光に包まれたメロディに、その場にいる全員は目を見開き口を半開きにして見ていた。
ソングの泪のことを知らないメンバーは、急いでソングの元へ駆け、一体どうしたのだと訊ねてみる。
しかしソングは質問には答えず光を見つめていた。


「……」


暫しの間、沈黙になる。
目の前の大きな光を見ながら、何が起こったのか、と目を見開くばかり。
まだ光は明るく放たれている。

沈黙の中、クモマが口を開いた。


「…綺麗な光だ…」


思ってもいなかった発言に全員が耳を傾けた。
クモマは光を見ながら続ける。


「この光はさ、僕らの"笑いの雫"のような輝きをしているよね」

「…!」

「やっぱり"雫"というものは美しい清い水なんだろう…ね?ソング」


クモマの言葉を聞いて、全員が一斉にソングを見た。
ソングは、また一筋の泪を流していた。
そこでようやく分かった。
メロディは、ソングの泪の雫によって光っているのだと。


「……知らねぇよ…」


クモマの問いにソングは素っ気無く応えた。
しかし、泪は止まらない。
一つ一つ、丁寧に泪は滴り落ちていく。


「ワイ実は前にこんな話を聞いたことがあるんや」


突然トーフが語りだした。


「泪の癒しの効果…ちゅうのなんやけど」

「…癒し?」

「そや」


軽く頷いてトーフは泪について語り始めた。


「泪ちゅうんはいろんな使い方があるんや。嬉しいときに流す泪や、哀しいときに流す泪。痛いときに流す泪…と、まぁいろいろあるやないか」


実際に泪を流しているチョコが頷く。


「不意に泪ちゅうんは出てくるんやけど、実は別な使い方があるんや」


そして、チラリとソングを見た。


「それとは、病気や怪我を治すという使い方や」

「…」

「みんなは知っとるか。不死鳥と呼ばれる"フェニックス"のことを」

「フェニックス…っ」


それにブチョウが反応した。
いつもの真顔で光を見ながらブチョウは言った。


「知ってるわ。フェニックスの血を飲むと不老不死になるんでしょ?」

「あ、それ知ってるよ。神話とかでよく言うよね」

「そや。フェニックスにはいろんな使い道があるんや。ま有名なのは、血を飲んだら不老不死になるっちゅうやつやな」

「それで、泪とはどう関係があるんだよ?」


口を尖らす勢いでサコツが身を乗り出してくる。
早く答えを言えよと言わんばかりの顔のサコツにトーフは小さく微笑み、応えた。


「ほな教えたるわ。実はフェニックスの泪にも言い伝えがあってな…」

「フェニックスの泪には、癒しの効果がある」


ブチョウが顎に手を当てて、思い出したかのように言った。
言葉を取られたがトーフは気にせずブチョウに頷く。


「そや。フェニックスの泪には病気や怪我の治療ができる癒しの力があるんや」

「…」

「…実は人間の泪にもそれの力が入っとる」


思いもよらなかった言葉に全員が目を丸くした。
トーフは微笑みながら、ソングを、そして光を眺め、言った。


「泪の癒し治療。それによってボロボロになった心は一瞬にして癒され、治る。せやから泪っちゅうんは人間にとっては最も大切な感情なんやわ」

「…そうなんだ…」


知らなかったと表情で訴えクモマが呟く。
連なって泪泪のチョコも呟いた。


「…そしたら私の泪に当たれば癒されまくりじゃん〜」


そして冗談っぽく笑った。
ちなみにチョコがやられそうになっていたメロディの異臭は今はなくなっていた。
全てはあの光が吸い取ってくれたようだ。

光は神々しく放たれている。



「…って、ことは…」


言いかけてクモマはチラリとソングを見て、光を見る。
そして、言った。


「さっきのソングの泪は…」


ここまで言わなくても全員にはわかっていた。


先ほどのソングの泪、それは

ボロボロのメロディの心身には、



「…まさか…メロディ…」


癒しの効果があったのだ。

それに気づくと、ソングはまた泪を流していた。
もう、泪は止まらない。
今まで堪えていた分の泪は今ここで流されて…。


そして突然の出来事だった。

今まで何もなかった光に異変が起こった。
再び大きくパアっと新しい光が放たれると、
光は見る見るうちに小さくなっていったのだ。
小さくなる光は様々な形を作って、やがて人型へと整っていく。

そして光は、一人の人間の姿へと変わっていた。

その人間とは、見覚えのある容姿。
小柄な乙女。
左目下に三つの丸模様がある、ソングの許婚の姿があった。


「………っ!!」


全員が絶句する中、ソングは泪を拭き取って、歯を食い縛っていた。


「…メロディ」


そして彼女の名前を呼ぶ。
溢れてくる泪を強引に拭き取りながらソングは続けて呼び上げる。


「メロディ…っ!!」

「…………」


名前を呼ばれて彼女もこちらを振り向いた。
突然のことに何があったのか彼女にも分かっていないようだ。
しかし彼の姿を見るとすぐさま泣き顔を作っていた。


「ソング!!!」



メロディは一目散にソングの元へ飛び込んでいた。
ソングもそれを受け止める。


「ウソだろ…。何でメロディ…」


嬉しすぎて、嬉しすぎてソングは何もかも信じられなかった。
しかし現実はこの様。
あの醜い姿の彼女はなくなり、今は普段の姿、可愛い彼女の姿になっていた。
メロディも元の姿になっていることに気づき、思う存分抱きついていた。


「うわああん…ソングぅうぅ……っ」


泣きじゃくるメロディをソングは受け応える。
優しく体を抱いて、それから力いっぱい彼女の今の姿に喜ぶ。


「やめろ、メロディ……泣きそうになる…」

「…何よぉ…さっきめちゃくちゃ泣いてたくせにぃ〜…強がるなって…」

「…………っ……」


嗚咽を洩らしそうになりながらも二人は熱く抱き合った。
ギュウっと二人で抱きしめあい、今の体を堪能して。

そんな二人を見て、メンバーは


「…よかったよかった…本当によかったよ〜…っ!!」

「本当だね。元の姿に戻ってくれて、本当によかった」

「うわ!彼女ってめっちゃ可愛い子じゃん!何だよあいつ!羨ましいぜ!」

「あ〜こっちまで泪出そうになるわ〜。ホンマええ話やわ〜。メロディさんもソングもえかったな〜」

「おめでとう。二人とも」



泪の洪水を起こすチョコ。
泣くチョコに同感するクモマ。
拳を作り嬉しさを表現するサコツ。
興奮するトーフ。
そして、珍しく素直に祝うブチョウ。

全員違う表現の仕方であったが、気持ちは全く一緒。


二人、出会えて、本当に良かった。




「…もう…ソング……何で…あのとき…助けにきてくれなかったのよぉ…」

「…ゴメン…っ……」

「……お腹…深く引っ掻かれて…痛かったんだか…ら…っ」

「…っ……ゴメン…」

「何度も…何度も、私…ソングのこと…呼んでたんだよ……もう…」

「……ゴメ…」

「バカぁ………」

「…うるせぇなお前も…っ…さっきからゴメンって言ってるだろが…っ!」

「……えへへへ……逢いたかっ…た………」

「………っ」


二人で大いに泣いて、嬉しさを寂しさを恋しさを打ち明けていく。
そんな姿の二人をメンバーは微笑ましく眺めていた。
そして


「…ねえ…これって本当にメロディさんは生き返っているのかな?」


抱き合う二人に聞こえないぐらいにクモマが全員に問い掛けた。
それに眉を寄せて訊いてくるのはサコツ。


「どういう意味だよ?」

「だって…生物甦ることはできないってトーフが言ってたじゃん。でも実際に二人は出会えているんだよ。これってどういうことなの?」


逆に問われ、サコツは困った表情を作る。
トーフが答えを述べた。


「…たぶん、あれは魔法にかかっとるんや」


全員が声にならない声を上げる。
トーフは続ける。


「よ〜分からんけどなぁ、たぶんや。たぶん魔法によって一時的にメロディさんはこの世に現れているんや」


よくもまぁいろんなことを知っているものだ。
これも今までの旅知識なのだろう。
トーフの意見にクモマがさらに問い掛ける。


「魔法って…一体誰が掛けたんだろう?」

「それはさすがにわからん。でも世の中にはいろんな魔術師がおるで。チョコみたいな可愛らしい魔法使う魔術師とは程遠い。本物の"魔術師"」


ゴクリと息を呑む。


「魔術師は禁止とされているモノを簡単に実行してしまう。せやから最も恐ろしい人物なんや。きっとメロディさんはそんな魔術師によって一時的に呼出された。土の中におった醜い姿でな」

「…っ」

「なぜ魔術に掛かったのかはわからん。ソングが何かしたんやろか?そこのところはサッパリやねん」

「…」

「ま、これがホンマのことかは知らんけどな。もしかしたらの話やで。これは」


あくまでも予想だとトーフは念を押した。
しかし、この考えは一番有効的だ。
メンバーはそう確信した。

そんな話を知らずに、ソングとメロディは抱き合っている。
メロディの魔術の効果が切れる前に、ソングは強くメロディを抱いていた。


「…痛いって、ソング…そんな強く…抱きしめないでよ…」

「………お前を抱くの…初めてだ」

「……」

「今まで俺…気づかなかった…お前が死ぬまで、ずっとずっと…気づかないでいた」

「ソング…?」



抱きしめながらソングはメロディと言葉を交し合う。
メンバーは居辛くなったので、二人から少し間を置いた。

ソングは言った。


「小さい頃からあまりにも近すぎていて、お前のことなんて別に何とも思っていなかった…」

「…」

「だけど、実際にお前がいなくなって…俺は…こんなにも寂しい思いをするとは……」


不意に流れてきた泪を拭って、言葉を続ける。


「…バカだな俺も……あのとき無理矢理追い出して…一番大切なものを手放すなんて……」

「…っ」

「………ホントゴメン」


ソングの謝罪にメロディは泪に埋もれる。
しかしソングは容赦なく言葉を続けるのであった。


「…なあ、メロディ……あのとき何で俺が無理矢理お前を追い出したが……分かるか?」


メロディは首を振る。
おかげで泪はその場に飛び散った。


「…そりゃそうか…。分かるはずねえよな……俺不器用だからどうやっていいのか分からずに、気づけばメロディを追い出してしまってたんだもんな」

「…?…」

「……実はさ、あのときどうしてもメロディから離れねぇといけなかったんだ……」

「…ぇ…?」



そこまで言うとソングは泪を全て拭き取り、そしてメロディから一歩離れた。


「…ちょっと…?」


突然離れたソングにメロディは不安を感じたらしく呼びかけるが、
ソングはメロディに背を向けていた。

その状態のまま、言葉を繋げた。


「……お前が死んだ後、俺は意味は無いと思いながらもなぜか街をふらついていたんだ…」

「?」

「行っても意味は無い。買っても意味はない…そう思っていたんだが、体は真っ直ぐにアクセサリー屋に行ってた」

「?」

「…この行動、もっと早くしていればよかったな…」


腰につけているお馴染みのポシェットに手を突っ込んで。


「もっと早く、言っておけばよかった」


ポシェットから手を抜く。
そして、また体を半回転させ、メロディと向き合った。

メロディは子犬のように、首をかしげてソングを見ている。


「だけど、丁度いい。今言っておく」


見上げているメロディをソングは目で受け止めた。
じっとメロディの目を見て、メロディもソングの目を見る。


「今まで、言いたかったことがあるんだ」


メロディの左手に触れる。
突然触れられビクっと反射的に動かすメロディであったが、ソングは気にせず左手を掬う。
そしてメロディの左手に、先ほどポシェットから取り出したあるモノを通らせた。

あるモノはリングになっているようで、リングは真っ直ぐにメロディの左手の薬指に通っていた。


驚いて、左手を見るメロディ。


「…………あ……」



メロディの薬指にあるモノは、指輪であった。

キラリと輝く左手の薬指。
それにメロディもメンバーも驚いていた。

ソングは恥ずかしげに目線を少しずらし、しかし、また戻して言い切った。


「誕生日おめでとう。言うのも渡すのも遅れた。ゴメン」

「……ソングっ」

「お前の有無も聞かずに勝手に左手の薬指に通してゴメン。だけどこれが俺の気持ちなんだ」

「…っ」

「受け取ってくれ。…ゴメン。受け取ってください。メロディ」


ソングのプロポーズにメロディは泪でくしゃくしゃになった。
嬉しさを抱きついて表現した。


「……バカぁ…」


顔は泪でくしゃくしゃになっていたが、メロディはそれでもいい笑顔でソングに言った。


「…サイズ…合ってないよぉ…も〜」


まさか、こんなこと言われるとはと、顔を赤くするソング。
いつもの無愛想な言葉で返してしまった。


「うるせえなぁ。今まで一度も手も繋いだことねぇんだから、指のサイズとか分かるはずね〜だろ?」

「…大きすぎるよバカ…」

「……」


目線を逸らし、恥らいそして泪を再び流すソングに、
メロディも顔を真っ赤にして、強く強く、ソングに抱きつく。


「でも…ホントありがと…」

「…」

「嬉しい…ホント、嬉しすぎるよぉ……っ」

「…メロディ…っ」

「……ありがとう…ありがとね…ソング…」


何度も何度もお礼を言って、メロディは


「今まで、ありがとう。大好きだよ。ソング…」


そのまま、その場から消えてしまった。


「――――っ!!!」


突然自分の胸からいなくなったメロディに、ソングは自分の胸を抱いて、
メロディの温もりを、強く恋しく実感していた。












+ + +


あれが運命やったんや。
人間、死んだら最期。甦ることなんか不可能。
せやけど魔法に掛かっておったら別の話。
一時的に呼び戻せることが出来るんや。
無念なことに、メロディさんの魔法はあれで解けてしもうたみたいやな。

…まぁ、えかったやんか。ソング。
今まで溜め込んでいたこと、全て言ったんやろ?な?
気持ちも伝えることできてえかったやんか。

この幻の見える村は、今まで人々に恐れられていた村。
せやけど、今回だけは、ちょっとの間だけやったけど
ええことしてくれたやんか。



何とか無事に車の元へ帰れたワイらは、早々とこん場所から離れたわ。
ソングはずっとずっと見えなくなるまで、幻の見えたあの霧を見ていたが
メロディさんの姿を見ることはできなかったみたいやな。
とても残念そうな顔が見えたわ。


密かにソングは、メロディさんのこと、愛しとったんやな。

もっと早く気持ちを言えばえかったものの。でももう終わったことや。しゃあないわ。


それにしても…メロディさんのあの笑顔。
ホンマ嬉しそうやったな。

ワイも、見ていた皆も、あんたらを温かく見守っていたで。



二人はもう逢う事はないかもしれん。
せやけど、きっと二人の間は結ばれとる。
それはどんなに遠くに離れとっても、
二人の気持ちが一緒の限り、途切れることなく、ずっとずっと結ばれて…。







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