「おい、起きろ。起きろってば」


頬を叩く。
目の前で倒れている奴を起こそうとするのだが、
そいつは、目を覚ましてくれない。

ここは奥の手。


「目潰し」

ぶす。

「っ!!!!ぎゃあぁああぁ
―――― !!!」


その場に、悲鳴が響いた。



1-4.ブチョウ



トーフは目を覚ますと、とっても目が痛かった。
何か、目に刺さったような気がするが、…気のせいだろうか。


「おお、起きた起きた。さすが私の奥の手だわ。百発百中」


すぐ側で声が聞こえた。
それは自分が気を失ったときに微かに聞こえてきた、声。


「気失ってたからビックリしたわよ」

「………あんたは…?」

「まずあんたから名乗り出なさいよ。私はブチョウ」

「…そうやな。って今自分から名乗らんかったか?!」

「奇跡ね」

「奇跡って、思い切り自然に名前こぼしてたで?!」


隣りにいる人にツッコミを入れる。
その人は、両頬に桃色の丸模様がある…女……?

…何とも、際どいところだけど…

よくよく考えて見ると、
女口調であった。
だけど、
外見はまさしく男そのもの。
顔立ちはりりしく、カッコいい。
その頬の模様さえなければ、普通に美形だ。


「何、人をジロジロ見てんのよ。捻り潰すわよ」


目線を外さないトーフにブチョウと名乗った者は態度を悪くする。
捻り潰すといわれ、驚き、勢いでトーフは叫んでしまった。


「あんた性別なんやねん」

「は?」

「あっ!!」


自分の過ちに気づき、口を両手で覆うがもう口から出てしまったので仕方ない。
トーフは篭った声で申し訳なさそうに尋ねた。


「……女口調やけど、どうなんや…?」

「…これ見れば、分かるわ」


一瞬、間を空けてブチョウが応えると
イキナリ自分の身を纏っていた真っ白なマントを捲った。
マントの下に見えたものは…
左下に"ま゜"という文字がプリントされている、白のノースリーブ。
それはブチョウの体によって凹凸を作られていて…
実に柔らかい体のライン。
見る限り、これは女の体だった。

一つ、溜息をついて、汗を拭った。


「…女か…」

「そうよ、バッチリ乙女よ」


見た目はバッチリ男なんだけど…。


「おお、すまんかったわ。乙女に失礼なことさせてしもうたな」

「全くよね。慰謝料として金だしなさい」

「…10Hしか持ってまへんで…」

「根性で1000Hまでに増やしなさい」

「無理やって!そんなことできたらワイは今ごろ食い逃げしてへんで!」


そこまで叫んで、トーフは思い出した。


「そういえば…ワイの顔に…何かが…ぶつかってきたような…」


それを聞き、ブチョウはトーフの腹を指差した。


「あ、これ?」

「へ?」

腹を指され、そこを見る。
トーフの腹の上には、あの時ぶつかってきた唐草模様の風呂敷包みがあった。

トーフの顔に落ちたその風呂敷は、トーフが頭から倒れた勢いでそのままトーフの腹の上に落ちたみたいだ。


「そや!これや!これ」

「ふ〜ん」

「ふ〜んじゃあらへんわ!ワイ、それで気失ったんやで!」

「ダイジョウブイ?」

「あぁ、大丈夫や…。ところで一体これは誰の荷物なんや…」

「私のよ」

「あんたのかいな!」


くっそー。
こいつの荷物やったんか……。


え?
……ちょっとまて…


「どうやって空から風呂敷包みを?!」


考えてみると、有り得ない話だった。
上を見上げていたら顔に風呂敷包みが落ちてきたのだから、
その風呂敷包みは
空から落ちてきたことになる。

と、すると…いや…
…まさか……人間が空を飛べるはずないし…



トーフの熱い視線を受けて
ブチョウは仁王立ちした。


「仕方ないわ。特別に教えてあげる」


偉そうにそう述べると
ブチョウはイキナリ指を組み合わせはじめた。
忍が術を行う際に構えるあの仕草。
もしかして…なにか術を使うのだろうか…。


密かに期待しながら、ブチョウの"印"(いん)を見つめる。
"印"を素晴らしい速さで行っていくブチョウ。

まるであやとりをしているかのよう。


トーフは目を輝かしてよくよく見る。
すると、気づいた。

ブチョウの"印"は


キツネ、イヌ、カタツムリ、やかん、カニ …



………はっ!!



手影絵だ!!!


し、しかし、何て美しい手捌きなんだ…っ!!



ブチョウの手影絵…いや、"印"に感動するトーフ。
トーフの眼差しを受けながらブチョウは次々に"印"を組んでいく。

そして、手影絵の"ハト"を作った瞬間、

ブチョウがドロンとマヌケな音を出して、小爆発を起こした。



「ええええええ!!」


悲鳴をあげるトーフ。
手影絵…でなくて"印"を組んでいた人物がイキナリ目の前でマヌケな音を出して爆発したのだから。

もうパニック状態。
わーわー声を出して慌てる。

やばいやばい。
人が爆発しよった!!
……ん?

異変に気づいた。

ブチョウの小爆発で出来た煙の霧から小さな影が見えたからだ。
霧が徐々に晴れていく。

そして、その影の正体が明かされた。



「ハト?!」


何と、それは、ハトだった。
しかも白い、白ハト。
トーフのパニックは悪化した。


「何やねん?!これ―!!」

「驚いたでしょ〜?」

「しかも喋った?!!」

「当たり前でしょ」


白ハトは、翼を腰にあて、
仁王立ちをした。

これの形は、どこかで見たことがある。
…そうだ。
ブチョウが先ほどとったポーズと同じだ。


……まさか


白ハトの次の言葉を待つ。
そして、謎が全て解けた。


「私、ブチョウだもの」



何と、白ハトの正体は、ブチョウであった。

もう、驚きの色を隠せないトーフ。
目を見開いて、何度も訊ねた。


「ほ、ホンマにブチョウなんか?」

「ブチョウよ、ブチョウ」

「は、ハトぉ?!」

「ハトじゃないわよ。白ハトよ」


白ハトになっているブチョウにもう一度問う。


「ホンマに…?」


信じられなかった。
まさか、人間がハトになってしまうなんて…。


「本当よ。この美しい声聞いても分からないの?」


そして、マママママと変な言葉を出した。
ブチョウの謎の雄叫びを聞き、頭の中を整理させた。


確かに、このハスキーな声は
先ほど会話したときに聞いた声、ブチョウの声と同じもの。


唾を飲み込み、トーフは頷いた。


「ブチョウやな…」

「でしょ?」

「…どないしてそんな姿に…?」

「何言ってんのよ」


翼を交差させ、そのまま顔に近づけると
またドロンとマヌケな音を出して小爆発を起こした。

その爆発からは、人間の姿のブチョウが現れた。



「私は、鳥人よ」



それで、やっと解決した。

ブチョウがハトになったのも。
ブチョウが空から荷物を落とせたのも。


「なるほどなぁ〜」


納得するトーフ。
それを見て、ブチョウがトーフに訊ねた。


「あんたも私と似たような部族じゃないの?猫人…」


間をおかずにトーフは反応した。


「ワイは猫じゃあらへん!虎や!トラ!!」


鼻息荒くして、背の高いブチョウを見上げる。
そんな様子のトーフを見て、ブチョウは
非常にバカにした表情を作り、鼻で笑った。


そんなっ!!



ひどくショックを受けた。

トーフ、精神的に4200のダメージ(消費税込み)!!
痛恨の一撃だ!!



「ま、私の荷物があんたを邪魔しちゃったみたいね」


ブチョウはショックを受けているトーフを無視して、会話を続けた。
ショックを受けていても仕方ない。
トーフも気を取り戻した。


「いや、ワイが油断してたのが悪いんや」

「そうよ。私は全く悪くないわ」

「何ゆうてまんねん!あんたが悪い決まってんやろ!!」

「何よ。このトラ野郎〜」

「トラ?今トラゆうた?…嬉しいわぁ…」


のん気に会話する二人。
意外に気が合ったらしい。


何や。こん人。
可笑しいところ満載でおもろいわ。

こりゃ、笑いのセンスバッチリやな


…ハッ!!

しもうた!また油断してたわ…っ!



事を思い出し、
突然トーフは目を瞑った。
神経を集中させて、笑いを見極めているのだ。


「何してるのよ。タマ」


声を掛けられる。
タマと何故か呼ばれたが、トーフは今集中しているため、反応できない。


「……まるで屍のようだ」


謎の言葉を吐かれた。
しかし、トーフは集中しているため、残念ながら反応できない。


「…おい、タマ」


反応できない。


「タマ!!」


反応できない。


「後ろ!後ろってば!」


反応できない…。

………後ろ…?



…何か、背後から…嫌な"気"を感じる

これは…この何日間、何度も感じた

"殺気"だ。


「しもうた!!」


目を開け、後ろを振り向く。
裾に逆側の手を入れ、武器を取り出す準備をしながら。

そして、そこには、いた。


ブチョウが。


「ブチョウかよ?!!」


思わず突っ込むトーフ。


しもうた!自分としたことが!

改めて"殺気"を追う。
"殺気"は、瞬間移動をしたらしい。
先ほど"殺気"は自分の背後にいたが、今そこにはブチョウがいる。
…って、
ブチョウも瞬間移動したのかよ?!

心の中でもブチョウに突っ込む。


目を鋭くして"殺気"を追う。
"殺気"は移動していく。

今度の敵は見えないのか…?


トーフは舌打ちを打って、裾から糸を取り出した。






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