何だか、嫌な予感がしたんだ…。
12.ウーマンの村
それは村に訪れた直後の出来事だ。
メンバーらはお腹が空いたので食い逃げをしようと、たまたま通りかかったこの村へとやってきていた。
しかし、村の門前には看板が邪魔する形で立っていた。
『男性の方、ご入場お断り』
「「……」」
看板に書いてあるその字を見て、その場は沈黙になった。
やがてクモマが口を開いた。
「…どういうこと?これは…?」
前にもあった、この光景。
そう、それは賭け事が盛んなギャンブルの村に訪れたときにあった。
『貧相な方、ご入場お断り』と書いてあり、メンバーは絶句していたのだ。
今回も似たようなケース。
しかし、これは、どう解決をすればいいのだろうか。
「…失礼な村だな。ここは」
ソングが素っ気無く言葉を吐く。
前回、愛しい彼女と会えた彼は、最近元気が良い。
今までずっと溜め込んでいた言葉を一気に吐いたからだろう。清々しい表情になっている。
…無愛想なところはやはり変わってはいないのだが。
「なあなあ。これ何て書いてんだ?」
そして今回もやはりサコツは字が読めなかったらしい。身を乗り出して訊いてきた。
「お前、やっぱり読めねぇのかよ?!」
「あぁ。俺はバカなのが自慢なのだ〜。な〜っはっはっは〜」
「やめろ。哀しい自慢はやめてくれ」
サコツのバカさには頭を悩ます。
そして
「これは『俺の出ベソ、押すぞ爆発するんだぜ☆』って書いてあるのよ」
「書いてねえだろが?!ってかどんなヘソだよ?!!」
ブチョウの可笑しさには頭を抱えてしまう。
頭を抱えたまま、今回もまたチョコが看板を読み上げた。
「『男性の方、ご入場お断り』って書いてるのよ〜」
「………」
それを聞いて、サコツは黙り込んでしまった。
珍しく何かを考えているようだ。
やがて口を開いた。
「これってよ〜。チョコとブチョウ以外この村に入れないってことじゃねーか?」
「そうなんだよ!困ったよね!」
サコツの問いにクモマがすぐさま口を尖らせた。
そのまま勢いで突っ走る。
「どういう意味なのこれは!何で男は村に入ったらいけないの?!いいじゃん入ったって!」
「しゃあないやんか。こん村の風潮なんやからさ」
突っ走るクモマをトーフが何とか抑えた。
しかし今日のクモマは落ち着きがない。トーフに止められても更に暴走を続けた。
「そんなの可笑しいよ!何で男はダメなんだよ!そしたらこの村には女の人しかいないってことなの?」
「いや、ワイに叫ばれても困るんやけど…」
「ほんじゃーこの村諦めるか?」
話に割り込むのが得意なサコツは今回もまた二人の間に割り込み、話を進ませる。
それにトーフが首を振って否定した。
「それは困るわ。非常に困るで」
トーフの目は真剣だ。
ま、まさか…
「…この村もやっぱり"ハナ"にやられているってことなの?」
「そや」
チョコの質問に苦い表情でトーフが応える。
トーフの顔色を見て、全員が表情を顰め、恐る恐る訊きだしてみた。
「な、何でそんな苦しそうな表情してるんだい?トーフ…」
「まさかよ〜、この村の"ハナ"は強烈なのか?」
「ええ〜ヤダよ〜!"ハナ"を倒すの厄介なんだもん〜」
「…でも、俺らはこの村には入れねぇだろ?」
「あんたは大丈夫よ。"凡"だから」
「どういう意味だよ!"凡"は特別扱いなのかよ?!おい!!」
全員に問われ、しかしトーフの表情は変わらない。
俯いて、暫く黙っているようだ。
流石に心配な色を見せるメンバー。
「ど、どうしちゃったのよ?トーフちゃん」
「やっぱりここの"ハナ"はでっけーのか?!すげーぜ!」
「何が凄いんだよ?!それはいけねぇことだろが!」
「あんた、最近元気いいわねー。胃潰瘍でも治ったのかしら?」
「誰が胃潰瘍だ!」
「ま〜彼女とあ〜んなラブラブしちゃあ元気出るぜ〜?」
「ホントホント。でもよかったよね〜。私感激して泪出まくったもん〜」
「………」
そっぽを向いてソングは話から外れた。どうも照れ隠しをしているようだ。
密かに顔を赤くしていることはソングのすぐ隣りにいたクモマにだけ分かった。
話が逸れてしまったのでクモマは急いで話を戻す。
「それで、どうしたんだい?トーフ」
「……が……った…わ…」
「え?」
俯いているためトーフの声はよく響かなかった。
全員は耳を傾ける。
再度問い掛けてきたので、トーフは下に向けていた顔を上げ、同じ台詞を言ってあげた。
「…腹が減ったわ…」
「「……」」
「とにかく、意地でもこん村には入ってもらうさかい…覚悟しといてほしいわ…」
先ほどのトーフの表情の意味が今になってよくわかった。
トーフの腹は限界を越えてしまったらしい。
そこまで言うとトーフはまた俯き、苦しそうに腹を押さえている。
身を縮めているトーフを見て、慌ててチョコが叫んだ。
「い、急いで村に入るよ〜!トーフちゃんが倒れちゃう!」
「やべーぜやべーぜ!トーフ!しっかりするんだ!」
「で、でも一体どうすればいいの?ここ女性しか入れない村なんだよ!」
「入る術がないな」
「いや、あんたは大丈夫よ。"凡"なんだから」
「何で"凡"は特別扱いされてるんだよ?!ってか俺は"凡"じゃねーよ!」
「自覚ゼロか…ラブ男め」
「このチョンマゲ!!誰がラブ男だ!」
「も〜!そこ喧嘩はあとにしてよ!今はとにかくどうやってこの村に入るかを…」
そこで、ピンと何かが引っ掛かった。
以前はどうやって村に入ったかを思い出す。
…そうだ…あの時は…
事を思い出し、クモマは急いでチョコに振り向いた。
そして嫌な笑顔を見てしまった。
「……入る方法はあるよ。みんな」
チョコの笑みが不気味に広がる。
彼女の表情と言葉に、男性陣は一気に冷汗を額に浮かべた。
ま、まさか……
「私の魔法を使えば…」
そして満面な笑みを作って
「皆も女性に大変身☆」
「「……………っ!!!」」
男性陣は硬直した。
その隙にチョコは、棍棒を取り出して、魔方陣を描き始める。
それに気づいた男性陣は自分らを囲む魔法陣から逃げようと騒ぎ立てるが、それをブチョウに止められた。
「動いたら、あんたらに恥ずかしいアレ、出してもらうわよ」
再び硬直した。
アレって何だ?アレって…。しかも恥ずかしいモノなんだ…。
やがて、魔法陣を描き終えたチョコは、中にいる男性陣に、こう告げた。
「女の子のマナーとか教えてあげるからね☆」
「「…」」
逃げたかった。
しかし、逃げられなかった。
ブチョウが目の前に立っていたから。
そして前触れもなくチョコは棍棒を魔法陣の上に突き立て、魔法陣を発動させた。
…………っ
魔法陣の上に乗っているクモマ、トーフ、サコツ、ソング、そしてブチョウは、
チョコの魔法に掛かってしまったのだった。
+ + +
ここは、女性だけが入場を許される村。
そのため村の中はやはり女の人ばかり。
ほぼ全員の人が派手な服を着て、上品に村を歩いている。
その中に混ざる謎の団体…
「みんな〜!ちゃんと内股で歩いてよ、内股で!」
桜色の髪のチョコが元気良く声を上げる。
それに応答するのは
「…………恥ずかしいよ……」
黒髪のロングヘアーのクモマであった。ワンピースを着て、女の子らしくなっている。
スカートのおかげで彼の短足も然程目立たない。よかったね☆
それに連なって別な声が飛んだ。
「もう許してくれ…。こんなの恥だ、恥…」
銀髪のショートカットのソングだ。と言ってもこれは元々の髪の長さなのだが。
スポーティな服装をしていて、彼の足の長さはここで有効に活用されている。
「…と、とにかく…ワイは…メシを……」
苦し紛れに言葉を発しているのは、着物とオカッパが良く似合うトーフ。
日本人形みたいに、可愛らしい姿になっている。
そして、それとは裏腹に…
「よっしゃー!メシ食いにいっくぜー!」
拳を空に向けて、赤髪の縦ロールが素晴らしいサコツが叫んでいた。彼の場合だけは酷い厚化粧に派手なドレス。
何とも酷く…醜い姿であった。
「こらこら、サコっちゃん。そんな風に叫んだらはしたないよ〜!"メシ"じゃなくて"食事"とかって言わなくちゃ〜!」
「へ〜!マジでかよ!何かいろいろと面倒くせぇなぁ〜!」
「ダメだよ!そんな口調じゃ!語尾に"よ"とか"わ"とか"かしら"ってつける勢いじゃなきゃ」
「お〜よ!了解わかしら!!」
「……」
「…くそ……何でこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ…」
「こら!ソングちゃん文句言わないの!」
「そ、ソングちゃんっててめぇ〜!!」
「ほら、声も高く張って!ソングちゃんのは声が低いよ!」
「………できねぇって…」
チョコは先ほどからテンションが高い。いや、いつものことなのだが、今日はいつもの倍に高い。
きっと、全員の見慣れない容姿を楽しんでいるのだろう。
対し、魔法に掛かった男性陣はテンションが低い。いや、サコツだけは何故か高いのだが。
「ったく、みんなダメねー。これじゃあ紐の伸びた赤白帽子みたいよ」
動きのぎこちない男性陣にブチョウが仁王立ちをして言っていた。
どんな例えだとツッコミを入れようとした男性陣であったが、ブチョウの容姿に真っ先につっこんでしまったのだ。
「「ま〜てまてまてまて!!」」
「どうしたのよ?みんな」
「何でブチョウまでもが魔法に掛かってるの?!」
そしてクモマはブチョウを指差した。
ブチョウはムッと眉を寄せる。
「なによ〜。いいじゃないの。女の子らしくなって」
そんなブチョウの容姿は、アフロ頭に黒メガネ。ちなみにキラキラのスーツ姿であった。
「「どこらへんが女の子らしいんだ!!」」
場を気にせず男性陣はツッコミを入れた。
辺りの村人もその声には驚いたらしく、こちらを振り向く。
それに気づいたクモマは、場の雰囲気を考えるととにかくこの場から離れることを選択した。
「まずはメシ…じゃなくて、食事を済ませなくちゃね…」
言われて全員が目的を思い出した。
そういえば、自分らは"食事"を済ませにきたのだ。
そうでなければ、トーフが餓死するぞっ。
「い、急ごうぜ!」
サコツがフラフラになっているトーフを抱き上げて、先頭を切って走り出す。
それに他のメンバーも後を追う。
そのように逃げ出したため、村人の視線から無事逃れることが出来た。
チョコが叫んだ。
「どこにいくの?」
「とにかく適当な場所に行こうか」
「適当ってアバウトだな」
「人生、アバウトなのが気持ちいいのよ」
「気持ちいいって何だよ!」
「…あぁ……食べ物…の匂いが…するで」
先頭を走るサコツにトーフが苦し紛れにそう言った。
食べ物の匂いって、さすがトーフ。匂いまで察知することができるとは。
トーフの助言にサコツは頷いた。
「よっしゃーん!みんな〜近くに食べ物屋あるってよ〜ん!ほんじゃ行くだべさ〜!」
彼の精一杯の女言葉であった。
気の抜ける口調であったが、ツッコミを入れる気までもが失せたので、普通に応えた。
「近くってどこにあるんだ?」
「さ〜?でもトーフちゃんがそう言ってるんだから間違えなく近くにあるんだろうけどね〜」
「ふむ……確かにサルが焦げる匂いはするわね」
「マジでかよ?!ってサルが焦げているのか?!どんな料理作ってるんだよ?!!」
全員で討論をしているそのとき、クモマの目の端にはレストランらしき建物が映ったらしい。
クモマは目を輝かせ、全員に報告した。
「あ、あったよ!奥の方に!そのまま真っ直ぐ走ればいいよ!」
「了解だわさ〜!ほんじゃ真っ直ぐ前へ〜!!」
そしてサコツは思い切り左に突っ走った。
「ちがーう!前だよ前!左に曲がってどうするんだよ!!!」
バカしかいいようがないサコツにクモマは耐え切れず周りを気にせずツッコミをいれたのだった。
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