ようやく豪華な街にたどり着いたメンバー。
この街中は先ほどまでの場所とは違って明るくて清潔で。
本当に"豪華"であった。

そして街の中を彷徨う。


「…うわぁ…豪華なところだね」

「そうだな。さっきまでのスラム化したようなところとは大違いだ」

「おいおい、見てくれよー!この帽子!何か被っていると恥ずかしくなるぜ!」

「あら、奇遇ね。私も今その帽子被っているところなの」

「うわ!何だその恥ずかしい帽子は!!脱げ!!」

「え…さすがに脱いだらパンツ一丁になっちゃうぜ…」

「誰がズボンを脱げ言ったか!帽子を脱げ!帽子を」

「全く、ケチだな〜」

「本当よね」

「待て!ちょんまげはいいとして、おい!そこ!!帽子の下からまた恥ずかしい帽子が出てきたぞ!」

「て、手品みたいだ…っ!」

「感心するな!」

「この帽子、脱いでも脱いでも出てきま〜す」

「すげーブチョウー!!!」


「…………」


メンバーは街の中に入るといつもこの調子だ。
変なことを繰り返してしまう。

対しボンビ兄はというと


「………」


無言且つ無音で


「………」



あるものに手を伸ばしていた。
そしてそれを懐に仕舞い込む。
その光景をクモマは密かに見ていた。

 …万引き…。

注意はしなかった。
ボンビ兄たちはあぁしないと生活していけないからだ。
それと、自分たちも万引きを平気でしているため注意なんか出来るはずがない。
見逃しておこう。


「ところで、兄貴たちってこの村に何の用なんだ?」


ボンビ兄はなにくわない顔をしてサコツに向けて問いかける。
するとサコツは急いで恥ずかしい帽子を元の場所に戻すとメンバーに向けて叫んだ。


「そうだったぜ!俺たち"ハナ"を探さなくちゃよ!」


それを聞いてメンバーも目的を思い出す。


「だったね。忘れていたよ。早く"ハナ"を探そうか」

「あぁ。すっかり忘れていた。恥ずかしい帽子にツッコミ入れていたせいで」

「恥ずかしい帽子、ゲットしたわ!」

「ゲットするな!早く戻せ!ってか恥ずかしいから帽子を脱いでくれ!」


街中にいる人たちの視線が痛い。
突然現れてそして騒ぎだすメンバーは街の中の人にとっては疑わしいにも程がある存在だった。
なので


「…あなたたち、向こうの人たちですか?」


気品な感じの女性が話しかけてきた。
ちなみに"向こうの人"とはボンビ兄弟がいたあのスラムの人のことを指している様だ。
サコツが首を振る。


「違うぜ!俺たちは勇気溢れる人たちだ」


何か言っちゃったよ!


「…んまあ!!本当ですか?!うわっはー!」


何か興奮気味だよ!
しかし他の村人の声によって女性は正気に戻る。


「こんな醜い格好をしているなんて向こうの人間だぞきっと」

「金はないぞ。さあ向こう行くんだな」

「金のないモノには興味がないのでね」


何とも気の障ることを言う村人だ。
サコツもソングも何か反論をしようとするがタイミングを逃してしまう。
身分の高い村人は身分の低い人間に冷たくものを言った。


「さあ、向こう行け。お前らなんかにあげれるものなんてないぞ」

「向こう行け」

「向こう行け」


クモマも我慢できなくなった。
しかし、ボンビ兄は堪えている。こぶしを強く握って怒りを堪えている。
だからクモマも堪えた。

そのときであった。


「このクソガキめ、なにくわぬ顔してまだノコノコとやってきたのか」

「!!」


ボンビ兄は宙を浮いていた。
胸倉を捕まれているのだ。
ジタバタ暴れるボンビ兄であったが、その拍子に落ちてしまった。
あれが。


「…やはりか。盗んでいるだろうと思った」

「また盗んだのか。このクソガキ」

「あ!!」


ボンビ兄の懐に仕舞われていた先ほど盗んだ品だった。
それが村人の前に披露されてしまった。

クモマは思わず声を上げてしまい急いで口を覆う。
しかしそれを村人は逃さなかった。


「……そこのタヌキみたいな男。こいつが盗んでいたこと知っていたのか?」

「……っ!!」


た、タヌキ?


「お前ら、このガキと仲良くしているところからしてスラム仲間か?」

「物を盗もうとして侵入してきたのか!」

「追い出せ!追い出せ!」

「追い出せ追い出せ追い出せ」


身分の高い村人の呪いのコールが飛び交う。


「や、ヤベ!」

「ここは逃げるか」

「全く、もう」

「ま、また?この前もこんな展開になってたじゃないか!」


クモマがトークの村での展開を思い出している間にメンバーは走りに集中していた。
サコツはボンビ兄を抱きかかえて勢い良く走り出す。
その後に続いてソング、少し遅れてクモマと続く。
ブチョウは白ハトになって空を飛んでいる。

そんなメンバーを身分の高い者たちは武器を持って追いかけてくる。
それは刀だったり鉄砲だったり。


「げ!この前よりタチが悪ぃじゃねーかよ!」

「銃撃ってきたぞ!危ねえ!」

「わーブチョウが銃に撃たれたっと思ったけど見事身代わりの術で避けてるよ!!」


メンバーは走る。
とにかくこの豪華な街から抜け出すために。
村人も必死になって武器を手にする。
しかしここの村人たちはトークの村の人たちとは違い鍛えられた者たちではなかった。
すぐに疲れが出たらしい。


「な〜っはっはっは!俺たちに敵う奴なんていないぜ、な〜っはっはっは!」

「調子に乗るなチョンマゲ」

「わーブチョウが刀に刺さったっと思ったけど見事分身の術で避けてるよ!!」


徐々に村人から離れていく。


「すげ!みんな足速いんだな!速い速い!一体何でそんなに鍛えられてるんだ?」


ボンビ兄がメンバーの足の速さに感動して目を見開いて楽しむ。
メンバーはボンビ兄の問いに答えることが出来なかった。

まさか、自分たちも食い逃げ、万引きで常日頃から走っているということなんて言えまい。

やがて豪華な街と貧相な道の境界線が見えてきた。


「あそこを越えたら大丈夫だね」


クモマが安堵を付いた、刹那の出来事。


『逃がさない………っ!』

『逃がさない………っ!!』


目の前に大きな二つの影が被さった。



+ + +


「…"ハナ"があるって本当なの?」


突然立ち上がってそわそわしだしたトーフにチョコが訊く。
ボンビ弟は何のことかサッパリなので黙っている。
チョコの視線を熱く浴びたトーフはやがて答えた。


「あぁ。きっとここにあるわぁ」

「…本当なの?」

「"笑い"がこの森ん中を中心にどんどんとなくなっていっとる」

「…!」

「ここや。この森ん中に"ハナ"があるで」


断定しきった。
森の奥を睨むトーフに対しチョコは怯えていた。
何故ならこの村の"ハナ"は厄介らしいと言われたからだ。


「そっか…それじゃあ私たち2人で消さなくちゃいけないね」

「そうやな。他ん皆がここにおらんからワイらだけで何とか探すしかないようや」

「…皆無事かな…」

「無事やろ。ブチョウもおるんやし」

「そ、そうだね!姐御がいればきっと大丈夫だよね!」

「そや」

「よ、よぉし!私も怯えっぱなしじゃダメだわ。行動に移すよ!」

「その意気やチョコ!」


勝手に話を進め、盛り上がるトーフとチョコ。
ボンビ弟はやはり話の内容が分からず黙り込んでいるが、チョコに手を差し伸べられ、ようやく意識が戻った。


「さあ、一緒に行こうか」

「…へ?」

「ここに一人で残りたいわけ?」


更に手を差し伸べる。
ボンビ弟は慌てて首を振る。


「残りたくねーよ!おれだって死にたくねーもん」

「ほんなら一緒に"ハナ"を探そうやないか。そして何とか森からも出るで」


トーフに促されチョコの手を掴むボンビ弟。
少し照れくさそうにしているボンビ弟をチョコは微笑ましく眺めて。


「それじゃあ"ハナ"を消そうか。こんなところにいるほうが不気味だし!」

「そうやねん。さっさと"ハナ"を探してパパっと"ハナ"を消してピュっと森から出よう」

「…お、おう!」


上手く状況がつかめていないボンビ弟はこの2人のテンションについていけなかった。
おどおどしているボンビ弟の様子に気づきトーフも小さい手を差し伸べる。


「そんなに怯えなくても大丈夫やねん。ワイらラフメーカーがついとるさかい、安心してくれや」


トーフはボンビ弟が怯えているととらえていたようだ。別に怯えていたわけでもないのに。
しかしトーフの心強い言葉はボンビ弟にとっては温かい言葉になってくれた。


「……みんな、優しいんだな…」


ボンビ弟の目は潤んでいた。


「…おれ、こんなに優しくされたのは…ホント…久しぶりだ…」


その目からは真珠並みの大きな雫が零れる。


「……おれら…お前を売ろうとしたのに…何でそんなに優しくしてくるんだよ…おれらは薄汚いドロボーなんだぜ…それなのに…何で……?」


次々と流れ出る泪を拭き取るためチョコと繋いでいた手を離して、泪を拭う。
それでも泪はおさまらない。やはり出てくるのだ。
そんなボンビ弟を見てトーフは微笑んだ。


「人は皆平等やねん。せやからワイは皆平等に優しく接しとる。…あと、あんたは薄汚いドロボーとちゃう」

「…?」

「あんたはボンビ兄弟。普通の少年や」

「……っ!」


トーフの優しい言葉に泪泪だった。
ボンビ弟は次から次へと泪をこぼし、それを強引に拭き取る。

そして泪でぬれた手だけれども、差し伸べられたトーフの手とチョコの手に掴まって
3人は不気味な森の奥に進んでいく。

泪は全て拭き取り、目も暫くして潤いをなくした。
代わりに目には喜び一杯の色が込められていた。

嬉しかった。
こうやって優しくされたのが。


そのため、言うつもりではなかった本当の真実を、ボンビ弟は2人に言ったのだ。


「…実はな……」



+ + +


目の前が影に覆われて、メンバーは走るのを止めた。
道を塞いでいる影はこちらを酷い形相で睨んでいる。
大きな口からはヨダレも出ていた。
目も血走っている。
耳も尖って、肌の色も緑色をしている。

これは…


「…魔物?!!」

「おいおいおい〜!こういうときに出てくるか?!普通ぅ〜!」

「くそ、ふざけてるな」

「久々の登場じゃないの」


魔物の久々の登場にメンバーも思わず引きつり笑いを溢していた。
魔物はヨダレを垂らしながらこちらを見ている。


「……おい、これってまさか戦うハメにはならねえよなぁ?」

「さあな、何故こいつらが俺らを止めたのか気になるところだけどな」


そう言いながら手を腰のポシェットに持っていくソング。ハサミを取り出そうとしているようだ。
睨み合っている中、やがて背後から大勢の影が見えてきた。
村人だ。手にはまだ武器を持っている様。


「追い詰めたぞ!」

『逃がさない…』


背後から村人の声と前方から魔物の声が聞こえてくる。
これは一体どういうことだ。


「…僕たちを追い詰めて…どうする気なんだい?」

「全くだぜ!お前ら俺らを追い出すだけじゃなかったのかよ!」

「説明してもらおうか」


ハサミをすぐに取り出せるような態勢のままソングが問う。
背後から村人の声が聞こえてきた。


「スラムの人間にこうも毎日のように盗まれていたら困るんだよ。だからせっかくのいい機会だ。ここで懲らしめておこうと思ってな」

「この魔物は一体なんなんだよ!」


サコツが目の前の魔物を睨んだ表情のまま叫ぶ。
魔物はずっとこちらを睨んでヨダレを垂らしている。
ボンビ兄はサコツの腕の中で震えているのだろうか、振動が伝わってくる。


「この魔物も我らの仲間だ」


村人はそれだけ告げると、それが合図となり突然銃を撃ってきた。
幸いにも銃弾は外れて空の彼方へと飛んで行ったのだが。


「た、戦うのかよ〜!!」


銃が散乱する中
戦闘が嫌いサコツの悲鳴が聞こえてきた。






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