「うーわーーーー!!!!」


拳銃の音が無数に飛び交っているその場は、戦場になってしまっていた。
戦いが苦手なサコツはボンビ兄を抱えている分だけあって今回は逃げてばかりだ。
代わりに残りのメンバーが戦いを止めにはいっている。


「お願いだから撃つのはやめて!!」


クモマが叫ぶ。
しかし、


「邪魔だ!」


ソングがクモマを退けて巨大ハサミを構えて戦闘モードに突っ走ってしまった。
その後を追うようにブチョウもハリセンで戦いに行く。


「ええ!ちょっとちょっと!」


慌てて戦いを止めようとするクモマであるが軽くあしらわれてしまう。
無念なことに戦争は始まってしまった。


「あぁ〜もう!!」


口を尖らせるクモマ。
そんなクモマは標的の的だった。
村人が銃でクモマを撃つ。腹を撃たれてしまったが彼は平気だった。


「ごえっ」


一応口からは血が出る。
腹からも血が飛び散るが、クモマは何事もなかったかのようにまた村人に対して叫ぶのだ。


「お願いだから戦いは…」

「げ!こいつ死なないのかよ!」

「腹撃たれたんだぞ!もうちょっと苦しめよ!」


さすがにその様子には村人は驚いているようだった。
怖さを消したいために村人はまた銃を撃つ。
しかし音は空振り、銃弾は空の彼方へ。


「だから、撃たないで…」

「く、来るな化け物!」

「ば…化け物って…ひどいなぁ…」


村人の言葉に深く傷つくクモマ。
クモマの場合は外部を痛めるより内部を痛める方がダメージがあるらしい。

クモマが村人を必死こいて説得している中、ソングとブチョウは武器を持って村人より魔物を相手にしていた。


「何なんだ。この魔物は」

「全く、皆は戦い嫌いなのかしら」

「いつも俺らが戦うな」

「たぬ〜は戦闘に使えるんだから是非こっちを加勢してほしいわね」

「全くだな」

『戦っている最中に仲良く会話してんじゃねーよ!』


寄り添って会話をしていたソングとブチョウの間に魔物の鉄拳が下りてきた。
見事避けきってブチョウが魔物の腰にハリセンを打ちながら


「誰もこんな凡と仲良く会話してないわよ」

「てめえ!!ひでえこといったな!」


ブチョウのハリセンを腰に喰らった魔物の1匹は鈍い音を立てて倒れこんだ。
続いてもう1匹にハリセンを喰らわせようとブチョウは動く。
しかしそれは妨げられてしまった。


『………ガルルルルル…』

「…あんたはおとなしくお寝んねでもしてなさい」


先ほど腰にハリセンを喰らった魔物が倒れながらもブチョウの足を捕らえて動きを封じていた。
ブチョウは冷たい視線を魔物に送り目で殺す。魔物も同じく血走った目で睨みつけている。
睨みあっている間に攻撃をしようと動き出すソングであるが、村人の拳銃が目の前を過ぎり中断されてしまった。


「クソ、てめえ!」


悪態ついてソングは魔物はブチョウに任せ村人に襲い掛かっていた。

こんな様子の戦場をサコツが走り回る。銃撃を見事全て避けて走る。
サコツの腕の中にはボンビ兄だ。


「何で撃ってくんだよ!!」


サコツの顔からは汗が滝のように流れていた。
もうこんな戦いが嫌で仕方ないのだろう。
しかし村人の戦いの申し込みは収まらない。
ずっとサコツの狙って銃弾が飛んでくる。


「だから戦いは苦手だって言ってるだろ!俺より頭悪いのかこいつらはー!そんなの許せねえ!」


ぐちぐち言いながらサコツは走り続ける。
銃弾も飛んでくる。ボンビ兄は耳を防いで音から逃げていた。
やがて周りを一周し終えたサコツはまたスタートラインに戻ってきていた。
その場所にいるのはクモマ。


「だから、お願いだからもう撃たないで…さすがに痛いから…」

「あったりまえだろ!お前撃たれてるんだから!」


何だかクモマは体中が真っ赤になっている。相当撃たれたのだろう。
しかしそれでも戦わずに止めに入ろうとしているのは、クモマの優しさが込められている。
彼はサコツと同じく戦いを好まないのだ。


「ねえ…何で僕たちとそんなに戦いたがるんだい?僕たちは戦いを望んでいないんだよ」


さすがに体中が痛むのだろう、クモマが腹を押さえながら流血を抑え、訊ねる。
拳銃に銃弾を装填して村人が答える。


「街を守るためだ」

「…街…?街だけを守りたいのかい?」

「そうだ!我らのこの街を守りたい」


クモマに向けて銃を構える村人の数は知らぬ間に増していた。
反論しようとしているクモマに腹を立てたようだ。
しかしクモマはたくさんの銃を向けられても怯えなかった。
むしろ、全員を睨んでいた。

口から無数の血筋を流したクモマはやがてこう言い出した。
邪悪な声で。


「笑えないね」


邪魔な血筋を親指で拭い、血を他所に飛ばす。


「そんなことのために今あなたたちは戦っているのか…」

「そうだ。何か文句はあるか」

「…ありまくりだね」


発言のついでに銃弾をまた腹にぶち込まれ、血を口から吐き出し、先ほど拭ったのが台無しになってしまう。
クモマは口に溜まった血唾をその場に吐き、地面を赤く染めさせる。

反論しようとするクモマに村人はまた怒りを覚えたが、クモマに逆に睨まれ顔が強張ってしまった。
所々が赤くなっているクモマは言葉を続けた。


「『街を守る』って、この場所のことしか示していないじゃないか。あなたたちは街の外にいる人間…同じ村の人間に銃を向けるのかい?」

「…」

「何で同じ村の人に銃を向けようとする?どうして同じ村の人をこうやって差別する?同じ村の人間同士なのに、何で?」


クモマの問いに村人は嘲笑って。


「差別?そりゃあ差別はする。何故なら…身分が違うからだ」


少し間を空けて村人はそう断言した。
しかしすぐにクモマの鉄拳が飛んできて村人は彼方へ飛ばされてしまった。


「…………身分が違うという理由だけで…?」


クモマの目つきが鋭くなった。先ほど勢いよく殴ってしまったため振動が腹に響き、血が溢れ出てるのだが。
しかし耐えた。クモマは耐えた。

その光景をサコツは遠くから眺めていた。
ソングも村人との戦いをやめて無言になる。

村人も仲間が勢いよくぶっ飛ばされ唖然としていた。
銃を構えることも忘れている。

血が出るのを抑えて代わりに口から酷く息が出入りするがクモマは続けた。


「たったそれだけの理由であなたたちは同じ村の人間を嫌った……馬鹿げている…。何で村人同士協力しようとしないんだ……」


腹に置いていた手に優しい光が包み込んだ。
それはクモマの回復魔法の光である。
ぽぅっと光を浴びてクモマの腹の傷は少しずつ回復していく。
あれ以上言うのがもう辛かったのだろう。
代わりに今度はソングが出てきた。


「こんな人間がいるから世の中ダメになるんだ。きっとこの村も時期ダメになるだろうな」

「…!」

「こうやって魔物が簡単に侵入してきている。普通なら魔物を追い出そうと村人一団となって村を守ろうとするのに」

「残念だったな。その魔物は我らの仲間だ」


ソングが言っている途中とも関わらず村人は口をはさんできた。
しかもそれは驚きの発言でありソングはこれ以上口が出なかった。
今度はサコツが村人に近づきながら訊ねた。


「魔物がお前らの仲間ってどういうことだよ?」

「ふははは!教えてやろう。それはな…」


村人の口から真実を出るのを待っている中、突然ボンビ兄がサコツの腕から降り地面に着地した。
サコツが、危ないぞ、と注意しようとしたが遅かった。
ボンビ兄はブチョウが戦っている魔物の方へ向かって走っていたのだ。

サコツがソングがクモマが止めようとする。
魔物と戦っているブチョウも突然目の前にボンビ兄が現れ、危険だと止めようとする。
しかしすべて無視された。

そして驚くべき光景を目にした。


ボンビ兄は魔物を庇って両手を広げていたのだ。
そしてブチョウに向けてボンビ兄が叫んだのだ。


「止めてくれ!!もう止めてやってくれ!!」


遠くから村人が笑っている。
何故ボンビ兄が魔物を庇っているのか理由を知っている村人にはその光景は面白くて仕方なかった。

ボンビ兄は叫びを続けた。


「この魔物は、おれの父ちゃんと母ちゃんなんだ!!!」



+ + +


「はあ?!!ボンビ兄弟の両親が」

「魔物になったぁ??!!」


薄気味悪い森の中の三つの影のうち二つの影が大きく揺れあがった。
両者の叫びに真ん中の影が小さく頷いている。

突然の真実にチョコが混乱しながらも訊ねた。


「それどういうこと?何で両親が魔物になっちゃったの?」

「それがおれらにもわからないんだ。突然父ちゃんと母ちゃんの様子が可笑しくなったんだ。普段は優しかったのに…」

「…原因は何か分かるか?」


今度はトーフに問われボンビ弟は申し訳なく首を振る。


「わからない…あ、」

「何か思い出したんか?」


短く声を上げるボンビ弟にトーフが素早く訊ねる。
ボンビ弟は今度は首を縦に振った。


「うん。おれんち実は花屋なんだ。それである日母ちゃんが新しい花を入荷したってウキウキしながら店に置いたんだ」

「花?」

「うん。それ以降からだよ。いつも店番をしている父ちゃんと母ちゃんがおかしくなったのは」


聞きなれた単語にトーフとチョコが顔を見合わせた。

花…"ハナ"……


「それでだ。様子がおかしくなった父ちゃんたちにあんちゃんがどうしたんだって聞いたんだ。そしたら突然変異しちゃったんだ。父ちゃんと…母ちゃんが………魔物に……」

「「!?」」

「おれら怖くなって逃げたんだ。……あ、そのときにあんちゃんがあの花を抱えていたっけ…」

「ほ、ホンマか?」

「うん。あんちゃん薄々感じてたらしいんだ。あのとき入荷した花が怪しいって。だから逃げるついでに一緒に盗んできたんだ」

「…それで?」

「おれたちは逃げ切った。だけどそのときから変わってしまった。街の様子が…」


真実を語るボンビ弟の目にはまた涙が浮かび上がっていたが流さないよう堪えていた。
そしてまた語る。


「おれらが街に入ると酷い顔で睨んでくるんだ。街の人たちが。最初は何でかなって思ったんだけど。言われてわかったよ。あのとき街の外にいた人間は全て"身分の低いもの"として扱われているんだ、て。…それを聞いてショックを受けたよ。街の中には父ちゃんも母ちゃんもいるのに…。きっとあのとき街の外にいた人たちにも家族がいただろうに、今ではまるで別人のように扱われてしまうんだ……。何でだろうな?何でこうなっちゃったんだろうな…?」


結局泪を流さずにボンビ弟は話を終えた。
あまりにも酷すぎる真実に無言になる2人。
まさかこんなにも酷い話だったとは。

ようやくしてトーフが口を開いた。


「その花、その後どないした?」


おそらく"ハナ"だろう花の居場所を聞く。
するとボンビ弟はすんなり答えてくれた。


「あのとき無我夢中で走っていたから思わずこの森の中に入っちゃったんだ。だけどあのときはあんちゃんが必死に出口を見つけてくれて出られたんだけど。それで花はそこに置いたよ。きっとこの花が危険なものだろうと察知したあんちゃんが森の出口に捨てたんだ」

「森の出口…」


相槌を打つチョコに頷くボンビ弟。
トーフは"ハナ"の在り処を聞いてニヤリと笑みをこぼす。


「そか、いろいろ教えてくれてホンマおおきに。これでこの村を救うことができるわ」

「え?」

「そうね!"ハナ"の場所がこの森の出口だったら"ハナ"を消したついでに森からも出られる!バッチリじゃないの!」

「全くや。あんたのあんちゃんもええ人やないか」


何だか突然褒められ照れくさくなったボンビ弟は鼻の頭を掻いて照れ隠しをした。
この村の"ハナ"は人を魔物化させるということを知りトーフとチョコは目の色を変えると、"ハナ"を消すために出口へと一歩一歩と向かっていった。





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