よ。ナメクジに塩をかける勢いで歌えば」

「嫌よ?!シュワシュワ言って溶ける勢いって相当なもんじゃないの!?」

「シュールがたまんないのよ」

「た、確かに…」


そこは乗ったらいけませんよ。王女…。


「…では、私はそろそろ行こうかしら?」

「トイレに?」


王女、あなたの基準が可笑しいですよ。


「残念ね。私はトイレには行かない主義よ」


ダメですよ!そんな主義持ったら!世の中生きていけなくなりますよブチョウ!!

気を取り直してブチョウが言う。


「そろそろ村から出ようかと思うわ」


それにユエ王女がすぐにしがみ付いてきた。


「え?!何で?もう出ちゃうの?」

「仕方ないじゃないの。私は王を探さないといけないのだから」

「…それはそうだけど…」


腕の力が弱くなるユエ王女を軽く振り落として、ブチョウは歩みを進める。
大きな扉に近づいて


「大丈夫よ。また戻ってくるから」


微笑んで。


「王と一緒にね」


そしてブチョウは部屋をあとにした。


一人残されたユエ王女。
ブチョウが消えていった大きな扉を見つめながら


「…待っているよ。私たちはずっと、あなたの帰りを…」



+ + +


村人の歌声が響く。
それはとても清らかで美しい。
人の心を癒してくれる。

そしてここにも癒されている人たちが。


「…綺麗ね〜。いいよね〜歌って…」

「そやな。たまにはこうやって村人から癒されるのもええ気分や」

「…エーリザベーッス…」

「びびった!寝言か…。って夢の中でもこいつは楽園状態なのかよ?!」

「…………はっ!しまった。思わず上の空になっていたよ」


歌声は軽やかに響く。
滑らかに村の上空を飛び交う低音と高音。
それは素敵なハーモニーを生み出し、メンバーらの心を掴んでいく。

と、ここでトーフが大切なことを思い出した。


「…しもうた!"ハナ"のことすっかり忘れてたで!」


メンバーも思い出した。
最近厄介な"ハナ"と出会わないため存在を忘れかけていた。

この様子からこの村の"ハナ"の症状も軽いようだ。


トーフは目を瞑って"笑い"を見極めると、突然走り出した。
暫く歌を聴いていたかったのだが、自分たちの目的は"ハナ"のため、急いで"ハナ"のある方へ向かう。


だんだんと小さくなっていく歌声。
少し残念に思いながら"ハナ"のある方へ向かうメンバー。

綺麗に舗装されている道を辿って、メンバーはとあるところへ行き着いた。


コートのある小屋。


「「…」」


先客もいた。
先客は小屋の前に立っている。


喉に手を当てると、先客はやがて
低い声であったが歌を歌い始めた。



「…ブチョウ…」


低音の歌であったが、それでも綺麗に滑らかに声は通っていた。
ブチョウは事件があったこの小屋に向けて、償いの歌を披露していた。




+ + +


そいで、皆でブチョウの歌声をずっと聴いていたわ。
やはり歌っている本人がうまいっちゅうのもあるんやろか。声が低くても全く不自然じゃあらへんかった。

償いの歌が終わった後、ブチョウは普段どおりに戻ってたわ。
偉そうに仁王立ちをして「綺麗だったでしょ?」と自慢してたわ。そんなブチョウが何とも微笑ましいな。


そんあと、小屋付近に密かに咲いてた"ハナ"を消したんや。
こん村もそんなに被害に遭ってなくて、ホンマえかったわ。
ブチョウも安心した表情しとったわ。


まだまだブチョウには謎があるみたいやな。
果たして何故彼女は声を失ったのか。
何故鳥族の王は失踪したのか。


気になる点がぎょうさんあるけど、今回はここでおしまいのようや。
いつの日か、きっとブチョウの本当の笑顔が見れるまで

ワイらは旅を続ける。








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